植物生理学II 第11回講義

光合成の速度

第11回の講義では、シンクとソースの関係や、光合成産物による光合成活性のフィードバック阻害の話を、光合成の活性測定に絡めて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:CO2濃度の増加について、糖濃度が増加することでフィードバックが発生するため、長期的な生産は上がらない一方で、芋はシンクが大きいために生産性が上がるという話があった。芋についても、光合成の制限要因としてCO2濃度・温度・光・栄養塩などがあるため、リービッヒの最小律に従って、二酸化炭素濃度だけが増えても光合成による炭素同化には限界がある。そこで、芋の栽培が地球温暖化の抑制に寄与する方法について考える。まず、芋の最適な生育環境について考える。芋は光合成産物を蓄えるため、呼吸基質が不足する環境において有利な形質といえる。しかし、植物の根には本来の役割として、水分および栄養塩の吸収の役割がある。芋の場合、表面積/体積が著しく低いため、水分・栄養塩が不足している環境での生育は厳しいと考えられる。以上より、CO2濃度の高い地域(具体的には北半球)において、イモに対する最適な環境を構築(水および栄養塩の補給)したのち、芋の栽培を行うことで、地球温暖化に対する長期的な対抗策となるのではないだろうか。

A:表面積/体積の比に関しては、シンク器官としての根と、水/栄養塩の吸収器官としての根を分けてしまうという方法もあるかもしれませんね。


Q:以前の授業で葉が枯れるときは栄養特に窒素を幹の方に移動させるというお話があった。しかし、クロロフィルを分解し光合成できなくなった葉は転流においてソースではなくシンクになるのではないか。枯葉がシンクにならない要因を考察した。1つ目はオーキシンの働きである。このホルモンは成長促進剤としてだけではなく除草剤としても利用されている。よってオーキシンを送ることでソースのように機能していると考えられる。2つ目は根を主な光合成産物の転流先とすることで、葉には光合成産物が転流しにくくなっていることが考えられる。これは葉が光合成をするので光合成産物の転流先となることで光合成阻害が起きることを防ぐためである。

A:面白い考え方ですが、オーキシンが除草剤として働くのは、光合成や転流への影響というよりは、過剰な添加により、植物の形態のバランスが崩れるという側面が大きいと思います。


Q:今回の授業では、葉によって作られた光合成産物は、葉での蓄積では様々な不利益が生じてしまうため、多くの植物において根が光合成産物の蓄積場所となっていることを知った。そこで植物の中でも特に根での光合成産物の蓄積に特化していると考えられる根菜類にはどのようなメリットデメリットがあるのかを考える。 メリットとしては植物の根で大量に光合成産物を貯蓄するために、植物にとって光合成が難しいような環境が訪れた時でも、しばらくの間であれば根での貯蓄によって光合成をせずとも賄えるというメリットが考えられた。 逆にデメリットとしては根での貯蓄を優先するため、植物自身の成長等には光合成産物をあまり回さないため、他の植物との光合成の競合では不利である点が考えられた。 また今回の授業で学んだ、イモ類などの植物は二酸化炭素濃度を上昇させた時の、シンクリミットが起きにくいという点も一つのメリットとして考えられるが、短期間で二酸化炭素濃度が上下するような環境は、地球上ではあまり見られないと考えられるため、これまでに挙げたメリットの副次的な効果であるのではないかと考えた。

A:考えられていてよいと思います。このような考察で案外重要なのは「短期間で二酸化炭素濃度が上下するような環境は、地球上ではあまり見られない」とい点です。生物の進化は与えられた環境で起きますから、自然界で実現しない環境では、合理的には見えない応答を示すことがよくあります。


Q:今回の講義ではシンクとソースについて学んだ。シンクとソースは常に固定されているものではなく個体自身がおかれた状況下、環境下で変化するという。特にソースに比べシンクでは植物により多様性を示す。そこでシンクの優先的な順位はどこに依存しているのかを進化的側面から考える。植物によって多様な器官をシンクにする理由として「動物からの捕食」と関係しているのではないかとまずは考えた。シンクというのは詰まるところ栄養を蓄積している場所であると言え、植物を食べる草食あるいは雑食な動物種にとってシンクの部分を食べることで効率よくその個体内の栄養を獲得することが可能な器官であると考えられる。植物たちにとってもそう言った栄養を蓄えている器官を簡単に動物たちによって捕食されてしまって個体の生存に関わる重要なことなのでそれらの動物からシンクを隠すようにして一個体の中でも土の中に存在する根に栄養を蓄える機能を備えたように進化したのだと考えた。すると今度はシンクを地中の器官に移行するという進化をした植物に適応するような動物種が出てきてもおかしくはない。しかし植物の根を食べるような動物種はあまり多くはない。それが味覚的な問題なのかそれとも今現在、進化の途中なのかは分からない。(イノシシはユリ根を好んで食べることは有名だが)もし、この理由が後者なのであれば数世代後には根を好んで食べる動物種が誕生するかもしれないし、今度は元々地下部にシンクを設けていた植物種が地上部にシンクを設けるような進化を見せるかもしれない。そうなれば植物のシンクを巡り動物と植物の間でイタチごっこのようなことが起き、それは私たちヒトの一生というスケールでは確認することが難しいタイムスケールで彼らは進化を繰り返してきたのかもしれないと感じた。

