植物生理学II 第1回講義

光合成研究の意義

第1回の講義では、地球環境にとっての光合成の意義、植物にとっての光合成の意義、そして人間社会にとっての光合成の意義について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業にて暗闇下にて植物の生育を行った場合、胚軸が細長く、緑色の葉が薄黄色となり、茎側の分裂組織を守るようにフック状の形へとなる様な、通常時の形態とは異なる形態をとるとあった。また木々などは別の葉などから光が遮られることによって、成長が十分に出来なくなってしまうことを防ぐために重なり合わない様にしながら光を巡った競争を行っているとあった。私はこの2つ事柄を聞いて、別の葉に遮られてしまい光が当たらなくなってしまった場合、光が届かない箇所の葉や茎の一部は暗闇下にて植物がとる様な前述した特徴に似た形態をとるのではないかと考えた。しかし『植物の葉では青、赤色光が吸収される一方で遠赤色光は吸収されない性質をもつ』…(参照 ①)ことから、吸収されなかった遠赤色光が遮られた葉に当たることによって従来の葉の形態が保たれているのではないかと考えた。 そのため私は遠赤色光を感知できない際に暗闇であると認識し、形態を変化させるという仮説を次に考えた。このことを確かめるためには、同種の植物を用いてA.暗所にて生育させたものと、B.遠赤色光のみを照射して生育させたものの2つの条件下にて対照実験を行い、Bの条件下でのみ通常時の植物の形態を保持した個体が生じるという結果が現れればこの仮説は正しいことが証明されると考えられる。 【参照】①…一般社団法人 日本植物生理学会 みんなのひろば 植物Q&A 暗状態での茎の伸長(参照 2022-04-11)

A:考え方の方向性は良いと思います。ただ、植物の場合、「形を変える」ことのイメージが動物の場合と大きく異なる可能性を考える必要があります。例えば、他の植物と枝が重なって光が当たらなくなった樹木の場合、その枝の向きを変えることはできません。しかし、暗くて光合成が十分にできなくなった枝とその葉を積極的に老化させて枯らし、その分の栄養を光が当たっている枝の成長に振り向ければ、結果として、暗いところの枝が減って明るいところの枝が増え、樹形が変化します。おそらくここで提案された実験は、もっと短い時間での実験を想定していると思いますが、そのあたり、どの程度の時間をかけての実験にするのかをきちんと考えることが、案外重要になってくるでしょう。


Q:今回の講義ではシステムとしての地球生命というものがあり、それは可視光と二酸化炭素と水で植物が光合成をして酸素と糖をつくりだし、それを動物が呼吸に使い化学エネルギーと二酸化炭素と水をだす。そしてでた二酸化炭素と水をまた光合成に使うというループがある。動物が呼吸によって得た化学エネルギーは活動によって熱になるということを学んだ。ここで自分は熱といえば人類は35、36度を保っているのは何故かと考えました。原因としては変温動物が冬眠することから生命活動をする上で体温を保たないと機能しなくなることがあるのではと考えました。「プロトンの濃度勾配によるATP生産速度は温度に依存して高くなるけれど、電子の漏出によるフリーラジカルの発生もまた温度の上昇とともに高くなる」(参考文献1)ということより、これらのリスクの最小化と、利益の最大化がある温度で実現し、それが37度であると考えられるとしていました。
参考文献:東邦大学 理学部 生物学科 体温はなぜ37度なのか、https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/017691.html

A:これは、視点は面白いのですが、結局答えはWEB上の情報に依存しているので、この講義のレポートとしては物足りないですね。2つの異なる温度依存性から極大が生じる可能性は確かにありますが、2つ温度依存性があれば必ず極大が生じるわけではありません。単にWEB情報を信頼するのではなく、例えば、どのような温度依存性の場合に「利益の最大化がある温度で実現」するのかを考察する、といった方向性が望まれます。


Q:今日の講義は、光合成の導入だった。講義の中で、これは物理の分野だけど、、これは化学の分野だけど、、といった文言が多く登場したことからも、光合成は、生物の分野でありながら、光子や波長といった物理学の領域、酸化や還元といった化学の領域にも関わるという意味で、非常に幅広い分野にまたがっていると感じた。また、植物の形は光を浴びるのに効率的な形になっているという話も印象的だった。水面の反射等で特殊な位置から光が当たる植物は、特殊な形になるのかなと思った。

