植物生理学II 第7回講義

光合成電子伝達の仕組み

第7回の講義では、光合成と対比させるために呼吸の電子伝達に最初に触れたのちに、葉緑体からチラコイド膜の構造と、その上に存在する光化学系などの巨大な電子伝達複合体の構造についてみてみました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:光合成系のコンポーネントがその種類ごとにappressed regionとnonappressed regionそれぞれに偏って局在してクラスター化しており、いわゆる電子伝達系の図のように整然と並んでいるわけではない、というお話がありました。そこでROSの毒性を分散させるためにこの局在が起こっていると考えました。葉緑体からでたROSが、一度葉緑体からでてサイトゾルでAPXによって無毒化されたり(文献1)、ROSそのものは各オルガネラからでているという話もあったり(文献2)と、細胞全体でみたときにROSの発生と除去の、責任の所在が曖昧な印象を受けました。細胞全体で、上記のようにどこか1箇所に酸化力が蓄積するのを回避したがるきらいがあるのを考えると、葉緑体1つとってみてもこの考えを縮小して解釈できるのではないかと思います。つまり、光化学系ですと系Ⅱからでる一重項酸素、系Ⅰからでる過酸化水素の2種類のROS発生源がありますが、この発生源を物理的に引き離すことで、特定のコンポーネントが集中して酸化されて障害されるのを防いでいるのではないでしょうか。
参考文献:1. http://plantmolphysiol.sakura.ne.jp/PMP_research/Shigeoka.html、2. BC. Tripathy et al. Reactive oxygen species generation and signaling in plants. plant signaling and behavior 7:12, 1621-1633; December 2012.

A:面白い考え方だと思います。ただ、文献として紹介された事実が、レポートのロジックにどのように寄与しているのかがもう一息わかりづらいですね。また、「物理的に引き離す」となぜ「「特定のコンポーネントが集中して酸化され」るのを防ぐのかが、これもあまり明確ではありません。量的な問題だとすると、系1と系2が一つずつあるのと、系1または系2が二つあるのではあまり変わらないように思います。「引き離す」ことが有利に働くのは、防御システムを特化した方が効率的な場合でしょうから、そのあたりの論理をきちんと組み立てるとよいでしょう。


Q:今回の授業で呼吸と光合成の電子伝達における要素が似ている話があったが、このようになった理由としては光合成生物の出現時期と生物の新たな形質を獲得する際の特徴が原因であると考えられる。最初の根拠としては、今までの研究により最初に出現した生物は従属栄養生物であり、その後光合成をする独立栄養生物が出現した(1)ことが判明している。次の根拠として生物は新たな形質を獲得する際に、ほとんどの場合に既存の形質を利用していることがあげられる。例としては鳥の翼や足の進化がよくとりあげられる。鳥は翼を新たに獲得する際に前足を変形させたことや、両生類に進化して陸上に上陸する際の足も魚類の鰭が変化してできたものだといわれている。これら二つの根拠を組み合わせることで、最初の従属栄養生物が海水中のマグネシウムなどを使用してクロロフィルを生産して新たな電子伝達回路を作成する段階で、既存の呼吸の際に使用する回路を利用して光合成用の回路を作成したと考えられる。よって呼吸と光合成の電子伝達における要素が似ているのは、進化の過程で光合成をする段階で光合成用の回路の作成時に呼吸の回路を利用したからであると考えられる。
1“第6編 生物の進化と分類 Ⅰ生命の起源と進化 2 細胞の進化” 改訂版 フォトサイエンス生物図録、数研出版編集部、改訂版、数研出版株式会社、平成24年2月1日、p180

A:レポートとしての論理は成り立っていると思います。ただ、従属栄養生物が最初という議論は、おそらく正しいと思うのですが、100%認められた議論ではないと思います。


