植物生理学II 第10回講義

C4光合成

第10回の講義では、二酸化炭素の濃縮機構を発達させC4植物を中心に紹介しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業内で、C4植物であるトウモロコシにおいて、維管束小細胞内にある葉緑体のグラナが存在しないことからPSIIがそこに存在していないと考えられるという話題が出たが、この現象はC4植物の適応進化によるものであると考えられる。その理由としてはC4植物の出現時期がC3と比べるとかなり最近の出来事であるからである。つまりC3植物からC4植物に進化はしたが、まだC3植物の回路などを使いまわしている状態であり、C4用の回路としては未完成の状態により弱光下などでエネルギーのロスが大きくなってしまっているのが現状であり、そのロスを少なくし、低エネルギー条件下でも生育ができるように余計な部分を切り詰めていった結果がグラナの消失によるPSIIの削減であると考えられるのである。またこのことを踏まえて考えると、現生植物ではC4植物が単系統ではないが、そのうちに種類ごとに回路や形質の削減や変化が生じることではっきりとした違いが生まれてくる可能性があると考えられる。

A:どうもロジックが理解できませんでした。適応進化した結果PSIIを削減したという部分はよいのですが、それが最近の出来事であるということと、どのようにつながるのでしょうか。適応がまだ不十分であるならば、最近起こった出来事であることの理由になるとは思いますが。


Q:今回の授業では、C4植物について学んだ。その中で私が疑問に思ったのは、C4植物はひとつの系統として存在するのではなく、様々な系統の中に点在しているということだ。用いる酵素は植物によって少し異なるようだが、なぜ多くの植物があるのにも関わらず似たような反応機構を別々に進化させることができたのだろうか。私はこの疑問に対して2つの答えを考えた。ひとつは、高温や乾燥に耐えるために植物はそれぞれ工夫を凝らしたが、最終的にC4回路を作るという方法だけが残されたということである。つまりC4回路を作ることが、自然淘汰されずに残った最適な方法だという考え方である。2つめは、植物にとって進化させやすい部分とそうでない部分があるのではないかということである。例えば、以前授業で習ったルビスコは二酸化炭素だけでなく酸素とも反応してしまうという弱点があった。もしルビスコの二酸化炭素親和性を高めることができれば、気孔を開いている時間を短くできるので高温乾燥の地域で生育するひとつの戦略になりうる。しかし、そのようなルビスコは実在しない。つまり、植物には進化させやすい部分とそうでない部分があり、C4回路を作るという方法が植物にとって最も実現しやすい戦略だったのではないかと考えた。

A:きちんと考えていてよいと思います。ただ、一つめの考え方は、ほぼ問題設定の同義反復であるような気がしました。


Q:今回、C4植物について学んだ。C4植物にはどんなものがあるのか調べてみると、単子葉類の植物が多いことが分かった。その中でも特にイネ科の植物が多い。ここで、なぜ単子葉類にC4植物が多いのか疑問に思ったので考察する。イネ科の特徴としては、葉が細長く、立つように生えていること、葉の表裏に気孔があることがあげられる。葉がたっていて、細いことは強光条件時に、すべての葉が光を受け取りやすく、エネルギーを受け取りやすい。もし双子葉類であると、下層の葉は上層の葉の影になってしまい、強光条件時でも下層と上層で光の受け取りに差が生まれてしまう。このことによりC4回路を回す時に必要なエネルギーを得られない可能性がでてくる。また、単子葉類には気孔が葉の両面にあるので、葉の表にしか気孔のない双子葉類の葉よりもCO2を取り入れやすい。C4回路でCO2の固定がよりスムーズに行えると考えられる。以上の点から双子葉類よりも単子葉類にC4植物が多いと考えた。

A:これもよく考えていてよいと思います。ただ、気孔については、C4植物はCO2濃縮機構があるのでそれほど気孔の数を必要としない、という考え方も成り立つでしょう。そのあたりも考察できるとよいですね。


