植物生命機構学特論I 第6回講義

雨と光合成、呼吸と光合成

第6回は、再び実際の研究例をお話ししました。トピックスとしては、雨が光合成に与える影響、陰生植物と陽生植物の呼吸の違い、シアノバクテリアにおける呼吸系と光合成系の関係などを取り上げました。以下に寄せられた感想および質問と、必要に応じてそれに対する答えを掲載します。


Q:今回の講義のテーマが「植物に対する雨の影響」と予め言われていましたが、最終講義だから軽いテーマを選んだのかな、と思いました。ところがその内容は結構難しかったです。かなりしっかりした実験系を組まれていて、雨が葉に与える機械的な刺激にも考慮しているところはさすがだと思いました。実験の結果は光合成の炭酸固定系&光化学系のどちらにも機能低下がみられ、その原因が気孔が閉じることによってCO2の濃度が低下したことによる、という理解で正しいでしょうか? 説明では雨と同時に光を当てたために障害が生じたと言われていましたが、どのような障害だったでしょうか?Rubiscoの量が減ることと光による障害は関係がありますか?そもそも実験系では光以外の要素はキチンと揃えられているのに光条件を揃えることを忘れていたとは思えません。これは故意に光と雨を同時に与えたのですか。そもそも先生の実験系で雨と同時に光を与えなかった場合は、上のような面白い結果は得られなかったのでしょうか?
 一連の講義で学んだことは、植物とはすなわち光合成である、ということです。光化学系と炭酸固定系にたいして、植物の生育環境がいかに影響を及ぼすかということを、様々な視点から学べました。植物の研究範囲は広大なように感じていました(全部を理解するのは大変だと諦めていました)が、光化学系の電子伝達、炭酸固定系の炭素の循環を押さえておけば、植物研究のだいたいは理解できるのでは!という光明が見えてきたように思います。
 講義の最後に紹介してくれたオータデネートオキシデース(AOX)??やアンカップリングファクターによる植物の発熱という現象はとても面白いですね。冬の0℃近い気温の中で植物が20℃前後に発熱するとはただ事ではないです!
 先生の講義で取り上げられる実験とその結果の解釈は理解できないときもありますが、わからないなりにもなんとなくわかった気になれるところがイイです。また、実験と結果だけでなく面白いトピックス的なお話の混ぜ具合もイイです。(たとえば植物の発熱など)

A:雨の影響は、結局、二酸化炭素が足りないときに光が当たったときの影響であると考えられます。おそらく活性酸素が関与していると思われますが、そのメカニズムについてはよくわかりません。
 植物とはすなわち光合成である、と言ってしまうと光合成以外の植物の研究者はかちんとくるでしょうね。まあ、僕にとっては本望ですけど。


Q:さて、今回は植物への雨の影響と、植物の呼吸についてのお話でしたが、PSI、PSIIの各段階では反応が阻害されていないのに、全段階を通して見ると阻害が起きている、というものは、実際に様々な実験をしている中でも出そうな結果であるだけに興味深いものでした。結論からは野外の植物には影響がないとのことでしたが、潅水のやりかた次第では、温室の植物などはこうした阻害が置きかねないかもしれないとも思います。
 ヒトはどうも植物を収量や効率の面からだけ見てしまいますが、陽生植物のAOXによる呼吸のお話では、生きるためにわざと非効率にする点に非常に興味がわきました。乗用車のエンジンでも、故障を起こさず乗りやすくするために、わざと性能を落とすデチューンをすることがありますが、それによく似たようなシステムを生物も持っているものなのですね。
 ザゼンソウやスイレンなどのUncoupling Proteinを持っている植物のお話も面白かったです。特にザゼンソウは積雪部の林床で開花するものなので、積極的に融雪したりする仕組みを持っている、という話だったりすると、合目的的で面白いものだと思います。進化の上でどうしてそういう形質を獲得したのかなど、まだまだ今後の続報が楽しみなものだと思います。
 私は所属が海洋生物学なのですが、大学時代はICUで植物の細胞生物学をやっておりましたので、楽しくお話を伺うことができたように思います。 近藤先生、園池先生のお話のひとつひとつが興味深かったです。また、大学院のクラスということで、内容が深く、奥行きがあるのにもとても満足しました。私は勤務先では短大の一般教育で助手をしているのですが、温暖化や光合成の話
など、機会があれば勤務先の学生達にも話してやりたいと思います。それでは、一学期間、どうもありがとうございました。

