植物生理学II 第1回講義

光合成と生命

第1回の講義では、光合成が地球生態系、人間文明、植物の生存においてそれぞれ持つ意義について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義の中で、ヒトの可視光線の波長領域と太陽光のスペクトルの山が重なっていることに興味を持った。このことから、我々生物の方が太陽光スペクトルの領域の光を目という感覚器官で感知できるように進化したという考えが妥当である。確かに我々ヒトは紫外線や赤外線といった光を感じることはできない生物である。しかし昆虫や鳥類には紫外線を感知することができる種が多く存在する。また現代にもその機能を失っていないことからも紫外線を感知することによって受ける恩恵が小さくはないことが想像に容易い。よく聞く話ではミツバチの目から見た花を見ると蜜の有無が分かると言う。花の蜜とミツバチの目どちらが一方に歩み寄るような形で進化したのかは「ニワトリと卵」的議論であるが、おそらくミツバチの目が進化して紫外線を感知できるようになったのではないか。ミツバチが好む花の中には一部、鳥媒花としても知られるアンズ等が含まれる。それらの花の媒介を担う鳥にとってミツバチも餌の一種、結局ミツバチ側からするとそういった鳥媒花の光を吸うのではなく、食すことができる蜜の種類を増やすことで天敵の鳥との遭遇率を低くしたのではないかと考えた。その際に紫外線をよく吸収するツツジ類の蜜がミツバチにとって新たな食糧となりその蜜を見分けるために獲得した機能が紫外感知ではないか。

A:目の付け所は良いと思うのですが、後半の論理が少しわかりにくいように思いました。アンズとツツジの花の吸収スペクトルと、ミツバチと鳥の目の感度スペクトルを前提として明示して議論を進めると、よりわかりやすくなると思います。


Q:今回の授業で、もやしは光の当たらない状況下で、より効率よく光を求めることができる形状を保ちながら成長をすることを学んだ。私は中でも種子から発芽する条件について気になり、詳しく調べ考察することにした。そこで植物の種子には、種類ごとにに発芽のしやすい光度が存在しており、特に光が条件で発芽をする種子として、嫌光性種子と好光性種子が存在していることを知った。また、大豆のように暗所でも明るい場所でも育ちやすい種子の方が、嫌光性種子や好光性種子などの限定された場所でのみ発芽する種子よりも、有利ではないのかと疑問に思った。参考2の文献によると、光発芽種子は、地上で他の大型の植物がすでに生えている状況で発芽すると、光合成によるエネルギー獲得という点で不利となる. 光発芽はそのような不利な状況を回避するための生存戦略と考えられていると示されている。私はこの他の理由としても一つ一つの種子の発芽を確実にする目的が強いのではと考えた。特定の条件でなければ発芽をしない種子は、自身の発芽に適していない状況では休眠によって耐え切る構造をしている植物が多く、その点で1つ1つの種子の発芽の可能性が高いため、その分だけ多くのエネルギーを1つの種子に集中することができるメリットがあるのではとも考えた。
参考文献:1.日本植物生理学会 https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=5593&key=&target=、2.豊増知伸 光発芽のホルモン制御 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/44/9/44_9_596/_pdf/-char/ja

A:これも、議論の進め方を少し工夫するとわかりやすくなると思います。途中で、「明るい場所でも育ちやすい種子の方が・・・有利ではないのかと疑問に思った」というフレーズが出てくるので、読み手としてはそれが問題設定だと思いますが、実際には、次に光発芽の話が紹介されて、光発芽のメリットの話に移ってしまいます。文章が全体として一つの論理の流れにのるようにするとよいレポートになります。