Q:今回の講義において、同位体比で縄文人の食生活が分かるという話があった。こうしたダイナミックな年代測定をおこなうために、炭素同位体であるC14を用いる放射性炭素年代測定が挙げられるだろう。では、生きている細胞の年齢などのようにミクロなスケールの測定をおこなうには、どのような方法があるだろうか。まず、C14のような放射性物質を利用できるだろうか。細胞に放射性物質を導入して、地質学のように半減期から計算できるかもしれない。しかし、放射性物質から放出される放射線によって、細胞が損傷するかもしれない。もしくは、放射性物質を導入する時点で起こるかもしれない。さらに、C14の半減期は5730年であるため、細胞の年齢測定には適さないだろう。このようなことから、放射性物質は利用できないと考えられる。では、生物学実習で用いたCell-Clock Dyeはどうだろうか。レドックスポテンシャルに対応して細胞を染色することができる。また、レドックスポテンシャルと細胞周期の関係から、染色した細胞がどの周期状態かを測ることができる。この方法によって細胞年齢を測ることができるが、レドックスポテンシャルと細胞周期の関係の信憑性や、染色をするので生きたままの細胞年齢を測ることができないといった問題点があるだろう。このように、同位体比でダイナミックなスケールの測定はおこなうことが可能であるが、細胞年齢のようにミクロなものの測定は現実的には難しいと考える。実用化することができれば、新しい生命科学の道が開かれるのではないだろうか。

A:独自の考えを展開していてよいと思います。ただ、具体的な実験についてはイメージがわきませんでした。細胞に放射性同位元素を注入するということですが、注入してからの時間は、何も放射性同位元素を使わなくても、単に時計を見ておけばよいのではないでしょうか。最初に「細胞年齢」を定義してから議論を始めるとわかりやすかったかもしれません。


Q:今回の授業で扱ったC4植物は、C4経路にてATPが2分子余計に消費される代わりに、高温、乾燥、強光、貧窒素土壌に対して、C3植物より有利な特性を持つ。またC4植物では維管束鞘細胞が発達しており、維管束鞘細胞が維管束系を取り込み、さらにその外側を1層の葉肉細胞が放射状に取り込んだクランツ型葉構造という構造をとっている。授業中にC4植物の葉緑体にはグラナがない、ということを扱ったがこの葉構造とグラナの有無に関係性があると考えた。グラナでは本来、光合成系Ⅱが行われ、水が分解される。この際、酸素が発生する。C4植物では炭素固定の効率化のため、また光呼吸を抑えるため、酸素の存在が非常に問題となる。そのため、葉緑体からグラナを排除し、光合成系Ⅱの働きを補いつつも、酸素発生が起こらない構造をとった。それがクランツ型構造なのではないか。

A:着想はよいと思います。酸素発生をする葉肉細胞に囲まれている維管束鞘細胞の酸素濃度が系Ⅱがないことにより実際に下がるのかどうかは、難しいように思いますが。


Q:収率を上げるための、イネのC4科という取り組みがあることに興味を持った。しかし、回路で通過せざるを得ない膜に必須な輸送体がなく、C4回路に必要な酵素の遺伝子を取り込んでもうまく回路が回らなかった。ここで、作物のイネをC4科するのではなく、ソルガムやキビというイネ科のC4植物を品種改良して作物化することのほうが実用的であると言えるかもしれない。

A:もう少し筋道を立てて考えた方が良いでしょう。作物という意味では、トウモロコシが、まさに作物化したC4植物です。単にC4の作物が欲しいのであれば、それはすでに実現しています。


Q:今回の授業でC4植物について取り扱い、その一種であるトウモロコシには葉肉細胞にはグラナが存在するのに対して、維管束鞘細胞にはグラナが存在せず、光化学系Ⅱが存在しないことを学んだ。維管束鞘細胞はカルビン・ベンソン回路に必要なCO2やNADPHは葉肉細胞から供給される。そのためATPを産生するためのサイクリック電子伝達の機構を稼働させることだけが必要になったため、維管束鞘細胞には光化学系Ⅱが存在する必要がなくなった。さらにC4植物は主に強光下で生息する植物である。光化学系Ⅱをなくしたことで強光によるNADPHの供給過多という事態がなくなる。このことにより細胞内が過還元状態に陥ることがなくなり、活性酸素生成促進も起こらなくなる。このため光化学系Ⅱをなくすことで、強光下での維管束鞘細胞内の活性酸素生成とそれにより細胞にダメージが与えられることが防げるという利点も考えられる。

A:前半の「ATPだけあればよい」という部分は講義の繰り返しで、後半の「活性酸素」の部分が独自の考えですから、もっと前半を削って、その代わりに後半部分の問題を明確に設定した文章を加えると、より良いレポートになるでしょう。


