植物生理学II 第回講義

酸素発生・カルビン回路

第8回の講義では、酸素発生系について補足したのち、カルビン回路のはたらきについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:私は今回の授業の中でルビスコに関して特に興味をもった。まずルビスコは酸素と二酸化炭素を触媒する酵素であり、本来触媒したい二酸化炭素の他に酸素に対しても触媒となってしまう。そしてこの酸素によって、酵素の阻害剤である物質が生成してしまう。そのためこのような阻害剤が生成されない様にルビスコは効率を下げているとあった。私はこのことを聞いて、ルビスコの効率を上げることによって二酸化炭素の固定を促進することで、カルビン回路を促進可能ではないかと考える。しかし前述の通りルビスコの効率を上げてしまうと固定される酸素量もまた増加してしまうため阻害が発生してしまう。よって私は酸素が固定されることで生成される阻害剤を分解できるような遺伝子をもつ植物を作ればルビスコの効率を上げても阻害が発生しないのではないかと考える。この方法としては、遺伝子導入によって植物体にこの阻害剤を分解する物質を生成される遺伝子を入れ、高濃度の酸素下において阻害が発生しないことを確認出来れば良いと考える。またこの様にして作成した阻害剤生成可能植物に対して、効率を高めたルビスコの遺伝子を導入することで、カルビン回路がより促進された植物が作成可能であると考える。またこの様なカルビン回路を促進した植物体を作成出来た際は、土壌中に栄養素が少ない土地での植物の育成が容易になる可能性があると感じ、さらに植物の大型化に繋がる可能性があるのではないかと考える。

A:「阻害剤が生成されない様にルビスコは効率を下げている」と言った覚えはないのですが、何か紛らわしい表現をしたのかもしれません。阻害剤の分解とルビスコの効率については、次回の講義で詳しく解説します。


Q:今回の講義で一番興味深かったテーマはチオレドキシンによる酵素の活性化でした。内容は、電子伝達により、フェレドキシンが還元され、それがチオレドキシンを還元し、最終的に標的酵素のS-S結合が還元されてSH基になり、酵素が活性化される。 葉緑体のATP合成酵素もチオレドキシンで活性化されるというものでした。このチオレドキシンはATP合成酵素以外にも還元的ペントースリン酸回路、脂質合成系などの葉緑体内で起こるさまざまな物質代謝経路の酵素を調節しているということ、酸化されたタンパク質の再生や活性酸素種の消去などにも機能しているということがわかった。また、Thioredoxin and glutaredoxin systems[Holmgren A (1989)]によるとチオレドキシンはヒトにおいて中枢的な役割を果たしており、特に活性酸素種との反応に関連して医薬分野との結びつきが強くなりつつあるということが分かった。

A:「分かった」が2つ書いてあり、これはどちらも調べた結果ですよね。この講義のレポートで評価されるのは、自分の頭で考えた論理です。また、調べた結果には出典をつけてください。


Q:今回の講義は、電子伝達の仕組みについてであった。僕が興味を持った点は、Kokの酸素時計の話である。光照射によってマンガンクラスターから電子がひとつ奪われるたびにS0という状態からS1という状態に遷移し、S1からS2に遷移し、S4になると酸素分子を放出してS0状態に戻る、というモデルである。このモデルは実験結果をうまく説明した面白いモデルであるが、このSは単にstate(状態)という意味でよくわかっておらず、かなりあいまいであるということに疑問を感じたので、この酸素時計について調べてみた。すると、S1以外の、S2からS4までの状態においては現在の技術では構造解析ができないということがわかった。このモデルは、S0からS4までの5つの状態を定義し、これらの状態が時計のようにループしているという話であるはずなのに、そのうちのほとんどの状態について構造が解明されていないのは不思議である。特に、S4からS0に戻る過程の反応を解析できないと、「時計」のようにループしていることの十分な理由にはならないように思えるので、この部分の構造解析は少なくとも必須であると考えられる。今後、結晶構造解析技術が発展したら、この部分の観察を行うことで、酸素時計の仕組みを解明することができると考えられる。

A:一応、考える努力はされています。まだ、感想的側面が強いので、もう少し論理的に議論を展開できるといいですね。あと、「現在の技術では構造解析ができないということがわかった」とありますが、このような場合は出典を明記してください。S2以上の構造についても、現時点ではある程度の情報が得られるようになっています。