Q:今回の講義では呼吸や光合成の仕組みの類似点などについて学んだ。植物では光合成が行われるがほとんどの動物では光合成が行われないことは、動物は光合成で得られるような少ない栄養では活動できないためであることは広く知られているが、なぜ動物は進化の中で光合成を行わないものになったかについて考察した。二つの理由を考えた。一つ目は細胞内の他の器官と葉緑体とで共存するための調整が難しいのではないかということ、二つ目は光合成の行う細胞と行わない細胞とでの分裂の区別が難しいことである。一つ目に関しては葉緑体を過度な光エネルギーから守るためにVIPP1と呼ばれるタンパク質が存在していること以外に葉緑体を維持する成分や環境が分からなかったため深く考察することはできなかった。二つ目に関しては、初め一つの細胞から分裂していくことを考えると、最初の細胞には葉緑体を含む必要があること、またその場合皮膚細胞以外の必要のない細胞にまで葉緑体が存在してしまい、細胞維持に余分なエネルギーが必要となるため皮膚細胞で光合成を行って得られた栄養以上に維持に栄養が必要になってしまうのではないかと考えた。
参考文献:http://www.rib.okayama-u.ac.jp/researchactivity/20121112.html

A:葉緑体の分化・増殖については、すでに講義で扱っています。その中で、例えば、種子は光合成をしないけれども、(光合成をする葉緑体ではない)色素体を持っていて、そこから葉緑体が分化する話をしました。したがって、植物の場合も、「最初の細胞には葉緑体を含む必要」はないわけですから、後半の議論は成り立たないでしょう。


Q:クエン酸回路ではクエン酸からオキサロ酢酸まで8つの物質に形が変わる。炭素の数で表すとクエン酸から順に6,6,5,4,4,4,4と変化する。私は、ここまで炭素の数を変化させる意義について2つのことを考えた。1つは、炭素鎖が短いほうが反応させやすいからである。最初は6つだった炭素を次第に減らしていくことで、反応が起きる速さを速めているのではないかと考えた。もう1つは、それぞれの反応を確実に行うためである。クエン酸回路では炭素数の変化だけでなく、水と反応するなど様々な変化が起こる。したがって1つ1つの反応を正確に行うために、炭素数を一気に変化させるのではなく段階的にその数を減らしているのではないかと考えた。

A:確かに、講義でクエン酸回路という言葉は出しましたが、呼吸について内容を説明したのは、光合成の理解に必要な電子伝達の酸化還元の話だけですよね。講義で出てきた言葉について、講義の文脈を無視してレポートを書いても、「講義のレポート」にはなりませんよ。


Q:今回の講義の中で酸化剤と還元剤について出てきたが、生体内での酸化還元と聞いて気になるのは、活性酸素による酸化ストレスについてである。以前の講義や、植物生理学Ⅰの講義でも触れられていたが、改めて調べたところによると、
「水不足、高温、強光などによって気孔が閉鎖し、吸収された光エネルギーがCO2の供給を上回ったり、NADP+の供給が低下すると、過剰となったe-はO2を還元し、スーパーオキシド(O2-)や過酸化水素(H2O2)などの活性酸素を生成する。植物細胞内の活性酸素の生成は環境ストレスによって助長され、環境ストレスによる障害や細胞死は活性酸素によってもたらされている。」(文献1)
この文献1は、この生じた活性酸素に対して抗酸化酵素が働き、活性酸素の酵素的な消去を行うことで活性酸素の影響を少なくしており、さらにはその活性はC3、C4、CAM植物それぞれについて違うという論文であった。この論文においては言及されていなかったが、葉の温度や季節によっても対酸化酵素の活性に違いが出るのだろう。また、同じC3植物の中においても、葉が1年で落ちる落葉樹と2~3年持つ常緑樹、また常緑樹の中でも数か月ごとに葉が交代する種類もあり、それぞれについて抗酸化酵素の活性や量は違ってくると考えられる。光合成における電子伝達がうまくいかなかった時に発生する活性酸素について、少なくとも酵素的な消去においては植物種によって多様な対応がとられ、その違いが植物の寿命を決める要因の一つとなっていることは間違いないと考えられる。
参考文献(1)李 進才, 趙 習コウ, 松井 鋳一郎「C3, C4 と CAM 植物における過酸化水素含量と抗酸化酵素活性の差異」(2001)