A:生きるために、わざと効率を落としている例は、生物には案外多いように思います。人間でもやっぱり働きすぎは体に良くないのでしょう。


Q:今回の講義で、植物には過剰なエネルギーの消去系が存在するというお話がありましたが、動物では過剰なエネルギーを吸収すると余分なエネルギーは脂肪として体内に蓄えられます。越冬するための養分を蓄えるようなことは植物でも行いますが、自分が根を生やして落ち着いた土地で、十分な光合成ができれば、飢え死にする心配はないわけですから、いつでも余分なエネルギーを蓄えることができる動物の脂肪細胞のような植物は組織を必要とはしないわけですね。だから余計な分は遠慮なく捨て去る機構が存在する、と私は考えました。それとも、植物にも脂肪細胞のようなものが存在するのでしょうか?しかし、動物においても、満腹中枢における食物の摂取量の調節の機構があります。ここがおかしくなると、肥満になったり、痩せたりします。植物において、過剰なエネルギーの消去系が異常をきたしたときには、その個体はどうなるのでしょうか?
 講義を聴くたびに光合成や光合成の研究についての新しい知識を得ることができました。ありがとうございました。

A:植物でもアミロプラストなどエネルギー貯蔵に特化した器官を持っていますよ。また、シアン耐性経路は動物にはありませんが、アンカップリングプロテインは動物にもあります(というか動物ですでに見つかっていた)。動物でも植物でも過剰なエネルギーが危険なのは変わらないようです。植物の場合、過剰なエネルギーの消去系が異常を来したときに見られる典型的な表現型は、強光感受性です。


Q:今回の講義の雨の研究の話しですが、身近でわかりやすい実験でしたので、面白かったです。雨の時、雲があって暗い状態になっていることは当たり前だと思っていますが、そのことによって阻害が起きていないということに、本当に自然はよくできていると思いました。もちろん生態的にはルビスコは壊れないし、実験室内での話しになってしまいますがそれでも将来的に人が人工で作物や植物(観賞用等)を栽培しようとしたとき、ずっと太陽光と同じ条件の光を当て、定期的に水を上から散布するということもありえると考えると、この実験によって雨の日の暗い状態の意味、光阻害のこと
を考慮に入れられるということになります。身近で当たり前のことだと思っていたことでも、意味があると言うことがわかるというのは、面白いと思いました。
 今までの講義で、植物一つが生きているということに対しても、様々な作用があり、微妙なバランスの上で、自然界では当然のことに行われているということを改めて実感しました。今現在、植物の研究は盛んになって、環境に強い植物や虫に強い植物など様々な強化植物が誕生しようとしています。それが、生態系に対しても、また植物事態に対しても、どんな影響があるかわからないところです。先生の講義をお聴きながら、植物生理(特に光合成)の害であっても必要なことや、うまくできているエネルギー発散の点など、自然界が持っている微妙なバランスを知らず知らずのうちに、崩してしまっているかも知れない、とも考えました。そう考えると、やはり人間は知らなかったではすまされないと思います。無知ほど恐ろしいことはなく、それが人間が生きていく上で研究をしていかなければならない理由の一つではないかとも考えます。生物学を学びながら、発達していく科学技術の中で、私なんかは、何が正しくて何が止めた方がいいことなのか戸惑ってしまうことも多々ありますが、その判断が少しでも正確に客観的にできるように勉強をしていきたいとも思っています。短い間でしたが、わかりやすい講義をありがとうございました。