Q:今回の講義では、Kokサイクルモデルについて学び、光が当たるとエネルギーが溜まることから、S4→S3→S2→S1→S0の順で安定になっていくのではないかと考えた。しかし、実際は最も安定なのは、S0ではなくS1であった。この理由を考察する。S0からS1へ遷移にするとき、S0はH+と電子をそれぞれ1つずつ失う。これは、S0状態のMn4Caクラスターが酸化されている反応である。また、文献より、数分から数時間暗順応させた場合、存在比はS0:S1=0.25 : 0.75となり、さらに長時間(数時間から一日)暗順応させた場合、ほぼ100 %S1になるとある。これは、長時間の暗順応でS0の酸化が促進されたからだと考えられる。以上のことから考えられる結論は、S1において、光が当てられエネルギーが溜まることで不安定になりS1状態を失うことよりも、S0が酸化されてS1状態になる方が圧倒的に多いということである。
参考文献:光合成水分解・酸素発生を可能にする光化学系IIの原子構造、岡山大学 大学院 自然科学研究科、沈 建仁、https://photosyn.jp/journal/sections/kaiho62-5.pdf

A:よく考えていてよいと思います。以前は、S0:S1=0.25 : 0.75の部分の実験結果からS0とS1がほぼ同じエネルギーレベルであるために、S2以上のステートのものはS1状態に戻るためにS1の存在量が3倍になるとだけされていて、そのこと自体は現在でも正しいのだと思いますが、長時間の暗順応の実験から、ここで紹介されているように、S1の方がS0よりも安定であることがわかりました。


Q:本授業では、光化学系Ⅱの構造について触れた。今回はその「ひしゃげた椅子構造」について、光合成に寄与する部分を考える。MnやCaを保持することで、配位結合を持つことができる。配意結合は、光化学系Ⅱ内で、水分子を保つことが出来るうえ、共有結合などより弱い結合であるため、周辺の水分子を利用する上で、最小限のエネルギーで、結合を離すことが出来る。水分子は揺らぐことが出来、その運動は酸素発生の効率を上げていると考える。また、アンテナ色素が光を集めるように、水も光化学系の中心に集まれば、反応が効率的になるので、「ひしゃげた椅子構造」は、光合成効率に、よく寄与していると考えた。

A:考えようという努力は認められます。ただ、全体として論理構成が一本につながっていないので、レポートとして読んだ場合には、何が主題なのかがよくわかりません。例えば、水分子の揺らぎに着目するのであれば、その点に絞ってもっと深く掘り下げると、よりよいレポートになります。


Q:今回の授業で登場したルビスコについて、ルビスコが葉緑体の可溶性タンパク質のほとんどを占める酵素でありながら、速度の遅い酵素であることに疑問を感じた。反応が遅いデメリットを量で補っているというのは理解できるが、ルビスコの改良に反応の余地はある。そこでルビスコが効率化できる改良を考える。まずルビスコは40億年前~30億年前に誕生した酵素から進化したものである[文献1]。当時の自然環境は現代に比べて二酸化炭素が濃く、酸素が薄かったとされるためルビスコの元となった酵素も二酸化炭素の固定には困らなかったといえる。しかし現在は反応の阻害となる酸素も多く存在しており、ルビスコの炭素固定に関して決して有利ではない。ではルビスコの反応効率を上げる方法を考える。触媒活性を上げることに成功した研究例も見られるため、ここでは親和性について注目して議論する[文献2]。ルビスコは反応速度も遅いが、反応の起点となる二酸化炭素との親和性も低い。親和性が弱いことで、酸素との結合も行われて、阻害が起きていると考える。ならば酸素に親和性が高い物資を入れることで、反応を促進できる予測する。酸素を固定し、酸素濃度を減らす例で言えばマメ科に根粒菌が挙げられる。葉を根粒菌によっ感染させ、レグヘモグロビンを生産させることでルビスコとの結合を抑えることができると考えられる[文献3]。ルビスコの改良の一案として根粒菌との共生を挙げる。
1「太古に出現した細菌が植物光合成の仕組みを完成させていた!」, JST, http://www.ritsumei.ac.jp/lifescience/skbiot/matsumura/CO2.pdf
2「光合成の効率が生物により大きく異なる原因を解明 ― CO2固定酵素ルビスコのCO2識別能に関わる構造を発見 」, 神戸大学, https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2019_03_25_01.html
3「根粒菌と酸素」,日本植物生理学会, https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=169

