植物生理学II 第4回講義

藻類の進化

第4回の講義では藻類の進化を中心に、シアノバクテリアの共生後の遺伝子の核移行や、色素体の分化などについても触れました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では葉緑体の役割(光合成、イオウ同化、脂肪酸合成)について、色素体について学びました。その中でも白色体に注目したいと思います。白色体は色素をもたない色素体で、光があたると葉緑体に変化します。葉緑体ではなく白色体をもつメリットはあるのでしょうか。白色体はクロロフィルを合成する酵素をもっていて、その酵素が働く条件下(太陽に当たる)にいるときだけ色素が発生して葉緑体が発生し光合成ができます。初めから葉緑体を持っていれば、太陽に当たらなかった時のリスクを負わなくて済むと思います。白色体はその植物にとってエネルギーの無駄遣いをしないためにあるのでしょうか。確かに葉緑体のみをもつ植物は光の強さを制御するために葉の角度を変えたり、気孔を閉じたりし、必要以上の光を浴びているせいでエネルギーをたくさん使ってしまっているように見えます。その分白色体は光が当たると葉緑体もつようになり光合成ができて効率が良いようにも思えます。

A:このレポートで求めているのは、頭の中を去来する思いを文章にすることではなく、一定の論理を持った自分なりの主張をすることです。また、白色体とエチオプラストを混同しているように思えます。


Q:授業では、腐生植物のシャクジョウソウの話がでてきました。1、2週間前ニュースで新種の腐生植物が発見されたと報道があったのを思い出したので、調べてみると神戸大の先生が「Gastrodia kuroshimensis (Orchidaceae: Epidendroideae: Gastrodieae), a new mycoheterotrophic and complete cleistogamous plant from Japan.」というタイトルで当新種のクロシマヤツシロランを紹介しておられました。腐生植物(菌従属栄養植物)は通常、光合成をおこなわない代わりに、根の菌根から細菌の作り出した有機物を吸収することで生きています。一方でクロシマヤツシロランは光合成だけでなく、花も咲かせずに蕾のまま自家受粉をおこないます。このランがわざわざ花をつけない理由はなんでしょうか。広域が温帯に属する日本列島で、この花が見つかったのが亜熱帯に属する鹿児島県黒島であることに注目しました。花をつけないことは花弁を作る必要もないですし、それによるエネルギーの消費も抑えることができます。一方で自家受粉だけをおこなっていると遺伝的な多様性は失われます。多様性の減少は環境変化に対する脆弱化を引き起しますが、気温の日、年較差ともに変化が小さい亜熱帯では、ゲノムが画一化されることはあまりマイナスにはたらかないのかもしれません。

A:調べた場合には、必ず出典をつけてください。最後の部分、「かもしれません」で終わったらレポートになりません。それが一般的な傾向であれば、熱帯では花を咲かせる植物が少なくなるはずですし、生態的な多様性も少なくなるでしょう。そのような部分はもう一息踏み込んで議論できるはずです。


Q:今回の授業でアピコンプレクサ類はアピコプラストと呼ばれる葉緑体の名残があることを習った。また、調べるとアピコンプレクサ類はほぼすべてが寄生性であることが分かった。ここからアピコプレクサ類のアピコプラストと寄生の関係について考える。まず、寄生することの利点としては、宿主が生きている限り宿主の栄養を使うことで自身の生存が楽に行える点と他者に自身が捕食される心配がなくなるという点である。しかし欠点としては宿主に依存することになるため、宿主の状態次第で獲得できる栄養にも差が生じ、自身が危険になる可能性があるという点である。つまり必要最低限の栄養を生産できれば寄生における利点をより生かすことが可能となる。また葉緑体は窒素同化や硫黄同化、脂肪酸合成など生物に重要な役割があり、重要な器官である。よって、アピコンプレクサ類はもともと葉緑体であったアピコプラストを利用し、生存に必要になる物質をある程度自分で生産することができたことにより寄生における利点を最大限に生かし、適応して生存する戦略をとったと考えられる。また、アピコンプレクサ類がほとんど寄生性であり、アピコプラストを所持していることから、アピコンプレクサ類の祖先が寄生生活を始めたのちに葉緑体がアピコプラストになり、その後マラリア原虫などに分化していったと考えられる。