A:科学技術の進歩が必ずしも人間に幸福をもたらすものであるかどうかはわかりませんが、少なくとも無知な状態よりは知識がきちんとあった方がよいというのが僕の信念です。あとは、その知識をもとに正しいと思う判断をするしかありませんよね。


Q:陰生植物と陽生植物の呼吸の違いについてですが、陰生植物の呼吸量は光の強さにあまり影響されず時間が経っても一定であるのに対し、陽生植物は光の強さに依存して呼吸量も多く時間経過と供に変化するとのことでした。光強度と光合成速度の関係は、ある光強度以上になると光合成速度が一定になると学んだように思いますが、呼吸量が増えるぶん光合成量も増えているということなのでしょうか?

A:陽生植物で光が強いほど呼吸量が増えるのは、光合成産物の蓄積量が増えるためです。つまり、光合成が飽和した領域では光が強くなっても呼吸速度には影響がないことになります。


Q:今までの講議を通して、植物の光合成について、2つの光化学系の進化や過剰なエネルギーの消去システム、研究・測定法等様々な側面から知ることが出来ました。植物の中には、朝から夕方まで太陽の動きに合わせて葉の向きを変えているものがあるそうですが、その機構もまた光合成系の延長にあるのでしょうか。それとは別に、植物の運動に関わる光センサーやその他の化学変化によるのでしょうか。それにしても、私達の目を楽しませ、想像をかき立てる植物の形態が生きている環境における光の争奪戦や繁殖戦略などと深く関わっているのだと感じられると、より面白いものに見えてきました。
 ナミブ砂漠のウィンドウプラントという植物を写真でみたのですが、地上に出ている石ころのような形をした葉の先端が半透明で、地中に埋もれている葉にあるクロロフィルにも光が届くようになっているというのですから、それだけでも驚きです。厳しい環境で植物が工夫して取り入れた光による光合成や、砂漠の強い光に対する対処機構は他の植物とどこか違うのか、等まだまだ知られていない事が沢山ありそうで気になる所です。
 講議は短い期間でしたが、私にとっては植物についてゆっくり考える機会となりました。特に、植物が取り入れた過剰な光エネルギーを消去する機構などは学ぶ機会がなかったので大変面白かったです。このような時間をいただき、本当にありがとうございました。

A:葉の向きを変えるのは、目的は光合成だと思いますが、手段は何か別の光センサーを使っているのだと思います。いずれにせよ、植物の形態などが、光合成の最適化という面でかなり説明できることは確かだと思います(最も花は全く違いますけどね)。


Q:今回の講議を通して、植物について体系的に且つ専門的に、自らの知識に肉付けすると共に新しい知識として蓄え、実にバランスよく学ぶ事ができ、大変満足しております。これまでの講議を振り返り、興味ある事はNOの行方です。NOは昼よりも夜に沢山生成されますが、光により還元されるためアンモニアやアミノ酸になるのは昼の方が効率が良く・・・夜に還元されずに生成してしまったNOは、どのように処理されているのでしょうか。植物にとって(動物にとってもそうですが)、このNOの存在は大きいものだと思います。
 大気汚染、雨、紫外線などによる植物の光合成への影響、植物に限らず、ある1つを研究する事で、地球上全ての生物がその環境に適応すべく進化していった過程の縮図をみることを可能にし、また進化で獲得した機能・性質が長い月日に悪環境とされる要因にも(小さな変化で)打ち勝つ強さと弱さを表裏一体に合わせ持つ、諸刃の剣であるようにも感じました。

A:NOの話は近藤先生の授業に出てきたものでしょうか。地球上に光合成が誕生して、大気中の酸素濃度が上がったのも、当時の生物からしてみればとてつもない大気汚染だったのでしょうね。