植物生理学II 第14回講義

光合成の産物

第14回の講義では、光合成の産物と、産物が転流される仕組み、そして光合成産物であるセルロースを主成分とする細胞壁について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:細胞の伸長について膨圧の上昇と細胞壁が緩む条件のもと、セルロース合成酵素の添加によって細胞は伸長することを授業で学んだ。葉の形質的特徴が異なる例として水陸両生植物の異形葉がある。一般的に地上で育てた新芽と比べ、水中で育てた新芽は薄く細長い葉を展開する。では新芽の段階で葉に占めるセルロース合成酵素の割合が等しいと仮定したとき、地上と水中で展開した葉の厚みに差が生じ、地上で展開した葉(気中葉)が厚くなることに疑問を持った。なぜなら細胞伸長の速度は水中のほうが浸透圧で葉肉細胞に水が浸透し、膨圧は大きくなるため、セルロースをより合成しやすいと考えたからだ。気中葉が厚くなる理由としてはセルロースの束の数が新芽の周囲環境によって変化する可能性が考えられる。セルロース合成の制御にはGA以外に束の数を制御する植物ホルモンが存在するのではないかと考える。

A:少し誤解があるようです。細胞壁を緩めるのはセルロース合成酵素ではなく、ヘミセルロースなどの分解酵素です。セルロース繊維を架橋する役割を果たしている物質を分解することにより細胞壁を伸長しやすくするわけです。


Q:二酸化炭素排出量は今後もすぐに抑えられることはなく増加傾向にあると予想されるため、植物は効率よく光合成を行いエネルギーを得るために適応せざるをえなくなる可能性があると考えられる。そこで、高二酸化炭素濃度の環境に植物がどのように適応していくか考える。高二酸化炭素濃度条件で植物が効率よく光合成を行うために必要なことの一つとして、講義でもあったように糖の転流が滞りなく行われることが挙げられる。光合成によって産生された糖は篩管を通じてソースからシンクへと運ばれる。そこで、シンクを次から次へと増やす、つまり、成長速度を上げることで今より二酸化炭素濃度が上がって光合成量が増えても、糖を運ぶ先があるため、効率よく光合成が行えるのではないかと考えた。しかし、懸念としてまず考えられる問題は、成長のための養分が確保できるかどうかが挙げられる。成長速度を上げるためには、植物ホルモンの合成や水や光などの二酸化炭素以外の養分の供給も必要不可欠になる。今まで以上の栄養を必要とするようになれば同じ分布域で生息する個体群との競争はさらに激しくなると予想される。次に考えられる問題は、繁殖の時期に関してである。成長が早いということは、成熟と衰退も早いということになる。他種による送粉に交配を依存している種などは、繁殖時期が短くなる恐れがあるため、子孫を残しにくくなる可能性も考えられる。植物が「成長速度を上げる」という適応をするというにはこれらの問題をどのように解消するかも考える必要がある。

A:最後のポイントは、植物生理学にとって重要な問題です。実際には、成長段階から生殖段階への移行には、光周性などの外部シグナルが効くために、成長速度が速くなっても、より大きくなった段階で生殖段階に移行するだけで、生殖段階に早く移行するのではない場合が多いでしょう。


Q:今回は、光合成産物である糖によって光合成が抑制されてしまうということを学んだ。最後のスライドでテーダマツの通常CO2で生育した場合と高CO2で生育した場合の炭素増加量についてのグラフがあったが、通常CO2でも高CO2でも時間経過でほぼ同量の炭素増加量になっていた。このグラフについて考察する。私は、高CO2で育成した場合の炭素増加量のグラフの理想形は波形であると考えた。光合成阻害剤である糖は植物が生育する上で消費されるものである。葉に蓄積された糖によって光合成量は減少するが、蓄積された糖は時間経過で消費されて減少する。すると光合成阻害の糖が減少したことによって再び光合成が盛んになり糖が産生され、蓄積される...といったループが起こると考えたからである。なお、グラフの後半で高CO2は通常CO2と同じグラフになっていたが、それはシンクの成長が高CO2下の光合成速度に追いついていないというふうに考えられる。シンクの成長を促進することができればシンクリミットによる問題は改善されるはずである。

A:面白い考察です。実際にループになるかどうかは、フィードバックにかかる時間によって異なります。理論的にも、このようなフィードバックは非常に簡単な微分方程式で記述できて、パラメータを左右することにより、漸近線を描くようにしたり、振動を引き起こすようにしたりすることができます。


