植物生理学II 第12回講義

光合成の産物

第12回の講義ではデンプンやセルロースの合成・分解を中心に、種子発芽や細胞壁の構築などについても解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業でセルロースはグルコースが連続的に結合した直線的な構造を持ったものであり、セルロース6本が束になりセルロース微繊維となり細胞壁として構造の維持の役割をしていると習った。また、ヒトにおいて同じ構造維持の役割を持つ骨と比較すると骨はほとんどがCaなどの無機成分で構成されていることに対し、植物はセルロースのような有機物の割合が多いことが分かった。このような違いが生まれた理由として、植物がグルコースを自ら生み出すことができることが大きな要因であると考えられる。しかしそれならば動物でも多量のグルコースを摂取していたならばセルロースを合成して構造を維持するように進化した可能性もあるが、そのようにならなかった原因は2つ考えられる。
 まず、動物にはもれなく自力で移動するための部位があるが、その部位を稼働する際により効率のいいエネルギーとしてグルコースのような糖がよく利用されるため、動物である時点で大量の糖が必要になるので構造維持に回す余裕がないからだ、ということが理由であると考えられる。二つ目に繊維状であるセルロースは強度をより維持しようとすれば繊維の方向の種類を増やす必要があり、その分構造が大きくなるため動物のような可動性が求められるような場合には、稼働する際に差支えのない、少ない構造で強固であるものが求められたことが原因であると考えられる。よってセルロースによる構造維持の方法は動物には不適合であり、自分で素材を生産でき、かつ自分の生活環境に最も適している植物において発達してきたと考えられる。

A:自分なりの論理を展開していてよいと思います。二つ目の理由に関しては、セルロースの強固性が例えばリン酸カルシウムと比較したときにどの程度か、という問題に帰着するような気がします。


Q:SPSの活性とスクロースの転流は関連がある。活性が高い時はショ糖が合成され、低い時はデンプンが生成される。ショ糖は植物の成長にかかせないものであるため、活性が高いほど収穫率をあげることも可能であると考えた。SPS活性を高めることが必要であるが、その条件として考えられうるものの証明方法及び最適条件の調査方法を考察した。温度条件、水分条件、光条件が条件に含まれると考えた。同一種の植物を一つの条件以外は全て同じ条件下において種子の段階から生育させる。各々三段階ほどに分け生育させ、生育状況および活性を調べる。一つの条件のみが生育状況に変化を与えた場合より細かく段階を分けて生育させる。二つ以上の条件が変化を与えた場合には先述の調査と同様な操作を行った上で、全ての条件を最適な状態にさせて再度生育状況と活性を調べる。また任意の条件において、比較対象として生育させる必要がある。この実験ではあくまでも使用した種の活性を高める条件を求められるだけであるので、違う種においても調べる必要がある。しかし、調べた結果として生息地域の環境に何かしらの条件においてはコミットした最適条件が得られるのではないかと考えられる。

A:これだと、高校の探究活動のような感じですね。最初に3つの条件(温度・水分・光)を設定した以外は、ごく一般的な実験の進め方にすぎません。また3つの条件も、SPS活性を調べるための条件というよりは、材料が植物であることを反映しているだけのようです。結果的に、提案されている実験は、SPS活性でなくても、他のどのような活性を調べる実験にも当てはまるものになってしまっています。大学レベルの実験としては、目的に沿った手順を考えてほしいと思います。


Q:今回の授業で、セルロースは5,6本の束になって合成されていくことを知った。私はこの5,6本という数が、植物全体で共通しているのか、種によって異なっているのか疑問に思った。例えば、水草ではセルロース繊維が少なくてもよいのではないだろうか。なぜならば、水草は常に水流にさらされているので、その水流に逆らわないしなやかな植物体をもったほうが、水流によって植物体が損傷することが少ないと考えられるからである。一方で、害虫が多い環境で生育している植物はセルロース繊維が多く束になっているのではないだろうか。なぜならば、セルロースは固いのでそれを集めることによって、害虫に食べられないような固い体を作るのではないかと考えられるからである。このようにセルロースをどの程度、束にして合成するのかはその植物が生育する環境に依存するのではないかと考えた。

A:自分なりに考えていてよいと思います。ただし、セルロースの微繊維に関しては、一本で機能するわけではなく、さらに束ねられたり、架橋されたりして強固になるわけですから、6本束ねられている繊維が1本ある場合と、2本束ねられている繊維が3本ある場合で、強固さが変わるのか、変わらないのかによっても、結論は異なるように思います。


