植物生理学II 第6回講義

光合成色素の多様性

第6回の講義では、光合成のための光捕集に働く色素と、その光捕集を効率化する構造について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では葉の表裏の濃淡について、その影響が柵上組織と海綿状組織の密度の違いによって引き起こされる光の屈折現象であると学んだ。植物は一度通り抜けた光が葉の内部で全反射することによって通過した光を再利用していると考えられる。ここで可視光の屈折率をみると青側の光が最も屈折率が高く、赤側の光が最も屈折率が小さい。このことからクロロフィルが選択的に青色の光を多く利用することは、青色の光が最も全反射が起きやすいからであり、植物が透過した光を反射によって再利用している一つの根拠になりえる。

A:「クロロフィルが選択的に青色の光を多く利用することは」という前提に疑問符が付きます。講義で何度も触れたように、クロロフィルの吸収が大きいのは、青い光領域と赤い光領域です。赤い光は、可視光の中で、今度は最も屈折率が小さいわけですから、話が合わなくなりませんか。


Q:植物の葉の裏表における構造の違いについて、柵状組織が光を通し、海綿状組織でその光を乱反射するためのものであるとするならば、その分化は非常に興味深い。なぜならば、木部側である葉の表側は茎において内側であり、師部側である葉の裏側は、茎においてその外側であるからだ。中学校の教科書の写真を見る限り、茎の外側は葉における海綿状組織のような状態にはなっておらず、茎の内側は葉の柵状組織のように規則正しく細胞が並んでいる印象は受けない。茎から葉が生える過程において、扁平な形態を形作る以外に、何らかの分化が起こっていることは確実である。さらに、イネ科の植物のように葉が細長く縦につく植物については裏表の差があまり無いということから、茎から出た葉を広くする過程で、葉の裏表に柵状組織と海綿状組織という二つの組織構造を分化させているのかもしれない。また、授業の中で取り上げられた葉の表皮に存在する穴については仮導管あたりがその形態を生かしていそうである。

A:考える材料は集めた感じですが、そこからの論理展開はあまり感じられませんね。仮説でもよいので、二種類の組織をどうやって分化させるのかを議論してほしい気がします。


Q:今回の授業では陸上植物は緑色の光も7割近く吸収しているということを学んだ。そこでさらに緑色光を吸収する方法を考えてみる。海綿状組織で散乱されてもクロロフィルに吸収されなかった光は表皮細胞から外に漏れてしまう。そこで葉の表皮細胞でさらに内側に反射させて外に漏れないようにすればいいのではないかと考えた。実際にそうした光を反射させる構造を持っている植物はいないか調べてみると、ビゼンナリヒラという笹、スイセンノウという種は葉の裏に白い毛を多く生やしている。裏だけに生えているのは葉の表では入射光も反射してしまうためだと考えられる。そうすることで光を内側に反射させ、吸収効率を高めているのではないだろうか。このことを検証するにはこれらの植物と葉の裏に毛の生えていない植物の、葉の吸光度を測定しスペクトルを比較すればよいと考えられる。
参考文献:一般社団法人 日本植物生理学会、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1742

A:「独創的な」という感じはあまりしませんが、問題設定→仮説→検証実験の提案、という形をとっていて、ある程度の論理展開がなされています。欲を言えば、もう少し、自分なりのロジックが欲しいところではあります。


Q:インフィルトレーションした葉は表裏の色の差がなくなる。細胞間が液体の場合、分子の拡散速度が気体の場合と比べ約10000分の1となり、二酸化炭素の吸収率が下がる。このようなデメリットが存在するが、細胞間を液体にした場合のメリットはないか考える。液体は地球上で一番多く存在する水で話を進め、この水の特徴に注目して考察する。水は、①比熱が高い②気化熱および融解熱が高い③固体(氷)が液体(水)に浮く、といった他の液体には見られない特徴が存在する。①から温まりにくく冷めにくい性質を持ち、②から蒸発しにくく凍りにくい性質を持つことが分かる。液体状態の水が失われにくいことから、周りの環境の変化の影響を受けにくく(受けにくいとは言い切ることはできないが、影響を最小限にとどめられる)、その個体の生体内での変化が少ないと考えられる。また、これは水中での話になるが、③から水の表面が凍ったとしても、その下の環境は液体の水であるので植物も生育できると考えられる。細胞間が水の植物は二酸化炭素吸収の低下により光合成効率が低下するが、①~③の特徴から考えられるメリットより、環境の変化を受けにくく生命力が高いと考えられる。つまり、細胞間が水の植物は『成長』という面を引き換えに『生存』という面では細胞間が気体の植物を上回るのではないだろうか。

