植物生理学II 第12回講義

光合成速度を決める要因

第12回の講義では、光、温度、二酸化炭素濃度などの環境要因によってどのように光合成速度が変化するのかについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では、様々な環境要因による光合成速度の変化を学んだ。光-光合成曲線から、陽葉と陰葉の性質の差、具体的には初期勾配・光補償点・最大光合成速度の違いが分かる。陽葉は林冠表面および南側に位置し、陰葉は林冠内部および北側に位置すると考えられる。しかし、それ以外の場所に位置する葉も当然存在しており、そのような葉はどのような性質を持っているのか考察する。想定される光環境としては、「陰葉の環境ほど光を遮る障害が多くないため、木漏れ日などが時々到達するが、基本的には陰葉のように弱い光しか到達しない時間が多い」とする。従って、陽葉のような性質の場合、比較的強い光が当たる時間に光合成を稼ぐことができるが、光が弱くなった場合に呼吸量が大きいことからエネルギーロスが大きいと考えられる。また、陽葉は陰葉に比べて厚みがあることから、陽葉をつくる方がコストがかかる。以上の理由から、中間的な光環境下では陰葉に近い性質の葉が作られているのではないかと考えた。これはある樹種において陽葉と陰葉の光―光合成曲線を測定し、これと中間的な光環境下の葉の光―光合成曲線とを比較することで、実証できる。

A:テーマ設定は悪くないと思うのですが、中間の環境では陰葉タイプになるとした場合、中間から少し光が強くなる環境で葉のタイプが急に変わることになるはずです。その場合、中間の環境の想定がが少し変わると結論が変わることになるのではないかという点が少し気になります。あと、実際には弱い光に順化した葉に強い光が当たると、単に光合成が飽和するだけでなく、光合成速度が低下する光阻害をもたらす場合がある点に注意を払う必要があります。


Q:今回の授業で、動物の呼吸によるエネルギー消費量は一般の植物による光合成では賄えないほど高いことを知った。このことから光合成を行うような動物はエネルギー面を考えると、存在することが出来ないのかという点について疑問に思った。まず動物と植物における、それぞれエネルギー循環の特徴を考えると、植物は、自身で光合成によりエネルギーを作り出すことができるが一日に生み出すエネルギー総量が少ないが、移動を行わないため低いエネルギー消費量で活動できるという特徴が考えられ、動物は、捕食を行うことで高エネルギーなものを短時間で取り入れることができるが、捕食を行うために、移動や食物の消化に伴う呼吸を行う必要があるためエネルギー消費量が高いという特徴が考えられた。このようなことから、葉緑体を持った動物の存在を考えると、動物による移動や消化などによって消費される大量のエネルギー量に対して、光合成によって得れるエネルギー量はあまりにも少ないのだと考えられ、仮に光合成を行う動物が存在したとしても、捕食は不可欠なのでは無いかと考えられた。また次に得れるエネルギー量が少なくとも、なぜ光合成と捕食を両立して行うような動物がいないのかについて疑問に思った。参考文献1より、マラリア原虫は光合成生物から、非光合成生物への進化においてわざわざ光合成を行う機構を失う進化を行ったことを知った。このことから光合成の機構を保持しているだけでも、生物の内部構造の複雑性が増し、普段のエネルギー消費量が高くなるのでは無いかと考えられた。そのため光合成と捕食の両立はエネルギー消費量の面で、どちらか片方の機構を持っている状態よりも不利であると考えられた。以上のような理由から光合成を持つ動物はいないのだと考えた。
参考文献:1.https://www.nies.go.jp/whatsnew/20220124/20220124.html

A:テーマ設定も議論の展開もまあまあ良いと思いますが、マラリア原虫が光合成を失った話は、この講義でもまさに紹介していたので、「参考文献1より」という部分がちょっと残念です。