A:これは、感想文レポートですね。最初に明確にしたと思いますが、単なる感想は評価の対象にはなりません。論理的な思考をレポートに盛り込むようにしてください。


Q:今回の講義では、太陽は生命と地球のエネルギー源であり、単位質量あたりのエネルギーにおいて太陽と人間を比べると、人間のほうが約10の四乗倍も大きいことを学んだ。私は、太陽のほうが遥かに大きいと予想していた。なぜなら、太陽は地球にとってエネルギー源であると学んだからである。植物において、太陽は光合成を行うための必要条件であり、太陽がないと他の光を与えない限り安定した光合成ができない。光合成ができないとなると、酸素を放出することがなくなり、いずれ地球上の生命が滅びてしまう。この点で植物において、光は重要であると考えられる。では、人間にとってはどうか。ここでは、人間のみが太陽光(環境はそのまま)を受けることがないものとして考える。活動エネルギーを自分自身で補っている人間にとって、太陽の必要性は何か。文献より、人間は太陽光を浴びないとビタミンDが不足するとある。よって、究極的には人間は全身を布等で補い、太陽光を全く浴びなかった生活をしても、ビタミンDなど太陽光によって生成される栄養を食事等で補うことができたら、太陽光は不要であるといえる。したがって、環境を維持することができる前提であるが、人間にとってのみ考えれば、太陽光は無くても生きられるものではないかと考えられる。
参考文献:日光の健康への影響/薬局新聞/2018-4月発行/2022-4-11閲覧、https://www.pharmarise.com/paper/list/201804.pdf

A:これも論点(疑問点)「活動エネルギーを自分自身で補っている人間にとって、太陽の必要性は何か」は明確でよいと思うのですが、その答えが直接WEB情報に依存しているので、やはりこの講義のレポートとしては物足りません。例えば、せめて食事中のビタミンDの生成が、太陽光に依存していないかどうかを調べて、それと合わせて考察をすれば、論理的なレポートになります。情報自体は2つともWEB情報であっても、それを組み合わせる過程では書き手の論理性が試されることになると思いますから。


Q:単位質量当たりの太陽と人間の発熱量の値とその大小を学んだ。太陽のエネルギーは、主に原子核反応により生まれる。反対に、人間は生きるためのエネルギーの消費によって熱が生まれる。今回は発熱量について学んだが、例えば両方の表面温度について単位質量で割ったとしても人間の方が大きい。太陽と人間が決定的に違うのは、発熱するためのエネルギーがどこ由来かである。人間は食料からカロリーを摂取して、それを体内機能や運動によって熱に変えているのに対し、太陽は太陽自身の原子からエネルギーを生み出している。そのため、太陽は発熱して地球に影響を及ぼしているが、一部閉鎖的なエネルギーの流れであり、開放的な人間のエネルギーの流れと比べるのは適切ではなく、単位質量当たりの発熱量は比較できないものであると考える。

A:太陽と人間の間では、そのエネルギーの流れが、一方は閉鎖的であり、他方は開放的であって異なる、という発想はユニークでよいと思います。ただ、それを比べるのはなぜ適切でないか、という点が示されていませんね。「異なる」ことから「比べるのが適切でない」への橋渡しの論理を示すとよいレポートになるでしょう。


