植物生理学II 第2回講義

光合成研究の意義

第2回の講義では、生物と人間にとって光合成がどのように重要であるのかについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:葉緑体はコストがかかるため、地中などの暗い条件では植物は葉緑体を持たず、明るい条件になったときに葉緑体を持つと考えられる。ここで、ある程度植物が成長した段階で、地中に埋まっている根の部分が何らかの要因により地上に出た場合にその部分も葉緑体を持つようになるのか考える。植物の芽生えの過程を考えると、植物の種子が地中から出るときは地上から漏れる光を感受するため、明条件となり葉緑体をもつ葉や茎が形成されて地表に出る。その後成長して伸びるさいは明条件のまま葉緑体をもつ器官が形成される。一方で、地中にあった根が地表に出るときはある程度大きくなった細胞からなる器官になっていると考えられる。明暗の条件による葉緑体の有無は、その器官が形成される際に影響を与えるものであると考えられるので、地中にあった根が突如何らかの要因で地表に出ても葉緑体を持つことはないと考えられる。

A:一般論としては、きちんと考えていてよいと思います。発生の過程での変化と、一度分化してからの変化は、確かにまるで違います。ただし、根の緑化については「植物生理学I」の講義の中でで話したはずなので、本当は、その情報を加味して議論したいところです。


Q:太陽から放射された可視光を用いて植物が光合成を行い、エネルギーサイクルが生じることを学んだ。しかし、植物が持つ葉緑体はヒトの目にとって緑色に見えるため、短波長の青色の光や長波長の赤色の光を吸収するものの、中波長の緑色の光を吸収していないと考えることができる。そこで、中波長の光は放射量が多いにも関わらず、植物が青色と赤色の光を吸収し、緑色の光を吸収しない理由を考察する。
 植物が青色の光を吸収する理由は、短波長の光はエネルギーが大きく、長波長の光を吸収するよりも効率が良いからであると考えることができる。講義内でも葉緑体を作るためにはコストがかかると学んだが、短波長の光であれば少ない葉緑体で効率的に光合成を行うことができる。しかし、短波長の光は大気中で散乱してしまい、地表に届かなくなる場合がある。一方、長波長の光は短波長の光と比べて大気中で散乱しにくく、地表へ届きやすい。そのため、短波長の光が地表に到達しにくい夕方等の時間にも光合成を行うために、植物は赤色の光を吸収するのだと考えられる。
 緑色の光は放射量が多いものの、その光を吸収するためには、大量の光合成色素を作る必要性が生じる。しかし、前述したように、光合成色素を作るためにはコストがかかってしまうため、大量に光合成色素を作ってしまうとかえって効率が悪くなってしまうと考えられる。そのため、少ない光合成色素で効率よく光合成できる青色の光と、大気中での散乱が少なく安定的に吸収できる赤色の光を吸収し、緑色の光を吸収しないのだと考えられる。

A:この点については、先取りをされてしまいましたが、今後の講義の中で詳しく説明する予定です。実際には、1分子のクロロフィルの吸収と、葉の吸収の間には、大きなギャップがあります。


Q:暗所におけるもやしの発芽で頂端分裂組織が曲がったまま成長するメカニズムに興味がわいた.授業内で説明があったように,発芽直後で茎の伸長にコストをかけられないため,細胞一つ一つを大きく成長させて伸長していると考えられる.したがって,湾曲している部分の内側は外側よりも細胞が小さいと考えられる.しかし,茎頂では細胞分裂が継続して行われているので,湾曲部の細胞はいずれ直線状に変化していくはずである.これらのことから,湾曲部の内側外側では成長の速度の経時変化に違いがあると考えられる.具体的には,内側・外側で共通して成長速度の最高速度が決まっており,外側の方が内側よりもその最高速度に到達する時間が速いと考えられる.なお,最終的には内側も外側も速度は0に収束していくと考えられる.したがって,内側は上に凸なで頂点より左側が幅広い二次関数,外側は上に凸で頂点より右側が幅広い二次関数様の変化を示すと考える.