A:ここでは、調べたことをもとに、いろいろと考えられていますが、特定の問題意識をもって、その問題を論理によって回答を与えようという形になっていません。「○○なのだろう」と考えるだけでは科学的なレポートにはなりません。最後の一文は結論っぽい結びになっていますが、それがどこから論理的に導き出されているのかが整理されていません。「寿命を決める要因」であるというのであれば、その前のどこかで、植物の寿命と活性酸素が関係していることを示す必要がありますが、実際には植物が違っていれば、抗酸化酵素の活性や量は違っているだろう、と推測しているだけです。推測をもとに導いた結論は、結論ではなくて、ただの推測にすぎません。


Q:第7回の授業では光合成や呼吸など植物内の電子伝達を中心に学んだ。光合成反応は葉緑体のチラコイド膜にておこなわれる。グラナチラコイドとストロマチラコイドに存在するタンパク質複合体は偏りがあり、光合成系Ⅱのほとんどがグラナチラコイドに含まれ、逆に光合成ⅠやATP合成酵素複合体はストロマチラコイドに多く分布する。そもそもグラナは緑色植物が持つ構造で、緑色植物以外ではグラナがなくチラコイド膜が平行に並んでいるものも存在し、それらの植物ではチラコイド膜内に光合成系ⅠとⅡが両方ある。このようにグラナチラコイドとストロマチラコイドとで役割を分業することでどのようなことが可能になるか、仮説を述べたいと思う。グラナチラコイドで行われる反応は光合成Ⅱであり、ストロマ中のプロトンをチラコイド内腔に取り込む働きをしている。そのため、光合成Ⅱが多く行われるグラナチラコイドではストロマチラコイド以上にプロトン濃度は高くなると考えられる。またグラナはチラコイドの重なりであるが、それらの内部は繋がっている。そのため、プロトンはグラナの中を移動できるわけだが、私はグラナのチラコイド間にプロトンの移動を制限する門のようなものがあると考える。それにより、ATP合成やNADPHの合成を制限したり、プロトン濃度を保つことができる仕組みを持っているのではないか。

A:仮説を考えたところまではよいのですが、そこで終わっていては科学的なレポートとは言えません。もてる知識をもとに、何らかの論理を用いてその仮説の当否を検証するか、もしくは、その仮説を検証する実験系を提案するようにしてください。


Q:光合成に関与するタンパク質は、葉緑体のチラコイド膜上に存在するがそれぞれは均一に分布していないということを講義で知った。葉緑体のグラナ中でチラコイド膜同士が接している部分に光化学系ⅡとLHCⅡ複合体、チトクロムb6/f複合体が、グラナがストロマと接している膜上に光化学系Ⅰ、チトクロムb6/f複合体、ATP合成酵素複合体がある。このようにタンパク質が偏って存在する理由を考察した。
 まず、光合成は、光化学系Ⅱ、チトクロムb6/f複合体、光化学系Ⅰ、ATP合成酵素の順に反応が進む。このとき、光化学系Ⅱと結合しているLHCⅡはその中心にある2個のクロロフィルで光を集めて、そのあと光化学系の反応中心に伝達する。つまり、光化学系Ⅱはチラコイド膜上に散らばって存在するよりも、隙間なく並んでいるほうが光を逃さず集めることができる。一方、プラストキノンは光化学系Ⅱからきた電子を受け取ると、ストロマにあるプロトンと結合し、チトクロムb6/f複合体に電子を渡すと同時に、チラコイド膜内にプロトンを放出する。よって、プラストキノンはチラコイドの膜上で、ストロマと接している部分にある必要がある。このとき、チトクロムb6/f複合体はプラストキノンが結合したプロトンをチラコイド膜内に放出する役割を担うので、ストロマと接していなくてもよい。次に、光化学系Ⅰはチトクロムb6/f複合体から電子を受け取って、NADPを還元してNADPHを合成するための還元剤を作る。NADPHはストロマで行われるカルビン・ベンソン回路で使うために合成されるので、光化学系Ⅰはストロマと接しているチラコイド膜上にある必要がある。またATP合成酵素は、チラコイド膜内とストロマ中のプロトンの濃度勾配を利用してATPを合成するため、これもストロマと接している必要がある。
 以上のことから、グラナがストロマと接している膜上にプラストキノン、光化学系Ⅰ、ATP合成酵素複合体がある。よって、光化学系Ⅱが隙間なく固まって並ぶことができるのは、グラナのチラコイド膜が隣接している部分である。そして、チトクロムb6/f複合体はチラコイド膜が重なっている内側でも、ストロマと接している外側の部分に存在してもよいということになる。
参考:「光合成の森 光合成の仕組み」 http://www.photosynthesis.jp/shikumi.html、「光合成の生理生態学講座 光合成の機作」 http://hostgk3.biology.tohoku.ac.jp/hikosaka/Mechanism.html