Q:今回の授業でもやしの形状は太陽の光が当たらないため、もやし自身が環境に対応するために形状を変化させているということを学んだ。特に子葉、胚軸、成長点の3つのポイントがあったが今回は特に胚軸に注目した。太陽の光を受けることができないことから、光を得るために胚軸は細長く成長すると言われた。現在私たちはもやしを食べている。もやしが食用であることにおいて胚軸は太い方が最適であると考えた。このことからよりもやしの胚軸を太く長く成長させるためにはどうすれば良いのかを考えた。振動や接触が繰り返されると植物の茎の伸長成長が抑制されて肥大成長が起こることがわかっている。このことは振動や接触といった物理的刺激によって一過的に発生されたエチレンの作用によって起こっている。しかしエチレンは肥大成長を促進する代わりに伸長成長を抑制するため、胚軸を太くすることと長くすることの両方を兼ねることができない。また胚軸を太くするものとして、土壌の養分を思いついた。調べてみると肥料が多かったり、土の中に窒素分が多く含まれていたりすると茎が太くなると書かれていた。肥料の基本要素は窒素・リン酸・カリの3つであり、リン酸は花や実、カリは根、窒素は茎や葉を育てると言われているそうだ。以上より、もやしを食用に最適な太く長い形にするためには土壌中の窒素量を多くすると良いのではないかと考えた。
参考文献:トマトの育て方 https://トマトの育て方.com/トマト栽培qa/トマト-茎が太い.html (2022.0412閲覧)、みんなのひろば 植物ホルモンであるエチレンの肥大成長の効果についてです https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3884、みんなのひろば 暗状態での茎の伸長 https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2130

A:これも、いろいろ考えて、いろいろ調べている点は評価できるのですが、最終的な答えが調べた結果出てきているので、この講義のレポートしては論理性がものたりません。論理性を出すためには、「窒素は茎を太くする」という情報を見つけたときに、「なぜ」と考えてみることが重要です。生化学Iで、生物の構成元素について教えたと思います。そのあたりを考え合わせると、おそらく肥料による茎の肥大と、モヤシにおける胚軸の肥大を、同じに考えるのはまずい、という結論になるかもしれません。そうであれば、設定された元の疑問は解決できなくなってしまいますが、解決できないことを論理的に導いていれば、それは評価されるレポートになります。


Q:今回の講義で、光合成の効率を上げるために、光によって形態形成されるという話があった。なので、植物の根が地中から地上に出てきた場合、根が葉緑体を持つようになるのではないかと考えた。このとき、サイトカイニンが関わってくると考えられる。サイトカイニンは側芽の成長や、葉の緑化と成長促進などの働きがある。サイトカイニンの働きが促進される条件に光が当たっているかどうかが関わっていると考えると、地上に出てきた根には光が当たっているので、サイトカイニンの働きが促進されると考えられる。サイトカイニンは葉緑体の形成に関わっているので、サイトカイニンの働きが促進されると葉緑体が形成されやすくなると考えられる。なので、根が地上に出てくると、葉緑体を持つようになると考えられる。

A:これは、読んだときに論理の流れが理解できません。3文目に「このとき、サイトカイニンが関わってくると考えられる。」と唐突に出てきますが、これはどこから出てきたのでしょうか?それとも仮説なのでしょうか?仮説だとしたら、なぜそのように考えたのでしょうか?以後の文が、サイトカイニンがかかわっていると考える論拠なのだとしたら、「特定の物質が作用すれば根が緑化するのではないか」といった問題設定に置き換え、その後サイトカイニンがかかわっていると考える論拠を示し、最後に、その特定の物質としてサイトカイニンが働いているはずである、という結論を導けば、もう少し論理的なレポートになります。


Q:「熱の移動による秩序の形成」について深堀する。本講義内で紹介された液体状態を例にとると、その原理は「2つの物体の間で温度の差があると熱は移動します。温度がちがう水を接してみると、熱が移動を始め、温度が等しくなると移動を止めます。」[引用文献1]とのことである。ここで、自分はこの現象を地球規模で考え、液体を海洋と見立てた。原理にしたがうと、海流は高温域である赤道域から外側に向かうと容易に考えられる。海流を決定する要因として、他に風や重力、地形などがある。ここで自分はこれらの要因を変動リスクの大小で分類した。つまり、リスク大は風・太陽光、小は地形・重力である。ここで、変動リスク大の数値と実際の海流の向き・大きさを日付ごとに記録していくことで、海流にどれだけ関係してくるかがわかり、その日の太陽光放射量と平均風速から海流の向きと速さが分かるのではないかと考えた。
引用文献1:熱の移動(水)Hi-HO、http://www.max.hi-ho.ne.jp/lylle/netsu2.html