Q:本講義では、植物の光合成速度を決める要因というテーマが採り上げられた。様々な植物の最大光合成速度を示した表の内、木本植物に注目したところ、最大光合成速度は5-16 [mgCO2/dm2/hr]で草本植物と比較してかなり遅いことが分かった。木本植物の光合成速度が遅い理由については未だ自明ではないが、一つの仮説として、葉を丈夫に作り、食害を防ぐことを光合成よりも優先している、という説があると知った。しかし、これは先生も仰っていたように、CO2の取り込みが上手くいかなくなってしまうのではないかとデメリットの方が多いと思われる。そこで、私は別の理由があるのではないかと考えた。つまり、「植物の光合成速度と植物寿命には、何らかの関係性があるのではないか」と考察した。木本植物は草本植物と比較して、寿命が長く、長いものでは樹齢7200年を超えると推定されている屋久島の縄文杉[参考1]が挙げられる。寿命とは、植物の死を意味し、一般に植物の死の定義はヒトの場合と異なり、かなり難しい問題とされている[参考2]。仮に、水分および栄養が何らかの原因で絶たれてしまった場合を考える。本来ならば、植物の生存に必要な水分や養分が、植物全体に行き届かなくなってしまった場合、植物の生存は危ぶまれ個体は死へと向かうと想定できる。しかし、実際に木本植物は、草本植物と比較して寿命が長い傾向にある。この理由は、光合成速度も関係している可能性があるのではないだろうか。光合成速度が遅いと、糖などの合成も遅くなり、それに伴って植物の成長はゆっくりとなると考えられる。植物の成長がゆっくりであることは一見デメリットに見えるが、これが先ほどの仮定(水分や養分が植物に行き届かなくなってしまった場合)には、水分や養分の循環が遅くなることから、枯渇されにくいメリットがあるのではないかと予想する。
参考文献:1) 勝木 俊雄 著, 樹木医学の基礎講座 樹木講座Ⅱ 樹木の寿命, 2019/09/19, pp.239.、2) 一般社団法人 日本植物生理学会, “植物の死の定義”, 更新日:2017/03/16, 参照日:2023/07/15, https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3595 .

A:おもしろい点に目をつけましたね。ただ、議論の因果関係がはっきりしません。同じ「関係がある」と言っても、AがBの原因である場合と、AがBの結果である場合は、因果関係は全く逆です。後半のロジックでは、光合成が遅いと成長が遅くなり、その場合、資源が枯渇しにくい、ということだと思いますが、少なくとも、問題点である植物の寿命が何の原因(もしくは結果)なのかを明確にして論理を進めた方がよいでしょうね。


Q:今回の講義の中で、葉の窒素含有量はC4、C3、木本の順に多く、窒素の含有量は光合成速度の高さを反映しているという話があった。調べているうちにC4植物は窒素が少ない土壌環境でも生育することができると分かった。それと光合成により多くの窒素が要求されることを踏まえ、C3植物と比較して高い窒素含有量を持つC4植物は、どのように葉に安定して効率的に窒素を供給しているのか疑問に思い調べたところ、C4植物は土壌中のアミノ酸を直接取り込んで利用する能力があることが分かったらしい。しかし、どの植物種でもコスト面でつり合いを保つ必要があるとはいえ、根粒菌の共生のための複雑なシステムを作らないで済んだり、潤沢に窒素を取り込んでもっと積極的に光合成速度を上げたりできるそのC4植物の仕組みを持たない理由は何か気になった。
 そこで考えたこととして、一つは現在のC3植物が持つ電子伝達速度にC3植物の生息域の光強度が釣り合っており、これ以上回路の酵素量を増やしても電子伝達の速度が律速しているため窒素が潤沢にあっても光合成速度は大きくは増加しない可能性がある。C3植物では二酸化炭素濃度に比例して光合成速度が高くなると講義であったため、電子伝達速度は律速しない可能性もあるが、C4植物の生息域と同様の強光条件まで達した時に、通常のC3植物の窒素濃度の上昇速度で光合成速度は律速しないか調べることで確かめられると考える。
 二つ目に、そもそもC4植物の生育地域は共通して窒素固定細菌が少なかったりアンモニア等の低分子の形で含まれる窒素が土壌中に少ない可能性がある点で、アミノ酸を植物が自ら分解するシステムは相当大きなコストを払わなければ構築できず、土壌中の窒素が不足しない限りはアミノ酸の取り込みは行わない方が効率的であるかもしれないと考えた。また、C4植物の生育地でよくある高温・乾燥という条件は基本的に動物・植物に限らず生物にとって厳しい環境であるため、微生物の構成によっては物質がアミノ酸まで半端に分解され、低分子になるまで分解されにくいため植物は外部の分解者に消化の役割を任せることができず、自分でなるべく大きな分子を分解する必要性があるということも考えた。
【参考文献】力石 嘉人, 高野 淑識, 大河内 直彦. C4植物の有機態窒素利用:アミノ酸の同位体比解析から得られた証拠. 2014年度日本地球化学会第61回年会講演要旨集. p.24