Q:今回、発芽細胞の受精卵は胚と胚乳に分化するということを学んだ。胚は子葉などに分化するが、胚乳は発芽後はなくなるという点について疑問に思った。なくなるならばなぜわざんざ胚乳を作るのだろうか。胚乳の役割としては、栄養を貯蔵するという役割がある。この役割を担う期間を初めから設ければ良いのではないだろうか。そうすれば受精する前からこの器官が栄養を貯蔵しておけるし、発芽後も栄養の貯蔵器官として無駄なく共存できるだろう。しかし、このようにならないのにはデメリットがあるのだろう。そのデメリットについて考える。まず貯蔵器官はすでに地下茎などの器官としてある。そして、栄養貯蔵の他に役割を持っている。例えば地下茎ならば、その名の通り茎としての役割も持つ。したがって、栄養貯蔵のみの器官は無駄となってしまうのだろう。また、受精前の栄養貯蔵も、この地下茎などが担える。受精後は、種子を発芽させるのにエネルギーを必要とするが、それ以前はそこまで大きなエネルギーを必要としていないのだろう。そのため、今貯蔵できる以上の栄養を貯蔵することは無意味となる。これらの点から胚乳という器官が発芽種子には不可欠となるのだと考えた。

A:最初の部分、胚と胚乳は別の受精によって誕生しますので、やや誤解を招く表現です。また、受精前、受精後を比較した表現がありますが、種子と親植物は別個体です。そこを一緒に議論するのは避けるべきでしょう。


Q:今回の授業では、動物の中でも唯一ホヤのみがセルロース合成酵素を持つということを知った。調べたところ、どうやら変態と固着生活、及び外形の形状維持に用いていると記述されていたが、ホヤの仲間にはサルパのように固着せず一生海中を浮遊して生活する種も存在する。こういった種類の場合はどうなっているのか疑問に感じた。「固着することで変態を開始」(1)し、更には「幼生時に遊泳している時には変態しないように、変態イベントを抑制」(2)するということが、セルロース合成酵素遺伝子を破壊したホヤの変異体を用いた研究で明らかになっている。サルパは、一応普通のホヤと同じく外殻(「被嚢」と呼ばれる)がセルロースで出来ているため、セルロースを合成する能力がある。しかし一生プランクトン生活を行うということを考慮すると、幼生として遊泳しながら変態を行っている可能性が高いと思われる。もしかするとセルロース合成酵素遺伝子がホヤのものと異なるのかも知れず、セルロース合成能力を損ねないような箇所に変異が起きているのではないかと推測した。
[参考URL] http://www.shimoda.tsukuba.ac.jp/~sasakura/research_metamorphosis.html、筑波大学 笹倉研究室 「ホヤの変態メカニズム」(2016.12.23)

A:悪くはないのですが、論理構成が参考WEBページに依存してしまっている感じです。もう少し紹介部分を減らして、自分独自の論理の部分を膨らますことができるとよいでしょう。


Q:今回、SPS活性の上昇によりPiが増加し、ショ糖が作られるようになることを学んだ。つまり、SPS活性を調節する利点を考えた。まず、よく言われているとおり、浸透圧上昇による沸点上昇・凝固点降下により、乾燥・凍結耐性を得ることである。ほかに私が考えたものとしては、被食の関係である。デンプンを葉に残した状態では、葉を食べられた時に、そのデンプンを失ってしまう。すぐにショ糖として根などの貯蔵器官に移動させれば、これを避けることができる。さらに、鳥による種子の散布を目的とした生物では、種子ができる前の果実は食べられて欲しくない。この時、SPS活性を低く保ち糖度を下げておくことで魅力の少ない果実となり、被食を避け、被食されても被害が少ない。そして種子が熟すタイミングに合うようSPS活性をあげれば、鳥による種子散布の成功率を上げれると考える。

A:挙げられている一つ一つの現象は論理的に考えられていますが、複数の現象が列挙されているだけなので、レポート全体としての論理がもう一息感じられません。全体をまとめる議論を付け加えると、しっかりしたレポートになると思います。


Q:細胞伸長には細胞壁がゆるむことが必要であると講義で習った。講義では、ゆるませる酵素があることを学んだが、細胞壁の柔軟性は、細胞が若いか古いかで異なると考えた。調べてみたところ、やはり、細胞が若いと細胞壁が柔らかくどんどん細胞伸長できる。しかし、それが永遠と続くのではなく、少なくともいくつかの植物ホルモンの働きが必要であることが分かった。

