植物生理学II 第5回講義

オルガネラの成立

第5回の講義では、シアノバクテリアのゲノム上の遺伝子が一次共生にともなって核へ移行し葉緑体となる過程について解説しました。また、二次共生や寄生生活への移行に伴う葉緑体の退化などについても触れました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義ではシアノバクテリアが宿主に取り込まれて共生を始めたとき、葉緑体のゲノムが宿主の核ゲノムへ大量に移行について触れた。葉緑体の遺伝子をどのようにして二重膜を通過しているのか、通過した遺伝子を転写因子が違う中で転写が起こるのかの疑問のうち後者についての研究結果を学んだ。前者の疑問について考えたい。私は葉緑体の中でプロセシングが行われているのではないかと考える。二重膜の外側の膜は宿主の細胞壁である。そのため、通常そのままのサイズで細胞膜を通過するとは難しいのではないかと考える。真核生物ではプロセシング行った際、両端の遺伝情報を酵素から守る物質がくっつくことがある。これが宿主の持つ転写因子のコード領域であり、後者の研究であったプロモータ領域のみでも転写が起こるのではないかと考える。

A:どうも何度読んでも論理のつながりがわかりません。膜の透過の話と、プロセシングの話と、コード領域の話とプロモータ領域の話は、どうつながっているのでしょうかね。あと、元は「幕」となっていましたが「膜」です。


Q:ゲノムサイズと生物の多様性について考える。ゲノムサイズは生物個体の大きさに関わらず種によって様々な大きさである。ゲノムサイズが大きい場合は、遺伝子の数が多くなるため、より複雑な生理機能の獲得などが可能になると考えられるため、どの生物もゲノムサイズが大きい方が利益があるのではないかと考えられる。しかし、授業内で紹介されたシアノバクテリアは個体の大きさが10分の1程度の大腸菌のゲノムサイズとほとんど一緒である。また同じ微生物の中でも100億以上のゲノムサイズを持つものもいる。このようなゲノムサイズの差が生まれる要因としては、生育する環境への適応のための遺伝子の変異などが考えられる。また、各生物種がもつ細胞小器官などによる影響も受ける可能性があるため、独立栄養生物か従属栄養生物かもこのような差が生まれる要因となりうるのではないかと考えられる。また、ゲノムサイズが大きい生物では機能を持たない遺伝子も含まれていることがあるため、ゲノムサイズが比較的小さい生物種では進化の過程で使われない遺伝子が突然変異などで取り除かれた結果、現在のゲノムサイズになったということも考えられる。そのため、その生物種がいつ誕生したかということもゲノムサイズと何らかの関係があるのではないかと考えられる。

A:いろいろ可能性を考えているのは良いのですが、考えた可能性を論理的に考察しないまま次の可能性に話が移ってしまうため、全体として論理的な展開になっていません。複数の可能性を考えた後は、何らかの考察によって可能性を絞っていくような論理展開にすると、科学的なレポートになります。


Q:今回の講義で、段階的に葉緑体ゲノムから細胞核への遺伝子の移行があった、と学んだ。植物が進化するにつれ遺伝子の移行が進んでいることから、遺伝子の移行に何らかのメリットがあると考えられる。よって、葉緑体ゲノムが核に移行することのメリットについて考察する。葉緑体はもともとシアノバクテリアという生物だったため、シアノバクテリアを寄生体として取り込んだとしても、放置していれば宿主内で急増または激減するようなことがありうる。そのため、遺伝子の移行はシアノバクテリアを制御するためであると考えられる。これは一次移行の話であると考えられる。文献①によると、高等植物では細胞あたり数十~数百個の葉緑体があるが、藻類では一~数個程度となっている。このとこから、二次移行では細胞あたりの葉緑体数を増やすことに貢献していると考えられる。進化するにつれ二次移行が起こるのは、細胞を大きくすることが可能になり、細胞に葉緑体を多く設置できるようになるためであると考えられる。
①『葉緑体数」光合成事典 https://photosyn.jp/pwiki/index.php?葉緑体数 [21/10/30 閲覧]

A:全体としてはよく考えていると思います。ただ、藻類と陸上植物の間には、かなり大きな変化がありますから、そこで見られる二種類の違いの間に因果関係を仮定するのは、論理性という点からすると弱いですね。何か別の観点からもう一つ結論を補強するような展開にできると素晴らしいと思います。