A:これは、今までにあまり見たことのない議論で、独自性があってよいと思います。全体の構成も、きちんと論理的に考えられていて、評価できます。


Q:葉は緑色に見えるのは、緑色の光を葉が反射しているためであるが、しかし根本的に光合成に際してどうして緑色の光を吸収しないのだろうか?最も光の吸収率の表を見ても70%は吸収されるのだが、やはり光合成色素の吸収スペクトルで波長500nm付近には光合成色素が存在しない。「太陽の光は緑色が最も豊富にふくまれる」…①とあるように、光合成の効率を考えたら緑色の光を用いるのが理にかなっている。考えられることとして緑色の光を使ってしまうと光合成色素が光化学系を一回動かす際に受け取るエネルギーが多すぎてしまうのでちょうど良いエネルギー量にするために緑の光を避けたことが考えられる。受け取るエネルギーが多すぎると光化学系を動かすための化学エネルギーの他に多量の熱エネルギーと移行し、光合成機構をつかさどるRubiscoなどのたんぱく質を変性させてしまうのではないだろうか。
(参考文献)①光合成、東京海洋大学、動力エネルギー工学研究室、http://www2.kaiyodai.ac.jp/~takamasa/kogosei/kogosei.html

A:もし、エネルギーが多すぎるのであるのが問題ならば、単に色素の量を減らせばよいのではないでしょうか。そうすれば、色素を合成する手間もそれだけ必要なくなりますし。もう少し、考える作業が欲しいと思います。


Q:講義で葉の下側に海綿状組織を作ると上から入った光が乱反射され光路長が伸びるという話を扱った際現在柵状組織が存在する部分も海綿状組織にすればより光路長が伸び光合成効率が良くなるのではないかと思った。この進化の歴史においてそのような変異体が存在した可能性も有意に考えられる。しかし実際には柵状組織というものが存在しているということはその方が全部海綿状組織にするより光合成効率が良くなるということである。その理由について考察してみた。まず全部海綿状組織の場合光は葉に入った瞬間から乱反射することになり細胞の位置によってはすぐ葉の外に出てしまうことも考えられる。他にはそもそも海綿状組織の方が柵状組織に比べて細胞数が少なく葉緑体量に差が生じると考えられる。以上の仮説を実証するためには何らかの方法で生きたまま柵状組織の一部を破壊した葉と通常の葉の光合成効率を比較する必要がある。

A:この点は、講義の中でかなり丁寧に説明した部分だと思います。まずは、レポートを書く以前の問題として、きちんと講義を聞くことが必要でしょう。


Q:今回の講義の中で私は、クロロフィルを持つ魚であるオオクチホシエソについて興味を抱いた。一般的な深海魚は青白い光を発光して獲物を捕まえたりしています。しかし、この魚は赤外線照射装置と赤外線感知システムを持っています。赤外線のような波長の長い光は深海では吸収されてしまい見えません。また、深海魚は赤い光を感知することができません。そのため、獲物に気づかれることなく捕食することができます。ここで、疑問に感じたことは、赤色の光は深海では吸収されてしまうのであれば、オオクチホシエソが照射した赤外線も吸収されてしまい、使い物にならないのではないかということです。ですが、事実、赤外線を用いて捕食をしているので、なぜできるのかを考えました。一つは、赤外線の強度が非常に強く、深海中でも吸収量以上の赤外線を発して、他の魚を感知しているのではないかということです。また、もう一つは、赤外線の強さはそれほど強くはなく、光の届く範囲も小さいが、他の魚は赤外線を感知することはできないので、至近距離まで近づいても気づかれないのではないかということです。このようにほかの魚が赤外線を感知できないことを利用してギリギリまで近づくことで捕食できるのではないかと思いました。
http://chikyu-to-umi.com/kaito/ookuchi.htm

A:これは、まあまあ論理的に考えているようです。ただ、地球のエネルギー収支を話した時に、赤外領域の光というのはかなり幅が広く、そこに二酸化炭素や水蒸気の吸収によるピークがたくさんある図を紹介したと思います。つまり、一般に水が赤外線を吸収するとしても、その波長によって吸収が大きいところと小さいところがあるということになります。つまり、第三の可能性として、魚は水の吸収が小さい波長領域の赤外線を使っていることが考えられます。できたら、レポートに際しては、その回の講義だけでなく、以前の講義などで得た知識も含めて議論することが望まれます。


