植物生理学II 第11回講義

光合成の産物

第11回の講義では、光合成の産物と、それを送り出す転流の仕組み、そして光合成の産物の一つセルロースを主成分とする細胞壁について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:細胞壁が強固な構造であるのに対し、細胞膜は変形の自由度が高い。外液の浸透圧によって細胞は細胞壁の中で膨張したり収縮したりする。もしその植物が高張液に浸っているときにセルロース合成酵素がセルロースを合成することがあるとしたら、細胞内の水が細胞外へ浸透し細胞は収縮するため、できあがった細胞壁は本来の細胞のサイズに対して小さすぎるといったことにはならないだろうか。であるとすれば、池などに生息する水生植物を高張液中で育てたら、1つ1つの細胞が小さく成長が遅くなると考えられる。

A:これは、高張液中で細胞が形成されるときの話ですね。いったんできた細胞を高張液につけたときの変化は、原形質分離というよく習う話なので、それと対比させて議論を進めたほうがわかりやすいと思います。


Q:今回の講義では、光合成による糖質の生産と輸送について学んだ。その中で、師管による輸送の動力は主にソース側とシンク側の生産物の濃度差による膨圧の違いによるという圧流説が原因とされているということから、主なシンクの一つである根の糖濃度を人為的に上昇させれば、膨圧による輸送ができなくなると考えられる。もちろん、転流は他にもシンクは葉や茎などが存在するため逆流まではいかないと思われるが、停滞し、地上部に糖分が溜まり通常のものより成長するのではないかと考えた。この仮説を証明するためには、以下の実験が考えられる。まず、任意の植物株を3つのグループに分ける。1つ目は十分な光を当て土壌には糖分を一切含ませないグループ、2つ目は十分な光を当て土壌の糖分量を植物が生存できる限界量を含ませたグループ、3つ目は土壌の糖分含有量を上げ、光を当てないグループである。この3つのグループで地上部の成長量を比較する。この時、光を24時間照射し続けることで転流が、絶え間なく行われるようにし、空気注意の二酸化炭素中の炭素を放射性同位体のものに置換しておき、地下部からは普通の二酸化炭素を送る。これによって、もし仮説が正しければ2つ目のグループの地上部が最も成長し、放射線が観測出来るのは他のグループが全身であるのに対し、地上部のみという結果が出ると思われる。

A:面白い考え方ですが、植物の根の中の糖濃度と、土壌の糖濃度の関係が、仮定した通りのものなのかどうか、そこが少し気になりますね。何らかの形でその仮定がどの程度正しいのかを調べることも必要になりそうです。


Q:細胞壁を炭素資源として捉え、社会に活かすという考え方がある。植物の細胞壁は地球上の炭素の流れである純生産と現存量の大部分を占める。陸上の総生産のうち、約半分は植物の呼吸により二酸化炭素として大気に戻っていくが残りの半分は植物体を構成する安定な炭素化合物として植物の中に堆積していく。毎年、約60Gtの炭素が動物により二酸化炭素にまで分解されて大気に戻る。一方、化石燃料由来の炭素放出は年間6.4Gtで陸上の純生産の一割程度である。つまりもし自然界の未利用の純生産量のうち1割でも人間が利用できるなら循環型バイオマスが化石燃料に取って代わることが可能となり二酸化炭素を放出しない社会へと変えることが可能と考えられる。ところがそのためには未利用の純生産の一部を人間が使うことができるように人間の活動様式を変える必要がある。それは植物細胞壁資源を食料、炭素資源、エネルギーとして利用するための技術革新が必要ということである。まだまだ未開発で先は長い話だがいずれ細胞壁が生かされた社会になるのは楽しみである。
参考文献:http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/nishitani_lab/essay/pdffile/iden.pdf

A:悪くはないですが、これだけだとエッセイですね。科学的なレポートとしては、問題を設定してそれに対して論理的に回答を与えるというロジックが欲しいように思います。