植物生理学II 第4回講義

光の吸収とクロロフィル

第4回の講義では、植物の色についての一般論について触れたのち、さまざまなクロロフィルについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:私は今回の講義の中でストロマトライトからクロロフィルfが発見されたということに特に興味をもった。ストロマトライトは地球上の酸素濃度が少ない頃から生息しており、現在の植物よりも進化していないと考えることが出来るため、クロロフィルfが現在の植物が持つクロロフィルaなどの他のクロロフィルの祖先なのではないかと考えた。よってクロロフィルは初めにまずクロロフィルfをもつ植物が誕生し、この植物の中で環境や突然変異などの要因によって一部の構造が異なる他のクロロフィルが生成され、この新たなクロロフィルの方が多くの光を吸収することが可能であり、光合成効率が高かったため多くの植物で保持されるようになったと考えた。このことを確認するためには過去の地球の環境から各波長光の量を推測し、クロロフィルfの吸収波長である赤外線よりもクロロフィルaなどの吸収波長の方が多いことや、クロロフィルfよりもクロロフィルaの方が吸収した波長光あたりの光合成量が多いことを示せれば良いと考える。また現在生息している植物を遺伝子を解析し、クロロフィルfとクロロフィルaの中間産物が確認されたらこの推測は正しいのではないかと考えられる。

A:「初めにまずクロロフィルfをもつ植物が誕生」などとありますが、この講義では、シアノバクテリアの共生によって藻類の葉緑体ができたこと、また、藻類の系統によらずクロロフィルaはもっていることなどを学んできたわけですよね。今回の講義でも、クロロフィルdとfは、シアノバクテリアに見られる、という話をしているのですから、それらをすべて無視して、植物の誕生の話をされるとがっかりします。


Q:今回の授業で特に興味深かった分野は、ベゴニアの葉の青緑色になっているということです。説明ではこの色になっているのは、ベゴニアが生息している場所の上部に木々などの葉が存在しているため光が届きにくく緑の光を上のものが吸収し弱くなった光を吸収するため、青の吸収を減らして緑の吸収をあげるためであると教えていただいた。そこで自分は同じように地面付近に生えている植物もこのような葉の変化を起こさないのは何故かと考えた。自分が思いついた理由として1つ目は、必ずしも上に光合成をしている葉が存在するとは限らないために葉の色を変えてまで光合成をする必要がなかったためということ。2つ目に考えられたのは、葉の色を変化させることがリターンよりもリスクが多いためということであった。

A:2つ理由を考えたのは良いのですが、この講義のレポートで求められているのは論理です。どのようなロジックでもよいので、2つの内、片方の理由がよいということを論証してみてください。


Q:今回の講義では、白という色素は存在しないことを学んだ。では、たいていの植物の色は緑色であることから、この理由を考察する。たいていの植物が緑色である理由はクロロフィルが緑色を示す光の波長(550 nm)を最も吸収しにくいからであることを学んだ。つまり、仮に白色という色素が存在するとすれば、白色が最も光を吸収しないはずであることから、光の吸収をできるだけ抑えたい植物にとって、その色を白色にしない理由はないと考えられる。ここから、白や透明な色素は存在しないのではないかと考えられる。しかし、現に白い花や葉を持つ植物は存在しているが、これは何故だろうか。文献より、植物は全ての組織においてフラボノイドと呼ばれる色素を持っており、白いバラやユリは人間が色を感じることができない紫外光において、白ではない色を発していることが書かれている。つまり、白い色素を持つバラやユリは存在しないと言える。以上が、私が考える白色の色素が存在しない理由である。
【参考文献】白い花の色素について | みんなのひろば | 日本植物生理学会 (jspp.org)/2022-5-2 閲覧、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1678

A:これは読んでも意味がよくわかりませんでした。最初の「この理由を考察」の「この」は「白という色素は存在しない」を指しているのでしょうか。だとすれば、これは一般的な言説ですから、植物が何色であるかとは直接関係ないように思います。もしかしたら、植物が緑色である理由を考察すると言いたいのかとも思いましたが、後ろの記述とは合わないようです。「光の吸収をできるだけ抑えたい」というところも、全く理解できませんでした。