A:これは、視点は悪くないと思うのですが、「熱の移動」と「物質の移動」を混同してしまっています。引用文献1の「熱の移動」は、水自体が移動しているのではなく、水はその場所にとどまったまま、熱だけが移動する例です。つまり熱伝導です。従って、物質自体の移動である「海流」と一緒に議論することはできません。


Q:1kg当たりの熱量の比が太陽:人間=1:10^4という事実から、植物と人間を比較してみた。今回は単位質量当たりの発熱量で比較した。1日2,500 kcal食へ゛る体重60 kgの人間は、発熱量:121W、単位質量あたりの発熱量2.02 W/kgであった。参考文献1より、純一次生産は、全地球平均で333 g/(m2・y) は0.21 W/m2 であった。1(m2)当たり60(kg)と仮定すると、1kg当たりの成長量は、0.21 (W/m2)×1(m2)÷60(kg)=0.0035(W/kg) 結果、人間の方が植物よりも発熱量(エネルギー)が高かった。つまり、人間は発熱におけるエネルギー消費が大きく、周りの環境に左右されにくい性質を持っていると考察する。また、植物に比べ、変化をする際により多くのエネルギーを必要とすると推測する。
参考文献:1.東京工科大学 工学部応用化学科 BLOG、閲覧日2022/04/11、http://blog.ac.eng.teu.ac.jp/blog/2017/03/post-0094.html

A:これは非常に面白い視点だと思います。ただ、当該参考文献には、1.06 W/m2とあるので、それを直接使ってもよいように思います。1(m2)当たり60(kg)という根拠はよくわかりませんが、計算結果は人間と植物で2ケタ以上異なっていますが、結論には影響がないでしょう。むしろ、考えるべきは、植物と比較する場合に重さあたりの比較がよいのだろうか、という点かもしれませんね。


Q:植物は光のエネルギーを利用して二酸化炭素と水から有機物を合成する。一方、同じ光合成生物である緑色硫黄細菌・紅色硫黄細菌は水ではなく硫化水素を用いるため、酸素ではなく硫黄を産生する。化学反応に登場する物質が違えば反応式全体のエネルギー変化も変わるはずである。植物の光合成の反応式は、12H2O+6CO2→6O2+6H2O+C6H12O6?①となり、半反応式に分けるとH2S→S+2H++2e-?②と6CO2+24H++24e-→C6H12O6+6H2O?③
光合成細菌の反応式は、12H2S+6CO2→12S+6H2O+C6H12O6?④となり、半反応式に分けるとH2O→1/2O2+2H++2e-?⑤と③
ここで参考文献より②の標準還元電位は0.23[V]、⑤の標準還元電位は-0.815[V]であり、③の標準還元電位をx[V]として係数をそろえて計算すると、①と④のそれぞれの還元電位はx+2.76 [V]、x-9.78[V]となる。ここでΔG=-nFΔεであり、①と④の反応は標準状態で自発的に進まないから、x<-2.76ということがわかる。また、①と④のΔGを比べると①のほうが小さいから、①の反応のほうがより少ない光エネルギーで進めることが出来ると考えられる。
参考文献:エッセンシャル生化学 第3版、p329 表15・1

A:半反応式が逆になっていますが、自分でこのような計算をきちんとやってみる姿勢は高く評価できます。ただ、ちょっと説明を簡略化しすぎかも知れません。これだけだと、計算問題を解いているだけのように見えてしまいますが、実際にはいろいろ考えているのだと思いますから、そのあたりが文章としてレポートに反映された方がよいように思いました。


