植物生理学II 第7回講義

光合成電子伝達の仕組み

第7回の講義では、光合成の電子伝達の仕組みについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:本講義では、光合成の電子伝達について学び、その中でシトクロムb6f複合体が取りあげられた。X線構造解析にて、シトクロムb6f複合体には、クロロフィルaおよびβカロテンが一部組み込まれていることが判明したが、その理由については未だ謎であることを知った。その理由を以下で考察する。一般にクロロフィルは光エネルギーを吸収するアンテナとしての役割を担っているが、シトクロムb6f複合体は光エネルギーを使わないことが示されている。さらに、クロロフィルは活性酸素を発生させてしまう危険性があるため、光エネルギーを必要としないb6f複合体にとって、本来ならばクロロフィルaは必要ないと考えられる。一方で、βカロテンは、活性酸素の発生を抑える効果があるが、構造解析の結果、クロロフィルaと離れた位置に存在していることが分かっており(参考1)、この事実からは効率的に活性酸素を抑制することができないのではないかと考える。従って、βカロテンも存在の意義が見出せない。
 では、なぜシトクロムb6f複合体内にクロロフィルaとβカロテンが存在するのか。それは「シトクロムb6f複合体自身のために」ではなく「光化学系ⅠやⅡのために」、つまり光化学系ⅠおよびⅡの反応促進のために何らかの効果を与えているのではないかと考えた。例えば、植物全体に光を集めやすくする効果です。上で言及したようにシトクロムb6f複合体は光エネルギーを使用しないことが判明している。しかし、植物にとって光合成は生きるために必要な化学反応である。光合成のためには光をいかに効率的に集約するかが重要である。従って、光エネルギーを吸収するアンテナとしての特徴を持つクロロフィルを多く持つことが必要と考えた。また、βカロテンは、第6回の授業で学習したように、光エネルギーとしてのアンテナというよりも、余分な光エネルギーを熱として捨てる重要な役割を担っている。植物全体としての光の集約のために、シトクロムb6f複合体がクロロフィルaを持つということは、強光の場合、それによる光エネルギーの危険性は上昇してしまう。その危険性を相殺するためにβカロテンは必要なのだと考える。ただしこの仮説は、想像的なものでしかないため、実験でそれを裏付ける根拠がなければ意味をなさない。これを示す実験として、シトクロムb6f複合体を作る遺伝子をノックアウトした植物(実際に作成可能かは正直分からないが)と通常の植物の光合成効率を比較することで調べることができないかと考える。
参考文献:1) 栗栖 源嗣, “光合成蛋白質の形から知る植物の賢さ”, JT生命誌研究館 季刊 生命誌48, 更新日:不明, 参照日:2023/06/09, https://www.brh.co.jp/publication/journal/048/research_11 .

A:考えようとしていることはわかりますが、仮説として、光化学系に役立っていると考えるのは、光化学系には数百のクロロフィルがはたらいているのに対して、シトクロムb6f複合体に存在するクロロフィルが1分子であることを考えると、難しいように思います。また、それを検証する方法として、シトクロムb6f複合体を作る遺伝子をノックアウトしてしまったら、そもそも電子伝達が止まってしまいますよね。必要なのは、シトクロムb6f複合体を残したまま、そこに結合したクロロフィルだけを取り除く方法でしょう。とはいえ、それはなかなか難しそうですが。


Q:今回の講義の中では光化学系やシトクロムの構造を見てその違いや共通性を学んだ。その中で出てきた、「何故光エネルギーを使うことが考えられていないシトクロムb6/f複合体がクロロフィルやヘムを持つのか」という問いが今でも未解決であると話に上がり、気になって調べてみた。文献(栗栖源嗣. "光合成蛋白質の形から知る植物の賢さ". BRH JT生命誌研究館. https://www.brh.co.jp/publication/journal/048/research_11)によると、その問いの答えとなる仮説が一つ紹介されていた。それは、ヘムが塩基性であることから、酸性のフェレドキシンと相互作用し、ヘムはフェレドキシンを介してATP合成経路に関わる可能性があり、その経路は周囲の生育環境が悪化しより多くのATPが必要となったときに使用される経路なのではないか、という説があった。ここで、ヘムの役割については仮説が一つあることが分かったが、クロロフィルとクロロフィルから発生する活性酸素を抑えられない位置に存在するβカロチンの存在意義については説明されていない。自分の考えでは、ヘムがATP合成経路に関与するならば、同様にクロロフィルやカロチンも光合成に関与する可能性を考えたい。通常の位置ではカロチンはクロロフィルに関与できない位置に存在するが、この仮説で考えられているのと同様に、植物にとっての非常事態の場合を考えるとすると、例えば周辺の塩濃度が変化して、組織内に塩が流入したり、pHや温度が変化した場合、蛋白質は失活してしまうかもしれないが、失活せずに変性して構造がわずかに変化し、シトクロム内のクロロフィルやカロチンが光合成に関与できる位置に移動する仕組みがあるのではないかと考えた。膜タンパク質の構造が変化するような環境下は植物にとって明らかに環境が悪化した状態で、その応答としてヘムによるATP合成経路が新たに作られ既存の経路が使えなくなったときに対応するもしくは単純に生産できるATP量を増やす、光合成を行うクロロフィルの量を増やすなどの機構があると考えると紹介されている仮説と話が繋がる。実際に環境変化の起きやすさによってシトクロムの構造は異なるのかを調べるによって仮説を裏付けることができるのではないかと考えた。