A:このレポートは、記載された事実には正確性が欠けるのですが、少なくとも事実だと思ったことに基づいて論理的に考えて結論を出しているので、この講義のレポートとしては合格です。


Q:今回の授業で各光合成系やシトクロム複合体の構成成分について学習した。シトクロムb6/f複合体は膜貫通のα−へリックスにクロロフィルaとβカロテンを1分子ずつ絡ませた状態であり、β−シートも存在する二量体である。しかし、この2分子のもつ複合体内での役割は不明である。今回はこれらの役割について考察したい。βカロテンは光合成系において、吸収した光エネルギーをクロロフィルに伝えるアンテナの役割や余分な光エネルギーを熱に変換して捨てる役割を持つ。このように、クロロフィルとβカロテンのエネルギーのやり取りにより、光量を感知し、シトクロム複合体での電子の流量を調節し、光合成の調節機構として働いていると考えられる。

A:「考えられる」というのが、なぜ考えられるのかのロジックが感じられませんね。通常のβカロテンの「アンテナの役割や余分な光エネルギーを熱に変換して捨てる役割」と、「光量を感知し、シトクロム複合体での電子の流量を調節し、光合成の調節機構として働いている」という結論の間に何も書かれていません。そこを、きちんと自分なりのロジックでつなげて初めて科学的なレポートになります。


Q:今回の授業の中で高等植物のチラコイド膜モデルについて触れたが、光化学系やATP合成複合体などがそれぞれ偏って存在しているという。本来なら全て同じ箇所に揃っていた方が機能しやすく、電子の授受などもより効率良く行えるはずが、例えば光化学系Ⅱは内側に、ATP合成複合体は外側に、などという形を植物はとっている。尚且つその理由は解明していないというが、一見不利に見える形態でも、恐らく植物体には利点があるためにこうした形態をとっていると思われたため、その理由を考えてみた。光合成は、物質の酸化還元の場ともいうが、この酸化還元において光化学系Ⅱではエネルギーが一気に上昇させられる。続いてシトクロムb6/f複合体を経由するにあたって還元によりエネルギーは減少し、光化学系Ⅰで再びエネルギーは上昇する。このことから、システムが隣り合っていると酸化還元の影響が隣り合う機構にも及んでしまい、電子伝達を行なう物質が正しい電位を保つことが出来なくなるのではと考えた。そのために敢えてそれぞれの機構を隔離・偏在させることで酸化還元の影響が及び合わないようにしているのではないかと推測した。