A:全体としては、よい視点からの考察だと思います。ただ、「数世代後」というのはいくら何でも短すぎますよね。


Q:植物には、二酸化炭素濃度が上昇してもフィードバック調節によって糖濃度が制限され、光合成量が抑制されるというシンク・リミットがある一方、芋を持つ植物については芋に糖分が貯められるため、二酸化炭素濃度の上昇に伴い光合成量が上昇するという話があった。その話を聞いて、もしこのまま二酸化炭素量が上昇し続けるとしたら芋を持たない植物が淘汰され、全ての植物が芋を持つ方向性へと進化するのではないか?と考えた。芋は光合成産物の貯蔵の役割がある一方、栄養生殖の役割があり、農業においても種いもを植えることでクローンを栽培しつづけているというイメージがある。芋を使用した無性生殖のデメリットを考えると、クローンが生まれるため遺伝子の多様性が生まれにくいこと、根による散布方法であり一か所に子孫が留まり続け生息範囲が拡大されにくいことがある。そしてそのデメリットにより芋を保持しつつ有性生殖の仕組みも同時並行で保持しておかなければならないため芋をつけることには生息地が拡大しにくいことや多様性の現象によって環境の変化に対応できず絶滅するリスクも考えられる。二酸化炭素量の増加に伴って光合成を最大限行うということを目的とするためには、そのコストの大きさから、最大限に光合成を行うための光の量も必要となる。また器官を保持するためには光合成産物以外の物質も十分に蓄える必要があり、乾燥地域や栄養源が乏しい地域、花粉媒介者が少ない地域では芋をつけることでエネルギー生産を最大化するのはむしろ不利になると考える。こういったデメリットを踏まえ、逆に降水量や養分が潤沢な環境下では、二酸化炭素量の増大を生かしてより安定してエネルギーを貯蓄し、短期的な気候変動等様々な環境変化に対応できる種がより多く表れてくる可能性はあるのではないか?と考えた。

A:よく考えていると思います。ただ、栄養生殖と有性生殖の部分の議論については、イモをつくる植物でなくても通用する議論ですから、そのあたりをもう少し整理できるかな、と思いました。


Q:本講義にて、シンク・リミットが採り上げられた。それは、CO2濃度が増えたとしても、それにより糖の濃度が増加し、光合成関連遺伝子の発現が抑制され、長期的な生産は上がらないとした見解である。しかし、例外として「いも」はCO2濃度が高くなるにつれて生産性が上昇するらしい、というお話を先生がなさっていた。私はその理由は何なのか不思議に感じたため、以下ではその考察を進めていくことにする。「いも」はシンクの大きい植物である。つまり、ソースから流れてきた養分をデンプンとして「いも」の部分に貯蔵するためであると考える。では、CO2濃度が高いほど「いも」の生産性も上昇するのか。それは、二酸化炭素濃度が高いほど光合成速度も上昇し、ATPの合成が増加することが関係しているからだと考察する。「いも」の部分はその植物に繁殖にとって重要な器官である。一般的に、植物はそれ自体の天寿を全うした後、種子を形成し、次世代に自身の遺伝子を残す。しかし、植物は種子を作る上で自分自身を枯らした後、種子を周囲に散布する。これは植物にとって労力のかかる作業のように感じる。一方、「いも」を形成する植物は、自身が生育途中の時から「いも」を形成する。これは、枯れて種子を散布する手法よりも労力が少ないのではないか。光合成が行われる葉をソースとして、光合成が作られた養分が「いも」の部分に流れ、「いも」はシンクとしてデンプンを貯蔵しているのではないかと考察する。

A:これも、考えてはいるのですが、イモの有無がシンク・ソースに与える影響の議論と、有性生殖と栄養生殖の議論が混ざってしまっているように思います。議論は、実験と同じで、変化させるパラメータは1つだけにした方がすっきりすると思います。


Q:今回の講義では、ソースから運ばれてきたショ糖が、デンプンに合成され貯蔵されるのに白色体であるアミロプラストが用いられることを知った。この色素は、原色素体から発生し、葉緑体や色素体も原色素体から発生しているが、なぜデンプンの貯蔵に色素体が用いられるのだろうか。輸送の観点から考えると葉緑体から合成された炭素を輸送するメカニズムが同じ色素体ならば貯蔵したデンプンを運び出す際にも転用しやすいという利点が考えられる。

A:これは、視点がよいと思います。ただ、せっかく面白い視点なので、もう少し議論を膨らませられるといいですね。