Q:白い色素は存在しないということを学んだ。白い花は何のメリットがあるのだろうか。白い花について調べてみると、フラボノイドという色素が関わっていて、フラボノイドは人間の可視光の全ての光を吸収しないため、「白」ではなく「無色」の色素である。白は花弁内の気泡が、白絵の具のように光を屈折することで現れている。花は昆虫などから目立つために色を付けていて、人間からどう見られるかを気にしていない。そのため、花は、昆虫などにとって可視光である範囲の色を纏えば十分である。フラボノイドのように、人間にとって「無色」であり、昆虫にとって「有色」である色素が存在することで、白い花は生きることが出来ている。
農研機構.野菜花き研究部門.閲覧日2022/05/07、https://www.naro.go.jp/laboratory/nivfs/kiso/color_mechanism/contents/white.html

A:繰り返しになりますが、この講義のレポートは、調べた結果を書いただけのものは評価の対象になりません。自分で考えた論理が評価されます。


Q:今回の授業では色素と光の吸収について学んだ。植物はそれぞれ光環境に適した形でクロロフィルを獲得してきた。中でもストロマトライトはクロロフィルfを持っていて、これは長波長の吸収にシフトしている。これらのことから古代のストロマトライトがどのような過程でクロロフィルfを手に入れたか考える。そこで現生のストロマトライトの生息環境をみてみる。クロロフィルfによって、長波長の光を利用する利点としては、散乱されにくいということだ。実際に現生ストロマトライトの中に塩分濃度の高い水域で生息している種もいる[文献1]。この環境では塩分濃度が高く水中に分子が多く存在するため光は散乱しやすい。また琵琶湖の湖底にもストロマトライトは生息している。この環境は水中の深い場所であるから、長波長の光の方が通りやすい。このような点から現生のストロマトライトではクロロフィルfの方が有利であると考えられる。
 次にストロマトライトが誕生した時代の環境を考える。ストロマトライトが誕生した年代を27億年前しとて推定すると、当時の海はシアノバクテリアによる光合成が初まり無酸素状態から水中に酸素が存在し始めた時代である。この状態では水中に分子が少なく、散乱の影響も少ないと推測される。化石証拠から海岸でストロマトライトが発見されているので、可視光が遮断されるほど深い場所にいたとは言えない。だからこの時代からクロロフィルfを獲得していたとは考えにくい。海中に酸素分子が増えていくにつれて、散乱の影響が強くなり、クロロフィルfに色素を進化させたのではないか。クロロフィルfの獲得によって、浅瀬以外の場所にもストロマトライトが進出していった考える。つまり古代のストロマトライトが生息していた環境は湖底よりも、オーストリアのシャーク湾に近い環境と推測できる。[文献1]
1.「西オーストリアのシャーク湾」, TBS, (閲覧日 2022年5月8日),https://www.tbs.co.jp/heritage/2nd/feature/2013/201309_13.html

A:ストロマトライトというのは、シアノバクテリアが作った構造物です。シャーク湾にはストロマトライトが現存していますが、琵琶湖にいるのはシアノバクテリアであって、ストロマトライトがあるわけではありません。ただ、考え方はきちんとしていて評価できます。一つだけ考えるべきなのは、ストロマトライトというのは、シアノバクテリアの細胞が周囲の砂を巻き込みながら層を重ねて岩状に成長したものだということです。つまり、一番外側のシアノバクテリアの細胞は光が十分に当たりますが、少し内側の細胞は、まさに、散乱光だけが当たるような状況に置かれていることになります。


