植物生理学II 第9回講義

炭素同化の仕組み

第9回の講義では、植物が二酸化炭素を有機物に固定して同化する仕組みについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:枯草菌はRubiscoに似たRLPを持つ。RLPを破壊しRubisco遺伝子を導入すると生育能を取り戻すことからRLPはRubiscoの先祖なのではないかと考えられている。このことをより強く示す方法を考察する。RLPからRubiscoへと進化に伴い変化したのであれば、それは硫黄代謝から炭素固定への変化を表していると考えられる。そこで枯草菌に系統が近い種の代謝酵素を調べ、アミノ酸配列がRLPとRubiscoの中間に値するような酵素を発見すれば、RLPがRubiscoに変化した根拠の一つになると考えられる。

A:実際には、まずRubiscoとアミノ酸配列が近い酵素をデータベースから集めて、その中の一部をRLPと名付けたのですから、配列だけの情報としては、すでにあったわけです。ただ、新しい生物を探索した場合には、そこに新しい中間酵素が見つかる可能性はあるかもしれませんね。


Q:講義内でケニアのC3,C4植物構成比グラフの紹介がありC4植物は土壌水分係数が低く、海抜の低い地域で多く存在する(C3植物は逆)と学んだ。ある海抜から存在比100のC4植物が一次的に減少し存在比0になるグラフである。存在比が一次的に減少する理由を海抜と測定場所(ケニア)に注目して考察する。海抜の低い地域では強光乾燥地域であるためCO2濃縮機能を持たないC3植物は生存できない。C4植物はCO2濃縮の際に中間産物として有機酸(ピルビン酸、リンゴ酸)が生じる。ケニアには捕食者(野生草食動物)が存在し有機酸に富むC4植物を捕食すると考えられる。ある海抜になるとC4植物の存在比が一次的に減少するが、これは野生草食動物の生息分布が関連しているのではないだろうか。海抜の高い地域に野生草食動物が存在しないと考えるとC4植物は捕食されないため生育しやすくなると考えられるが、そもそも海抜の高い地域では律速条件がCO2のC4植物は存在意味がなく、C3植物から系統分化していない可能性も考えられる。また、捕食を介した種子の散布が不可能となり存在できなくなる点も考えられる。

A:論理展開としては、最後になって複数の可能性を挙げていますが、これを最初に持ってきて、その可能性の中で、○○であることを考えると、この可能性が一番確からしい、という構成にした方がよいと思います。今の構成だと、考察をした後に、結局それは違うかもしれない、という感じに取れますから。


Q:授業では系統的にどの植物種でもC3→C4となり得るとのことであって、では具体的にどのようなメカニズムでそのような進化がなされているのかを考えてみた。C4植物では葉肉細胞と維管束鞘細胞におけるC4経路の発現がなされる。C3植物ではそのようなC4経路に特化した細胞群は見られず、維管束に柵状組織、海綿状組織が見られるだけである。ただ大切なのはある細胞(歯肉細胞)でPEPにCO2を固定し、オキサロ酢酸を生成後、他の細胞(維管束鞘細胞)でCO2が再放出し、カルビン・ベンソン回路に受け渡されるのであるから、この物質の流れは葉肉細胞、維管束鞘細胞に分化する以前であっても分業すれば代替可能である。「C4光合成回路に必要とされる酵素群をコードする遺伝子はC3植物にも存在する」…①とあるように、C3状態で何らかしらの遺伝子発現や突然変異によって初めにCO2を固定するという流れを作ったのではないだろうか。具体的にはC3植物での高温で乾燥に対する環境応答によって炭素固定不足を補うべく特定のDNAが常時発現するようになったのではないだろうか。
(参考文献)C3植物からC4植物への進化、野村美加、https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/36/2/36_2_89/_pdf

A:論理的に考察していますが、講義の中で紹介した事実を考えると、やや当たり前の論理に見えてしまいます。結論は遺伝子発現の変化に落ち着くわけですが、そうでない可能性として何があるのかを考え、それを論理展開の中で否定してから遺伝子発現の変化を持ち出せば、説得力のある論理展開になると思います。


Q:今回の講義でケニアにおいてC3植物は高地に多くC4植物は低地に多く生息しておりそのような住みわけが起こった原因としては土壌水分係数が考えられるという話があった。確かにそれも主な原因かもしれないがそれだけだろうか。高地と低地では気温や土壌条件、気圧など異なる環境条件が数多く考えられる。実験室など環境が安定した状態でその他の条件を均一にした状態で成長速度を比較することで初めてどの要因がどの程度影響しているかわかるのではないでしょうか。

A:それはその通りですが、それだけで終わってしまうとやや物足りないですね。たとえば、他の気象条件を考えた場合、その影響が現実に見られる影響と逆であれば、その要因は大きな影響を与えていない、といった考察をすることも可能でしょう。別に実験をする必要はないのですから、その分、頭を使った論理で少しでも可能性を狭めるような展開のレポートを目指してください。


