植物生理学II 第10回講義

CAM光合成

第10回の講義では、植物がCAM光合成によって、光合成のための二酸化炭素の取り込みと蒸散の抑制を両立させる仕組みについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:C3とCAMの変化をするアイスプラントは光合成を変換することで環境に適応することができる。一方多くの植物は光合成を変換しない。日本のように一年間で気候が変化する地域では光合成を季節に合わせて変換させた方が良いように思える。なぜだろうか。二つの光合成方法を持つということはそれだけ維持コストがかかるはずである。また、光合成を切り替えるとそれだけ酵素活性なども変化させる必要があり、エネルギーを使うことになる。このようなデメリットがあり、多くの植物は一つの光合成方法しか持たないのだと考えられる。

A:考えてはいるようですが、通り一遍ですね。科学は「2番ではだめ」なので、ほかの人が考えないことを考えるようにしてください。


Q:CAM植物は電動自転車を連想させる。CAM植物はリンゴ酸が貯まっている場合、昼間でも気孔を閉じて光合成ができ、リンゴ酸が無くなると気孔を開きC3型光合成を行う。電動自転車は乗車時にバッテリーをつけることで楽な走行を可能とする。電動自転車での前進を光合成、バッテリーの充電をリンゴ酸、力をいれずにペダルを漕ぐこと(感覚的になってしまうが)を気孔が閉じた状態と考える。バッテリーの充電が十分存在する場合、力をいれずにペダル漕いでも進むことは可能であるが、充電が切れた場合、力いっぱいペダルを漕がなければ前進できず、従来の自転車の姿となる。CAM植物はリンゴ酸が無くなると気孔を開くが、砂漠のような乾燥地域では蒸散による水分の減少を考慮しなければならない。植物にとって水分量が減少することは死活問題であるため、仮にリンゴ酸が真昼間に無くなった場合、CO2の取り込みより水分量の維持を優先すると考えられ、気孔の開きを夕方まで待つのではないだろうか。私は電動自転車に乗っている途中でバッテリーの充電が切れた経験がある。決して科学的ではないが上り坂(下り坂)を走行中に充電が切れる場合と真昼間(夕方)にリンゴ酸が無くなる場合が対応していると考える。真昼間に無理して光合成を行わない点と上り坂で充電が切れる場合多くの人が前進を諦め電動自転車から降りる点は似ている(人間は「歩行」という第2の手段で前進できるが、CAM植物は光合成を封じられた場合「お手上げ状態」のため気孔を開けられるまで待つであろう)。また、夕方であれば気孔を開ける点と下り坂で充電が切れる場合前進を諦める人はほとんどいない点も似ている。

A:よく考えていてよいと思います。ここで考察されている通りで、「CAM植物はリンゴ酸が無くなると気孔を開く」は、正確には「ある種のCAM植物はリンゴ酸が無くなると気孔を開く」です。CAM植物によっては、リンゴ酸がなくなっても夜までは気孔を開かないものもあります。


Q:パイナップルがCAMを採用するになった理由CAM植物はサボテンなどに見られるように乾燥条件に対する適用ではないかとのことだったが、「水生CAM植物の存在からCAM発現のトリガーは低二酸化炭素環境であったとのことである。」…(1) この水生CAM植物は夜間に水中の二酸化炭素を取り込んでおり、これは溶存CO2濃度に対応して夜間に豊富になることによる。これからもわかるようにCAM植物では夜間に二酸化炭素を固定できることから、CAM植物の二酸化炭素固定メカニズムを理解すればC3植物でも夜間に二酸化炭素を取り込めるようになるのではないだろうか。具体的に言えば昼夜を認識することができる体内時計遺伝子をC3植物のカルビン・ベンソン回路の発現機構に導入し、植物の呼吸によって生じる電子を利用して夜間にカルビン・ベンソン回路が動くようにすれば良いのではないだろうか。
(参考文献)(1)水生CAM植物-光合成辞典-日本光合成学会、http://photosyn.jp/pwiki/index.php?水生CAM植物