A:よく考えていると思いますが、これはなかなか大きなテーマですね。土壌中での有機物の分解は、温度に非常に大きく左右されますから、このような考察をする場合には、光合成に対する温度の影響と有機物の分解速度に対する温度の影響を、それぞれ考える必要があると思います。


Q:今回の講義では光合成速度を決定する因子について学んだ。光合成速度を決定する因子として光や二酸化炭素濃度等の様々な要因があり、その個体がC3植物かC4植物あるいはCAM植物かといった植物要因もその一つである。今回はC3植物とC4植物の光の強さに対する応答の差異について考える。C3植物は光強度がある程度強くなると飽和してしまうが弱光下では光合成速度が速いタイプである一方でC4植物では弱光では光合成速度が遅いが強光下でも光合成速度が速くなるタイプである。しかしどうやら、ヒマワリはC4植物ではないのに後者の弱光では光合成速度が遅いが強光下でも光合成速度が速くなるタイプに属するらしい。ここに興味を覚えたので考察する。
 C4植物はCO2を濃縮する機構を有し、ヒマワリは葉が厚く、向軸側が飽和をしたとしても背軸側ではそれよりも遅れて飽和をするためそれぞれ異なるメカニズムによって強光下でも光合成速度が落ちないという。ではここでヒマワリの葉を厚くするという戦略について、メリットとしては単位葉面積当たりの葉緑体数を増やすことができ強光下でも光合成速度を上がることが考えられる。また、通常他のC3植物が光からの阻害を被る状況下でも葉内部の葉緑体は表面の葉緑体によって被陰されて光合成機能を維持できると考えられる。一方で、デメリットとしてはコストがかかることであり、強い光環境下ではクロロフィル総数当たりの光合成速度がかなり低くなることが挙げられる。よって、ヒマワリは強い光環境下でこそ葉の厚みを生かすことができると考えられる。たしかにヒマワリの原産地は比較的乾燥した北アメリカのテキサスないしカリフォルニア州の辺りであることがこれを裏付ける事実であり、葉を厚くすることは強い光環境下での生存に有利に働くと考えることができる。
 では光合成がC4化することと厚い葉は収斂による共存が可能なのか否かを考えてみる。より強い光環境下に強い性質として、C4型光合成回路と厚い葉はそのそれぞれの戦略が決して背反ではないために共存ができそうな気もするが、C4植物の場合には光化学系IIと光化学系Iの比がATPを合成するために光化学系I側にやや偏っており、そもそも強い光による阻害、影響を受けにくい。また、C4化と厚い葉が同時に発現したとすると、強光ではない時間帯に多くの光子を要するC4回路とより強い光を要する厚い葉は戦略としてややかみ合わず、細胞による光合成の役割を分けるC4型の光合成と輸送経路を長化する葉の大型化、厚型化も相性が良いとは考えられない気がする。これらのことから、葉を厚くすることは強い光環境に対する適応としては有効策であるものの、C4の回路とは共存しづらいC3植物独自の適応の仕方なのではないかと考えた。

A:これもよい点に目を向けていると思いますが、葉を厚くすることと強い光の関係は、講義の中でも触れたと思いますので、その部分は省略可能ですね。最後の2つの戦略の共存の話だけに絞っても十分だったと思います。