植物生理学II 第7回講義

呼吸と光合成の電子伝達とATP合成

第7回の講義では、まず、呼吸の電子伝達とATP合成について復習をしたのちに、光合成電子伝達とプロトン濃度勾配の形成について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では光合成の光化学系についての話があり、その中で光合成色素が活性中心となるクロロフィルまで光によるエネルギーの励起を伝えていくことが紹介されていた。このような励起を伝播するシステムは、光子によって1つの光合成色素だけでも励起すれば周囲の活性中心を活性化できると考えられるが、エネルギーの伝播ではロスが生じることは避けられず、また強光下では励起する光合成色素に対して活性中心が少ないことが光合成の律速要因になる可能性もある。このような中で、活性中心を複数持つのではなくこのシステムをもつ植物における利点を考える。まず、1つの利点として考えられるのはコストの面での利点だろう。活性中心にはMgイオンが必要であり、また、活性酸素を発生させる場合も多いことから酸化ストレスも多いと考える。この中で活性中心を複数維持するメリットがデメリットを上回る場合が多いのだろうと考える。2つ目の利点として考えられるのは、多様な光合成色素を光合成の中で利用できることである。活性中心はクロロフィルがその役割を担うが、すべてがクロロフィルであった場合は赤色と青色でしか光化学系を駆動できない。植物は多様な光環境に置かれる場合が多いことは前回までの講義で説明されており、これへの措置として光合成色素を多様化させたのであれば、多くの光合成色素を利用できるこのシステムはさぞ有用だったろうと考えた。ほかにも、光合成は反応系の先でRubisCOの律速を受けやすいことからここでの律速はあまり問題にならないだろうことも、活性中心の数を絞る要因になっただろうと考えた。ただし、それでも絶えず光子に励起されるような葉は活性中心が多い方が利も多いことは予想でき、日がよく当たり食害等の影響も受けにくい葉はMgを他のはよりも多く持っている可能性が高いと考えた。その場合、植物の活性中心の密度は日の当たり方や土壌中のMg濃度による制御を受けるのではないかと予想する。

A:よく考えていますね。光エネルギーを他の色素に受け渡すアンテナの場合は、その色素と色素を結合する小さなタンパク質だけあればよいのに対して、反応中心の場合は、そこから電子を受け取る電子伝達成分と、それを適切な位置に配置する大きな複合体が必要になります。コストという面からすると、その差が一番大きいように思います。


Q:講義を受けてATP合成酵素について興味を持ったため、掘り下げようと思う。生体膜にF0と呼ばれるサブユニットが結合し、これが水素イオンの輸送モーターとして膜電位差により回転している。また、F0にはATPを加水分解して逆方向に回転するF1の回転子(γなど)が結合しているのだが、F0の力で強制的に逆回転することでATP分解とは逆のATP合成が起こる。そのため、F1を調べるにはF1の単離が必要となる。F1のATP加水分解による回転をアクチンフィラメントなどの修飾を施して測定した実験では120度ごとという結果だったそうだがこの角度はナンセンスではないかと私は考えた。回転速度が修飾物の重さによって低下するとのことだったが、1度の決められた角度の回転運動に使われる(1回の反応でF1に結合できる)ATP分子数が一定ならば、回転角も低下するはず、つまり修飾のない本来の状態は120度よりも回転するはずである。もしも1回の反応でF1に結合するATP分子数が可変的で、あえて120度ずつの回転としているならば120度という数値は有意だが、膜電位差の低下で水素イオンの受動輸送が必要になった際に効率が悪いため120度という角度への固執は考え難い。よって1回の反応でF1に結合できるATP分子数は一定と考えられ、本来の1反応での回転角は120度よりも大きいはずである。修飾の数を単純に何倍かに増やして回転角度の縮小幅から、修飾なしの本来の状態の回転角の推定を行うべきだと私は考える。

A:これも、よく考えいますが、もう少し柔軟に別の論理が可能かどうかを考慮したほうがよいと思います。まず、修飾物質により回転速度が低下しても、その分負荷(トルク)が大きいわけですから、必要なエネルギー(出力=トルク×回転速度)が大きく変わるとは限らないでしょう。また、それが変わったとしても、実験事実として、120度ごとという結果が得られたのであれば、むしろ実験事実をベースに、それを説明できる理論を考えた方がよいでしょう。回転中に一定の場所で、いわば引っかかるのだとすれば、何らかの構造変化がかかわっていることが予想されます。その場合、F1部分が三回対称であることを考えると、γサブユニットが、βサブユニットの特定の部分に来た時に引っかかり、その引っ掛かりによる構造変化がβサブユニットのATP合成のどこかの段階の駆動につながる、と考えるのが自然ではないでしょうか。