Q:今回の講義で色が見える仕組みについて学んだ。野菜は色素による光の吸収によって色が出ていることはわかったが、水で茹でると色が変色することがある。これはどのような仕組みになっているのかを考えた。調べると、茹でるときの色は色素のクロロフィルの持っているMgが大きく関係していることがわかった。酸の条件下で茹でたとき、酸の水素イオンがクロロフィルの持っているMgイオンと結合してフィオフィチンに変わってしまう。また、水中での加熱によっても同様にMgイオンと水素イオンが入れ替わってしまう。このことによって黄褐色を呈色する。逆にアルカリ性条件下で茹でたときクロロフィルの炭素鎖が連なったフェチル基とメチル基が脱離することによって鮮緑色を呈色するクロロフィリンに変化する。このようなことから水で茹でた場合、水は中性であるため加熱の影響のみを受けるとわかる。よって緑色野菜を水で茹でると色が黄褐色に変色するのではないかと考えられた。にんじんなどのカロテンを多く持つ野菜はカロテンのC40H56という構造から茹でた際に水中に存在するイオンとの結合はあまりないと考えられた。しかしカボチャなどの茹で汁に色が出ることから調理によって細胞に傷がつくため存在する色素が茹で水の中に流れ出る可能性が大きいと考えた。
参考文献:食事を今より100倍楽しくする食品科学、https://takumiyalab.com/野菜は茹でるとどうして変色するのか?葉物野菜/

A:これも、前半は調べたことが書いてあるだけなので評価の対象にはなりません。後半の「○○の場合には○○なので○○であると考えた」という部分も、個別にどうなっているのかを考えただけで、論理が展開が十分とは言えませんね。


Q:今回の講義で、光りについての話があった。なので今回は生物が構造色をもつ意味を考察する。多くの生物は構造色によって発色するのではなく、色素によって発色している。構造色は色素によって吸収されて着色したわけではなく、光の波長が干渉や散乱などの光学現象を起こし、着色している。構造色をもつ生物は緑色や虹色に光ったりし、派手で美しい色をしていることが多い。構造色をもつ生物にクジャクやマガモがいる。このことから、構造色により派手で美しい色を発色することにより、メスへの求愛行動のために構造色を持っていると考えられる。また、チョウやタマムシなどの昆虫類も構造色を持っていることがある。これは、派手な色を発色することによって、天敵から襲われるのを防ぐためであると考えられる。

A:最初に「生物が構造色をもつ意味を考察」とありますが、実際に考察されているのは「派手な色を発色する」ことの意味です。「派手」という意味では、色素を使った植物の花も派手ですから、色素ではなく構造色が必要な理由をきちんと考える必要があるでしょう。


Q:本講義において、ベゴニアの話が取り上げられた。具体的には、青色光の吸収を抑えることで緑色光を吸収しやすくし、日陰でも光合成効率を保てる仕組みを持っているということであった。この応用として、日当たりが悪い場所での太陽光発電が可能になるのではないかと考えた。そこで、太陽光発電システムについて調べてみると、「発電した電力は隣のパネルへとどんどん伝達されていきますので、日陰の部分があると電力が通りにくくなり、その場で消費されてしまう」(1)とある。従って、日陰になった場所を感知し、そこでベゴニア同様の光吸収システムを発動できるようにすることで、発電効率の向上が見込めると考えた。
参考文献1:タイナビ.トップページ>おすすめコンテンツ>太陽光発電の知識>太陽光パネルが日陰のとき、発電量への影響はどれくらい?https://www.tainavi.com/library/3100/ (参照2022-05-07)

A:講義の中で、青でなく緑の吸収が有利になるのは、林床などの上に植物がある場所であるという話をしたと思います。単に「日陰」という話ではないのです。その場合、森の中に太陽光発電システムを作る酔狂な人はいないように思いますから、やや見当ちがいな気がします。


