植物生理学II 第12回講義

シンクとソース

第12回の講義では、光合成産物を作るソースと、光合成産物を消費もしくは貯蔵するシンクの関係、そして、光合成産物を二つの間で輸送するメカニズムについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では、二酸化炭素の施肥効果についてC4型の光合成はC3型よりも光合成速度への影響が小さいことが紹介された。これについて、C4植物は現代のような二酸化炭素濃度が薄い環境に適応した種であることが考えられ、この起源もより最近なものであるように考えられた。これは、C4植物の講義でもあった、二酸化炭素の濃縮機構からも予想ができた。ここから、C4の草原の出現時期を調べると地球が寒冷化したころであると分かった(文献1)。これより、二酸化炭素の温室効果からこれが弱まった時期と考えられ、二酸化炭素濃度と進化の関係がうかがえた。
文献1: Zochos et al, 2001, "Trends, Rhythms, and Aberrations in Global Climate 65 Ma to Present", Science, Vol 292, Vol 5517, PP.686-693

A:よいところに目をつけていますが、これだけだとちょっと物足りない気もします。例えば、寒冷化/温暖化した時期において、植物の分布が光合成の型によってどのように変化するか、など、いろいろ議論を発展させることができるように思います。


Q:高CO2濃度は短期的には、植物の成長にポジティヴな影響をもたらし、長期的な影響はFACE実験で、実証中との事だった。現時点で有意と言える長期的な影響は出ていないものと考えられる。シンク・リミットの他、リン・窒素などの栄養塩の欠乏が原因と考えられるそうである。ただ、この取り組みで温暖化した未来での作物供給に役立てる事を目的としているのならばこの取り組み自体を批判したい。どの程度を高CO2濃度状態と呼ぶかにもよるが通常の実験期間では自然界でCO2濃度が数十年で100 ppm上昇したという状態を再現できるわけではない。また、高CO2濃度条件で短期間で光合成速度が上昇が認められたとはいえど、短期間で先述の問題でリミットを迎えるのであれば、長期的に徐々にCO2濃度が上昇した場合とトータルでバイオマス量の変化は変化しないかもしれない。

A:重要な点ですね。研究自体は、高い二酸化炭素濃度を役立てるというよりは、二酸化炭素の上昇速度が、どの程度光合成によって緩和されるのか、というために行なわれています。つまり、地球の環境変動の予測の精度にかかわる話ということになります。


Q:摘果という作業がある。トマトやナスなどの果実を収穫するにあたり、余分な果実を早いうちに摘み取ることで残された果実に養分を集中させるための作業だと理解している。今回の授業において「光合成産物の蓄積は光合成を阻害する」とあったが、摘果を行うことは果実という光合成産物の蓄積場所が減少することになり、結果的に光合成の阻害を引き起こしているのではないかと考えた。調べてみると、「同条件で生育した着果と無着果の果樹での光合成活性を比較すると、前者が後者よりも高くなる」(*1)と述べられている。すなわち上記の仮説は正しく、摘果は光合成活性を下げることに繋がっていると言える。では果実が多ければ多いほど光合成活性が上がるのかといえばそこには限界がある。そのことを踏まえると、十分に甘い果実の量と光合成活性のつり合いを取ることは難しいと考えられる。特別な機械を用いなければ光合成活性を見積もることは難しいと思われるので、一般的には果実の甘さを優先するならば十分に果実の個数を減らす摘果が有効な手段とされているのではないかと考えた。
(*1)金山喜則・山木昭平、果実が甘くなるしくみ『化学と生物』Vol.31, No.9, 1993

A:これも面白い点に着目していたよいと思うのですが、なんとなく結論に意外性がありませんね。何か、極端な例を持ってきて、例外が生じないかどうか、などを考えてみても面白いかもしれません。


Q:今回の講義では、植物体の組織は光合成産物を稼ぐソースと光合成産物を消費または貯蔵する組織であるシンクに分けられ、ソースとシンクを結ぶ師管中の流動物は「ソースからシンクへ」と固定された流れに従って運搬されていることを学んだ。しかし、ソースとなる組織は葉のみであるのに対し、シンクとなる組織には茎や根また、新生の葉など様々な組織が当てはまることから、葉と相互関係を形成するシンクには優先順位があるのではないかと考えた。その優先順位を決める条件として、まず、ソース-シンク間の距離に依存するのではないかと考えた。これはソース-シンク間の相互作用が固定されているものではなく、可変的であることにも当てはまる。しかし、塊根などが発達する植物の場合、概して見ても、茎よりも葉からの距離が遠い根が優先されている。このことから、生存戦略として先天的に優先されるべきシンクが植物種によって決められており、その生存戦略を行使する必要がない条件下では単純に組織間の距離に依存するのではないかと考えた。

A:これもよい点に注目していると思います。メリットとデメリットについて、二つの制御方法を考えている点も評価できます。あとは、これについても、やや予定調和的なので、この講義のレポートとしては、何か意外性が欲しいところです。


Q:今回は篩管の流体の流れについて、圧流説を学んだ。また、篩管の細胞には細胞小器官が存在することを知った。篩管の細胞には細胞小器官が存在し、篩管の傷を一時的にふさぐ働きを持っている。一方で、傷をふさぐ目的だけで細胞小器官が存在するとは考えにくい。篩管ではスクロースの濃度を調整し、水の流れを生んでいるが、篩管の細胞小器官がスクロースの輸送に関わるトランスポーターの維持に役立っているとも考えられる。例えば炭素の放射性同位体で標識したタンパク質の流れを篩管の細胞で観察することで、トランスポーターの存在を確認できる可能性がある。

A:これもよいのですが、仮説を思いついた後の論理の流れがもう少し具体的だともっとよいと思います。