Q:篩管の細胞には、核は存在しないものの退化した細胞小器官が存在し、篩管に傷ができた際に、篩板に存在する篩孔にこれらの細胞小器官が詰まることで、篩管液の流出を防いでいると考えられている。しかし、篩管に傷がない場合でも、篩管内部で篩管液は移動しているため、細胞小器官が篩孔に詰まってしまう可能性が考えられる。そこで、通常の輸送時には細胞小器官が篩孔に詰まらない理由を考察する。
 1つ目の理由として、浸透圧の強さが影響していると考えられる。篩管では、糖濃度差による浸透圧を利用して、ソースからシンクへの篩管液の流れが生じている。この際、ソース器官では糖濃度が高く、シンク器官では糖濃度が低いため、篩管液の流れが生じる。しかし、シンク器官もある程度の糖を有していると考えられるため、糖濃度の差はそこまで大きくならない。よって、篩管液が流れる勢いもそこまで大きくならないため、細胞小器官は篩管液に流されることが無く、篩孔に詰まることがないと考えられる。しかし、篩管に傷ができた場合には、篩管液はソース器官から植物体の外へと流れ出てしまうが、ソース器官と植物体の外の糖濃度差はとても大きいため、篩管液が流れる勢いが強くなり、細胞小器官が流されて篩孔に詰まるのだと考えられる。
 2つ目の理由として、篩管液が流れる方向が関係していると考えられる。1つ目の理由だけで説明しようとすると、もし篩管液が一方向のみに流れていたら、篩管液の流れが強くなくても、細胞小器官はゆっくりと流され続けることで、いつかは細胞小器官が篩孔に詰まってしまうと考えられる。しかし、基本的にはソース器官は発達した葉であるものの、シンク器官は根や果実、若葉など、場合によって変化するため、篩管液が流れる方向は変化している。そのため、細胞小器官は一方向から流され続けることがなく、篩孔に詰まることがないのだと考えられる。
 以上より、篩管が傷ついた際には、一方向に強い浸透圧が生じるため篩孔に細胞小器官が詰まるものの、通常時には、浸透圧がそこまで大きくなく、篩管液の流れる方向が変化するため、篩孔に細胞小器官が詰まることがないのだと考えられる。

A:これは面白い考え方ですね。1つ目の理由については納得したのですが、2つ目については、シンクとソースの入れ替わりには、おそらく最低でも週単位の時間がかかるように思いますので、少し考えにくいように思いました。


Q:シンプラスト輸送に対するアポプラスト輸送の利点を考察する.アポプラスト輸送の利点は主に3つ考えられる. 1つ目は,伴細胞で積み込みをする際にショ糖だけを特異的に輸送することができるということである.シンプラスト輸送では原形質流動を用いて輸送するため,輸送する内容物はショ糖だけではない.一方,アポプラスト輸送では,一旦,葉肉細胞が細胞外にショ糖を排出し,伴細胞がプロトン共役的な輸送ポンプで能動的にショ糖を取り込むので,ショ糖だけを選択的に輸送することができる. 2つ目は,浸透圧や濃度に依存せず,一方向的な輸送が可能なことである.シンプラスト輸送では,ショ糖濃度に応じた拡散によって輸送が行われ,ポリマートラップセオリーという拡散だけで濃度に非依存的な輸送も可能だが,それでも濃度に依存しており,アポプラスト輸送のような能動輸送よりも効率は悪いと考えられる.さらに,アポプラスト輸送では細胞外のスペースを利用するため原形質連絡よりも輸送経路が広いので,よりダイナミックな輸送の流れを作ることができると考えられ,輸送の速度もシンプラスト輸送より速いと考えられる. 3つ目は,1つ目の理由の別の側面として,病原物質が体内で拡散するのを防ぐということである.根では,水を吸収する際に,カスパリー線がアポプラスト輸送の障壁になり,シンプラスト輸送に切り替わることで,選択的に水を輸送し,不要物が道管に入るのを防いでいる.これに似た効果が,伴細胞のアポプラスティックローディングにもあると考えられる.篩管による養分の輸送は,根から葉という常に決まった方向のある水の輸送とは異なり,養分を生産するところから必要なところへのランダムな方向性がある.例えば,葉に傷がつき,そこから,葉肉細胞へ病原物質が侵入したとき,道管に入っても水の流れは根から葉なので効率よく植物体に拡散できないが,篩管に入れば,主に葉から根の方向の流れに乗って,ショ糖が輸送される様々な部位へ侵入することができる.この時,伴細胞と葉肉細胞が原形質連絡でショ糖をシンプラスト輸送していると容易に病原物質が侵入してしまうが,アポプラスティックローディングであれば,葉肉細胞と伴細胞がつながっていないので,直接病原物質が篩管に侵入することを防ぐことができると考えられる.

A:これもよく考えていてよいと思います。レポートとしてはこれで十分なのですが、お話として考えたときには、最後にアポプラスト輸送のデメリットについて触れてあるとよいように思いました。生物が二種類の方法を使っている場合には、たいてい場合トレードオフが存在することがほとんどなので。