Q:今回の講義ではフィコビリンの種類や構造、特性や、クロロフィル・カロテノイド・フィコビリンの構造上の共通点からなぜ弱いエネルギーである可視光でそれらが励起されるのかなどを学んだ。さらに、クロロフィルの合成分解経路を学び、クロロフィルに含まれている窒素は再利用されずに落葉として土壌に還元されていることを知った。そこでなぜ細胞内に分解酵素を持ち窒素の再利用を行わないのかと疑問に感じたため考察する。そこで11月6日の授業でクロロフィルは遊離状態にあると活性酸素などを生産し細胞死を誘発するなどの危険があり、そのためタンパク質と配位結合を形成していると学んだことを思い出した。分解経路においても、クロロフィルがクロリン環を持っている間は光の励起を受けると考えられ、さらに分解酵素による分解が行われると電位の変化でタンパク質との配位結合が無くなり、遊離した分解途中のクロロフィルが生まれてしまい多量の活性酸素が生成され組織に大きな被害が出ると考えられる。その危険を避けるためにクロロフィルから窒素の回収を行わず、あえて枯れ葉とともに土壌に返すことで土壌中の分解者に分解を任せ、安全に窒素を吸収していると考えられる。

A:きちんと考えていてよいと思います。ただ、これだと、なぜ途中までは分解するのか、という疑問が生じます。途中までは分解する以上、そこまで分解した方が活性酸素の生成などが抑えられるのではないかと考えるのが自然かもしれません。そのあたりの考察がもう少し欲しいところですね。


Q:今回の授業では、藻類の多様な色素と水中の光環境の関係について学んだ。講義の中で、フィコビリン合成はクロロフィル合成経路と途中まで同じ経路であるというお話があった。そこで、フィコビリンとクロロフィルaの両方を持つ紅藻の、その2つの色素の割合について考察してみる。同じ種の紅藻といっても生息している水深や、水中の透明度(プランクトンの量の違いなど)は異なっており、その違いは紅藻が受け取る光の波長に影響が現れるはずだ。紅藻は、青と緑の波長の光を使って光合成しているが、その青、緑の波長の光の割合も様々のはずである。そこで、主に青い光を吸収するクロロフィルaと、緑の光を吸収するフィコビリンの割合を光の割合に合わせて調節できれば光合成効率は上がると考えられるし、またその調節は合成経路が同じであるクロロフィルaとフィコビリンなら、フィコビリン→クロロフィルaの反応に関わる酵素を調節するという仕組みで案外簡単に行われているのではないかと考えた。これを確かめるには、青と緑の光の波長の割合を変えて育成した紅藻個体の2つの色素の割合に変動があるか確かめれば良いだろう。

A:注目点は良いと思います。「紅藻は、青と緑の波長の光を使って」という部分は、紅藻が赤いからということだと思いますが、多くの紅藻は、見た目はかなり黒っぽく見えます。仮説の立て方もよいと思いますが、仮説が「酵素を調節することで案外簡単に行われている」なのであれば、色素の割合が変わることを確かめるだけでは不十分で、酵素量、もしくは酵素遺伝子の発現量を調べる必要があるのではないかと思います。


Q:柵状組織と海綿状組織について。光は、葉の表にある柵状組織を透過し、葉の裏にある海綿状組織で屈折・反射する。反射することで光の吸収効率が高められる、と講義で扱った。さて、陽葉は陰葉に比べて厚みがある。これは、柵状組織が陰葉のそれと比べて発達しているからである。ここで、陽/陰葉のそれぞれが2種類の組織からなるメリットはあるのだろうかと考えた。陽葉は光がよく当たるところにあるため、光合成が効率よく行えるように柵状組織が発達している。では、海綿状組織はいらないのではないかというとそうではないと思う。細胞間隙での気体の出入り以外に、光の吸収においても海綿状組織の存在は陽葉にとって重要であると考えた。例えば光量が強い時、柵状組織だけで光合成を行うよりも、一度柵状組織を透過させて弱めた光を海綿状組織で反射して光合成に利用したほうが効率がいいのではないか。一方、日当たりの悪いところで見られる陰葉にも柵状組織は必要である理由として、柵状組織は細胞間が密着しているので葉の強度が上がるということ、陰葉であっても届いた光はまず直接吸収しようとするからではないかと考えた。

A:これも、考えようとする姿勢は感じられますね。最後の「陰葉であっても届いた光はまず直接吸収しようとするから」は、あまり理由になっていませんね。「しようとする」のは勝手な意図に聞こえますから、「まず直接吸収した方が効率がよくなる」という点を説明すべきでしょう。