A:前半はよくあるパターンだと思って読んでいましたが、後半の根粒菌を使ってルビスコの活性を上げるという理屈は初めて目にしました。非常に独創的でよいと思います。ただ、電子伝達で酸素が発生してしまいますから、電子伝達の局在とルビスコの局在を分けないといけませんよね。そのあたりの話は、植物生理学Iの講義の中で窒素固定を紹介するときにしているので、できたらきちんと考察してほしいところです。前半のよくあるパターンの部分は削って、後半のそのような考察を足せば、完璧なレポートになります。


Q:今回の講義で明反応と暗反応という言葉があまり使われなくなっていることを聞いた。光エネルギーを用いてNADPHを作るものが明反応、ATPとNADPHを用いて二酸化炭素から糖を合成するのが暗反応だと高校の時に学んだ。NADPHは様々な植物の反応に使われており、細胞質内にとどまることが特徴である。細胞外に進出した時にどのような効果が見られるのかを考えた。NADPHは還元力が非常に強いという特徴がある。このことにより、生体内での安定力が上がると考えられる。このことによって、生体内のイオンが安定して存在できるため、安定した植物のエネルギーを貯えることができると考えられる。しかし、存在するエネルギーでのみの安定になるため、新しいエネルギー交換が行われない。よって植物の成長には繋がらないと考えられる。逆にNADPHの代わりに窒素イオンを用いることで、還元はすることができるとわかる。よって、還元力のある物質が存在すると植物の成長に繋がるとわかった。

A:これは、努力の跡はうかがわれますが、言葉の使い方があいまいなので、何が言いたいのかよく伝わりません。例えばNADPHが「細胞外に進出した時に」の「進出」というのは何でしょうか。NADPHは物質であることを考えると「分泌」と言いたいのでしょうか。「生体内での安定力が上がる」も「何の」安定力なのかが日本語にないので意味が取れません。「生体内のイオンが安定して存在できるため、安定した植物のエネルギーを貯えることができる」も、イオンの安定性とエネルギーの貯蔵の関係が読み取れません。もう少し、きちんと意味の取れる日本語を書くようにしてください。


Q:今回、カロテノイドは吸収した光を熱に変えることから、エネルギーを安全に捨てる役割があるという話があった。従って、光が強い環境下ではカロテノイドが多く必要であると考え、最上部に位置する葉などには他よりもカロテノイドが多く含まれるのではないかと考えた。また、カロテノイド量を調整することができれば、光に弱い植物の強光下での栽培・収穫に近づくのではないかと考えた。

A:カロテノイドの話は、光合成色素の話をした回に説明したもので、今回の主題ではありませんよね。いずれにしても、レポートとして貧弱なように思います。


Q:暗反応の活性化やATP合成酵素の活性化のように植物にとって重要な要素においてチオレドキシンが使われていることから、チオレドキシン量と外部環境の関係性について疑問を持った。予想としては、外部環境の変動が大きい場合、チオレドキシン量が多いと予想した。理由としては光依存的にチオレドキシンが機能し、環境の変化に伴った細胞の酸化還元の変化の適応[参考文献1]に関与していることから、酸化ストレスの多い環境やその変動が大きい環境では、その変化に対する許容量が大きい方が有利であると考えたためである。具体的には、酸化ストレスの多い紫外線や放射線過剰の環境下では、活性酸素の過剰による細胞機能障害が行われる。酸化ストレスに対し多くの酵素が存在していれば植物の恒常性や成長がDNA破壊や細胞機能障害に対して上回ることができ、生命の維持に貢献する。弱光の環境下でもより少ない光で効率的に酵素活性が行われるためには、入ってきた酸素ストレスに対して成長の方向、いわゆるチオレドキシンの活性による細胞増殖、分化の反応が多く必要である。つまり、光の強弱どちらに関わらず外部環境の変動が大きい植物は、酸化ストレスに対する感度と活性酸素とのバランスよりチオレドキシン量が多い方が有利であると結論づけた。
参考文献
1.チオレドキシンシステムによる光合成の調節機構変動する光環境で植物はどのように効率良く光合成を行っているのか?公益社団法人日本農芸化学会,桶川 友季 本橋 健,出版 2018/06/20, 閲覧2022/05/30https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=1004
2.酸化ストレスとレドックス制御~タンパク質の酸化的修飾と活性調整~,榮長 裕晴, 吉原 栄治, 松尾 禎之, 淀井 淳司, 生物試料分析 Vol. 32, No 4 (2009), 閲覧2022/05/30, http://plaza.umin.ac.jp/j-jabs/32/32.265.pdf