A:これは、レポートとして認められるかどうか、ギリギリの線ですね。「システムが隣り合っていると酸化還元の影響が隣り合う機構にも及んでしまい、電子伝達を行なう物質が正しい電位を保つことが出来なくなる」と考えたところがロジックらしいところですが、その根拠は、単に二つの光化学系では光エネルギーの注入があるということです。つまり、実際には結論であるはずの光化学系の隔離・偏在が、前提となっていて、そのために「正しい電位を保つことが出来なくなる」と考えたのでしょう。つまり、全体としては一種の循環論法になっているように思えます。


Q:今回、呼吸と光合成の電子伝達系が似ていることを学んだ。そこから、呼吸の電子伝達系と、光合成の電子伝達系は同じ祖先だったのではないか、と考えた。では、どちらが先に現れたのだろうか。ミトコンドリアと葉緑体のどちらが先に真核生物に共生したかの答えは、ミトコンドリアが先である。なぜなら、ミトコンドリアのみを持つ生物、ミトコンドリアと葉緑体両方を持つ生物はいるが、葉緑体のみを持つ生物はいないからである。しかし、これは光合成と呼吸の電子伝達系、どちらが先に現れたかを示してはいない。そこで、地球について考える。まず、地球には酸素があまり存在せず、嫌気性のもののみが生息していた。そこにシアノバクテリアが現れ、酸素濃度が上昇し、好気性の生物が呼吸をするようになった。つまり、光合成が先で酸素が発生してから好気呼吸が発達したか、シアノバクテリアが呼吸と光合成同時に発達させたかのどちらかであると考えられる。

A:これは、論理構成としてはレポートの形になっています。ただ、ここまでだと高校生の知識の範囲なので、もう少し大学生としては踏み込んだ議論が欲しいようには思います。


Q:今回の講義では光合成電子伝達について学んだ。そこで私が疑問を持ったのは、光化学系はなぜ1つにまとまっていないのか、ということである。1つ考えられるのは、片方の光化学系が何らかの理由で機能しなくなった場合に、もう片方があることで光合成が止まらずに済むから。という理由が挙げられる。また、仮に1つの光化学系にまとめるとすると、シトクロム接合体の役割も担う必要がある。光化学系の装置を一つにまとめることにはリスクが伴い、一つで多くの役割を果たさなければならないという欠点があるのだろう、と考えた。

A:そもそも「光化学系がひとつにまとまる」ということがどういうことなのかが読み取れません。おそらく、自分なりのイメージがあって、それが読み手に伝わると思って書いているのだと思いますが、普通の人間にはテレパシーはないのです。「片方」という言葉からすると光化学系1と光化学系2が近傍に存在するということなのかな、とも思いますが、タンパク質複合体として単一の複合体を形成するということのようにも思えます。また、系1と系2の話だとした場合、二つの光化学系は異なる機能を持つわけですから、「片方の光化学系が何らかの理由で機能しなくなった場合に、もう片方があることで光合成が止まらずに済む」ことにはならないことが明らかです。あまりきちんと考えずにそれらしいことを書いてみたという印象が拭えません。


