植物生理学II 第4回講義

光合成生物の進化

第4回の講義では、主に藻類の進化について、一次共生と二次共生などを中心に解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:紅藻類は陸上植物同様に二重の包膜を持つのに対して、どうして光合成色素はクロロフィルbとフィコビリゾームで違いが表れるのだろうか。光合成色素の働きとして、この二つはともにアンテナとして集光性を持っている。違いとしてあげるとしたら、タンパク質との結合度合いだろう。どちらもたんぱく質と結合しているが前者は配位結合、後者は共有結合とタンパク質との結合が強いのは後者である。タンパク質と聞いて考えるのは熱変性だ。光合成で太陽の光を受け取る際、ともに熱線も受け取る。水の中と違い、陸上では葉緑体の温度が上がりやすく、フィコビリソームは変性しやすいためだろうか。そしたら陰性植物と呼ばれる日陰(弱光)で育つ木々はなぜフィコビリゾームを使わないのだろうか。理由としてはおそらく他に存在すると考えられる。ここでもう一つ仮説として考えられるのは、フィコビリゾームの構造である。光合成の効率を高めるためより集光性を高める作りを有しているのではないだろうか。2021年6月10日の理化学研究所、岡山大学、大阪市立大学、熊本大学の研究で8つのロッドと呼ばれる太陽光を集光する作りを持つことが明らかとなった。このロッドは生物種によって構造様式が異なることが分かっている。つまり、紅藻は海の中で太陽光が届きづらい環境下でもより集光性を高めるためロッド数を増やしたフィコビリゾームを有していると考えられる。しかしフィコビリソームは非常に巨大なタンパク質複合体であり、光合成色素とリンカータンパク質群によって構成され、内部構造を安定化させているがそれでも構造自体とても不安定である。水中と気中では気中の太陽光が強い。陸生植物は不安定さよりも確実性を選んだのではないだろうか。

A:きちんと考えてはいますね。現在は、おそらく考えた順番に書かれている感じなので、頭から読んでいくと文と文のつなぎは理解できる一方で、全体の結論は最後まで読まないと予測できません。小説だと、最後まで結末がわからない方がよい場合が多いと思いますが、科学的な文章の場合は、イントロ部分を読んだだけで結論がわかるような文章の方がむしろ好まれます。一度書いた後、自分の書いたものを読み直して、論理構成を整えるともっと良くなるでしょう。あと、「ロット」となっていたので「ロッド」に修正しました。「棒」の意味です。


Q:灰色藻のシアノフォラの葉緑体が細胞壁をもつことについて、なぜシアノフォラが葉緑体が細胞壁をもったまま進化したのかについて考察する。シアノフォラのもつ葉緑体は自身がもつミトコンドリアも働き呼吸をするとあったので、シアノフォラの生息地域が酸素濃度の薄い場合であれば、葉緑体が自身の呼吸機構をもつことで宿主の呼吸と分業ができるため、光合成も効率的にでき、その呼吸機構を維持するために葉緑体の細胞壁が必要であったのではないかと考えた。しかし、調べたところ灰色藻の生息地は主に淡水であり、淡水の溶存酸素量は海水よりも高く海水にも生息する紅藻類や緑藻類の葉緑体は細胞壁を持たないため、上記の仮説では矛盾が生じてしまう。上記以外の可能性としては、細胞壁があった方が合理的に光合成を行うことができること、もしくは細胞壁があってもなくても光合成の効率は変わらないために細胞壁をなくす必要もなかったことなどが考えられる。

A:「シアノフォラのもつ葉緑体は自身がもつミトコンドリアも働き呼吸をする」が少し説明不足だと思います。葉緑体呼吸のことを言っているのだとは思いますが。あと、最初の仮説が否定されてもよいのですが、それ以外の仮説については、もう少し具体性が欲しいように思いました。


Q:今回の講義で光合成進化の仮説について紹介があった。プロクロロンを除くと地上に進出するにつれフィコビリソームがクロロフィルbに置き換わっていることが分かる。その経緯について考察する。 フィコビリソームは色素タンパクの複合体であり、その色素タンパクをフィコビリンと呼ぶ。フィコビリンには様々な種類があり、吸光波長は500~600 nmで(文献①)主に緑色を吸収する。一方クロロフィルbは462 nmと650 nmの吸光波長で(文献②)、青色や赤色を吸収する。なおクロロフィルaの吸収波長は433 nmと666 nmであり、クロロフィルbと吸収する色は似ている。フィコビリンは地上植物では光合成できない光でも光合成を可能にしている。シアノバクテリアや紅藻は水中に生息するが、水中では光量が少ない。そのため、少ない光量で光合成できるよう作られたのがフィコビリンであると考えられる。 また、クロロフィルbの分子量が907に対し(文献③)、フィコビリンは18k~20kであり(文献④)、フィコビリンの生成にコストがかかることが分かる。よって、効率よく光合成をする目的があってフィコビリンをクロロフィルbに置き換えたとも考えられる。なお、コストの低いクロロフィルbが後に生成されるようになったのは、原始地球では宇宙線により地上で生息することができなかったためであると考えられる。
【参考文献】 ①『シアノバクテリア由来光合成超複合体におけるエネルギー伝達過程』廣田悠真、藤本将吾、川上恵典、神谷信夫、小澄大、②『カスタムメソッドによるクロロフィル a とクロロフィル b の定量』thermoscientific、https://assets.thermofisher.com/TFS-Assets/MSD/Application-Notes/an-141-uv-custom-chlorophyll-ab-quantification-an141-ja.pdf、③『クロロフィルb』光合成事典 https://photosyn.jp/pwiki/index.php?クロロフィルb、④『フィコビリタンパク質』光合成事典 https://photosyn.jp/pwiki/index.php?フィコビリタンパク質