A:寄生の問題点とアピコプラストの存在を結び付けて考えた点は独創的で評価できます。ただ、文章の流れをもう少し改善すると、論理の流れがわかりやすくなると思います。


Q:私は、光合成は植物にとって重要な働きであるのに、なぜ葉のみしか担っていないのか疑問に思った。根に含まれる白色体は光に当たることがないので光合成はできないが、花弁に含まれる有色体は葉と同じように光を浴びることができるので、有色体にクロロフィルを持たせて光合成を行ったほうがより多くの糖を生産できると考えた。私はこの疑問を、虫媒花と風媒花に分けて考えることにした。まず、虫媒花の場合は花弁にクロロフィルを持たせることは、植物体にとってマイナスである。なぜならば、クロロフィルを持つと花弁が緑色になってしまい、虫に花の存在をアピールすることができなくなってしまうからである。一方で、風媒花は花の存在を虫にアピールする必要がないので、花弁にクロロフィルを持っても問題はない。そう考えて調べてみたところ、花弁が緑色の植物も存在することがわかった。よって、糖の生成という意味で言えば、花弁を緑色にすることができる風媒花のほうが虫媒花よりも優れていると言うことができる。

A:レポートの論点としては悪くないと思いますが、この点については、前期の植物生理学Iで取り上げたと思います。


Q:今回の授業で扱った、ハテナについて興味を持った。ハテナは細胞分裂の際、片方には葉緑体がないという特徴がある。しかし、葉緑体とは、もともと別の生物であり、共生しているだけである。ということは、分裂のタイミングが完全に一致して、分裂した両者に葉緑体が入る方が珍しいのではないだろうか。また、ハテナ以外の細胞では、分裂後も葉緑体が両細胞に入っている。これも、毎回うまく、両者に葉緑体が入るとは限らず、葉緑体の数が偏ってしまったり、ハテナのように一方のみになってしまうことがあるのではないだろうか。たとえそうなってしまっても、生物の持つ葉緑体の総数が変化することはないので、光合成に大きな支障をきたすことはないと考えられる。しかし、ハテナのようにはならない。ということは、ハテナから一般的な葉緑体をもつ細胞になるまでには進化の過程があったと考えられる。以上のことからハテナは葉緑体がどのようにして共生をしてきたかを解き明かすのに重要な生物となるだろう。

A:目の付け所はよいと思うのですが、多細胞生物と単細胞生物の違い、あるいは1細胞に1葉緑体の生物と、1細胞に数多くの葉緑体をもつ生物を分けないで議論しているので、論理展開があいまいになっています。レポートを書くにあたっては、論理構成に必要な前提条件を最初にきちんと考えるようにしましょう。


Q:マラリア原虫の持つアピコプラストと、葉緑体のDNAの起源が同じであるということから、マラリア原虫は元々藻類であるということを講義で学び、興味を持った。では、なぜマラリア原虫は光合成という生きる手段を手放したのだろうか。まず、光合成で得られるエネルギー量が少なかったのではないか。それは、生息環境が光合成に必要な光や二酸化炭素が得にくい環境だったためや、運動するための活動量を光合成では賄えなかったためなどが考えられるのではないか。しかし、前者の生息環境については、動物であれば運動能力があるため、生息する環境を変えることがあるので、あまり有力であるとはいえないかもしれない。また後者については、マラリア原虫の祖先は鞭毛をもっていたようなので考えられるかもしれないが、多細胞生物に比べたら運動量は微々たる量なのではないかと、少し疑問には感じる。そこで、マラリア原虫について調べてみた。マラリア原虫は、アピコンプレクサ門胞子虫綱コクシジウム目に属するらしく、アピコンプレクサ類は全て寄生生物だそうだ。マラリア原虫は寄生生物なのである。そのため、光合成ではなく、寄生の方がマラリア原虫にとって有利だったため、そちらを選択して進化していったのではないか。

A:前半で、光合成を捨てる議論をしている時には、代わり外部から食べ物を摂取する従属栄養を考えているのでしょうか?そうであれば、その際にも、「光合成ではなく、従属栄養の方がマラリア原虫にとって有利だったため、そちらを選択して進化していったのではないか」という全く同じ論理が使えてしまいます。結果的にそうなったのだからそれを選択したのだろう、というのは論理ではなく、単なるトートロジーです。


Q:第4回の植物生理学Ⅱでは、葉緑体の共生やその共生過程について考えた。はるか昔にシアノバクテリアが真核生物に共生したことで、現在の植物細胞のように細胞内に葉緑体を持つことになった。しかし、シアノバクテリアと葉緑体のゲノムサイズを比べると、葉緑体はシアノバクテリアの100分の1ほどのゲノムサイズしかない。その理由はシアノバクテリアの遺伝子がホストの細胞核内に移行したためである。授業ではここまでしか扱わなかったが、シアノバクテリア(葉緑体)の遺伝子が核ゲノムに移行することで細胞体にどのようなメリットがあるか考察する。葉緑体では光合成を主として、他にも窒素代謝や脂肪酸合成などの働きも行っている。このような反応を行うために葉緑体では電子伝達系を持っているが、ここでは活性酸素が発生する。この活性酸素には遺伝子を損傷させる作用がある。そのため葉緑体で何らかの不具合が起きた場合、この活性酸素により葉緑体の遺伝子が傷つく可能性がある。そのため、細胞核内に遺伝子を収容させていたほうが有利なのではないか。では逆になぜすべての遺伝子を細胞核内に収容しないのか。その理由としては核からの輸送がしにくいタンパク質の遺伝子であったり、素早く発現する必要のある遺伝子は葉緑体にとどまっているものと考えられる。生物は自己に有利なように進化していく。そのため、植物に存在する葉緑体のゲノムサイズこそが、植物細胞に最適なのであろう。