Q:今回の講義では、主に光呼吸、C3、C4植物について学んだ。光呼吸を回すことによって、ルビスコ自身の首を絞める2ホスホグルコース酸の生成を防ぐことができる。さらに光エネルギーが過剰なとき光合成が阻害されてしまうあえて光呼吸を回しエネルギーの損をすることで光阻害を防止することができる生理的利点もある。またC3植物、C4植物中に含まれる炭素同位体の含有率の違いや、その同位体比によって過去の縄文人の食生活も解明、標高の違いによって生息するC3植物、C4植物の分布もそれぞれの回路の最適環境を考えることによって必要性を理解することができた。C4回路でCO2の濃度をあげとけば競争反応をもつルビスコではカルビンベンソン回路で光呼吸は起こらないため、熱帯地域などで優勢であるが、その数は年々減少しているようである。地球の平均気温は温暖化などにより上昇しているのに、何故高温条件に有利なC4植物は減少してしまっているのだろうか。C3植物内にC4植物機構で働く遺伝子が発見されていることからも、C4植物からC3植物へ環境応答が進んでいったと考えられる。平均気温の上昇に伴いCO2量は増加していく一方なのでC4植物の増加を期待することはできないのだろうか。授業最後のイネの疑似C4光合成回路は非常に興味深かった。

A:これも前半は授業のまとめで、C4植物の減少の部分が自分で考えたところですが、肝心の部分の論理があまりはっきりしません。「だろうか」「考えられる」「だろうか」で終わる3文から構成されていますが、真ん中の文が結論というわけでもないようです。自分なりの論理をしっかり示すように努力してください。


Q:今回の授業ではC3植物とC4植物の機構について学んだ。土壌水分と海抜によってC3植物とC4植物の存在量が変化し、ある一定の条件で両者の共存が可能になるという結果となっていたが、仮に共存が可能であるとしても互いの炭素固定能力が異なるから、多少は生存率に差が生じるのではないかと考えられる。C3植物とC4植物の二種類を数個体ずつ同じ鉢植えにて育成し、C3植物とC4植物の共存が可能な範囲の海抜と土壌水分条件にして、且つ日当たりの良い箇所に置く。育成環境の温度にも左右されるとは思われるが、C3植物とC4植物それぞれを単体で育成した場合とはかなり異なる結果が得られるのではないかと考えられる。葉肉細胞で二酸化炭素を固定し、濃縮してRubiscoに送れるC4植物の方が、酸素にRubiscoが晒されやすく、二酸化炭素の固定能率の悪いC3植物よりも光合成としては効率が良いので、恐らくC4植物の方がより発育と生存に有利に働くのではないかと推測した。
[参考URL] https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2403 一般社団法人日本植物生理学会 みんなの広場「C4植物とC3植物との違い」(2016.12.7)

A:これは、問題設定も明確ですし、それに対して自分で考えようという姿勢も感じられます。内容としては、単独栽培と混合栽培の違いが論点になるのかな、と思いましたが、最後の結論は個別の生理学的比較で終わっているようです。論理に関しては、もう少し整理の余地がありそうです。


Q:今回光化学系Ⅱのない細胞の存在について知った。C4植物の維管束鞘細胞に光化学系Ⅱが無いメリットとデメリットについて考えた。まずメリットについて。維管束鞘細胞は葉肉細胞由来のC4を利用してカルビン・ベンソン回路の反応を起こしているため、酸素による光呼吸が起こらないようになっている。ここで光化学系Ⅱが働いた場合、酸素が細胞内に発生してしまい、炭素固定の効率が下がってしまう。光化学系Ⅱがなければ、これを防止できる。次にデメリットについて。光化学系Ⅰは、カルビン・ベンソン回路に必要なNADPHを生成するのに必須であるが、これを動かすためには、光化学系Ⅱから供与される電子が必要である。しかし、光化学系Ⅱが無い場合、何かしらの電子供与物質が必要である。これが用意できない場合、葉肉細胞からNADPHを輸送する必要があり、非効率的である。

A:これも問題設定は明確できちんと考えています。デメリットについては、「用意できない場合」が書いてありますが、問題設定ではNADPHが供給される維管束鞘細胞に限られているので、「どんなことが起きると用意できなくなるのか」といった条件を示さないと、やや唐突な感じがします。


Q:今回の授業で取り扱ったサイクリック電子伝達について気になったので調べてみたところ、千葉大学の研究で、イネを材料に、NDH複合体を欠損したイネの変異体を使って、二つの電子伝達経路とCO2ガス交換を同時に測定するという手法を使って解析をおこない、NDH複合体に依存するサイクリック電子伝達は、強光環境ではなくむしろ曇天などの弱光環境での光合成電子伝達に最適であることを明かした。その理由としては、サイクリック電子伝達とリニア電子伝達で違う点としてはNADPHがあるかどうかなので、NADPHが弱光環境とかかわりがあるのではないかと考えた。

