植物生理学II 第2回講義

藻類の進化

第2回の講義では、藻類とシアノバクテリア、そして狭義の光合成細菌がどのように進化してきたかについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では、真核生物の系統関係を知る方法として18s rRNAを用いる方法と、光合成の獲得順序を知る方法として16s rRNAを用いる方法がそれぞれ紹介された。 講義内でも、18s rRNAの解析では生物の光合成獲得が何度も行われなければならず、光合成の獲得を説明しきれないことは紹介されたが、同様にこの解析では、非光合成生物も単系統をとらす、高校の教科書などに載っている「先にミトコンドリアとなる原核生物が細胞内共生を行い、光合成生物はさらに葉緑体となる原核生物が共生した」という説明にも反してるように感じた。葉緑体の16s rRNA解析の結果でも光合成機能の系統関係は分かったが、そもそも18s RNAの解析結果が単系統でない以上は複数葉緑体と共生しなければならず、これを説明すると次のようになると考えた。
 まず、真核生物となる最初の生物はミトコンドリアと共生を行ったと考えられる。これは、今日の真核生物が全てミトコンドリアを持つ以上は間違いないだろう。もしかしたら、先に葉緑体と共生を行った物もいるかもしれないが、細胞内に酸素が溜まるなど単独で持つには生育に不利な条件があったため、自然選択の影響を強く受けてしまったと考える。次に、その真核生物は複数回葉緑体と共生し、補食の必要がなくなった光合成生物はその度に種として成立していったと考えた。
 上記の予想は妄想といった面も強いが、現在の地球にも藻と共生するウミウシや、藻の光合成に関する遺伝子を幼いうちに取り込んで一代限りではあるものの光合成を行うウミウシなどもいるため、ミトコンドリアの共生は一度、葉緑体の共生は複数回という可能性はあると考える。

A:葉緑体の共生は、真核生物が成立した後の話であることは間違いなさそうなのですが、ミトコンドリアの共生を真核生物の成立との関係は、いまだによくわかりません。実際に、多くに人が妄想を繰り広げている段階と言ってもよいのではないかと思います。


Q:ハテナは藻類と共生する鞭毛虫である。葉緑体を持つ真核生物は葉緑体を持つ藻類の細胞内共生から進化して葉緑体を持つようになったと考えられており、ハテナは葉緑体を完全に自己管理下に置けていない為、進化の段階を示しているようである事が魅力である。ハテナでは娘細胞に葉緑体を等分配した方が都合が良いと思われるが、そうはならず、片方に残し片方は葉緑体を持たないという現象が起きる。共生体(藻類)のゴルジ体、ミトコンドリアを弱体化させ、葉緑体を巨大化させるところまでは出来るが、葉緑体の脱核や分裂誘導はできない(1)。この文だけ見ると、ハテナはホスト側である鞭毛虫の進化の過程での不完全形態のように捉えられそうだが、そう考えるより、私としては藻類が鞭毛虫に寄生するかもしくは遺伝子導入して完全に乗っ取りまでできるかの問題だと考える。なぜなら、藻類は独立栄養生物、ホストの鞭毛虫は従属栄養生物であり、仮にハテナが進化系譜に組み込まれるなら進化先は独立栄養生物である。従って、この進化系でメインとなるのは独立栄養生物の藻類であり、藻類の進化と捉えるのが妥当であると考えられる。また、ハテナという共同体は独立栄養生物の寄生体である藻類の遺伝子導入による寄生・乗っ取りという概念こそがこの進化を考える上で重要なのではないだろうか。
《参考文献》(1) 筑波大学 生物学類. 動物型から植物型へ1世代で変身?植物進化の謎に迫る不思議な生物「ハテナ」?.http://www.biol.tsukuba.ac.jp/tjb/Vol5No3/TJB200603SE1.html、2019年10月9日閲覧

A:まず、独立栄養が維持されることをもって、独立栄養生物がメインであるという考え方の是非を検討すべきかもしれませんね。少なくとも、人間社会の奴隷制度に関しては、生産手段をもっている奴隷が、メインの役割を担っているという考え方はされないように思いますから。