Q:授業では、可視光線の領域と太陽光のスペクトルの山が重なっていることから、生物が太陽光スペクトルの山領域の光を感知できるように進化したという内容が取り上げられた。また、(1)より、「太陽の光は「黄色」の波長が最も強い」・・・(※)とある。授業内容と(※)の記述を元に考えると、葉がより光を吸収するには、黄色付近の光を吸収する仕組みを進化させるのではないかと考えた。しかし実際葉は黄色光ではなく赤色と青色の光を吸収する。そこで、葉が黄色ではなく、赤・青色の光を吸収する仕組みに進化したことに疑問を持ったので考察する。この理由は、可視光の中で赤色は長い波長、青色は短い波長であるから、2つの波長の差が大きいことが関係しているのではないかと考えた。長い波長はエネルギーが小さく、短い波長はエネルギーが大きいので、赤色光と青色光はエネルギー差が大きいとも言える。2つの光が同時に入った場合、大きいため不安定な青色光のエネルギー系が、小さいため安定している赤色光のエネルギー系に移動すると考えられる。そして2色光のエネルギーの足し算で、より強力なエネルギー系が生じ、そのエネルギーが光合成に使われるのではないかと考える。以上より、可視光の中で波長が中間の黄・緑色の光を使うのではなく、可視光中の波長の両端にある赤・青色の光を用いる方が効率的だったので、葉が今の仕組みに進化したのだと予想する。
参考文献:(1)キヤノン:技術のご紹介 | サイエンスラボ 太陽の光 (global.canon)、https://global.canon/ja/technology/s_labo/light/002/01.html

A:この点は、ある意味で当然の疑問かもしれませんね。これについては、光合成色素を取り上げる回で説明することになります。


Q:授業内で太陽の黒体放射と人間の感知できる可視光線の波長は一致している、これは偶然ではなく太陽光のスペクトルに合わせて発達した結果だとおっしゃられていた。このことについて考察を行う。人類の進化の祖先として挙げられているものとして肉鰭綱が存在している。これはシーラカンスをはじめとする魚類の一綱で、四本のヒレが足のように肉厚なのが特徴である。肉鰭綱は4億年前に海から陸上に進出後、四本のヒレが足のように変化し、人類を含めて多様な生物に分岐したと考えられている。 人類がこの種類から進化したと考えると、昔は人類も海の中で生きていけるような眼を発達させていたと考えられる。しかし現在では人間は陸上で生活しており、前述の通り太陽スペクトルと一致している可視光線を取り入れて物を判断している。すなわち、人間は海から陸への進化の過程において四肢だけではなくスペクトルも進化していったと考えられる。

A:題材としては、非常に面白いものを取り上げていると思うのですが、海の中の光スペクトルと陸上の光スペクトルがどのように異なるのかについて触れられていないので、ここで考えられていることが正しいのかどうかが判断できませんね。もう少し具体的に水中と空気中を比較できるとさらに良かったと思います。


Q:もやしはフックを作ることで茎頂の成長点を土壌中の障害物から保護しているのではないかということが解説された。しかし,根の伸長を考えると,根の先端も根端分裂組織があるのにもかかわらずフックを形成せずに伸長している。根の成長点は保護しなくてよいとは考えにくいため,茎頂のフック形成は単に障害物からの保護だけで説明することは難しい。では,茎頂のフック形成の原因は他に何があるのか。もやしの場合は子葉が小さい,あるいは退化しているが,一般的な植物の場合,フックの先に種皮や大きな子葉が付いている。これらは非常に大きく,成長時にかかる土壌などによる抵抗力は大きくなる。このとき,種皮や子葉の付け根に位置する成長点で細胞分裂がさかんに起こって伸長しようとすると,成長点より基部側は抵抗が少ない一方,種皮や子葉の部分は抵抗が大きくなるというアンバランスに力がはたらく。このとき,茎が曲がってフックのような形をとることが,もっとも安定に成長できるのではないかと考えられる。すなわち,フック形成は頭でっかちな茎が構造上安定して土壌中を昇っていくために適した形質であったと考えられる。これを検証するためには,まずフック形成を促す要因(茎の左右の細胞分裂の局所的な偏りではないかと予想される)を明らかにした上で,この要因を破壊する変異体について発芽後の土壌中の動きを観察し,野生型と比較するとよい。

A:これは、講義で述べられたことをうのみにしないで疑うという点で、非常に高く評価できます。また、根端成長と比較して問題点を明らかにしている論理の進め方もチキンとしていてよいと思います。