Q:今回の講義ではルビスコが出てきた。ルビスコは二酸化炭素固定酵素であるが、酸素があると酸素と反応して光呼吸を行ってしまうということであった。大気中に二酸化炭素が多かった時代に、植物は光合成を多く行う。それにより、大気中の酸素濃度が高くなり、光呼吸を多く行ってしまう。これを改善するために、C4植物やCAM植物といった二酸化炭素を濃縮し、ルビスコの周りの二酸化炭素濃度を高めることで光呼吸の影響を軽減する植物が登場した。そこで私は、このような画期的なシステムを思いついたのに、なぜ未だにC3植物の方が多く存在しているのかと疑問に思った。C4植物は強い光が必要であるため、光強度の弱いところでは生存に不利だということが考えられるが、それであれば、光強度の強いとところは全てC4植物でもいいのではないか。そこで、この理由のほかに、ある程度光呼吸をすることで、活性酸素の発生を防ぎ、植物に与えるダメージをなくそうとしていると考えられる。つまり、光呼吸を完全に止めてしまっては逆に植物にとって悪影響であり、現時点でC3植物の方が多くの割合を占めていることから、光呼吸が植物に与えるメリットのほうが大きいのだと考えられる。

A:内容は良いのですが、基本的に講義の中で紹介した内容の枠の中に納まっていますので、意外感がありませんね。もう少し、新しい展開が欲しいところです。


Q:今回の講義では、カルビンベンソン回路における二酸化炭素固定反応とRuBPの再生反応や、RubisCOの構造と機能について学んだ。その中で、葉緑体内で起きている「暗反応」と呼ばれていた反応は、実は光を受容しないければ始まらないということを知った。しかし、なぜ光化学系Ⅰに存在しているフェレドキシンがチオレドキシンを還元型にして標的酵素を還元し活性型にする、というチラコイド内膜とカルビンベンソン回路に繋がりを持たせているのかと疑問に思った。つまり、この連続性がなく炭酸同化と光受容が別々であれば光の当たっている時間に制限されず光合成の過程を効率よく行えるのではないかと考えた。しかし、この葉緑体という一種の閉じた系においてATPおよびNADPHの生成は光を受容することでしか行われず、光が当たっていない時間にカルビンベンソン回路が働いたとしても、光の当たっている時間にATPおよびNADPHの多くを消費してしまうため、結局カルビンベンソン回路は光の無い時間には止まってしまうことが考えられる。では、カルビンベンソン回路に関与している酵素量を減らし日の当たっている時間に多くのATPおよびNADPHを消費しないようにしてみるのはどうだろうか。これにより日の当たっていない時間もカルビンベンソン回路を回すことができる。しかし、光の励起により電子を持ちエネルギーの高くなった分子が葉緑体内に蓄積することが考えられる。すると起きてほしくない還元反応が起きてしまう。これらのことから、光化学反応とカルビンベンソン回路に連続性があることはある意味当たり前であり最も効率的に炭酸同化を行う方法であると考えられる。

A:これも内容は良いと思います。ただ、「ある意味当たり前」と書かれているように、意外性のない結論になっています。欲を言えば、自分でなければ考え付かない奇抜なアイデアが欲しいところです。


Q:今回の講義は、炭素固定におけるルビスコの特徴や反応、C4植物の反応について学んだ。講義の中で、C4植物は中生代~新生代第三期にかけての大気中のCO2濃度の低下が無視できなくなり誕生したというお話があった。しかし、中生代より前の石炭紀でもCO2濃度は現在のCO2濃度と近い値(中生代頃のCO2濃度よりはるかに小さい値)まで減少しているのになぜC4植物は誕生しなかったのかと疑問に思ったので、それについて考察する。CO2濃度の低下が無視できなくなるというのは、CO2濃度が光合成の反応を律速し、生存可能な光合成を行えないくらいに律速するということだ。つまり、石炭紀では大気中のCO2濃度は低下していたが、CO2濃度は植物が充分生存可能な程度の光合成反応の律速条件だったと考えられる。その理由として、石炭紀の環境条件から以下の三つの理由を考えた。石炭紀は気温が高く(条件①)、湿潤(条件②)で、酸素濃度が非常に大きい(条件③)環境であった。条件①により、炭素固定の酵素反応速度が非常に大きかった。条件②により、気孔の閉度が小さく、CO2吸収速度も大きかった。条件③により、カルビンベンソン回路を阻害する2ホスホグリコール酸を分解する光呼吸を盛んに行うことができた(その分ATPを無駄に消費してしまうが、前二つの理由でATPはそれを上回るほど大量に生成されていたと考えた)。以上三つの理由で、CO2濃度の光合成反応の律速を軽減し、石炭紀ではCO2濃度の低下を乗り越えることができたのではないかと考えた。

A:これは、読師の視点を持ち込んでいて評価できます。3つの条件のうち、2番目の条件が非常に大きいようには思いますが、その他の条件についてもきちんと考えることは重要でしょう。


