植物生理学II 第2回講義

光合成研究の意義

第2回の講義では、光合成を研究することの意義を、光合成の地球生態系に対するインパクトや、人間生活における役割などから解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では地球温暖化が二酸化炭素濃度の上昇が原因であると断定することは難しいという話があった。このことについて検討してみる。CO2濃度と気温の変化をみてみると、どちらも上昇傾向にあることがわかる。しかし、細かく見てみると必ずしもCO2濃度の上昇と気温の上昇が同時期におきているわけではない。このことから気温はCO2だけで決まるわけではなく、他の要因も絡んでいることがわかる。ただしCO2に温室効果があることが確かならば、地球温暖化の要因の一つにはなっていると断定できると考えられる。
参考文献:気象庁ホームページ、http://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/tour/tour_a1.html#change

A:「ただし」以下は、あまり科学的ではありませんね。もし、CO2の温室効果による地球の気温上昇幅が0.01℃だったとして、実際に観察された気温上昇幅が1℃だとしたら、地球温暖化の要因の一つとは言えませんよね。大きく変動する値の中の1%の変化を原因とは呼べないでしょう。きちんと定量的に考えることが必要です。


Q:二酸化炭素濃度が高くなると温暖化が進行するという因果関係はないという。しかし、自分はやはり二酸化炭素増加により温暖化が進行する意見は正しいと考える。二酸化炭素濃度を減らす場合、排出を小さくする場合と、今存在する二酸化炭素を少なくする2点に分かれる。ここで、二酸化炭素増加を防ぐため、今存在する二酸化炭素を少なくする点に注目する。この機構は植物の光合成にあたるが、植物だけの力では歯止めが効いていないので、人工光合成装置のようなものが開発されると温暖化を食い止めることができるのではないかと考える。複雑な植物の生体内の反応を機械で行うのは難しいが、色々な光を照射し、反応しやすいものを選択すると、再現できるのではないかと考える。しかしエネルギー効率やコストの面での大きなデメリットがあるのだろう。コストの面はどうしようもないが、エネルギー効率が低い面については水と二酸化炭素は膨大に存在するので前向きになるべきだ。

A:「因果関係はない」などとは言っていませんよ。講義でしゃべったのは、相関関係から因果関係を導くのは難しい、ということです。後半は、何やらぼんやりとした文章ですね。もう少し、論理構成をしっかりした文章を書くように努力しましょう。


Q:さて今回は初回ということもあり光合成やエネルギーの流れについて俯瞰したが、その中で植物は光合成において赤外線を用いらず可視光を主に吸収するとのことであった。ところが「赤外線で光合成することができるクロロフィルdが世界中の海、湖に存在しているという。」…(1)確かに太陽光からの光エネルギーとして可視光は最もエネルギーが強いが、黒体輻射として赤外線を地球は放出していることも考慮すると、赤外線を光合成に利用できなくはないはずである。そこでなぜ光合成細菌はクロロフィルdを含むのに植物はクロロフィルdを含まないのだろうか、という疑問が生まれたので考察してみる。光合成細菌がクロロフィルdを含む理由として、夕焼けの原理が関係していると思う。夕焼けは空気の層を通る際に波長の短い青色の光は散乱してしまうが、波長の短い赤色の光は散乱しにくく通り抜けることで空が赤く見える。つまり空気層から水層に光が通る際、あるいは前に青色の光は散乱してエネルギーが小さくなっているのに対し赤外線は散乱せずエネルギーを保持して水中を通ることから光合成生物が利用する理由になっていると思う。また植物がなぜクロロフィルdを含まないのかについてだがまず太陽光を光合成に利用するとすれば、赤外線はほとんど含まれていないので無駄になること。地球からの黒体輻射を利用することもできるがクロロフィルdを含む光化学系を別に組み立てるのは効率が悪いからであろう。今気付いたことだが、地球放射は遠赤外線であってクロロフィルdすら利用できない。ではその遠赤外線を吸収する光合成色素が例えば葉の裏に多く存在してもいいはずであるが存在しない理由としては、太陽光と比べてまずエネルギー的に20倍近く劣っているために利用するのは非効率だからであろう。
(1)「赤外線で光合成」世界の海でCO2吸収量に影響も、http://www.asahi.com/eco/TKY200807310272.html

