植物生理学II 第3回講義

光合成生物の進化

第3回の講義では、光合成が生物界にどのように広がってきたのかを、細胞内共生による葉緑体の獲得を中心に解説しました。また、葉緑体以外の色素体や、光合成以外の色素体の機能についても触れました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では、光合成生物にはシアノバクテリアの祖先による一次共生によって誕生したものと、一次共生によって誕生した光合成生物が二次共生を起こしたものとがあり、二次共生は葉緑体の膜が共生前の生物の細胞膜に由来するものも含めて三重や四重になっていることが紹介された。この葉緑体の膜について、なぜ三重や四重に膜を持つものが存在するのかについて、また、なぜ一重膜の葉緑体は存在しないのかについて疑問に感じ、考察をおこなった。まず、膜については葉緑体やミトコンドリア以外の細胞小器官は一重膜であり、真核生物の細胞内ではミトコンドリアや葉緑体等が二重膜をもつことで異彩を放っている。葉緑体を反応の場と考えてもチラコイドやストロマを包む内膜のみで十分に反応の基質や環境の調整の能力を補えるように感じられ、また、三重膜の葉緑体の例から共生後に一つの膜のみ失わせることが可能だとは考えられるために、なぜ外膜が残っているのかというのは疑問に感じられた。これの理由の一つとして考えられたのは、葉緑体に共生前の環境を提供するといったものである。葉緑体をある種の生物として考えた場合、その細胞には必ず過ごしやすいpHや塩濃度のような環境が存在するはずであり、これを葉緑体に提供するために外膜で細胞内と環境を区切り、この中に内膜を入れているのではないかと考えた。また、葉緑体の二重膜はファゴサイトーシス受けた際の防御の結果であることも考えた。葉緑体の膜構造について調べてみると、この膜は内膜も外膜も通常の細胞膜とは異なりリン酸を持たずガラクト脂質に富むとあった(文献1)。この事実からは、外膜も含めてファゴサイトーシスを行った側ではなく葉緑体側に起源があるとも考えられ、それならば、外膜は細胞膜による消化などに対して抵抗するために葉緑体が獲得した形質であるとも考えられるのではと考えた。実際、一重膜の葉緑体は存在しないのならば、この外膜は葉緑体を維持すること自体に強くかかわっているのではないかと考える。では、なぜ三重膜のものは存在できるのかと考えると、二次共生の真核生物は一次共生したバクテリアよりも環境への耐性が強かったためだと考える。本講義でも示されたようにバクテリアの多くは培養が難しく環境DNAの測定で初めて大量のバクテリアが一挙に発見されるようになったとされる。この生物を先の二つの考察のように維持するために二重膜が発達したのならば、真核生物を共生させた二次共生の段階では二重膜にする必要はなくなったのではと考えた。
文献1:リンカーン・テイツ, エドゥアルド・ザイガー, イアン・M・モーラー, アンガス・マーフィー編. 西谷和彦, 島崎研一郎 監訳. 植物生理学・発生学 原著第6版. 初版. 2017. 講談社. pp.12, 26-28

A:これは、きちんと考えていてよいと思います。特に、膜の脂質組成と異なる数の膜をもつことの意味という異なる側面からの考察を統合している点が評価できます。


Q:マラリア原虫は元々藻類を二次共生させ、光合成によって有機物を得ていたと考えられており、アピコプラストと葉緑体でDNAに相同性が見られるという話を伺った。では何故光合成能を失って寄生動物へ進化したのか疑問が生じるが、これは好気環境における光合成は活性酸素の発生の恐れもあり危険であり、そのリスクを回避する為のようだ(1)。ではどうやって栄養補給形態が元々と異なる寄生能を獲得したかが新たに疑問として生じる。それは遺伝子伝播ではないかと考える。そもそも、先述の通りアピコプラストと葉緑体でDNAに相同性が見られるという事は葉緑体遺伝子は少しは改変されている事を意味するので藻類と細胞内共生を行い葉緑体部分が独立して遺伝子を持っていたというよりは葉緑体の遺伝子をマラリア原虫の祖先が伝播によって獲得し、ゲノム上にコードしていた段階が有ったと考えられる。よって、マラリア原虫の祖先は元来原核生物もしくは原生生物レベルの真核生物を吸引しDNAを獲得する能力に優れており、自身はメチル化や何らかの影響で溶菌を起こされない無害な(細胞での増殖能を持つ)ウイルスか生活環がそれに近い何かを取り込み、細胞侵入機能に関するDNAだけ選択的にマラリア線虫の祖先が自身の遺伝子に導入し、複雑化による個体維持の難しさから鞭毛や有機物合成機能(葉緑体)を退化させる方向で現在のマラリア原虫に進化したのではないだろうか。
《参考文献》(1) 小さな生物たちの多様な世界を探る-解き明かされる単細胞真核生物の構造・機能・進化. Blue Earth. 142号. 2016年, P.9

A:これも、考え方は非常に面白いと思います。一方で、仮説自体は、何段階かの論理が積み重ねられているにもかかわらず、それらの論理は、自分の考えに基づいていて、「想像の羽を広げている」感じがします。そのこと自体は、悪いことではないのですが、なぜそのように考えたのか、という直接の理屈を示して論理を展開すると、もっと説得力が増すと思います。