Q:今回の講義で、葉の柵状組織が光ファイバーのように光を内部に誘導し、海綿状組織で乱反射させることで実際の葉の厚みの何倍もの光路長を持つことができるという話があった。光路長を長くとりたいならば葉を厚くするのが最も簡単である。しかし現実には薄い葉を持つ方が圧倒的多数である。そこで、なぜ植物が薄い葉にこだわるのか考察することにした。まず1つ目は光合成の効率化のためだろう。葉を厚くし多くの光を吸収したところで、光合成のための二酸化炭素の供給が十分でなければ意味がない。二酸化炭素の拡散速度に比べると光の速度の方が圧倒的に速いため、葉の中心部への二酸化炭素の供給が大幅に遅れるはずである。光エネルギーの獲得と二酸化炭素の吸収が協調的に起こって初めて効率的な光合成と言えるだろう。2つ目は葉の占有体積の問題である。葉が厚いと占有体積が大きくなるため、葉同士が干渉しあって多くの葉を付けるのが難しくなる。限られた空間内で多くの葉を持つためには薄い葉の方が優れていると考えられる。以上2つの理由が薄い葉の利点として挙げられる。2つ目の内容も結局は光合成の効率化に帰着できる。植物の構造というのは光合成によって支配されていると考えられる。

A:これも、眼の付け所は良いと思います。ただ、植物生理学的には、あと2つぐらい理由を考えてほしいところです。1つは葉をつくるコストの問題。葉の厚みを増しても、増えた下側では光がごく弱いでしょうから、稼ぎはそれほどないはずです。厚い葉をつくるには、それだけのエネルギーを投入する必要があるでしょうから、その少ない稼ぎよりも葉をつくるコストの方が大きければ、葉を厚くする意味がありません。また、維持コストの問題もあります。葉も呼吸をしますから、葉を維持するためだけに一定のコストがかかります。光が弱いところの葉では、そもそも呼吸による維持コストを稼ぎが下回ってしまうかもしれません。もう1つは多様性の問題。植物の種類によって、葉の厚みはさまざまです。とすれば、植物の葉の厚みと、その植物が生育する環境を関連して考えれば、どのような厚みを葉にした時に特定の環境下で最も有利になるかを明らかにすることができるでしょう。レポートのない世だけだと、葉は薄ければ薄いほどメリットがあるように聞こえてしまいますが、実際にはそうではないわけですから。


Q:2年次の「植物形態学実験」の授業で、アヤメの葉の断面を観察したことがある。この時、アヤメの葉の表面付近では両面に維管束があり、そのどれにおいても木部が葉の内側を向いていたこと、気孔の数の違いが小さかったこと、葉の中心に表皮のようなものがあったことから、2枚の葉が内側に折りたたまれて、結果的に両面ともに裏側の特徴をもつ単面葉になったという考察※を行った。今回の講義では、植物の葉は表側には柵状組織、裏側には海綿状組織というような細胞の配置によって表裏の色に違いが生じることを学んだ。海綿状組織では、表面積が大きいことにより光の乱反射が起こるが、この場合両面とも裏面の特徴を持つアヤメの葉では、光を十分に吸収できず、光合成を行う上で都合が悪いのではないかと考えた。そこで、アヤメの細胞配置について調べたところ、葉の表裏には柵状組織が分布し、中央に海綿状組織がある(1)ことがわかった。つまり、上記の※の考察が正しかったとすると、どこかで柵状組織と海綿状組織における細胞配置の逆転が起こったことになる。そこで、私は柵状組織と海綿状組織の細胞の違いは、単に細胞の構造と細胞同士の密度の違いによるものであり、これらは入射する光の強さによって互いに変わり得るものなのではないかと考えた。すなわち、アヤメの場合には細胞の配置が入れ替わったのではなく、海綿状組織だったものが柵状組織に、柵状組織だったものが海綿状組織になったといえる。これを証明するための実験として、葉の裏に光を当てながら植物を育て、葉の細胞の配置を観察するというものを考えたが、これだと植物は光の方向に曲がってきてしまうことが予想される。よって、今回考察した組織の変化はアヤメのような特殊な葉でのみ起こり得るのではないだろうか。
参考1:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/leaf3.html (2017/11/18)

A:これも、目の付け所がよいと思います。ただ、「表」「裏」の使い方が、場所によって異なる(最初の方では「両面ともに裏側」、後ろでは「表裏には柵状組織」)ので、ちょっと読みづらいですね。垂直な葉の場合、どちらが表でどちらが裏ということもないように思いますし。植物生理学Iの講義で話したように、そのような時のために、向軸側、背軸側という言葉があります。


Q:陸上植物がフィコビリンではなくなぜクロロフィルを持つようになったのだろうか?フィコビリンとクロロフィルの構造の違いはクロロフィルが環構造を持っていることにある。つまり、クロロフィルは分子的に安定であるがフィコビリンは分子的に不安定である。直射日光があたるような陸上植物では構造を不安定化させる紫外線などが多量に触れる可能性がある。これらの理由から陸上植物はフィコビリンをもたずクロロフィルを持つようになったのだと考える。

A:これだけだと、自分の考えを追っているだけなので、それが正しいのか、間違っているのか、判断のしようがありません。サイエンスのレポートですから、単に自分の考えを述べるだけでは不十分です。何からの形で、自分の主張を相手に納得させるような文章にする必要があるでしょう。