A:これは、考えていることがよく伺われるレポートですが、一方で、チオレドキシンの量が多いか少ないかが、何に影響を与えるのか、という一番肝心な点があいまいなままです。「変化に対する許容量が大きい方が有利」とありますが、この「許容量」というのが何でしょうか?レドックス制御は、チオレドキシンの酸化還元により起こりますから、基本的には酸化と還元のon/offしかなく、そのonとoffの状態の比率が活性を制御するはずです。その場合、比率ではなく、量、すなわち「onの量+offの量」を許容量と考えているのであれば、それが制御にどのようにかかわるかは、自明ではないように思えます。


Q:カルビン―ベンソン回路において、ルビスコが触媒するRuBPにCO2を固定してPGAを産生する反応は、光エネルギーも酸化還元力も使わない。これは、RuBPがエネルギーを貯めこんでいるためだと講義では学んだ。しかし、高エネルギーということは不安定ということでもあるが、この回路反応は逆流したりしないのだろうか。光が当たっている状況から考える。このとき、電子伝達系によってNADPHが活発に生み出されているため、1,3-ビスホスホグリセリン酸がグリセルアルデヒド3-リン酸になる反応は亢進し、その結果ルシャトリエの原理に従ってその前段階のPGA → 1,3-ビスホスホグリセリン酸の反応、その前のRuBP→PGAの反応も進行し、回路反応は正常な向きに回る。光合成が行われない光が当たっていない状況を考える。このとき、5-ホスホリブロキナーゼは働くことが出来ないため、RuBPよりリブロース5-リン酸の濃度が高くなっていると考えられる。よって、酵素が触媒しないため順反応も起こらないが、逆反応はさらに起きにくい環境であると言える。これらのことから考えると、カルビン―ベンソン回路は逆流しないと考えられる。また、光がないと働かない酵素が存在するのは、講義で習った高エネルギー物質の節約の他に回路反応の逆流の抑制のためでもあると考える。

A:きちんと考えていますし、論理の流れもよく説明されていて、よいと思います。ただ、最後の文の「高エネルギー物質の節約」と「回路反応の逆流」は、基本的に同じことを別の表現で言っているように思いました。


Q:授業ではルビスコが取り上げられた。ルビスコと同様にPEPカルボキシラーゼも二酸化炭素を固定する酵素であり、C4植物ではPEPカルボキシラーゼとルビスコ両方が働くことで二酸化炭素を固定している。乾燥した地域に生息するC4植物は、二酸化炭素濃度が低くても活性できるPEPカルボキシラーゼが用いることで光合成が可能になる。そこで、C3植物でも二酸化炭素濃度が低くても活性できるPEPカルボキシラーゼを用いる方がより効率よく光合成できるのではないかと考えた。今回はこの仮説について考察する。まず(1)より「PEPカルボキシラーゼは、リン酸化とアロステリーの両方によって高度に調節されています。」とある。よって、PEPカルボキシラーゼはリン酸化すると活性が強くなると考えた。ここで、ATPがADPになる過程でリン酸基が外れるが、このリン酸基を元にPEPカルボキシラーゼの活性が高まるとする。そうすると、PEPカルボキシラーゼを用いる光合成では光合成をしながらATPを消費していると言える。よって、ルビスコのみを用いる時よりも光合成にエネルギーを使い、エネルギーを必要とする有機物の合成などが阻害されると考えられる。以上より、二酸化炭素が低い環境下ではPEPカルボキシラーゼを使う必要があるが、二酸化炭素濃度が低い環境以外ではPEPカルボキシラーゼを用いることで余分なエネルギーを使うことにつながるので、PEPカルボキシラーゼを用いるのは避けるべきだと考える。よって仮説は誤りだと言える。
参考文献:(1)ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ (Phosphoenolpyruvate carboxylase) - JPan.wiki

A:これはよく考えていますね。事実として知識を持っていない部分についても、自分で仮定を置いて議論を進めていてよいと思います。C4植物とPEPカルボキシラーゼの優位性については、次回の講義で詳しく説明します。