A:着目点は良いのですが、もう少しきっちりと論理を考えたほうがよいでしょうね。炭素同化で必要なのは二酸化炭素、ATP、NADPHです。後者二つは光化学系の電子伝達で作られますから、夜昼を分離しようとしたら、CAM植物のように二酸化炭素を昼間で何かの形で貯めるか、あるいは、ATPとNADPHを夜まで何かの形で貯めるか、どちらかでしょう。呼吸は、有機物からNADHをつくって、そこからATPをつくりますから、うまく調節すれば呼吸によりATPとNADPHを調達することはできます。しかし、その際には有機物を分解するわけですから、カルビン回路を回しても、全体としては損することになるでしょう。


Q:今回の講義で体を構成する同位体比で縄文人の食生活が分かるという話を扱った。そこでこれを利用してある民族がどのような移動をしてきたのか食生活の変化から推定出来るのではないかと思った。例えば山に住んでいた民族が海に下りてきた場合窒素同位体比、炭素同位体比が世代を経るとともに上昇しているはずである。

A:講義で、個人が移動する話はしましたから、ロジックとしては講義の繰り返しですね。自分の頭を使って考えてレポートを書いてください。


Q:CAM植物は乾燥地域で繁殖するのに適していることを学んだ。しかし、どの植物にとっても乾燥は生きていくのに大きな妨げとなる。だが現実にはC3植物の方が世界に多く繁殖している。CAM植物は時間的な分化を生む機能を持つために独自の進化を遂げたが、その機能を維持するのには大きなエネルギーを必要とすると考えられる。だから、CAMの機能を持って乾燥に対抗するよりも、機能を持たずに乾燥に耐えることの方が生存に有利である生物が多いため、このようにC3植物の方が多く繁殖していると考えられる。

A:これは、やや論理性に欠けますね。CAM光合成にはエネルギーを必要とするから、乾燥に耐えた方がよいということですが、それを言うためには、乾燥に耐えるだけだったらエネルギーを必要としないことを示す必要があるでしょう。


Q:今回の講義では、炭素の同位体効果、C4、CAM植物および光合成細菌等における二酸化炭素固定回路について学んだ。その中で、C4植物(トウモロコシ)の維管束鞘細胞には光化学系Ⅱが多く含まれるグラナが見られない理由や、二酸化炭素固定回路には還元力が必須であること、クロロビウムの炭素同化はクエン酸回路の逆であり、ルビスコを使わなくてもCO2固定できるが偏性嫌気性生物であることを知った。そこで、クロロビウムの二酸化炭素固定回路と偏性嫌気性の関係について考える。そこで、クロロビウムの二酸化炭素固定回路において特徴的なルビスコが存在しない理由を考えると、ルビスコはカルボキシラーゼとしての働きの他にオキシゲナーゼとしての働きがある。つまり、物質を酸化させる酵素である。クロロビウムがルビスコを利用しないことおよび偏性嫌気性生物であることから、クロロビウムは代謝を行う上で生体内の何らかの物質が酸化されると死滅してしまうことが考えられる。次にその何らかの物質について考えるが、ここではその物質をクロロビウムの二酸化炭素固定回路に関与する物質に制限する。理由として、この考察ではクロロビウムにおける偏性嫌気性と二酸化炭素固定回路の関係について述べるためである。そこで、その物質は二酸化炭素固定回路において還元力を持つ物質であると考えられる。つまり、酸素が電子受容体として働き、二酸化炭素固定において重要な還元力を除去してしまうのを避けるためにクロロビウムはこのような二酸化炭素固定を行い、偏性嫌気性細菌であると考られる。

A:これは、着目点もよいですし、論理展開も途中までは良いのですが、全体として考えると、やや腑に落ちません。クロロビウムは酸素のない環境で生きている生物なので、逆にルビスコを持っていたとしても問題ない気がしますが・・・


