植物生理学II 第13回講義

光合成の効率

第13回の講義では、光合成の効率を決める要因と、その効率を改善するための方向性について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:本講義は、「光合成効率を上げることができるか」というテーマで進められた。光合成効率を上げるために、様々な研究が行われているが、結論としては、現時点ではなかなか難しい問題であるとのことだった。研究者たちは、「光合成効率をどうにか上昇させて、植物の生育向上を図りたい」という考えのもと、研究を継続しているという印象であった。しかし私は、植物は光合成効率を「上昇させる気がない」のではなく、「上昇させたくても上昇できない」、つまり、光合成効率を上げてしまうと植物にとって何らかの不利益が生じてしまう可能性があるのではないか、と考えた。以下では、なぜその見解に至ったかを説明する。
 京都大学のとある研究チームは、2017年の論文で、光合成効率が高い葉が短命な理由を解明した[文献1]。そのチームが長寿の葉を調べたところ、それらは長く生きるために必要な、丈夫な構造および丈夫な細胞壁を作ることにエネルギーを注ぎ、そのために光合成効率を敢えて低下させている、というデータを得た[文献1]。逆に言えば、短命な葉ほど、構造よりも光合成効率を高める傾向にある[文献1]。この結果から分かることは、植物は生きるために丈夫な構造も光合成も必要であるが、どちらも両立させることは不可能であるということである。さらに、光合成効率を高めることで、寿命を短くさせてしまうことにもつながってしまう。
 また、光合成効率を高めてしまうと、光合成に関わる光合成色素の特性による悪影響が関係しているのではないかと考える。光合成色素の一つであるクロロフィルは、光エネルギーを吸収する役割を担う。しかし、強光といった条件下では、植物にとって害となる活性酸素を発生させる恐れがある。一方、光合成色素のβカロテンは、強光条件の場合、余分な光を熱として捨てる、という極めて重要な役割を担っている。このような関係性から、仮に光合成効率が高い植物ができたとすると、活性酸素の発生が促進されやすい状態になるのかもしれないと考察した。また、βカロテンの「余分な光を熱として放出する」という反応は、光エネルギーを化学エネルギーに変換する際に、そのほとんどが熱エネルギーとして放出してしまうという光合成効率の実際と大きく関係しているのではないかと考える。
 以上のことから、植物の光合成効率を高めることができたとしても、その植物の寿命は短くなってしまう可能性があると推察した。そして、光合成効率が低いままであることは、植物の生存にとって重要な役割を果たしているのかもしれないと考察する。
参考文献:1) Onoda Y, Wright IJ, Evans JR, Hikosaka K, Kitajima K, Niinemets U, Poorter H, Tosens T, Westoby M. Physiological and structural tradeoffs underlying the leaf economics spectrum. New Phytol. 2017 Jun;214(4):1447-1463. doi: 10.1111/nph.14496. Epub 2017 Mar 10. PMID: 28295374.

A:よく考えていてよいと思いますが、β-カロテンについてはこの講義の中で紹介しましたし、光合成の量子収率のスペクトルが500 nm付近で低下しているという話もしています。そのあたりを覚えていれば、「大きく関係している」といった漠然とした表現ではなく、もっと具体的な議論ができたと思います。


Q:今回の講義では光合成効率について学んだ。そこで群落による葉と光合成の関係について考えてみる。葉単体で見れば同じ光量の環境下での場合、光合成活性はある一定の数値まで上がりそこからは頭打ちになっているが、群落全体で見れば光量が多くなったとしてもその光合成活性において頭打ちは生じない。つまりこれは葉一枚々々それぞれに照射される光量に差があり群落全体で見れば光量が上がってとしても頭打ちになることはないということである。群落には他の葉と比べ十分な量の光が届かず光合成量が少ない(光合成速度が低い)葉も少なからず存在し、一見するとこれらは無駄に見える。葉を何枚も生成したり群落を形成することよりも、少ない葉の枚数で光合成を行う方が葉を生産するコストや葉一枚単位で見た時の光合成効率を考えるとより有効であると考えられるが、多くの健康的な植物の場合、それらはその個体に多くの葉をつけている。この事実から考えるにおそらく、葉を多く個体につけることによって実現する高い光合成速度が、個体内に多くの葉を生成するのにかかるコストを上回っていると考えることができる。もしくは、個体の光合成を担う器官を少数箇所に絞る場合(葉の枚数を少なくして光合成率を高める戦略)に起こると考えられる外敵からの捕食やその他の環境ストレスによる光合成器官の損失で生じる個体への大きいダメージを、葉を多く持つことで損失を分散し回避しているのではないかとも考えた。