Q:ルビスコはRuBPと二酸化炭素・酸素の反応を触媒として存在している最大の酵素であるが同時に可溶性タンパク質の半分を占めている速度の遅い酵素であり、CO2の反応を触媒すると同時にO2の反応も触媒してしまいCO2の反応を阻害し植物の生育を阻害してしまう効率の悪い酵素であると述べられていた。ではなぜO2の触媒といったものが存在しているのか、CO2の触媒が無い方がより光合成効率が上がり生存に繋がると考えられる。しかし今日まで存在しているということは何かしらの原因があり必要だと判断され、生存していた理由にほかならない。私はO2の阻害があっても問題はないのではなく、阻害が無ければならない理由があると考えた。O2の阻害が無いとCO2の反応が過剰になってしまうなどといった事が起こり、光合成に対して影響を与えると考えた。

A:これは問題設定「阻害が無ければならない理由があると考えた」まではよいと思いますが、その問題に対して論理的に考えて答えを与える部分がほとんど存在しないので、評価が難しいと思います。何でもよいので、自分なりの論理で答えを推定することが重要です。


Q:RubiscoはCO2だけでなくO2も基質とする酵素で,O2を基質としたとき生成する3-PGAが半分になるだけでなくカルビン回路の阻害剤さえも生成することが紹介された。オキシゲナーゼの反応は光合成の効率を低下させるため,できるだけカルボキシラーゼとして機能させることが光合成効率上昇のために一見重要であると考えられるが,実際に両者の反応はどのくらいの割合で起こっているのだろうか。カルボキシラーゼ,オキシゲナーゼのKm値がそれぞれ10~30 μM,数百 μM程度,基質濃度すなわちCO2,O2濃度がそれぞれ12 μMおよび250 μMであるという1)。この値から判断すると,RubiscoはCO2との親和性がO2と比べて10倍程度高いものの,基質濃度はCO2がO2の20倍程度であるため,両者は打ち消し合い,とくだんカルボキシラーゼとしての機能を強く働かせていことは期待できない。Rubiscoは基質濃度に適応した親和性をもつように進化してきたと考えれば,カルボキシラーゼとオキシゲナーゼを同程度にはたらかせていることとなり,これが進化の過程で残ってきたものであると考えると,オキシゲナーゼもカルボキシラーゼの機能と同程度にはたらかせることには何らかの意味があると考えられる。オキシゲナーゼの機能をもつことにどのようなメリットがあるのだろうか。ここで,光合成の反応式を思い出すと,CO2 1分子の消費に対してO2 1分子が発生する。すなわち,カルビン回路でのCO2 1分子の消費とともに電子伝達系でO2 1分子が発生している計算になる。このこととRubiscoの反応の特徴,さらにO2は活性酸素としてはたらくとさまざまな生理的な悪影響を与えうることを考慮すると,光合成産物の不要なO2をRubiscoの基質として消費することで活性酸素の発生を抑制できているのではないだろうか。これを検証するためには,オキシゲナーゼとしての反応のみを阻害したり,CO2やO2の分圧を変化させてカルボキシラーゼとオキシゲナーゼの反応バランスを崩したりすることで,光合成にどのような変化があるかを調べるとよいと考えられる。
1) 日本植物生理学会,植物Q&A ルビスコの活性とCO2/O2濃度,< https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4837 >,2022/06/04アクセス.

A:定量的に議論を進めて、自分なりの仮説に基づいて結論を導いており、非常に良いと思います。オキシゲナーゼ反応の結果引き起こされる光呼吸の生理的が意義については、次回の講義で詳しく解説します。


Q:今回の講義では、カルビンベンソン回路を調べる際、ロリポップからの二次元クロマトグラフィーを用いて物質の変化を見ていたことを学んだが、実際に2秒後と60秒後の写真を見比べると、異なる物質がかなり多くある。そこで、2秒後には存在していなかったが60秒後には存在している物質について、それぞれ考えていく。まず、カルビンベンソン回路の反応により生成した物質としては、グリセルアルデヒド3-リン酸からできるスクロースが挙げられる。また、セリンはホスホグリセリン酸が脱水、アミノ基転移、脱リン酸を起こすことで生成するものである(*1)ため、カルビンベンソン回路の反応が関係していると考えられる。次に、特に濃いプロットを示すアスパラギン酸とアラニンに注目する。プロットが濃いことから短い間で大量に生産されたと考え、アスパラギン酸はオキサロ酢酸から、アラニンはピルビン酸からできることを考えると、代謝の過程で、解糖系によりピルビン酸ができることからアラニンが、クエン酸回路によりオキサロ酢酸ができることからアスパラギン酸が生成されたと考えられる。また、クエン酸も増えているが、こちらも代謝反応によるものであると考えられる。ただ、アスパラギン酸などに比べてプロットが薄いことから、クエン酸回路の物質の中では、クエン酸の量は少ない、もしくは生成されてもすぐに他の反応で消費されていると考えられる。
(*1)セリン生合成の新しい制御機構を発見.理化学研究所.https://www.riken.jp/press/2017/20170614_2/index.html#note1