A:これは、面白い視点ですね。今までに、このような視点からモヤシのフックを議論したレポートはありませんでした。独自の視点を取り入れていて素晴らしいと思います。


Q:今回の授業で熱力学の第2法則、エントロピー増大の法則で一つ疑問に思ったことがある。人や生き物全般は形、つまりエントロピーの低い状態を維持するために食物を摂取して分解することでエネルギーを摂取している。低いエントロピーを維持するために周囲のエントロピーを増大させている。では石や鉱石はどうだろうか。エントロピーの低い状態を維持するために周囲のエントロピー増大をしているか。私はここに疑問を持った。エントロピーというのは不可逆性を持っているが、化学の活性エネルギーのように一定以上のエネルギーを加えないと変化しないと考えた。

A:エントロピーの話は、この講義の前に、生化学Iの講義でも扱っていて、そちらでもう少し詳しくしたと思いますので、それを思い出してください。重要なのは、エントロピーは何かの反応にともなって増大するという点です。すなわち、生物の体内で、エントロピーが増大しないのが不思議に思えるのは、「常に代謝の反応が起こっているにもかかわらず」という条件が付いているからなのです。石や鉱石の場合は、そのそもその中で、反応が起こらなければ、それに伴うエントロピーの増大自体もあり得ません。


Q:庭の雑草抜きは大変である。雑草は抜いても抜いても数日経てばまた生えてくるが、それは雑草の多くが地下茎を形成しているからである。つまり、自分は雑草「抜き」ではなく雑草「むしり」をしてしまっているということである。このことを知ってから雑草「むしり」にならないよう気をつけて雑草抜きをしているが、この時に特に厄介になるのがスギナであった。スギナは地下深くに蔓延る根茎から栄養茎(草のように見える部分)を伸ばしていて、さらに栄養茎は千切れやすいため、本格的に抜くには土を根こそぎ掘り返さなければならない。
 さて、今回の講義でもやしを例に「形態の形成は光合成の効率を上げるのが目的」と学んだ。スギナの栄養茎は、地上部は鮮やかな緑色をしているが、地下部は黒く、地上部のように開いた形状をしていない。そのため、スギナももやしと同じく光を感知して形態形成を変化させていると考えられる。よって、暗所でスギナの根茎を育成すると、根茎は成長しても栄養茎は形成されないという結果が予想される。スギナはどういう条件で栄養茎を伸ばすための根茎を分岐させるのかという疑問が残るが、根茎は地下深くにあるため光との関係は薄いと考えられる。

A:文章としては特に問題ありませんし、言っていることもまともなのですが、レポートとして考えた場合、「何を主張したいのか」という論点が、今一つ明確でないように思います。このようなときは、レポートの冒頭で、そのレポートの論点を明示して、最後の結論をそこに収束させるようにするとよいでしょう。


Q:講義前半で、熱力学的には秩序の乱れる方向に状態が変化するにもかかわらず、生物は命が続く限り秩序ある状態を保つことができるとの説明があった。同じ物質が他の何の作用もなく存在するのであればそれは不可能だが、実際には食物をはじめとする、系の外からのエネルギー摂取を行なっており、それが秩序を保つのに貢献しているとのことだった。逆に、生物は死ぬと秩序が保てなくなるということと捉えてみる。そうすると、生物が生きているうちに一生懸命に保ったエネルギーは、死体や枯死部が分解者により分解されて他者にとってのエネルギーとなることで、エネルギーの流れの一部になる。この観点から人間の死を捉えると、死は「食べ物(エネルギー)を取り込み、そこから栄養を摂取できなくなった状態」となるだろう。医学がなければ、大脳だけが停止したいわゆる植物状態でも死となっていただろうが、口からではなくとも点滴などで栄養を取り入れられると、植物状態でも動く小脳や脳幹のおかげで呼吸や代謝は行える。結果として熱力学的に植物状態は死ではないと考えられるように思う。

A:これは、一般論としては特に問題ないのですが、ずいぶんと人間中心主義ですよね。この講義が、植物生理学の講義であることを考えると、当然、植物は立派な生物の一因です。とすると、最後の「植物状態は死んでいない」という、まあ一般的にはよく見られる物言いは、あまり適切ではないように思いました。