Q:本講義では、光合成と生命の関係性について学習した。先生のお話の中で、最も印象的だったのが、人間の生命活動には、「秩序」が必要だということ、それに伴い「熱」が一つの要因と考えられていること、そして、その秩序形成の言わば入口となっているものが「光合成」であるという内容だった。生化学の授業においても、「乱雑さ(エントロピー)」の重要性を学習したが、本講義を受講して、私は改めてエントロピーと秩序は表裏一体なのだと感じた。そこで、私は植物の光合成が秩序形成の入口とされていることについて、もっと具体的に考えてみたいと思った。
 2018年のとある論文によれば、地球のバイオマス総量は約550 [Gt C]で、その中で植物は約450 [Gt C]と見積もることが出来ると述べられていた(参考1)。このことから、地球上のバイオマスの内80%以上を占めていることを意味する。仮に、450 [Gt C]の植物すべてが何らかの理由で絶滅してしまったとしよう。そのような事態が生じてしまうと、光合成という反応はできなくなり、光合成反応(無機物から有機物を生み出す反応として捉える)由来の大気循環や熱などの地球上の物質循環、つまりエントロピーから秩序への変換が滞ってしまう。すると人間だけでなく、地球上すべての生物が生命活動に支障を来たし兼ねない。したがって、植物は生物にとって最も重要な存在となっていると考察する。
 ただし、ここまでは私の見解でしかなく、もっと数値的な議論も必要だと考える。今の時点では十分な考察をする力を持ち合わせていない。ギブズの自由エネルギーに関する式や量子論的考察など様々な観点でエントロピーに関する議論は必要だと思われる。今後はそれらの観点もしっかり学んでいきたい。
参考文献 1) Bar-On YM, Phillips R, Milo R. The biomass distribution on Earth. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Jun 19;115(25):6506-6511. doi: 10.1073/pnas.1711842115. Epub 2018 May 21. PMID: 29784790; PMCID: PMC6016768.

A:最初の方に「熱が一つの要因」とありますが、これは「熱を含むエネルギーの流れ」が重要である、と考えた方がよいと思います。「数値的な議論」が重要なこともその通りである一方で、それ以上に、議論が論理的に進められているかどうかの方が重要です。例えば、光合成生物のバイオマス総量が地球上のバイオマス総量の多くを占めていることは事実ですが、それが本当に光合成生物の重要性を示しているのかを論理的に考えてみることの方が大事です。光合成生物のバイオマス総量が多い一つの原因は、地上の植物が炭素を難分解性のセルロースとして持つことにあります。海洋生態系の場合、藻類はそれほどセルロースを合成しないため、バイオマス総量に占める光合成生物の割合は、陸上生態系の場合ほど多くありません。しかし、光合成生物が光エネルギーの取込み口になっている点では極めて重要であることに変わりはありません。そのあたりをきちんと考えるだけでも、議論をいろいろと発展させることができます。


Q:もやしは光に当たらないため日光を求めて細胞が大きく伸びていくという。しかしそれだけではなく、太陽光とは反対側の地中深くにも根を伸ばしていく。その一方で球根植物には牽引根を形成する植物がいくつか見られる。牽引根は球根が地上に出ないようにするために球根を下げる働きをするという。そこで牽引根はなぜ形成されるのか。それは複数の球根をまとめて地下に牽引することで球根1つあたりのコストを抑えつつ木子や分球が地上に露出するのを防ぐことができることが考えられる。これは球根植物である以下の植物の繁殖方法が親を中心にまとまっていたところから鱗片や木子として分裂していく植物に多く見られることと一致している。例えば、木子繁殖をするカタバミ、鱗片繁殖をするユリ、鱗茎繁殖をするグラジオラスがある。
参考文献 https://www.sc-engei.co.jp/gardeningbeginner/basics/006-006

A:これは、問題設定をもう少し工夫したほうがよいように思います。「牽引根はなぜ形成されるのか」とありますが、その前に「牽引根は球根が地上に出ないようにするために球根を下げる働きをする」とあるので、ある意味でその枠を越える回答を与えるのは難しくなってしまいます。実際には、繁殖形式との対応を議論しているようですが、その点については問題設定があまり明確ではないように思います。例えば「球根の繁殖形式によって索引根はどのようにはたらきを変えるか」といった問題設定にすれば、結果を縛られないで議論ができると思います。