Q:マラリア原虫は、アピコプラストという共生藻類の名残を持っている。そのため、マラリア原虫はもともと葉緑体を持っていて光合成を行っていたが、葉緑体が退化して光合成を行わなくなったと考えられる。また、マラリア原虫は寄生をすることで知られている。ここで、マラリア原虫が光合成を行わなくなり、寄生を行うようになった理由を考察する。
 寄生を行うことのデメリットとして、宿主となる生物に依存してしまうため、宿主となる生物の状態によって獲得できるエネルギー量が減少してしまったり、生存が困難になってしまったりする点が挙げられる。そのため、従属栄養生物が寄生をしようとしても、宿主の体内において安定的にエネルギーを得られない可能性が考えられる。一方、マラリア原虫はもともと葉緑体を持っていて光合成を行っていたと考えられるため、最初は自身でもエネルギー合成を行いつつ宿主からエネルギーを得ていたが、宿主から安定的にエネルギー供給が行われるようになってから葉緑体が退化していくことで、デメリットを最小限に抑えつつ、自身の細胞でエネルギー合成を行わずに少ないコストでエネルギーを獲得したのだと考えられる。
 また、従属栄養生物は他の生物に依存してエネルギーを獲得しているため、従属栄養生物が存在するためには、必ずそれ以上の独立栄養生物が多く存在する必要がある。アピコンプレクサ類が共生藻類を獲得した時には、まだ生物の多様性が少なく、他の生物に依存するよりも自身でエネルギーを合成した方が安定的にエネルギーを獲得できたのだと考えられる。一方、生物の多様化が進み、光合成を行う生物が多くなることで、光をめぐる競争が激しくなっていたと考えられる。そんな中、生物の多様化が進んだことによって他の生物に寄生しても安定的にエネルギーを獲得できるようになり、なおかつ多様な生物がいるため寄生する宿主をめぐる競争も激しくなかったと考えられるため、光合成をやめて寄生を行うようになったのだと考えられる。
 以上より、マラリア原虫が光合成をやめて寄生を行うようになった理由は、生物の多様化によって光をめぐる競争が激化し、宿主となる生物をめぐる競争が激しくなくなったことや、自身でエネルギーを合成しなくても他の生物から安定的にエネルギーを供給できるようになった背景があると考えられる。また、マラリア原虫はもともと葉緑体を持っていて自身でもエネルギーを合成できたため、宿主のエネルギーに段階的に依存していくことができたからであると考えられる。光合成を行う生物の全てが寄生の道を選ばなかった理由も、宿主をめぐる競争の激化を避けるためと考えることで説明できる。

A:きちんと考えていてよいと思います。ここでいう「生物の多様化」というのは、おそらくかなり長い時間スパンでの話ですよね。面白い仮説だと思いますが、確かにこれで説明することができる一方で、矛盾しないというだけでは確からしさについては判断できません。生物の多様化が原因であれば、一度、多様化した後には、新しく寄生に転じる生物は減るはずです。そのような別の観点からの論理展開があると、より読み手を納得させることができると思います。


Q:細胞核への葉緑体の遺伝子移行という現象は非常に興味深いが,そもそもどうやって遺伝子が移行するのか疑問に思ったので,そのメカニズムについて特に一次共生の場合を考える.遺伝子が細胞核に移行するということは,その遺伝子が葉緑体から出て,ホストの細胞内及び核に入り,ホストのDNAに挿入されたということである.私は,DNAが元の場所から別の場所へ再挿入されるという現象自体は,トランスポゾンの挙動に類似すると思った.トランスポゾンは一つの生物の中で特定の遺伝子が別の場所へ転移する遺伝子のことであるが,これを応用すれば葉緑体から宿主への遺伝子移行が可能になると考える.以下,トランスポゾンに注目して遺伝子移行のシナリオを考えた.
 原核生物にはDNA型トランスポゾンはなく,レトロトランスポゾンが存在する.レトロトランスポゾンはその配列が一旦RNAに転写され,そのRNAを逆転写したDNAが別の位置で再挿入するものである.このレトロトランスポゾンは通常,メチル化などのエピジェネティックな機構で抑制されているが,環境ストレスにより抑制が解除される.このことから,宿主がシアノバクテリアを取り込んだ際に,環境ストレスが加わって,多くのレトロトランスポゾン配列がRNAに転写されたと考えられる.しかし,レトロトランスポゾンは生物にとって転移先の遺伝子発現を変化させる厄介なものであるため,レトロトランスポゾンの不要な転写産物(RNAやその逆転写したDNA)を分泌チャネルから細胞外(宿主の細胞内)に放出したと考えられ,同時に細胞質にあった他の遺伝子のmRNAもつられて放出されたと考えられる.これにより宿主の細胞内に入ったレトロトランスポゾン由来のDNAは拡散して核内にも入り,宿主の配列に挿入されたと考えられる.同時に,つられて細胞内に入ったmRNAは翻訳機構が違うためほとんどタンパク質には翻訳されないと考えられ,その代わりに何らかの理由で逆転写されDNAが核内の遺伝子に挿入されたと考えられる.これにより,共生初期に多くの遺伝子が宿主の細胞核へ挿入されたと考えられる.そして,一部の遺伝子についてプロモーターの新生や転写調節機構が構築されるとともに,葉緑体へのタンパク質輸送機構が構築され,宿主細胞で発現する遺伝子に対応する葉緑体の遺伝子は不要になり次第に退化することで遺伝子の移行が完了したと考えられる.

A:非常に面白い考え方でよいと思います。一部の遺伝子移行についての説明としては面白いと思うのですが、この考え方で、シアノバクテリアゲノムの9割が核に移行したことが説明できますかね?そのあたり、もう少し説明があると素晴らしいレポートになるでしょう。