Q:本講義から、白い絵の具に含まれているのは屈折率の高い透明な色素であると言われていたが、牛乳にも屈折率の高い透明な色素が含まれているのではないかと予測した。理由は、2つある。1つ目は、生存におけるエネルギー消費の面で不利であると考察したためである。目に見えない小さな分子が構造を成して光を反射していた場合は構造色である。しかしながら、そのような正確な構造を作る際には、エントロピーを考えた時に多くのエネルギーを必要とすると考える。また牛が体内で牛乳を作るのはエネルギーを多く必要とし、子牛に与えるための物にわざわざ色をつけるためだけにエネルギーを費やすのは生存戦略上、対価に見合わないと考察する。2つ目は、液体である牛乳が構造色である可能性は低いと推測したためである。構造色を見分ける際の方法の一つとして、破壊することが挙げられていたが、牛乳は液体状で白色である。また酸凝固した固体であるヨーグルトも白色である。つまり、固体から液体に変わった際に色の変化が見られないため、構造色ではなく、色素による発色であると考察する。以上の2点から、牛乳にも屈折率の高い透明な色素が含まれているのではないかと予測した。

A:結論は良いと思いますし、それを導くために考えていることも分かるので、レポートとしては評価できます。ただ、1つ目については、そもそも牛乳が白いことには利点があるという前提で話が進められているのが気になります。牛乳の白さは主に脂肪の細かい粒によるものですが、子牛にとって必要なのは脂肪分であって、白さではないでしょう。もっとも、そこで「実は白さにメリットがある」という話を展開するのであれば、それはそれで面白いと思いますが。


Q:今回の講義では、特殊なシアノバクテリアが持つクロロフィルd、fについての話が登場した。クロロフィルfは白色光で培養すると合成されないが、遠赤色光で培養すると発現するという[1]。白色光下では合成されないが遠赤色光下で合成されるという性質は、他の生物が利用していない資源を利用できるという観点から、生育に有利になるというのは筋が通っている。では、なぜ常に自分たちだけが利用できる遠赤色光で光合成しないのだろうか。これは、遠赤色光は他の生物が利用していないだけであって、そもそも地表では可視光が一番強いからだと考えられる。環境中に十分な量の可視光があれば、わざわざ強度が劣る遠赤色光で光合成するのはむしろ非効率であると考えられる。
[1]光合成研究 22(2) 2012, 新しく発見されたクロロフィルf, 大久保智司、https://photosyn.jp/journal/sections/kaiho64-4.pdf

A:これは、まあ最低限の論理展開はありますね。ただし、「クロロフィルfは白色光で培養すると合成されないが、遠赤色光で培養すると発現する」という記述に引用文献をつけていますが、これは講義の中でも話しました。せっかく文献を読んだのであれば、講義で話さなかった点をレポートに書けるといいですね。


Q:授業でクロロフィルの話題が取り上げられたことから、クロロフィルはヘモグロビンの構造と似ていて、保有する金属がマグネシウムか鉄かの違いのみということを思い出した。そこで、なぜ人間はマグネシウムではなく鉄を保有するように進化したのか考えた。理由として、イオン化傾向が関係していると考える。マグネシウムのほうが鉄よりもイオン化傾向が大きくイオンになりやすいため、マグネシウムは鉄よりも他の物質との反応がさかんになると考えられる。よって、植物よりも生体内に多くの物質を要する人間の体内のヘモグロビンは、より安定している鉄を取り込むのが適しているといえる。この考えだと、鉄よりもイオンカ傾向の低い金属のほうがより適しているように思えるが(1)より、鉄の比重が7.87に対し、銀や金は10以上あるので、イオン化傾向が低い金属は重すぎて酸素の運搬に適さないと考えられる。対してマグネシウムは比重が1.74と小さいので、人間よりも大きくない植物にとっては都合が良かったと考える。
参考文献 (1)https://yoshidacast.com/金属の比重・融点表/amp/

A:「よって、植物よりも生体内に多くの物質を要する人間」の部分が少しわかりにくかったのですが、ヒトには植物よりも多くの種類の物質が存在するので、それらの物質とむやみに反応しないようにする必要がある、という意味でしょうか。いずれにしても、自分なりの考え方を提示していて評価できます。