A:これは非常によく考えていてよいと思います。ただ、ぜいたくを言えば、ここでの主張はあまりにも王道なので、新鮮味はありませんね。もちろん、きちんと考えることが一番なので、考えた結果がもっともな結論であれば、それでよいのですが、できたら他の人にはない視点があるともっと良いでしょう。


Q:渦鞭毛藻は、恐らくもともと四重膜の葉緑体を持っていたが、膜を1つ失うことで三重膜の葉緑体を獲得したのだということであった。では、二重膜の葉緑体を持つ植物が膜を1つ失い、単膜の葉緑体が生じてもおかしくないように思える。しかし、実際には単膜の葉緑体を持つ植物は存在しないと考えられる。そのため、なぜ単膜の葉緑体を持つ植物が存在しないのかを考察する。そもそも、四重膜であった葉緑体が三重膜の葉緑体になった原因は、物質の輸送にかかるコストを削減するためであると考えられる。二重膜の葉緑体であっても、膜の数を減らすことで物質輸送のコストを削減できると考えられるが、四重膜の葉緑体と比べると二重膜の葉緑体でも物質輸送にかかるコストは十分に少なく、四重膜から三重膜になる場合に比べて、二重膜から単膜になるメリットが少ないのだと考えられる。また、葉緑体はもともと別の生物であった点に着目すると、宿主となった細胞と葉緑体それぞれに適した生存環境は異なっていると考えられる。そのため、少なくとも二重以上の膜を持つことによって、外膜と内膜の内側の領域で葉緑体に適した塩濃度やpH等を維持しているのだと考えられる。以上より、葉緑体に適した環境を維持するために少なくとも二重以上の膜が必要であると考えられるため、単膜の葉緑体は存在しないのだと考えられる。また、もし単膜でも葉緑体が生存可能であったとしても、四重膜から三重膜になる場合と比べて、二重膜から単膜になるメリットが少ないため、単膜の葉緑体は存在しないのだと考えられる。

A:面白い考え方だと覆います。膜が二重である必要はないのではないか、という疑問はありそうではありますが、これまで多くのレポートを見てきた中で、実際にはほとんどなかったように思います。あと、葉緑体の膜の問題は、分裂についても考える必要があるかもしれませんね。葉緑体は、共生体という起源を反映して、分裂でしか増えることができませんから。


Q:渦鞭毛藻の葉緑体は3重膜であるが,多くの種で一次共生体を取り込んだものは4重膜の葉緑体を持つことから,渦鞭毛藻ももともとは4重膜葉緑体を持っていた可能性が高く,後から,何らかの理由で膜を一つ減らすことに成功したと考えられる.この現象のメカニズムを葉緑体膜の構造と一次共生体の核ゲノム回収から考察する.膜の構造と由来に着目すると,ユーグレナや渦鞭毛藻の葉緑体の外膜では,タンパク質輸送に分泌経路を用いることから,宿主の食包膜由来だと考えられている.つまり,葉緑体は内部に存在するが,細胞外に当たると認識されていると考えられるため,この食包膜由来膜が失われる可能性は小さいと考えられる(1).また,渦鞭毛藻の葉緑体の構造を見ると,クリプト藻類などに見られる一次共生体の核の名残(ヌクレオモルフ)が見当たらない.これは,一次共生体の核ゲノムを渦鞭毛藻の核が吸収したためだと考えられる.これにより,一次共生体を維持するのではなく,一次共生体の葉緑体を直接維持することが可能になったと考えられる.以上の点から,渦鞭毛藻では一次共生体の核ゲノム回収によって葉緑体を直接維持することが可能になり,一次共生体由来の葉緑体膜構造を失ったが(同時に,ゲノムの節約もした),葉緑体との物質のやり取りには渦鞭毛藻の食包膜由来の葉緑体外膜が必要なためそれは維持され,3重膜構造になったと考えられる.
参考文献 (1)三村徹郎.「葉緑体の包膜の起源について」.植物Q&A.日本植物生理学会.2017年4月17日、;[2021/10/20閲覧]

A:これは、非常に立派なレポートです。ただ、情報量が多いので、おそらく背景の知識を知らずにこのレポートだけを読むと、十分に理解できない点が多いかもしれません。原則としては、この講義のレポートは、短くても全く問題ないのですが、このようなレポートについては、もう少し説明を丁寧にした方がよいかもしれませんね。


Q:今回の講義では二次共生光合成生物の中に、葉緑体が三重のものと四重のものがあるとの説明があった。四重のものは、元々の葉緑体のものが内側から二重になっていて、その外に取り込まれた藻類の細胞膜があり、そしてその外に藻類を取り込んだ宿主の細胞膜が陥入したものがある、という風に考えることができる。一方、三重膜に関しては、講義の中で物質輸送において膜が多いことはコストを上げることになるという観点から、二重膜から一枚膜が増加したのではなく、二次共生の後で四重膜のうち1つがなくなったと考えられているとの説明があったが、それは4つのうちどれがなくなったのかを考えたい。

A:「考えたい」は良いのですが、その結果をちゃんとレポートに書いてくださいな。