A:よく考えていてよいと思います。特に、最後の部分のリスク分散の考え方などはよいと思います。ただ、レポートとしての完成度を考えるのであれば、結論をリスク分散に持って行くのであれば、そこまでの論理展開をもう少し工夫すると、全体として筋の通ったレポートになります。


Q:講義内で出てきた、林床の植物は葉を平たく作ることで多くの光を浴びるように作られるが、草原の植物は葉を立てることで過剰な強度の光を避け、弱めた光をより多くの表面積で受ける、という戦略をとるという話があり、これに関連することを調べると、特にクズの葉で、日照量に応じて葉の角度を調節するという現象があった。クズの葉は3枚の小葉からなる大きな複葉で、日当たりのいい場所では花のつぼみのように中心に向かって葉を閉じるように葉を立て、強い日光を回避する。このように葉が動く現象はカタバミが時間帯によって葉を閉じたり、オジギソウやネムノキの動きなど、複葉に多いイメージがある。複葉には枝をなるべく作らずに葉をつけ、落葉したときに失うものを減らしたり、また食害があったときに修復をしやすいという説があったが、光を調節しやすいというメリットもあるかもしれないと考えた。クズやカタバミと同様に、葉を内側に向かって閉じるような複雑な変形を行うことは単純な形の単葉では葉脈に沿わない運動のため難しいが、切れ込みが深い単葉やそれが進化してできた小葉はより変形の自由度が高く、光強度の変化に柔軟に対応できる。これを考えると、単葉のまま今に至る葉と複葉へと進化した植物の差は光環境の変化の多さが複葉を生み出し、例えば森林内のようにものの影になりやすい環境、季節や日ごとの天候の変化が多い場所などで複葉が進化してきたのではないかと考えた。

A:これはきちんと考えていてよいと思います。特に複葉のメリットにつなげている点が評価できます。


Q:今回の授業では、葉一枚一枚に一生のうちで行うことのできる光合成の量には限度があることを知った。この葉の一枚一枚にわざわざ光合成の寿命をつけるのにはどのようなメリットがあるのかを考える。長い間葉をつけていることで起こる問題点を考えると、まず単純に同じ葉を長く使っていると、エラーが起きやすくなったり、また適切な速度の光合成を行えなくなるなどの問題点が起こりうると考えられる。その問題を解決するために、寿命がわざわざ取り付けられているのではないかと始め考えたら。しかし、この問題点を考慮するのならば、葉に寿命を授ければ良いのみであって、わざわざ光合成の量に限度を作る必要性はないと考えられた。そのため、他の理由を考えると、光合成に限度をつけることで、古い葉が新しく生えた葉や、新たにより上部に付けられた葉の邪魔とならないようにしているのではないかと考えた。

A:「上部の葉の邪魔にならないように」というのが具体的に何を指すのかがわかりませんでした。上の葉が下の葉を邪魔するのであればわかりますが。上下の葉の相互作用を考えるにあたっては、利用できる栄養塩の制限などを考える必要があるでしょう。


Q:今回の講義では、作物の収量増加のために背丈が低く、多くの実をつける変異株はトレードオフによって生まれたデメリット(この場合は背丈が低いことによる吸収できる光量の低下)により、たいていの場合自然環境では野生株に淘汰されるという話があった。逆に言えば人工的に手を加え、環境の淘汰圧を減らすことによって、バイオマスエネルギー効率の良い植物が育つ環境を作れると考えられる。r-k戦略説の観点から考えると、他の種との競争のために非光合成器官を発達させる必要のあるk戦略的な植物よりも、過酷環境下において増殖力が高くバイオマス増加量の高いr-戦略的な植物を選択することが効率的であると考えられ、その中でも競争力が低い薄い葉を持ち葉をz軸方向へ傾けるイネなどの植物が最適であると考えられる。

A:よいと思うのですが、最後の「考えられる」の部分は、なぜそのように考えるのかのロジックを示すとよいと思います。