Q:今回の講義では、太陽光によって植物の生長が制御される、光形態形成について、もやしを例にして学んだ。講義内では、もやしは地中から地上に出て、葉を展開するために野生株よりも茎を細長く伸ばしているとしていたが、茎の先端が地上に出た、もしくは出ていないことをどのように感知するのだろうか、そのメカニズムを考察する。まず、一般的にもやしは遮光された環境で栽培されるため、光が地上か地中かを判断する主な要素だと考えると、大きく分けて二つの仮説が考えられた。一つは茎の先端に光を感知する受容体が存在しており、地上に出て光を感知した際に茎の生長を止め、葉を展開するようにシグナル伝達を行うという説で、これを検証するには、波長や強度の異なる光をもやしに当てて、葉が展開される条件を調べたり、茎の形成に関係する遺伝子の解析が必要になると考えられる。もう一つは地上に茎が出た際に、茎にわずかに存在していた葉緑体が光合成をはじめ、生成されたアミノ酸や糖、または葉緑素の密度を感知することによって葉の展開を行うシグナル伝達が行われるという説であり、発芽から子葉形成までの間、細胞をモニタリングすることで検証できると考えられる。

A:二つの仮説を提案していますが、それらが排他的だと考えているのでしょうか。もし、排他的であって、光を感知するのが、特定の光受容体であるか、あるいは葉緑体であるのかの、どちらか一方であるならば、おそらくその検証は、光形態形成の作用スペクトルを測定するだけでよいように思います。あと、「茎の形成に関係する遺伝子の解析」が仮説の検証にどのように役立つのかがよくわからなかったのと、「細胞をモニタリングする」というのが具体的に何を意味するのかがわかりませんでした。


Q:なぜもやしの先はフックのように折り曲げられているかという問いが出た際に、「成長点を土の圧力から守るため」という解が出ていたが、それ以上に子葉を守ることに役立っているのではないかと考えた。暗所で光を得られる場所を探すためには胚軸を地上に向かって延ばすことが必要になるが、大きく曲がった胚軸部分のみが地上に出て子葉が土の中に残ったとき、地上を探し当てたことを植物が認識できるのか、という疑問が湧いた。光発芽種子はフィトクロム等の光を認識する色素を持ち、種子も光を認識することができるが、大部分は土の中に埋もれると予想される胚軸部分が光を感知する機能はコストがかかりすぎているように感じる。従って、おそらく絶対に土の上に出る必要性のある子葉のみに光を感知する機能が備わっていると考えられる。よって、土の上に最初に出てくる部位は、胚軸のフック部分ではなく子葉であるべきだが、子葉が土の圧力によって開いてしまうとより土の抵抗を受ける形で成長するため、子葉の根元部分から引っ張り上げる形が最適になった、と考える。別の授業でダイズか何かのマメ科の植物を解剖したことがあり、豆を子葉の分かれ目に沿って裂くと、中には子葉の次に生えてくる小さな2枚の葉が挟まれていた。この葉は葉柄ごと豆の中に完全に挟まれていたが、成長後の形を考えると、この2枚の新しい葉の中に成長点があると考えるのが妥当だと思う。そうなると、成長点は元から土には晒されてはおらず、完全に豆の中に保護された状態で芽生えてくるのではないかと考えられ、フックは「成長点を守るため」にあるというのは、違う可能性があると考える。

A:これは問題設定が明確でよいと思います。最後の部分は、子葉自体が成長点の保護に働いているという主張ですよね。確かに、植物の種によっては、成長点自体はフックで守られる必要がない場合もありそうです。植物生理学Iで話したかどうか忘れてしまいましたが、ソラマメなどは、そもそも子葉が栄養貯蔵に特化していて地上には出てきません。多様な植物を一般化しすぎるのは危険なのでしょう。