Q:シアノバクテリアと違い緑藻や陸上植物の葉緑体がフィコビリンではなくクロロフィルbを持つことについて、緑藻が独立してクロロフィルbを獲得したということだったが、真核生物の葉緑体ゲノムは母性遺伝するため、ひとたび真核細胞内に共生してしまうと、新たに色素を獲得するような多様性は生まれないのではないかという疑問を持った。これを説明するために2つの仮説を考える。
 1つは、ハテナと藻のような一時的な共生関係が、真核細胞と「葉緑体の起源となったシアノバクテリアの1種(原核生物)」の間で長い年月に渡って続いていたために、原核生物は遺伝子の水平伝播による遺伝的多様性を保ち続け、完全にオルガネラになる前にクロロフィルbを獲得し、緑藻の葉緑体になったという仮説である。もう1つは、もともと光合成を獲得した原核生物はクロロフィルbを持っていて、現生のシアノバクテリアや光合成細菌はクロロフィルbを捨ててフィコビリンを獲得、クロロフィルbを使い続けていたシアノバクテリアの一種が緑藻の葉緑体の起源になったという仮説である。この場合、プロクロロンがクロロフィルbを持つ理由も説明できる。
 これらの仮説の検証は、「クロロフィルbを持たない藻類の葉緑体」「緑藻、陸上植物の葉緑体」「シアノバクテリア」の3者がどのような系統関係にあるかを調べることで可能だと考える。

A:最後の部分、クロロフィルbをもつ緑藻と、持たない紅藻、灰色藻の分岐は、必ずしも明確ではありません。ただ、一般論としては、その葉緑体の祖先であるシアノバクテリアはクロロフィルbをもたないので、緑藻・紅藻・灰色藻の共通祖先はクロロフィルbをもたなかったとする方が自然ではあります。


Q:細胞内共生の謎を解明するにあたり示唆を与える生物として分裂すると片方が緑色ではなくなる「ハテナ」が紹介された。私はこのハテナの生活環を見たときに前期の植物生理学の授業で紹介されたウミウシの盗葉緑体現象を思い出した。真核細胞ではサイトゾルでできたタンパク質が葉緑体に移行することによって葉緑体が機能するが、ウミウシの核とウミウシが摂食した藻類の葉緑体はこのような協調ができるのか疑問に感じた。調べてみると、「ウミウシの一種Elysia chloroticaの核ゲノムに食藻由来の光合成関連遺伝子の存在が確認され、ウミウシの核と藻類の核の間で、遺伝子の水平伝播が起きている」*1という。「バクテリアでは水平伝播が頻繁に起こっている」*2という状況から考えて、盗葉緑体を利用する生物は今後より多く確認できるのではないかと考えた。
*1前田太郎、「藻類からウミウシへ光合成遺伝子が移動?」、藻類Jpn.J.Phycol.(Sorui)57:10-12,March 10,2009
*2寺島一郎著、『植物の生態―生理機能を中心に―』、裳華房、p 11

A:次回に話す予定ですが、シアノバクテリアの共生の際には、共生の最初期に、遺伝子が大量に核に移行したと考えられています。ウミウシの盗葉緑体は、いわばその遺伝子移行のモデルとして研究されているという側面があります。


Q:今回の講義では、陸上植物のルビスコは葉緑体コードの大サブユニットと核コードの小サブユニットから構成され、葉緑体および核、それぞれの区画由来のタンパク質が複合的に合わさって構成されるのは、核由来のタンパク質が葉緑体そのもの、または葉緑体の産生物を制御していることを学んだ。それを踏まえて、なぜ独自のDNAを持つ葉緑体からの産生物を全て核由来のタンパク質が制御できているのか疑問に思ったが、葉緑体由来のタンパク質に結合する核由来のタンパク質には生成物が細胞内で排除されないようになんらかの標識を提示するシステムが存在し、葉緑体由来のタンパク質のみで構成される生成物もできるが、その標識がない生成物は排除されるのではないかと考えた。

A:考え方は面白いと思います。その際、その考えに、単に思いついただけでなく、何でもよいので、理屈がつけられるとよいですね。「そう考えた」だけでなく、「〇〇が××なのでそう考えた」となっていると、それだけで説得力が増します。