Q:今回の講義は、CAM植物の代謝についてが中心であった。CAM植物も前回講義で扱ったC4植物も乾燥条件への対応策である。講義の中でC3型の代謝とC4型の代謝を行き来する植物の例(Eleocharis vivipara)が紹介された。また、講義後に水生CAM植物(I.howellii)という生物が存在することを知った。Eleocharis viviparaは気中部分ではC4、水中部分ではC3型の代謝である。「I.howelliiは気中部分ではC3、水中部分ではCAM型の代謝をとる」(参照1)。ここで気になったのが、CAM型代謝の引き金が乾燥条件であるならば、I.howelliiは気中部分でCAM型代謝、水中部分でC3型代謝となるはずなのではないかということだ。しかし、I.howelliiは水中でCAM型をとっていることから、CAM型の引き金は、乾燥ではなく低CO2濃度(水中では拡散でCO2を取り込むため吸収速度はかなり遅いため)となっていると考えられる。一方Eleocharis viviparaは低CO2濃度の水中ではなく、気中でC4型をとっていることから、C4型の引き金は、低CO2濃度ではなく乾燥となっていると考えられる。全てのCAM植物やC4植物にこの論理が通用するとは思わないが、水陸にまたがる植物においては上の例より当てはまりそうだと考えた。上の例の二種は生育環境が異なるため、水中CO2濃度と栽培湿度を同じにして、二種を育てそれでも上記のそれぞれの代謝の形式をとれば、よりこの論理の可能性は高まるのではないかと考えた。
参考文献、1、光合成事典 http://photosyn.jp/pwiki/index.php?水生CAM植物 2017/12/22閲覧

A:よく考えていてよいと思います。ただし、光合成事典の最後の方の記述が本当は重要で、水中が低CO2だからCAMになるというよりは、水中のCO2濃度が昼間に低下する環境にいるからCAMになる、と考えるべきでしょう。この二つは全く異なることを意味しています。実際に、水中の無機炭素の濃度は、空気中と比べて低いと考える理由はありません。拡散が水中では限定されるのは確かですが、細胞層が二層までであれば、結局それほど気中の葉と変わらない可能性もあると思いますし。


Q:今回の講義ではCAM植物が主題であった。CAM植物は乾燥ストレスへの対策として、夜間に気孔を開いてCO2を取り込み濃縮して、昼間は気孔を閉じて夜間に濃縮したCO2利用して光合成を行う。ここで1つ疑問に思ったことがある。気孔を閉じてしまったら、光合成によって発生した酸素はどうしているのだろうか。以前の講義でルビスコは酸素とも反応することを教わった。通常、植物はルビスコの反応効率を下げて、CO2への選択性を高めることでこれに対処している。しかし前述のとおりCAM植物は光合成を行うたびに酸素を貯めこむことになるため、他の植物よりもルビスコのオキシゲナーゼ反応を起こす可能性が高い。CAM植物がこれに対しどのように対処しているのか考察しよう。光化学系Ⅱでの酸素発生はチラコイド内腔で起こるのに対し、ルビスコが関わるカルビン回路はストロマで起こる。すなわち、この段階では酸素とチラコイドは空間的に隔離されている。よって酸素をチラコイド内腔に留めておければ問題が解決しそうである。光合成を行う昼間の間は酸素を貯めこみ、気孔を開く夜間にそれらを放出するのではないだろうか?

A:目の付け所はいいですし、考え方も独自のものを持っていてよいと思います。ただ、酸素は非極性分子なので、生体膜の脂質二重層を通り抜けやすいので、チラコイド膜内腔に蓄積するのは難しいでしょうね。ルビスコの反応性は、酸素と二酸化炭素の競争反応で決まりますから、CAM植物の場合、二酸化炭素が潤沢に供給されているうちは酸素との反応性が抑えられるという面はあると思います。


Q:C4植物やCAM植物がリンゴ酸を光合成の過程で用いる際に特にCAM植物でリンゴ酸を液胞にためているということを学んだ。ここで、なぜわざわざpHが変化してしまうようなリンゴ酸で保存しておくのか疑問に思った。オキサロ酢酸のまま液胞に保存して反応を行う時にその都度リンゴ酸へ変換した方がpHの変化がせずに安定な反応が行えるのではないかと考えたからだ。これは、砂漠の気候から考えてみた。夜は寒くなり昼は暑くなる砂漠で夜は呼吸を発達させる必要があるように思う、逆に昼は蒸散などを防ぐことで水分の蒸発を防いでいる。このことからCAM植物はリンゴ酸を液胞に保存しているのではないかと考えた。

A:どうもロジックがわかりませんでした。温度とリンゴ酸はどのように関係するのでしょうか。