Q:今回の講義ではヒトの可視光域が太陽光のスペクトルと大きくかぶっており、それは生物の進化によるものだという考えを学んだが、自分は紫外線が見える生物について考えていく。近年、イカを釣るルアーである餌木でネオンブライトという紫外線発光素材を使用したものが流行しており、これはイカが紫外線を判別できるからであると考えられる。しかし、なぜイカが可視光だけでなく紫外線まで見える(イカはヒトの可視光のうち、波長が550nmの黄色付近以下の範囲まで見えている(*1))ように進化したのか考えていく。ここで、光の水中透過率に注目すると、波長が大きいものがより透過率が低いことがわかる(*2)。イカはスルメイカのように水深が100m以下であり光が届かない範囲に生息している種もいるが、獲物を捕らえる際に目からの情報を多く使用しているため、透過率がより高い紫外線が見えるようになっていると考えられる。さらに、水中に生息していない昆虫なども紫外線を見ることができ、その理由としてはエサとなる植物が紫外線で見たほうが判別しやすいなどの理由に加え、より波長の違う光を認識できた方が物体の認識が行いやすくなることなども考えられる。よって、イカの場合も紫外線の水中透過率に加え、物体認識のしやすさも理由の一つに含まれると考えられる。
(*1) 特別企画 - イカの色覚大研究.九州釣り情報.http://www.q.turi.ne.jp/s32ika/page08.html、(*2)光の透過率スペクトル測定.テクノ・シナジー.http://techno-synergy.co.jp/nkd_appli/ex-DF450.html

A:題材は面白いと思います。ただ、参考文献の2の水の透過率スペクトルは400 nm以上の部分だけが載っていて、これは今回講義で紹介したように、可視光の領域が通常400-700 nmぐらいと考えられることを考えると、紫外線の透過率に関する情報を与えるものではありません。実際には、水は、紫外領域の光(400 nm以下の光)をかなり吸収します。


Q:授業で、樹木は競争的に光がある空間へと高く枝を伸ばしていくという説明を聞いた。しかし、しだれ桜や柳等は枝がしたたって下に伸びており、この説明と矛盾点が生じると考えた。この理由として、これらの植物の生育域周辺には高く枝を伸ばす植物が少なく、競争的に高く枝を伸ばす必要が無いのではないかと考えたが、この理由だと低木植物に進化したはずであり、柳やしだれ桜のような比較的樹高のある植物にはならないであろう。柳の生育域を見ると、水辺に生える種が多く、また、形態を観察すると川辺に生えている柳は土手側でなく、川側に向かって枝をしたたらせているものが多い。水面には高く枝を伸ばす植物は少ないため、枝を下に伸ばしても光を充分に得られることが考えられる。また、水面側に多く枝を生やしている事より、水面より反射する太陽光をも光合成の光として用いているのではないかと推測した。

A:このような説があるのは確かですが、もう少し考えた方がよいかもしれませんね。川の水面という極めて特殊な環境に適応したものが広まるかどうか、古くから植栽されてきた柳の一種として、どこまで人為的な選択が入っているか、川面から例えば50 cm上の地点から1 m, 2 m上と上に上がるにつれて、光量がどのように変化するか、などいくつか考えるべき点があるように思います。


Q:植物は、光合成を行う際緑色の光を使用せず青色と赤色の光を使用しているといえる。本来、光合成を効率よく行うには、緑色の光も使用した方が効率よく行えると考えられる。なぜ緑色の光を使用しないのかについて考察を行う。これは、地球の光環境に由来するものなのではないだろうか。まず、青色の光は波長が短いため、地表付近に最も届きやすいものである。実際にそれが青色に見える理由がそれである。つまり、青色が地表に届く光の中で最も多いものであると言い換えることができる。次に、朝と夕方の空の色から、この時間は赤色の光が多い時間であると言い換えることができる。つまり、一日のうち青色の光が多い時間と赤色の光が多い時間があり、これらを利用して効率的に光合成することが最も多く光合成できるということである。緑色の光は緑色の光が多い時間もなくまた、無駄な構造を持たせることに対する費用対効果を考えると緑色の光を利用して光合成を行うことは得策とは言えない。よって光合成では赤色と青色の身を使用し、緑色の光を使わないと考えられる。

A:途中の「実際にそれが青色に見える」の「それ」というのが何を指しているのかがわかりませんでした。実際には、直射日光の中で一番光量が多い色は緑から黄色にかけてです。いずれにしても、光合成色素による光の吸収については、後の方の回で紹介する予定です。