A:散乱の部分までは、きちんと考えていてよいと思います。最後の部分は、少し論理が前後していますね。もう少し整理できるでしょう。また、エネルギーについて「劣る」という表現はあまり科学的でないように思います。「非効率」という部分も、世間話であれば問題ありませんが、科学的なレポートで効率を議論する際には、使われるものが何であって、生み出されるものが何なのかをはっきりする必要があります。この場合、もし、もともと入射するエネルギーが少ないことが原因なのであれば、結果として変換されるエネルギーは少なくても、別に効率が低いことにはなりません。


Q:今回の講義では、植物の光合成がすべての生物の存在を支えているということを学んだ。今突然植物がいなくなり、光合成が行われなくなったら、食べるものが動物に絞れるため、動物同士で殺し合いが起き、多くの種が絶滅すると考えられる。また、最終的には酸素は底をついて動物は呼吸できなくなり、全ての呼吸に頼っている動物が生きていけなくなると考えられる。ここで私は、初めから、光合成を行う生物が誕生していなかったらどうなっていたのかと疑問に思った。光合成が行われない世界は当然酸素が発生しないため、地上で呼吸をすることができないため、酸素を用いて有機物を作ることができない。また、地球上に降り注ぐ紫外線を防ぐオゾン層が作られないため、地上での生活は厳しい。結果、生活拠点を水中にする生物が大半を占めたのではないかと考えられる。

A:うーん。そもそも始めから光合成を行う生物がいなかった場合、エネルギー源は何になるのでしょうか?オゾン層以前の問題として、どうやって生きていくかをまず考えなければならないでしょう。


Q:今回の講義中に地球温暖化の原因は果たしてCO2濃度の増加なのかという話があった。大気中のCO2は地球放射の特定の波長の赤外線を吸収することで、温室効果を生んでいるということであった。しかし太陽のエネルギーは非常に薄い、単位面積当たりでみると非常に小さいのに、その薄いエネルギーの一部分(特定の波長)のみをCO2が吸収しているのだから、さほど影響はないのではないかと考えた。

A:だいぶ話がごっちゃになっていますね。そもそも、CO2が吸収するのは、太陽エネルギーではなく、地球の放射です。また、放射エネルギーのうちの割合が重要なのではなく、吸収されずに宇宙空間へ逃げている光のうち、どれだけがCO2に吸収されるのか重要です。もう少し、事実と意見をきちんと整理してから、レポートを書き始めるようにしましょう。


Q:講義の中で、自然環境においてエントロピーは増大する方向に向かうという話があった。しかし、植物単体で考えると必ずしもそうではないのではないかと気になった。熱の移動について、従属栄養生物であるヒトなどは、熱を摂食によって外部から取り入れ、呼吸や排泄などによって外部へと排出する。植物においても、光合成によって外部から取り入れ、呼吸などによって外部へと排出する。ただ、光さえあれば光合成の方が呼吸よりも活発に行われるため、特にCO2排出という点に着目してみると、エントロピーはむしろ減少する方向に動いているとも言えるのではないか。この現象を説明するために、植物体も、動物よりは小さいものの熱エネルギーを発しているのではないかという仮定を立ててみる。実験系として、熱を遮断した透明な容器に滅菌した植物体と水を入れ、得られた熱エネルギーから日光由来の熱エネルギーを引けば、それが植物体の発する熱エネルギーであると考えられる。

A:これも、熱とエネルギーが混同されているような気がします。植物は光を吸収しているわけですから、エネルギーが取り込まれるはずです。一方で、もしエネルギーが出ていかなければ、植物体の温度はどんどん上がっていくはずです。そうならない以上、植物も何らかの形で放出していることがわかります。これは、講義で、地球について言ったことと全く同じですよね。