A:これもよく考えていてよいのですが、代謝に対する光の影響と細胞内局在をどのように考えているのかがよく読み取れませんでした。細胞内の代謝にはいろいろありますが、カルビンが実験で見ていたのは、あくまで光によってスタートする反応で、それはルビスコが触媒するグリセルアルデヒド3-リン酸の生成反応です。それ以外の反応は、すべて暗所で進行するという前提でよいのでしょうか。また、真核生物の場合、葉緑体とミトコンドリアとサイトゾルでは異なる代謝が進行します。しかし、数秒以上たてば、物質はオルガネラ間を移動できる、という前提で議論していますか?そのあたりを少し補足すると、論理がすっきりすると思います。


Q:ルビスコは速度が極めて遅い酵素であるが、葉緑体の可溶性タンパク質の半数を占めるというように、その遅さを量で補っている。なぜ二酸化炭素や酸素の固定の触媒という、植物生活において重要な働きを持つにも関わらず、質(反応速度が遅い事)において、進化が速くに進まなかったのだろうか。まず、ルビスコはあくまでも「触媒」を行っているため、生活上必須なではない事が考えられる。よって、量で補うといった方が、構造を反応速度が速くなるように変えるという進化スピードより速かったために、量を増やすという進化を遂げたのだと考えられる。この説を通すのであれば、今もまだルビスコは進化の途中であり、進化の末、反応速度が現代のものよりも上昇する可能性があるという事になる。ルビスコが反応速度において進化をしている事を裏付けるには、高等植物(被子植物など)と下等植物(藻類など)を用意し、反応速度の違いを見てみれば良い。具体的な実験として、下等植物のルビスコを高等生物に導入し、反応をみてみる。ルビスコが働くのはカルビンベンソン回路であり、この回路での代謝産物はグルコースである。時間あたりのグルコース産生量が実験後の方が下がっていれば、下等植物のルビスコの触媒速度が遅い事が考えられ、高等植物のものの方が反応速度において進化が進んでいる事が考えられる。

A:よく考えていてよいとは思うのですが、進化の概念についてやや注意が必要そうです。被子植物と藻類を「高等」「下等」と呼んでしまうと、何となく藻類の方は途中で進化が止まったように感じるかもしれませんが、実際には被子植物も藻類も同じ40億年という進化の歴史を背負っています。おそらく、環境に対する適応という点では、同じぐらい進化をしていて、ただし、その適応している環境条件が違うのです。なので、最近は誤解を避けるために、「高等」「下等」は使われなくなる方向に進んでいます。


Q:今回の授業でカルビン回路の暗反応には実際には酵素を活性化させる段階で光が必要であるということを学んだ。しかし、この酵素を活性化させるという段階がなければ実際は光がなくても進んでいく反応であるといえる。このことから、わざわざ光が必要な電子伝達系を使用しないルートがあればどんな時間であっても反応させられるのではないかということについて考える。これには、酵素を不活性の状態にさせないということで対処することができると考えられる。しかし、この方法の問題点としてはATPの消費量が非常に激しくなるということである。昼間の間は光合成によりATPが合成されるものの夜はATP合成がなくなり、ATPが枯渇してしまうことになる。また、NADPHについても同様のことがいえる。NADPHの不足により植物の何らかの機構が代わりに還元剤とされてしまっては大きな問題が発生する。これらの不足を解決する方法として葉緑体外からの輸送という方法があげられる。つまり、葉緑体の膜表面にATPやNADPHが輸送可能な機構を作ることでカルビン回路を回し続けることができると考える。植物は今後上記にように光に依存せずにカルビン回路を動かせるような方向に進化していくのではないだろうか。

A:これは、農家が収穫を終わって、売る農作物がなくなった時に、じゃあ農作物を買えばよい、といっているのと似ていませんか。光合成のカルビン回路は光のエネルギーを使って有機物を得る反応ですが、そのカルビン回路を回すためのATPを外から輸送しようとしたとき、そのATPは何から作るのでしょうか。普通は有機物を呼吸で分解してATPを作るのだと思います。そうすると、有機物を合成するために有機物を分解することになりますよね。