Q:葉緑体の起源となった一次共生がたった一度だけ起こったことについて、なぜ当時の真核細胞だけが葉緑体を共生させることができたのかを考察する。まず、葉緑体の起源光合成生物が海洋表層に進出し繁栄した際、それを食べるなりして利用し始めたのが古代の真核生物だったと考えている。なぜ真核生物だったかというと、そもそも捕食・共生という行為自体が真核細胞にしかできなかったと考える。ここで最も重要な真核細胞の特徴は、DNAが核膜で隔離されている点であり、「捕食=他の生物を細胞内に取り込む行為」に際して核膜がDNAを保護する役目を持ったと考える。次に、核膜ができた理由について考える。まず、真核生物の祖先古細菌が捕食能を獲得、そのうちにDNAを守るために核膜を作ったと考えた。ただし、その場合DNAが剥き出しで入っているサイトゾルに積極的に異物を入れようとしたということであり、理に適っていない。また、核膜が捕食を可能にしたという前述の考えと矛盾する。そこで、逆に細胞内に入ってくる異物からDNAを保護する役目で核膜が形成され、核膜ができたことにより捕食が可能になったと考えた。そうだとすれば、異物は細胞内に侵入してくる他の生物で、それがミトコンドリアの起源生物だった可能性があると考える。

A:これも着目点が面白くてよいと思います。ただ、核膜が捕食を可能にするという点と、核膜が異物からDNAを保護するという点は、かなり実際には同じ現象の表裏のようにも考えられますから、論理の展開の仕方は、もう一工夫できたようにも思います。


Q:植物とは程遠く感じられるマラリア原虫が進化の過程をさかのぼると葉緑体を持っていたと考えられている、という話が印象に残った。これに関して私が気になったのは、マラリア原虫はなぜ葉緑体を退化させる道を選んでしまったのかということだ。これまで授業で触れたように光合成は生物が生きていく上で効率的なエネルギーの獲得方法である。それゆえウミウシなど一部の動物も葉緑体を“盗む”ことでその恩恵を与ってきた。マラリア原虫はその反対のことを行っていると捉えることができるが、その理由を考えてみた。まず考えたのは、寄生により光合成の必要がなくなったからという理由である。光合成以外の方法、例えば寄生によってエネルギーを獲得できるようになれば葉緑体は必要ない。ではなぜ寄生するようになったのかが問題になるが、これは生物が種の存続を考えたときに他の生物と生態的地位を遠くした方が得であるからだと考える。赤血球を持つ生物が多く繁栄していることに加え、赤血球に寄生する生物は光合成を行う生物よりも種類が少ないため競争が起こりにくいということは大きなメリットであるかもしれない。次に考えたのが、葉緑体を保持するためのエネルギーを節約するためという理由である。何かを保持するということはそれなりのエネルギーを要する。ゆえに一つの細胞に複数個存在する葉緑体を保持するのは、実は負荷のかかることであるのかもしれない。このような理由がマラリア原虫における葉緑体退化の一因になっているのではないかと考えた。

A:できたら、二つの理由を考えたならば、それらが排他的な関係にあるのか、それとも共存可能であるのかを考えてみましょう。そして、もし排他的なのであるならば、どちらの可能性が高いのかを何らかの論理によって示すことができれば、単に並列に理由を述べた場合に比べて、納得感が増すと思います。


Q:今回の講義のなかで、一次共生で真核生物に取り込まれたシアノバクテリアの種類は限りなく少なく、一次植物はおおよそ単系統である、一方、二次共生において取り込まれた藻の仲間は多種多様であることが述べられていた。これはつまり、シアノバクテリアよりも葉緑体を保持した真核生物の方が他の真核生物に取り込まれやすいのではないかと推測され、その原因となるのが取り込まれる側の生物が持つ特徴にあるのではないかと考えた。そして、その特徴は細胞核の有無にあるのではないかと考えた。実際に、一次植物における葉緑体DNAの発現は細胞核由来のタンパク質等で制御されており、クリプト藻、ハプト藻、不等毛藻類などの一部の藻類では葉緑体が細胞核膜と融合し、細胞核膜由来のタンパク質が容易に葉緑体にまで運搬されるような能率の高い葉緑体を制御するシステムが出来上がっている(参考文献)。これらのことから、一から原核生物を取り込むよりも、葉緑体を制御するシステムが既に出来上がっている真核生物を取り込む方が容易に新たに葉緑体を制御するシステムを構築しやすく、二次共生の方が起こりやすいのではないかと考えた。
○参考文献:藻ディアWebサイト(https://modia.chitose-bio.com/articles/origin_of_algae_2/)、2019/10/19参照

A:この点については、次回の講義で解説する予定です。このレポートの内容については、原核生物を取り込むと、新たに葉緑体を制御するシステムが必要である、という点は良いのですが、では真核生物を取り込んだ場合には、新たに(異種の)真核生物を制御するシステムがやはり必要になるのではないか、という点が重要だと思います。おそらく、その点は、自明だと考えてのことだと思いますが、自明に見えても、その理由を考えてみるのは役に立つと思います。