Q:今回の講義では光合成のエネルギー源である太陽エネルギーの話が中心であった。その中で太陽から放射される光の中で最も放射量が多いのは緑色の光であるという話があった。これは植物は光合成に緑色の光をほとんど利用しないことに矛盾するように感じる。しかし、植物誕生から数十億年ものあいだ自然淘汰が繰り返されても現代にこのルールが残っていることから何か特別な意味があるのではないかと思い考察することにした。そこで考え付いたのは必要になる光合成色素の問題である。光のエネルギーは波長に依存するため単位放射量あたりのエネルギーでは青色のような短波長の光に軍配が上がる。緑色の光は確かに放射量は多いが、それを最大限利用するにはその光をしっかりと吸収してやらなければならない。そのためには大量の光合成色素が必要となる。一方で、少ない量で大きなエネルギーを持つ短波長の光ならば少ない光合成色素でも十分なエネルギーを得られるだろう。つまり緑色の光よりも青色などの短波長の光を使う方が燃費が良いのである。よって、植物が緑色の光を利用しないのは大量の光合成色素が必要となることが原因ではないかと考えられる。

A:これは、論理的に考えていてよいと思います。この点に関しては、第4回あたりの講義で、詳しく説明する予定です。


Q:今回の講義では、太陽から地上に届く太陽エネルギーについて触れ、その大きさは1.4kW/m2とそこまで大きいものではないことがわかった。ここで、架空の話ではあるが、アニメのポケットモンスターに登場するくさタイプのポケモン(体の一部が植物になっているものが多い)の中で、フシギバナというポケモンの「浴びた太陽の光をエネルギーに変換できるので夏の方が強くなる。」といった説明は果たして正しいのか、また強くなるとしたらどれほど強くなる見込みがあるのかを考察してみることにする。まず、夏至と冬至のエネルギーの比較であるが、夏至では1338W/m2、冬至では709.8W/m2である。また、太陽定数S=1365W/m2=1.95cal/min・cm2と換算することができる。(1)次にフシギバナの葉を樹木の葉と考えると、葉の最大利用効率はおよそ13%と考えることができ、(2)背中にある4枚の葉の面積がそれぞれ1m2であると仮定すると、1時間戦闘を行った場合、夏では596kcal、冬では316kcalを得ることができる。この違いはご飯2杯か1杯の違いでしかなく、この程度ではそれほど強くはならないのではないだろうか。
参考:(1) http://www.sukawa.jp/kankyou/daitai5.html(2017/10/14)、(2) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jriet1972/2/6/2_6_387/_pdf(2017/10/14)

A:面白いと思うのですが、これは、フシギバナがどの程度食事からエネルギーを得ているのかによるのではないでしょうか。もし、植物のように、全く食事をせず、光からのみエネルギーを得ている場合は、そのエネルギーは冬には夏の半分になるという結論なわけですよね。量ではなく、比率として考えると非常に大きいように思います。ただし、その場合、フシギバナは、そもそもあまり激しい動きはできそうにもありませんが。


Q:植物の生育速度は光合成速度によって作用されその結果形態の形成も光によって作用されるということを学んだ。ここで形態の形や構造によって生育速度や光合成速度が変わってくるのではないかと疑問に感じたのでここについて考察してみたいと思う。生物は光合成をしなければ生存していけないし、環境的にその形態自身がマイナスになるようなことがあれば、それがプラスに働くように形態が変化していくことも自然の様に感じる。しかし、形態によって生育速度や光合成速度が変わった方が効率がいいように感じる。それは、光合成の影響によって形成した形態が環境に不適応な場合作り直したり、変化しなおしたりする分エネルギーの無駄でないかと感じるからだ。人間も家を作るときはその土地に建てうるだけの構造をようした家を作る。生物と人間を比べることは難しいと思うが、自分はその点について疑問に感じました。

A:これは、せっかく面白い話題を考察しているのに、論理的に一つ一つ考察を進めずに、ぼんやりと感じたことだけを書いているように思われます。それは文の末尾が何度も「感じる」「感じました」で終わっていることからも推察されます。科学的なレポートは、感情を書くものではなく、自分なりの論理の展開を書くものです。きちんと論理を応用に努力してください。