A:レポートを書くにあたって関連する論文を調べてみること自体は評価されるべきことですが、もう少しきちんと読んで理解する必要があるでしょう。例えば、「ヘムが塩基性」といった記述は、元の論文にはどこにもありませんよね。ヘムの周りのアミノ酸残基に塩基性アミノ酸残基が多いと言っているだけです。後半の考察は、まあよいと思いますが、上にも書きましたように光化学系には数百のクロロフィルがはたらいているのに対して、シトクロムb6f複合体に存在するクロロフィルが1分子です。そのあたりもう少し考える必要がありそうです。


Q:どの複合体もチラコイド膜を貫通する領域が存在するということに興味を覚えた。チラコイド膜は光合成において電子伝達やATP合成反応が行われるため非常に重要な役割を担っていることが想像に容易いが、ではもし複合体が全てチラコイド膜を貫通しないような構造になっていた場合、どういったものになっていたかを考えてみた。複合体がチラコイド膜を貫通しないということは即ち電子の受け渡しを行うことが不可能であるということを意味する。それはつまり、光と水とCO2が揃った環境のもとでも光合成効率が悪いと考えられる。チラコイド膜を貫通しない複合体が存在した場合、どのような性質を持つと電子の受け渡しを行うことができるか。1つ思いついたのが、複合体が磁石のような性質をもしも有していたら上手くいくのではなかと思った。チラコイド膜を挟むようにして片方は電子と反発し合う力、もう一方には電子を引きよせる力を持つ複合体が存在するとすればチラコイド膜を貫通しなくても電子の受け渡しを行うことができるのではないかと考えてみた。

A:これは、どのようなことをイメージしているのかを理解できませんでした。まず「複合体がチラコイド膜を貫通しないということは即ち電子の受け渡しを行うことが不可能」だと思うのは、なぜなのかをきちんと説明することが必要だと思います。おそらく自分の頭の中には一定のイメージがあるのだと思いますが、この文章だけでは伝わらないように思います。


Q:今回の講義でチラコイド膜の構造によって電子の流れをプロトンの流れに変換しているという話があった。それではそもそも電子の流れではなくプロトンの流れでエネルギー伝達するメリットは何なのか考察した。1つ目はATPは高エネルギーリン酸結合部にエネルギーを蓄えることができることである。プロトン輸送に変換することすなわちATPを合成することによって必要な時にADPなどに変換することでエネルギーを作り出すことができる。2つ目は濃度勾配を作ることができることである。濃度勾配を作ることによって細胞の内外の物質輸送がしやすくなると考えられる。

A:これも、何をどのように考えて書いている文章なのかを理解することができませんでした。「プロトン輸送に変換する」というのは高エネルギー状態としてのプロトン濃度勾配の形成のことを指しているのだと思いますが、それ以外ではATP合成ができないのはなぜなのでしょうか。もし、他の方法でもATP合成ができるのであれば、特にプロトン濃度勾配を形成する必要はなくなるように思います。2つ目の「濃度勾配」は、その輸送したい物質の濃度勾配のことでしょうか。そうであれば、プロトンの濃度勾配を作ると、なぜその物質ん濃度勾配を作ることができるのかを、きちんと説明する必要があります。


Q:有機炭素生産の生産において、宇宙チリ由来や、化学合成由来、光合成由来のものに比べて、海洋生態系から生産されるものが最も多いことを学んだ。しかも海洋生態系から作られる有機炭素生産の生産量は他のものに比べて圧倒的に多かった。このような差がどこから生まれているのか、疑問に思った。海洋生態系における有機炭素生産のメインとなっているのは、植物プランクトンのようであった。また、植物プランクトンはそれに伴い二酸化炭素炭素を吸収していることも知った。私はここで植物プランクトンの数と、地球温暖化について気になり調べてみた。植物プランクトンの数の推移などの論文を見つけることはできなかったが、代わりに地球温暖化によるプランクトン群集への影響について書かれた論文を見つけることができた。(参考文献1)そこには地球温暖化が進むとプランクトンの種類の多様性が減り、生態系の構成種が縮小し、エネルギー変換効率などが減るという考察が書かれていた。このことから、同様に、地球温暖化が進むことによって、植物プランクトンの種類なども同様に縮小し、CO2変換効率なども下がるのでは無いかと考えた。また地球温暖化が進むにつれ、生態系が崩れる可能性が増え、現在の予想よりも地球温暖化の進行が急速に進む可能性があるので無いかとも考えた。
参考文献:1.https://www.jstage.jst.go.jp/article/rikusui1931/61/1/61_1_65/_pdf

A:出だしの光合成生産の話と、その後の地球温暖化の話は、直接関係ありませんよね。レポートを書く前にあれこれ考えてみることは必要ですが、それをただただ文章にしてしまってはレポートになりません。科学的なレポートを書くときには、考えを一つのロジックに落とし込んで、問題設定/思考過程/結論が一続きになるように書きましょう。


Q:今回の講義では、光化学系Ⅱによって、光合成生物は水を分解することが可能になり、地上や硫化水素のない環境での光科学系Ⅰへの電子伝達が可能になったことを学んだ。

A:締切5秒前の提出ではしょうがないかもしれませんが、次回からはきちんとしたレポートを書きましょう。