Q:今回の授業で色素についての話があった。植物の葉は大体が緑色をしており、その原因はクロロフィルが緑色を反射させ通り抜けさせているからでありその結果緑色に見える。しかし、この世界にはマレーシアに生息しているイワヒバ科のシダのように青色の構造色を取っている植物も存在している。これはクチクラ層に存在している2つの黒い層が原因とみられている。この繰り返しの多層膜によって青色の光も反射されていると考えられている。しかしなぜこの構造を取っているのか、それは外敵に食べられることを減らすためではないかと考えた。人間などの類人猿は3原色(赤、緑、青)、哺乳類は2原色(赤と青)、鳥や昆虫は4原色(赤、緑、青、紫外線)を見分けることが可能だと言われいている。マレーシアの熱帯雨林では外敵は虫、昆虫であり、この二種類は緑と青を見分けることが可能なため、食べ物を得る際は緑色の葉を狙うことが考えられる。そのため青色に見えるシダは捕食対象にはならず生き残りやすくなると考えた。

A:「青色に見えるシダは捕食対象にはならず」という推論は、独自のもので評価はできますが、この話は、まさに講義の中で紹介したビゾノプラストの話です。講義を聞かずに論理を展開すると、頓珍漢なロジックになってしまいます。


Q:ベゴニア園芸種には青緑色に見える葉をもつものがあり,これは林床など他の植物の透過光を主に受ける環境に適している可能性があることが紹介された。ところで,そもそもなぜ陸上植物の主となる色素はどの植物でもクロロフィルなのだろうか。他の可視光に比べて緑色を吸収しづらいクロロフィルを,陸上植物であればどの種も用いているということには何らかの理由があるかもしれない。この理由を考えるときにベゴニア園芸種の例をヒントに考えると,太陽の光の中に含まれる緑色の割合が少ない可能性を思いつく。しかし,実際にはむしろ緑色の割合が多く,その緑色を敢えて吸収しづらくすることで光阻害を防いでいると説明されているものもある(1)。太陽光に緑色の光の割合が多いことを正しいとしたとしても,果たしてそれが緑色を敢えて避けるような進化をしたことの説明になるのだろうか。林床のような,人間の目に見て明らかに緑がかって見える透過光と比べて太陽光はほとんど白色であり,進化に影響を及ぼすものであるかどうか疑問である。文献(1)の仮説をもっともらしくするためには,たとえば以下の実験が考えられる。各波長の光のエネルギーが均等である光(白色光),緑色光のエネルギーがわずかに多い光(疑似太陽光),また,赤色や青色の光のエネルギーがわずかに多い光(赤色優勢光,青色優勢光)を用意し,シロイヌナズナに対して照射すると疑似太陽光がもっとも成長しやすい(光阻害を受けにくい)ことを示す実験が考えられる。また可能であれば,緑色ではないクロロフィル,すなわち光合成の機能の中心の役割を果たすけれども赤色を吸収しにくい「赤色クロロフィル」などをつくり,その新生クロロフィルをもつ植物が各種類の光に対してどのような光阻害の反応を示すかどうかということを検証できるとよい。
1) 筑波大学,植物は太陽の強い光が嫌い? ~陸上植物が緑である理由を解明~,, 2022/05/07アクセス.

A:ここで述べられている意見は、まさにその通りだと思います。あることが実現しているということと、それがメリットになっていることは別であって、メリットを証明するためには、そのための実験が必要です。


Q:今回の講義では構造色が紹介されたが、昆虫や鳥が構造色を持つ利点について考える。まず、構造色を持つためには講義では植物が表面の凹凸を利用していることが紹介されたが、調べると薄膜構造や多層膜構造、 円柱の二次元配列など様々な構造を利用している(*1)ことが分かった。膜構造であれば生物が作り出すのは容易であることを考えると、生物が色素を作り出すコストよりも膜構造を作るコストのほうが低い可能性が考えられる。つまり、一つ目の利点としては色素を作り出す必要がないことが考えられる。次に、構造色の発色に注目すると、角度によって色が変わり色素を持つ生物より色鮮やかである。生物の体色は身を隠すために環境に合わせているものが多く、目立つ構造色を持つ生物は生存に不利なように考えられる。そこで、目立つ生物のほうが有利になる状況を考えると、一つとして繁殖相手を見つける場合がある。カモなども構造色を持つのは雄がメインであることから、より目立つ構造色が求愛などのアピールに有利になっているのではないかと考えられる。さらに、CDなどを吊るしておくとカラスなどの鳥よけになることから、タマムシなどの昆虫は天敵である鳥などが嫌う構造色を持つことで捕食されにくく生存に有利になっている可能性も考えられる。
(*1) 生物の構造色.東京理科大学理工学部物理学科 吉岡研究室.http://www.yoshioka-lab.com/research/rsindex.htm