A:最低限の考える姿勢は感じられます。修正しておきましたが、漢字の変換ミスが非常にたくさんあったので、今後は注意してください。


Q:今回の授業でC3植物は13Cを取り込みにくいため植物体を構成している炭素の比は空気中のものより12Cが13Cより多くなっている、一方C4植物では13Cも取り込むため空気中での12Cと13Cの割合と同じ割合の炭素で植物体は構成されているという話があった。これはC3植物で最初に炭素を固定するルビスコとC4植物でのPEPCの違いであるということだ。しかし12Cと13Cは同位体の関係にあり、化学的反応における違いはないにも関わらず、なぜルビスコとPEPCでこのように反応に使う炭素に違いがあるのか考えていきたい。
 同位体は中性子の数の違いにより質量に違いがある。そのため化学的反応に違いを生じさせることはないものの、拡散などが関係してくる反応には影響を及ぼすそうだ(文献1より)。炭素においては中性子が多く質量が大きい13Cの方が拡散しにくい。植物内での反応は吸収した炭素が細胞の間を通って反応系に届けられ、反応をし、また次の反応系に運ばれていくが、このときに拡散によって移動している。もしPEPCのように効率よく炭素を固定できる酵素を使った反応では、この移動が遅くても濃縮されて細胞内に多くの炭素が存在するためにさほど大きな影響は出ないであろう。しかしルビスコのように効率の悪い酵素を持つ反応では、少しでも早くルビスコでの反応を行わないと他の反応を遅らせる原因となってしまう。そのためにルビスコでは質量が小さく拡散しやすい12Cを好んで反応させているのではないであろうか。一方PEPCでは選ばずに入ってきた炭素を順に反応させているのではないかと考えられる。
参考文献:1.一般社団法人日本植物生理学会.“みんなのひろば”.一般社団法人日本植物生理学会.2015,https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3266(参照:2016-12-10).

A:目の付け所はよいと思います。CO2の移動の問題は、ルビスコとPEPの違いというよりはCO2の供給経路に大きく影響されます。CO2が非常にゆっくり鹿供給されない場合は、まさにここで議論されているように来たCO2は全て利用されますから、同位体効果は見られなくなります。一方で、酵素の周囲にCO2が十分にある場合には、より取り見取りですから、同位体効果が表れるわけです。従ってC3植物の場合であれば、同位体効果の強さを見ることによってCO2の供給についての情報を得ることもできます。


Q:講義内で一見無駄に見える光呼吸について学び、エネルギーの損失であり無駄、ましてやその反応による生成物は植物にとってカルビンサイクルを阻害するため毒の生成だとする説がある一方で光阻害の回避であるというような説もあることを学んだ。後者の光阻害の回避についてエネルギー過剰時にあえて反応を制御するという機構に加藤先生の講義で受講したEPOの分化を思い出した。EPOは分化の途中においてあえてエラーを起こすことにより、不足などに陥った時に現状よりも生成量を上げることが出来るという性能を持っているということであった。このことから私は植物における光呼吸は実は動物のこれにあたるのではないかと考えた。つまりエネルギー不足時やカルビンサイクルの回転需要が高い時に光呼吸は停止するという仮説である。この仮説が立証されれば植物のカルビン回路及び生体反応は通常時に100%の力を発揮していないということになり、植物の生体反応全体に更なるポテンシャルが秘められているということが出来る。

A:全体の流れは導入から問題設定、自分なりの考え方となっていてよいと思います。途中の論理は、もう少し説明を丁寧にした方が良いかもしれません。現状でも理解はできますが読み手が頭の中で補っていく必要があります。


Q:今回の講義ではC4植物、CAM植物について学んだ。講義の最後の方にC3植物である稲をC4植物に変えて光合成効率を増やし収穫率をあげようという試みがあったことを知ったが、そこで果たしてそれによって日本で収穫量があがるのか疑問に思った。そもそもC3植物は湿度が高く弱光下の環境に適している。それに比べてC4植物は逆に湿度が低く強光下の環境に適している。強光下の沖縄ではC4植物であるサトウキビ、一方、北海道ではC3植物であるてんさいという風にその土地に適した植物が栽培されているという話もあった。よって結局のところ地域、季節によって環境が大きく変わる日本では梅雨などの期間を考える必要もあるためC4植物に向かない期間もあるため栽培時期、栽培地域をよく考える必要があると思う。しかし海外の環境が年中変わらない地域においては大きく収穫量の増加が見込まれると考えられる。

A:これは、問題設定も明確ですし、自分なりの考え方もしっかり示していますし、よく書けていると思います。