植物生理学II 第8回講義

葉の構造と光の吸収

第8回の講義では、ついて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:キャベツの葉は外側の葉は緑色であり、中心の方の葉は黄色っぽい色になっている。このような、部位による葉の色の違いはどういう仕組みで決まっているのか。「キャベツは先に生えた葉ほどクロロフィルを多く含み、次第に含有量が低くなっていく」ことで、外側から芯の方へ向かって色が緑色から黄色に変わっているのではないかと考える。調理する際やスーパーで買い物をする際にキャベツの縦断面を見ると、外側から芯の方にかけて葉の色や形などが違うことが分かる。葉の大きさの違いや葉の巻き型から、芯の頭頂部が分裂組織であると考えられる。一般的な陸上植物の葉を見ると、生えたばかりの葉も生えてからしばらく経っている葉も、ほとんど色合いは変わらない。なので、キャベツの葉の場合は芯に近い部分は意図的に黄色い葉が生えてくるのではないかと考える。またそれに加えて、キャベツの場合は、芯に近い部分は太陽の光がほとんど当たらないため、光合成が盛んに行われていないことが推測される。そのため、キャベツの葉の色は成長に伴ってクロロフィルの含有量を増やし、緑色になったとしても光合成によるエネルギー生産は外側の葉よりも圧倒的に劣ると考えられる。そのため、わざわざ芯に近い部分の葉にクロロフィルを持たせる必要がないため、先に生えた葉ほどクロロフィルを多く含み、次第に含有量が低くなっていくようにパターニングされているのではないかと考える。また、この仮説を検証するためには、キャベツの芯に近い部分が大きくなるまで育て続けた場合に葉の色がどのようになるか、または、外側の葉を取り除いて芯に近い方の黄色い葉が外側に出た場合に葉の色に変化があるのか、またその場合の光合成量の変化などを調べる必要があると考えられる。

A:考えていることはわかるレポートですが、これだと、おそらく植物生理学Iの講義を聞いただけでも書けると思います。今回の講義では、緑の波長領域の光でも約80%の光を普通の葉は吸収していることを紹介しました。それを考えると、もう少し定量的な考察も可能ですよね。光の吸収率は、葉が2枚重なれば0.8+0.2*0.8=0.96、3枚では0.8+0.2*0.8+0.04*0.8=0.992となって、4枚目の葉に届く光はわずか0.8%です。しかもこれは、緑の光の葉の話で、クロロフィルの主な吸収帯がある青や赤の光は、2枚目の葉にもほとんど届きません。とすれば、実際のキャベツの葉がある程度内側まで緑であることを説明するには、もう少し何か考察が必要に思います。


Q:今回の講義中に葉の吸収する色についての話題があったが、そこでハンゲショウを思い出した。私の家の近くの公園にハンゲショウという植物が多く見られるが、この植物は夏、花に近い葉を白くする。白く見える、ということは全ての色を反射しているということになる。ハンゲショウの葉が白くなることについて考察する。葉が白くなる原因は二つ考えられ、一つは葉の構造が変化して空気を含んだ状態になり、光を散乱させている。もう一つは色素が抜ける、ということである。調べてみたところ、ハンゲショウの場合後者の「色素が抜け落ちる」が原因であり、前者の空気を含んで白く見えるのはマタタビなどに見られるようだ。しかしハンゲショウは葉一枚全てを白くしているわけではなく、葉先や裏側に緑色が残っていることがある。一方葉の表の向軸側は白くなっていることが多い。このことから光を受けやすい部分が脱色しやすいと考えられる。

A:植物生理学Iでやりましたが、生物を考える場合には、howの視点と共にwhyの視点を持つことが重要です。「光を受けやすい部分が脱色しやすい」というのはhowの視点ですが、whyの視点から見たらどうなるでしょうか。わざわざ葉を部分的に白くするわけですから、それには意味があるはずです。そしてその意味を考えると、表と裏で色が違うことについても、別の理由を考えることができると思います。


Q:植物の葉は、向軸側に柵状組織を持つことで光を取り込み、背軸側に海綿状組織を持つことで光を散乱させ、光路長を稼いでいた。ユリズイセンという植物は葉が180°捻じれることで、背軸側を上に向けていて、向軸側を下に向けている。このような植物においても、上側に位置する背軸側に柵状組織を持ち、下側に位置する向軸側に海綿状組織を持っているため、同様の手法で光路長を稼いでいると考えることができる。では、なぜユリズイセンも一般的な植物と同様の手法で光路長を稼いでいるにも関わらず、葉を180°捻じれさせる必要があったのだろうか。その理由について考察する。
 ユリズイセンの葉は一般の植物と同様に、上側に柵状組織、下側に海綿状組織を持つ。また、気孔の数も一般の植物と同様に、下側に多い(文献1)。そのため、ユリズイセンの葉は、葉柄が捻じれていることを除けば一般的な植物の葉とほぼ変わらないと言える。しかし、植物の茎において、内側に木部、外側に師部があるため、一般的な植物の葉においては葉の上側に道管、葉の下側に師管がある。一方、ユリズイセンの葉は捻じれているため、葉の上側に師管、下側に道管があると考えられる。そのため、ユリズイセンの葉が180°捻じれた理由は、柵状組織や海綿状組織、気孔などの位置関係ではなく、道管と師管の位置関係に関係すると考えられる。
 葉の下側にある気孔には、蒸散によって根での吸収を促進したり、排熱したりする役割がある。この蒸散を行う際には水を排出するが、水は道管によって輸送されている。そのため、ユリズイセンのように道管を下側にすることによって、水分子を気孔へと輸送する時間とコストを削減することができるのではないだろうか。蒸散による水分子の排出が多くなることは、水資源の獲得が難しい植物においては逆効果となり得るが、ユリズイセンは排水性の良い環境を好むので(文献2)、道管を下側にして蒸散を盛んに行うメリットが大きかったのだと考えられる。また、葉の裏側に発生するアブラムシ等の虫害の被害を少なくする可能性も考えられる。植物の葉を食べる虫は、鳥等の捕食者を避けるために葉の下側の食べる事が多いと考えられる。そのため、光合成による産物を輸送する師管を葉の上側に配置することで、葉の裏側が虫害等の被害に遭っても、光合成産物のロスをなくすことができると考えられる。
参考文献 (1) アルストロメリア科~アルストロメリア (百合水仙)、https://gardening.biotope.work/arusutoromeria(最終閲覧日:2021/11/20)、(2) ユリズイセン (百合水仙)の育て方、https://www.green-flower.club/2021/07/02/yurizuisen-alstroemeria/(最終閲覧日:2021/11/20)

A:よく考えていますね。道管の話の方は、「排水性のよい環境を好む」という点が、他の植物との違いの説明になっていますが、篩管については、なぜ他の植物の場合は篩管を葉の上側に配置しないのかの説明がないので、そこが欲しいように思います。また、以前講義で話しましたが、排熱は、蒸散の「目的」としては考えにくいと思います。少なくとも、高温条件で温度を下げる調節として気孔を開く例は知られていないと思います。