Q:光合成の電子伝達は酸化還元するクロロフィルを反応中心としている。クロロフィルは光によって励起状態になるので光が電子伝達を制御していると言えるのだが、「光過剰条件では葉緑体電子伝達系は過還元状態となり,光化学系Ⅱでの三重項クロロフィル生成,一重項酸素生成,および光化学系Ⅰでのスーパーオキシド生成,過酸化水素生成が促進される.」*1とあるように過剰な光は植物にとって有害である。これまでの授業で扱ったように、カロテノイドによって余分な光エネルギーを熱として捨てたり、葉や葉緑体が光を避けるように動いたりして過度な光を避ける方法は存在したが、過度な光が吸収されてしまった場合は取り返しがつかないのだろうか。これについて調べてみると、光化学系Ⅱの光の敏感さやD1タンパク質代謝回転の動的調整が光合成電子伝達の究極の調整と可能にし、それによって光化学系Ⅰの不可逆的な損傷を防いでいる*2という。すなわち光化学系ⅠとⅡ、D1タンパク質などが相互作用を持ち、吸収されてしまった光に対しても対策を講じていると言えるだろう。このように過度に光を避ける何段階にも分けた方法が存在することで、植物は過還元状態から巧妙に身を守っていると考えられる。
*1日本光合成学会、『光合成事典』光阻害、http://photosyn.jp/pwiki/index.php?%E5%85%89%E9%98%BB%E5%AE%B3、(2019/11/23)
*2 Photosystem II photoinhibition-repair cycle protects Photosystem I from irreversible damage, Tikkanen, Mikko; Mekala, Nageswara Rao; Aro, Eva-Mari, BIOCHMICA ET BIOPHYSICA ACTA-BIOENERGETICS 1837号 210~215ページ 2014年

A:内容は悪くはないのですが、述べられていることは、ある意味で光合成の研究で明らかになったことをなぞっているので、この講義で求めている「自分の考え」という点からすると、ややオリジナリティーにかける気がします。


Q:今回の講義では、最後に、電子が光化学系の構造体間を逆伝達される反応、つまり逆反応を抑える仕組みとして、まず、電子伝達が進む反応として、光受容体P-700から酸化還元電位の高い電子受容体A0へエネルギーを消費して伝達された電子は、A0→A1→FX→FA/Bへと、酸化還元電位の勾配に従って伝達されるが、それぞれの電子受容体同士の距離を小さく、電子受容体とP-700との距離を大きくして伝達速度を調整することで正味で電子伝達を進めている、逆反応の影響を押さえていると学んだ。その際に疑問に起こったのが、P-700からA0間の距離は小さいことから、A0→A1への伝達速度よりもA0→P-700への伝達速度が上回るのではないかということである。実際に、スライドではP-700→A0の電子の伝達時間は14psであるのに対し、A0→A1は35psであった。しかし、実際には光化学系全体で電子伝達が円滑に進められているため、P-700→A0間の電子伝達は光から得られたエネルギーを利用した能動的な電子伝達は酸化還元電位の勾配による電子の移動よりもはるかに伝達速度が大きいのではないかと考えられる。

A:考え方は面白いと思うのですが、ここでは、P-700→A0の速度とA0→P-700の速度が等しいという前提で議論しているのかどうかが読み取れませんでした。そのあたり、科学的なレポートでは、できるだけ意味の紛れがないようにすることが重要です。


Q:今回の講義で、クロロフィルと電子伝達の仕組みを自分なりに整理することができた。クロロフィルは光を集めるアンテナの役割と電子にエネルギーを渡す反応中心に分かれており、それらがタンパク質によって複合体を作っている。そして、クロロフィルとタンパク質の複合体は系ⅠとⅡに繋がっており、そこで光エネルギーのやり取りをしている。漠然とクロロフィルの役割と電子伝達の仕組みを理解していただけなので、両者がつながりを理解できた。また、再確認して疑問に思ったのだが、陸上植物では葉緑体とミトコンドリアの両方でATPを合成している。ミトコンドリアの方がATP合成効率が良いと聞いたことがあるのだが、葉緑体とミトコンドリアでは電子伝達はとても似通っているように感じる。一体どのような部分で葉緑体とミトコンドリアの間でATPの合成量に差が生じているのだろうか?

A:できたら「ミトコンドリアの方がATP合成効率が良い」ということの出典が欲しいところです。ミトコンドリアのエネルギー源は有機物であるのに対して、葉緑体のエネルギー源は光ですから、効率を直接比べるのは難しいように思います。比較するとしたらプロトン1個当たりのATPの合成量でしょうか。もし、そうであれば、「葉緑体とミトコンドリアの間で」は「葉緑体とミトコンドリアのATP合成酵素の間で」と書けば意味がはっきりします。