Q:光呼吸について、これはRubiscoの出来が悪いから起こるのではないか、しかし改良はうまくいっていないという話が講義の中であった。私は、Rubiscoの出来が悪いというよりも、現在の地球の環境が植物にとって想定外だったのではないかと考えた。例えば人間が海の中で暮らすようになったとして、おそらくエラはできたり水から酸素を得ることはできないと思う。同じように、植物が陸上に進出した時の環境と現在の環境は異なるので、光呼吸はせめてもの対応策であり、RubisCO自体の改良はやはりできないのではと考えられる。

A:これも内容は良いと思います。人間の鰓の例も適切でよいと思いますが、結論はやや想定内ですね。


Q:今回の講義で、チオレドキシンによる酵素の光活性化の話があった。フェレドキシンがチオレドキシンを還元し、還元されたチオレドキシンが標的酵素のs-s結合を還元することで酵素が活性化される。しかしフェレドキシンはNADP+をNADPHに還元する役割も持っている。カルビン回路を回すのに必要となる酵素とNADPHの両者が、フェレドキシンという1つの還元剤に依存しているのは効率的ではないと個人的には思う。なぜ効率を低下させてでも酵素の活性を制御するのだろうか、常に活性を持った状態では駄目なのだろうか。活性を制御するからには暗所で酵素が働くと不都合なことがあるのだろう。暗所ではNADPHやATPの合成がされないため、カルビン回路はこれらが必要となる段階で停止する。それにもかかわらず酵素が働き続け炭素化合物を合成し続けると、NADPHやATPが必要となる手前の化合物が蓄積することとなる。使われない物質の合成は無駄であるし、それらの蓄積によって浸透圧の上昇など生体環境の変化も起こりかねない。ゆえに植物は暗所では酵素を不活性化し、カルビン回路を回すことのできる光照射下でのみ酵素を活性化させる機構を備えているのではないだろうか。

A:考え方はよいと思います。フェレドキシンがNADP+の還元と、レドックス制御の両方に関わると効率が低下するかどうかについては、NADP+の還元が代謝の中で量的に大きな反応であるのに対して、レドックス制御はシグナルとして酸化還元状態をモニターするだけですから、お互いにバッティングはあまりしないのかもしれません。不活性化させる意味については、酵素は逆反応も触媒することを頭に置いておいた方がよいでしょう。ATP合成酵素は夜間はATP分解酵素として働く可能性も当然あるわけです。


Q:今回の講義では、ルビスコについて学習した。また、枯草菌の持つRLPは、破壊されると枯草菌の生育能は失われるが、そこにルビスコを導入することで生育能を取り戻すことから、RLPはルビスコの祖先である可能性があるというのは、特に興味深く感じた。そこで今回は、RLPとルビスコの関係から、生育能の補助について考察してみようと思う。RLPとルビスコは、触媒活性部位のアミノ酸が19個中11個共通していることがわかった。さらに、これらの2つは立体構造において高い類似性を示すことがわかった。(1)ルビスコが、本来RLPをもつ枯草菌の生育能を補えるのはこの立体構造の類似性によるものであると考えられる。なぜなら、反応についてはRLPとルビスコでそれぞれ、硫黄代謝、炭素固定というように異なった役割を果たしているからだ。では、立体構造のような共通点によりルビスコが枯草菌の生育能を補っているとしたら、逆の場合(RLPにより植物の生育能を補う)も成り立つのではないだろうか。それについてはNOであると予想する。なぜなら、立体構造が特に重要でそれによりRLPでも炭素固定を行えるのであれば、そもそもルビスコなんて持つ必要はない(ルビスコに進化する必要がない)と考えたからだ。よって、RLPで行われる反応は主に構造が重要であり、ルビスコで補うこともできるが、ルビスコで行われる反応は構造以外にも重要な要素があるためRLPでは補うことはできないと考えられる。
参考:https://library.naist.jp/mylimedio/dllimedio/showpdf2.cgi/DLPDFR007791_P1-64

A:論理的に考えていてよいと思います。講義を直接踏まえた内容ですが、全く触れなかった逆の場合の話を取りあげていて独自性も出せていると思います。


Q:カルビンベンソン回路で使われるルビスコが葉緑体のなかで4分の1を占めるということに驚いた。PEPカルボキシラーゼなどはルビスコよりも反応性が高く少ない量で使用されるが、ルビスコがなぜ多量で作用し速度が遅い酵素なのかについて疑問に思った。授業では速度が遅いために量が必要なのかもしれないとのことだが、自分は葉緑体は植物のとって大切な構造であるため、多少ダメージを受けたりしたときにルビスコが枯渇しないように量が多いのではないかと思う。また速度が遅いこともゆっくり反応させることでルビスコへの負担が少なくルビスコがいかに大事な物質かを表しているのだと思う。

A:少し表現が感覚的ですね。悪くはないのですが、例えば、枯渇しないために多量に持つことのメリットとデメリットを比較するという観点が不足していますし、「ゆっくりはんのうさせる」と「負担が少ない」という点も、感覚的にはそのような気がしますが、実際の酵素の反応として考えたときに何が起こっているのかと結びつきません。求められているのはエッセイではないので、もう少しカチッと考えて書けるとよいと思います。