植物生理学II 第14回講義

光合成の収率

第14回の講義では、光合成の効率が実際のどのぐらいのものであるのかを光合成の各ステップごとに検討し、また植物の光合成と動物の呼吸の速度の比較をしてみました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:移動能力を持つタコクラゲが褐虫藻と共生していて光合成産物から栄養を得ているのは意外に思ったが、調べてみると同じ刺胞動物のサンゴが褐虫藻を共生するので、これは生活環に付着性のポリプが含まれる動物がそもそも持っている特徴であるのだと思った。しかしながらタコクラゲが褐虫藻の光合成効率を高めるために光を求めて移動するというのは大変都合がよいのになぜ多くの動物は褐虫藻と共生しないかを考えた。脊椎動物は食べ物を口から摂取し、排泄までの間に食べ物から栄養を吸収するが、その場合、例えば指先などに褐虫藻を飼っていたとして、その光合成産物は毛細血管を通ってどこに合流するのだろうという疑問が生じる。一方で刺胞動物は、口と肛門を兼ねており胃腔を中心に触手を伸ばす。消化器官の役割が分化していないことで光合成産物の栄養を最大限利用できるのかもしれない。クラゲやサンゴは比較的初期の多細胞生物であるが、その産物を利用する点で光合成との親和性が高かったので現代まで生き残っているのかもしれない。

A:分類学的な特徴から、共生の特殊性を考慮していて、よく考えらえたレポートだと思います。


Q:動物は植物と違って身体を動かすことができるためエネルギー効率を考えると光合成をすることは適さない。人間の場合、必要なエネルギーをまかなうには30 m2以上必要だと授業で習った。しかし捕食をしつつ光合成もできればより効率化が図れると考えられる。地球温暖化による環境の変化や異常気象による不作によって食料不足が問題となった時、食べ物の経口摂取以外から栄養を受け取る手段があればその問題が緩和されると考えられる。実際に光合成を行う動物はわずかながら存在する。植物とも動物とも言いづらいがミドリムシは動物的性質を持ちながら光合成を行う。イースタン・エメラルド・エリシアというウミウシやピイ・アフィドというアブラムシも光合成を行う。また、ファイアー・サラマンダーというサンショウウオは脊椎動物で唯一の光合成する動物である。これらの生物は進化の過程で生き残るための手段として光合成という方法を取り入れたということになる。光合成の能力を取り入れている実例があるため研究が進めば人間にもできるようになるかもしれない。

A:調べた結果をレポートに書く時には参考文献を上げるようにしましょう。紹介された例には、確かに光合成をする場合があるのですが、それが、生きていくうえでどの程度寄与しているのかはあまりはっきりしません。そのあたりは今後の課題です。


Q:今回の講義では、主に光合成の収率を高める仕組みや動物の光合成について学んだ。その中で、タコクラゲという渦鞭毛藻類と共生し、間接的に光合成によってエネルギーを得ている生物が、より効率良く光合成や栄養摂取を行うために光や栄養素を求めて移動しているという話が印象に残った。この話から私は、対象を捕食し取り込んでいるという違いはあるが、同じように光合成によってエネルギーを得ているという共通点を持つエリシア・クロロティカというウミウシの仲間も同じような行動をとっているのではないかと考え、この事について考察する。まず、この2種の生態の違いから考察する。エリシア・クロロティカは底生生物であり、海底や海中の岩などにはりついて生活しており、海中を漂う浮遊生活を行なっているタコクラゲとは異なる。この生態の違いにより、最短距離で水面へと移動できるタコクラゲに対して、エリシア・クロロティカがより強光を得るためには岩などを登るという方法しかなく、よりコストがかかると考えられる。また、講義での動物が葉緑体を得てもエネルギーを基本的には賄えないという話とタコクラゲはエリシア・クロロティカと比較して単純な構造をしているため、代謝が少なくて済むことが考えられることから、エリシア・クロロティカが光合成によるエネルギーのみで生活しているとは考えにくい。これらの理由から、エリシア・クロロティカはタコクラゲと異なり、葉緑体を摂取し、光合成を行なっている期間も他の生物の捕食によるエネルギー摂取を行なっていると考えられる。

A:よく考えていてよいと思います。上にも書いたように、ここで考察されているエネルギー獲得における光合成の寄与の割合は、案外きちんと調べられていないので、面白い点ではあります。