A:これだと調べものレポートですね。中学生高校生ならばこれでよいかもしれませんが、大学のレポートとしては失格です。


Q:今回の授業で発芽種子において胚がジベレリン酸を糊粉層に放出し、アミラーゼやプロテアーゼに働くことによってデンプンをグルコースに分解することを促進しているということであった。しかし植物にはこのように発芽に必要な養分を胚乳に蓄える有胚乳種子と子葉に蓄える無胚乳種子の2通りがある。この違いは何によるものなのか考えていきたい。
 有胚乳種子は主に裸子植物と被子植物の単子葉植物がある。一方無胚乳種子は主に被子植物の双子葉植物である。この2つのタイプは将来植物体となる胚の大きさが明らかに違う。有胚乳種子は胚乳が種子の多くを占めているため胚が小さくゆえに発芽した芽も小さい。よって単子葉植物も裸子植物も子葉は細く、単子葉植物は名前のとおり子葉が1枚しか出ない。これでは発芽してからすぐに光合成に頼った生活をするのは難しいのではないかと考えられる。しかし小さく、子葉も細いために芽を食べる鳥や虫には見つかりにくいのではないであろうか。一方無胚乳種子は子葉が種子の多くを占めているため胚が大きく、発芽した植物体も大きい。よって発芽してすぐに光合成に頼った生活が開始できると考えられる。そのようにすればいつまでも種子に蓄えた養分に頼る必要がなく早く成長できるのではないであろうか。しかし子葉が大きく、光合成をするために大きく開平するため鳥や虫に見つかりやすく食べられてしまう可能性が高くなる。
 このように発芽後すぐに光合成を十分にできることよりも外敵に見つかりにくく食べられにくい形態を選んだものが裸子植物や単子葉植物、外敵に見つかりやすくとも発芽後すぐに光合成を始めて早く成長できることを選んだものが双子葉植物なのであると考えられる。

A:考え方がしっかりしていてよいと思います。あとは、裸子・単子葉と、双子葉植物でそのような使い分けがされているのであれば、それは、それぞれの植物群のどのような特徴によっているのだろうか、という点まで議論できれば完璧です。


Q:講義内の表皮細胞は細胞壁を幾重にも重ねて作ることによりセルロースの繊維の方向を何パターンにも作成しその強度を保っているという内容がとても興味深いと感じた。その繊維の方向はランダムで決まっているということだが、ある意味ではランダムという規則を持って作成されていると考えられる。つまり私はその細胞壁を作ることを指示する領域をより正確に解明することが出来れば、強固な壁を作る際の最適なランダムを自動で作成する機構を解明したということにつながると考える。この技術が確立されれば例えば、家の壁を自動で強固にアップグレードする技術などより我々の暮らしを豊かにすることも可能であると考えられる。

A:僕自身はランダムという言葉を使った記憶がないのですが、ここでは、「方向がそろっていない」という意味で使われているのか、それとも「偶然に任されている」という意味で使われているのか、どちらでしょうね。それによって意味合いはだいぶ異なるように思いました。


Q:今回の授業では光合成産物としての糖について学んだ。植物は光合成産物として、セルロース、スクロース、でんぷんの3つの形で糖を貯蔵するのだがこの3つを比べるとヒドロキシ基を多く持つスクロースは水との親和性が他よりも高く貯蔵に向いてないのではないかと思った。そこで今回はなぜスクロースの形で糖を保存する植物があるのかを考察しようと思う。まず光合成産物がスクロースになる時はSPSという酵素の活性によるものである。このSPSという酵素は植物は持っていてこの酵素の調整によって糖の形になるかならないかが決まるらしい。よって植物はこの形を変える能力があるが環境によって決定しているということである。この環境に着目して見てみると、スクロースの形で貯蔵する植物はタマネギやイネなど乾燥した地域で栽培される植物が多いのではないかと思った。これはスクロースを体内で水素結合によって水和し浸透圧をあげることで外部からの水分をこしあげているのではないかと考えられる。そのため乾燥した水分を得にくい土地でこの方法が使われているのではないだろうかと考えられる。

A:きちんと考えていてよいと思います。ただ、水稲を考えると、イネを「乾燥した地域で栽培される」とするのには抵抗があります。