A:これはきちんと論理展開していますね。ただ、「色鮮やか」というだけだと、色素を持つ場合との違いが明確ではありません。その場合重要なのは「角度によって色が変わり」という部分かも知れないので、そこをきちんと議論したほうがよいでしょう。


Q:今回の授業で光について扱った。人間には可視光領域があり、800 nm辺りの赤外線領域や300 nmの紫外線領域の波長の光は見ることが出来ない。しかし、ミツバチは300 nmの紫外線領域から、650 nmの光を認知することが出来る。その代わりに赤系統の色は認知することが出来ない。ミツバチは黄色い花に集まっているのは、黄色い光を受容できるからであると考えられるが、赤い光は受容できないのに、なぜツバキ等の赤い花にも集まる事が出来るのだろうか。理由として1つ目に、色だけでなく別の信号をミツバチは花から受容している可能性が挙げられる。花は人間でも分かるレベルで強い匂いを発しているため、この匂いをミツバチは触覚から受容している事が考えられる。2つ目は、我々人間が赤い花だと認識しているが、人が見れない波長の光も発しており、ミツバチは「赤色光」ではなく、その波長の光を受容して花を識別している可能性である。この場合、人間には見えないが、ミツバチが見ることの出来る波長として、紫外線光のみが挙げられる。よって、花が紫外線光を発している事が考えられる。

A:これは、複数の可能性を考え合わせて議論しており、レポートとして評価できます。ただ、ツバキにミツバチが訪花することが前提で話が進んでいますが、何か根拠はありますか?おそらく、ツバキの場合、メジロなどの鳥類の方が花粉媒介への寄与が大きいと思います。


Q:今回の授業でクロロフィルdは主に紅藻の表面に付着しているシアノバクテリア由来のものであり、クロロフィルdは主に赤色~近赤外光を吸収することを学んだ。なぜ、赤色~近赤外光を吸収するかというと紅藻自体が赤色以外の光を吸収してしまうので、紅藻を通過してくる光は赤色だけになる。よって紅藻表面に付着しているシアノバクテリアにとって得られる光の多くは赤色になる、そのため赤色~近赤外光を吸収することになる。このことからなぜ陸上でクロロフィルdを持つ植物がいないのだろうか。赤い光が多い環境下にある植物であればクロロフィルdを持つことはむしろ有利であると考えられる。では陸上で赤い光が多い環境になることはあるのだろうか。これはおそらくないと考えられる。モミジなどは赤色に紅葉するもののモミジが群生している環境が自然下では存在しないので草本類がクロロフィルdを持つことはないと考えられる。また、紅葉するモミジの葉の裏に寄生していたとしても赤色になるのは1年のうち数週間から1か月程度でしかもその後落ちて枯れてしまうのでそもそも葉の表面に付着するメリットがないといえる。これらのことから陸上植物はわざわざクロロフィルdを持つ必要がないといえる。ただし、仮に持つ可能性がある植物を考えるとするならばカナメモチのような植物であるといえる。カナメモチは新芽が赤色になるという特徴を持つ植物である。毎年新芽の時期は古い葉の周りを赤色の葉が覆うことになる植物である。この植物であればクロロフィルdを持っていると毎年新芽が生えてくるタイミングでそれ以外の時期以上に光合成をすることが可能になるといえる。

A:これも、きちんと考えていてよいと思います。カナメモチがクロロフィルdを持つことは想像しにくいですが、そのような点まで考えを巡らせることは重要です。陸上植物よりも藻類などが多様な色素を持つ理由については、次回の講義で紹介する予定です。