A:これは、遺伝子を核移行させることが有利な点と、葉緑体に残しておいた方が有利な点をきちんと両面から考えていてよいと思います。なお、ゲノムサイズの1/100というのは少し大げさだと思います。


Q:今回の授業で、シアノバクテリアが真核生物と共生し、進化して以降、徐々に葉緑体がもつゲノムを細胞核に移行させていった。しかし、なぜ、進化の過程で葉緑体ゲノムを細胞核へ移動させる必要があったのだろうか、なぜ、葉緑体はゲノムの大半を細胞核へ移行させたにもかかわらず、いまだ独自のゲノムを保持し続けるのだろうかと感じた。初めに考えたことは宿主である真核生物が葉緑体からゲノムを収奪することで葉緑体の活動をコントロールすることである。真核生物が葉緑体のゲノムを持つことで葉緑体の増殖を制御し、自身の増殖と同調させることを容易にすることができると考えられる。しかし、2009年ごろに葉緑体やミトコンドリアのDNA複製が完了をした後、これらがシグナルを発し、細胞核DNAがこれを受け取ることでDNA複製が誘導されることが発表されている(1)。ここから、宿主が葉緑体を制御するような単なる上下関係なのではなく、葉緑体が宿主に寄生しているような関係が見えてくる。だから、宿主が増殖する際に、細胞核と葉緑体間で増殖が可能か連絡をとりあい、可能であれば、葉緑体DNAが複製され、その後、細胞核DNAが複製されると考えられる。このことから、細胞核DNAは葉緑体が勝手に増殖しないように葉緑体ゲノムを持ち、一方、葉緑体も細胞核DNAの複製を支配するために独自のゲノムを保持するような共生関係が考えられる。
参考文献:(1) 千葉大学 大学院園芸学研究科 ニュースリソース、田中寛、「真核細胞誕生の謎を解くパラサイト・シグナルを発見 —ミトコンドリアと葉緑体が独自のシグナル分子(MP)で 核ゲノムと細胞の増殖を支配—」閲覧日時2016年10月30日、http://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2008/20090106_para.pdf#search='%E8%91%89%E7%B7%91%E4%BD%93+%E7%B4%B0%E8%83%9E%E6%A0%B8+%E7%A7%BB%E8%A1%8C'

A:これも自分なりの考えによって、核移行をする遺伝子と葉緑体に残る遺伝子の存在意義を考えていてよいと思います。


Q:ミトコンドリアや色素体などの細胞小器官で立てられている共生説が考えられる他の細胞小器官を調べてみると、重要な運動性細胞小器官である鞭毛が運動性の細菌スビロヘータに由来することを提唱した人物がいた。また、ランブル鞭毛虫は細胞内共生で手に入れたと考えられる細胞小器官をもたず、細胞内輸送や分泌にかかわるゴルジ体などは痕跡程度に残るだけと単純な構造を持つため、細胞内共生が起こる以前から生存し続ける生きた化石ではないかという説があるが、これに対立する説もある。ランブル鞭毛虫は酸素の乏しい環境で増殖する寄生性の生物であるため、宿主から生存におけるものの多くを手に入れていくうちに必要のない器官が退化していったという考えである。そして退化したという説がミトコンドリアや核のDNAに存在する遺伝子を利用した実験でのちに確立された。正直、鶏が先か卵が先かというような話に思える生物の枝分かれの根幹を見つける事は極めて困難ではあるが共生説の起源を研究することにとても興味を持った。