Q:今回の授業ではチラコイド膜上に存在する光化学系Ⅰ、ⅡとATP合成酵素、チトクロムb6/f複合体は、グラナの中でも存在するところが偏っているということであった。光化学系Ⅰ、ATP合成酵素、チトクロムb6/f複合体はストロマに接しているところに、光化学系Ⅱはストロマに接しないグラナの中心にあることが多い。なぜこのように局在化しているのかははっきりわかっていないようだ。そこで今回その理由について考えていきたい。
 まず局在化したときの利点として、輸送する物質の濃度勾配がつくりやすいのではないであろうか。各複合体間の物質の移動は濃度勾配に従ったものが多い。例えば光化学系Ⅱでできたプラストキノールは1つの光化学系Ⅱからできるより、複数の光化学系Ⅱが集まって作った方が多くでき、その周りのプラストキノールの濃度は1つでつくるときよりも上昇しやすい。同様にチトクロムb6/fでも1つでプラストキノールを消費するよりも複数で集まった方が消費が早い。このように濃度勾配を大きくして物質輸送がよりしやすくしているのではないであろうか。
 ではなぜ光化学系Ⅱのみがグラナの中心にあり、他はストロマに接するところにあるのか。これらの複合体では光合成の反応を進めると同時に、プロトンを濃度に逆らった方向に輸送していることが多い。そしてプロトンの濃度勾配を大きくして、プロトンの濃度を一定にしようというエネルギーからATPを合成している。もし1 mlの容器に10 molのプロトンが加わったら変化した濃度は10 mol/mlである。一方0.5 mlの容器の中に10 molのプロトンが加わったら変化した濃度は20 mol/mlである。このようにプロトンの濃度勾配をつくるにあたって、外側のプロトン濃度を低くする方の容積が大きく、逆に内側のプロトン濃度を高くする方の容積を小さくしておいた方が濃度差が保たれて有利であろう。よって度の複合体も本来ならばストロマという大きな容量がある基質に接してそこから内側にプロトンを運んだほうが良いと考えられる。しかし光化学系Ⅱにおいては酸素を酸化する強力な酸化剤が必要である。この酸化剤は強光に弱く、壊れやすい。よって光化学系Ⅱのみは少しでも内側に入れていくつかのチラコイド膜を通って弱くなった光を使えるようにグラナの内側に存在するのではないであろうか。

A:きちんと考えていてよいと思います。濃度勾配の問題と、系2が強光に弱いという問題が議論されていて、それぞれ面白いのですが、その相互関係が今一つ明確ではないように思います。おそらく、濃度勾配がグラナを形成する理由で、強光に対する弱さが系2をグラナの内部に配置する理由なのではないかと想像します。そうであれば、そのように問題点を明確に分けて議論するとわかりやすくなるでしょう。


Q:講義内において光合成と呼吸は同じ電子伝達の回路であるため非常に類似した回路を持っているということ、そしてそのことから同じような進化をたどり今の回路にたどり着いたのではないかと考えられているという紹介があった。このことから私が考えたのはその他の機関や機能の逆回転回路の人工的な作成も可能なのではないかということである。この仮説の根拠は私が電子伝達回路において逆の反応といえる光合成と呼吸が類似した回路を持つということは化学式の可逆反応のようなものであると考えたことから始まり、もしこの考えが正しいのならば濃度勾配などによって反応の逆循環を人工的に引き起こすことも可能であるということである。つまり生理活性の反応生成物を過剰に摂取することによって反応平衡が崩され本来とは逆の反応が促進され新たな回路のヒントを得ることで逆回転回路の人工作成が出来ると考えた。また、この仮説が正しく逆回転回路の発見がなされればこれまで以上に本来の回路への理解も深まり様々な生理現象の理解と研究を推し進めることにも貢献できるのではないかと期待する。

A:きちんと考えてレポートを書いていることはわかるのですが、仮説を作ったところで終わってしまうと論理になりません。何か具体的な例を出して仮説を検証するか(実際にちょっと調べればある代謝経路が別の代謝経路の逆回転になっている例はすぐに見つかると思います)、あるいは、仮説を検証するための実験系を提案すれば、科学的なレポートとして完成するでしょう。


Q:今回の授業では光合成の電子伝達系について学んだ。そこでこの光合成の電子伝達の構造は最終的にATPを生産するという点から、好気呼吸の際に行われる電子伝達と同じものなのかという疑問が浮かんだのでこれを調べて考察しようと思う。まず両者ともプロトンこう配を生じさせそれによって最終的にATPを生じさせる点では同じなので機構は同じであるといえる。しかし調べてみると反応を促進させるタンパク質複合体の構造が異なることが分かった。例えばスカラー反応を促進させるタンパク質複合体はミトコンドリアではシトクロムbc1複合体であるが、葉緑体では今回学んだようにシトクロムb6/f複合体となる。よって機構は同じでも違うたんぱく質を使用していることが分かった。

A:これだけだと、調べものレポートでしかありません。この講義で求めているのは、何度も繰り返しますが自分なりの論理的な考察です。