A:これは、単なる人の説の紹介なので、僕の講義のレポートとしては不十分です。自分なりの論理をレポートに盛り込むようにしてください。


Q:今回の講義では、マラリア原虫が葉緑体由来の組織「アピコプラスト」を持つことを学んだ。本来の葉緑体の機能である光合成は出来なくなってはいるものの、窒素同化や硫黄同化、脂肪酸合成を司っているために、今もマラリア原虫内に残してあるという。この授業中にアピコプラストの存在意義を質問された際、本来とは違う考えではあるが、「再び葉緑体による光合成を必要とする時が来た場合に備えて、敢えて残しているのではないか」と推測した。平たく述べると先祖返りであるが、折角葉緑体を二次共生させた祖先が葉緑体の機能を失うことで今のマラリア原虫に至るのであれば、その逆もまた然りではないかと考えた。果たしてこの考えが正しいかは不明だが、例えばアピコプラスト内に光合成機能を有する葉緑体を強制的に導入する・窒素同化や硫黄同化、脂肪酸合成などの作用を阻害した上で、照度の高い条件下でマラリア原虫を飼育する、など光合成を必要としそうな条件でマラリア原虫を飼育するとどうなるであろうか。恐らく殆ど死滅するかも知れないが、万が一生存した個体がいれば、アピコプラストの光合成能が蘇っていないか確かめてみるべきかも知れない。また、真核生物であれば二次共生を行いやすい、とも授業中に述べられていたことから、逆に再びマラリア原虫が藻類を取り込み、葉緑体を共生させるということも出来るのではないかと推測した。取り込んだ藻類の遺伝子をアピコプラストに移し、失われた葉緑体の機能を再び発現させることは出来ないだろうかと考えている。

A:これは面白いアイデアだと思います。ただ、講義の中で示したように、光合成脳を失ったアピコプラストのゲノムサイズは、通常の葉緑体のゲノムサイズよりもさらに小さくなっています。つまり、光合成に関する遺伝子の情報は失われていると思われるので、先祖がえりは難しいでしょうね。


Q:講義の中で、葉緑体DNAが核に移動することを学んだ。今回はこの転移がいつ行われたのかを考察する。葉緑体DNAは、同じように細胞内共生の結果誕生したミトコンドリアのDNAに比べると生物種間での配列の違いが非常に少ないようである。ところが核に移動した葉緑体DNAは、核ゲノムの進化速度の影響を受け、核に局在する色素体DNAは核で過ごした分だけ配列を変化させているのである。そこで現在の葉緑体にあるDNAと核に局在する色素体DNAとの配列を比較すれば、いつ頃色素体DNAが葉緑体から画へ転移したかが分かる。

A:この手の論理展開の場合、前提となる事実の信頼性が非常に重要ですので、きちんと出典を示して、もう少し定量的に議論を進めるようにしてください。「非常に少ないようである」といった記述ではあいまいです。


Q:今回の授業で腐生植物いう種類の植物種が出てきた。これは分解者に寄生する光合成能を失った植物である。この腐生植物は分解者という微生物をはじめとする小さな生物に寄生するにもかかわらず、他の草本などと同じような大きさをしている。このような大きさの差がありながらほとんどの栄養を宿主に頼って生きていけるのはなぜか疑問に思ったので考えていきたい。腐生植物は日当たりの悪い林床に生息しているそうだ(文献1)。日当たりが良くないということは植物にとっては光合成が行いにくく、生息しにくいところであるためニッチができる。そのニッチに腐生植物は入り込んで生活を始めたのであろう。一方分解者にとっては程よい湿り気が保たれており、気温も変化しにくいと考えられるため生息しやすいためたくさんの分解者が生息していると考えられる。そのような環境の中で腐生植物は自分で少ない光でも光合成をしてエネルギーをつくるよりも分解者がつくったエネルギーを使用したほうが効率がいいと考えた。その際に分解者が少ないところではそのままの植物の大きさでは十分なエネルギーが得られないため、自分を小さくするなどの対応をしなければならない。しかし腐生植物が生息し始めたところはそのままの大きさの植物でも維持できるほどのエネルギーをつくれるだけの分解者が存在したからであるから、腐生植物は他の草本の植物と同じような大きさのままでも生き残ることができたと考えられる。

A:目の付け所はよいと思います。ただ、最後の論理は、要は「大きくなったのは大きくなれたからだ」ということですから、あまり論理的とは言えないと思います。


Q:今回の授業では細胞内共生とミトコンドリアについて学んだ。中でも最も興味を引かれたのは、ハテナという生物である。分裂する際、一方は葉緑体を持ち、もう一方は無色で葉緑体を持たないものになる藻類である。この一般の生物は持たない不思議な性質にどのようなメリット、デメリットがあるのかを考察したいと思う。まずデメリットについては、分裂するエネルギーがかかるのと、藻がない環境などで取り込めない場合栄養が作れずに死んでしまうリスクを孕むという点であると考える。このデメリットを超えるメリットについて続いて考えてみようと思う。大きいメリットとしてはエネルギーの観点からすると自身で葉緑体を作り出さなくていいのでエネルギーが節約できるという点である。このメリットがはてなにとっては大きいためこのような形質を取ったのだろうと考えられる。

A:比較する際には、何と何とを比較するのかときちんと明示することが必須です。ハテナについて議論しているのであれば、葉緑体が分裂しないのが特徴のはずですが、「分裂するエネルギーがかかる」とあるので、何を比較をしているのかわからなくなります。もう少し論理をきちんと進めるようにしてください。