植物生理学II 第10回講義

呼吸によるATPの合成

第10回の講義では呼吸の電子伝達によってATPが合成される仕組みを中心に紹介し、最後に発酵についても触れました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:「植物は発酵しないが、例外的に冠水した根では発酵することもある」ということについて考察を行う。発酵とは嫌気条件下で、有機化合物を酸化させることによってエネルギーを獲得する反応である。発酵を行える植物の例としてイネが挙げられ、これはアルコール発酵によってエネルギーを獲得している。そして、嫌気条件下でもエネルギーを得られるイネは水田のみならず陸上にも生育しているらしい。陸上、水上どちらでも生育できるということは生存競争において有利に思える。なぜ植物の発酵は例外的な反応なのだろうか。私は、その理由がアルコール発酵の反応プロセスにあるのではないかと考える。アルコール発酵は、中間生成物としてアセトアルデヒドを生じる。そして還元酵素(NAD)によって、アセトアルデヒドはエチルアルコールとなる。多くの植物が発酵を行わない理由は、人間と同じように、植物種によってアセトアルデヒドをエチルアルコールに変換する能力に差が大きく存在するためではないか。アセトアルデヒドという有害物質を体内に生じるリスクを負うよりも、アセトアルデヒドを速やかにエチルアルコールに還元する能力を得るよりも、陸上で効率よく種を繁栄させる形質を獲得するほうが進化の方向性としてスマートだったのかもしれない。

A:着目点もよく、考えようという姿勢が感じられます。ただ、表現があいまいな点は、はっきりさせたほうがよいでしょう。例えば「嫌気条件下でもエネルギーを得られるイネは水田のみならず陸上にも生育している」という部分、水田のほうが通常嫌気的になりますから、普通の日本語ならば「陸上のみならず水田にも」となります。そこを事実としてきちんとおさえるためには、「陸上のみならず嫌気的になる水田にも」とすればわかりやすくなります。現在の文章では、後半の「陸上で効率よく」という部分との関係性がよくわかりません。


Q:人が酒等のアルコールを摂取することは健康においては良くないこととされるが、酢は健康に良いとされることが多い。今回の授業でアルコールの分解について触れたため、アルコールを利用して酢酸を生成する酢酸菌について考察したことを述べる。アルコールを摂取したときに酢酸菌も摂取すればアルコールは分解ではなく酢酸へと変わり、健康にもよいのではないかと思った。酢酸菌はバクテリア系統樹の上流に位置するアルファプロ テオバクテリアに属していて,その近縁種には動・植物 と共生もしくは寄生関係にあるものが多いため、ショウジョウバエなどの腸内にも定着するという記述(生物工学第90巻p340)があり、また酸性下でも生息できるため、人間の腸に寄生させることも可能なのではないかと考えた。

A:アイデアはよいと思いますが、アイデアの紹介で終わった感じですね。最初の2文は前置きなので、それは省いてその代わりに、酢酸菌を共生させようとしたときの問題点などについてきちんと触れられるとよいと思います。


Q:今回の授業ではエネルギー代謝について学習した。特に私は解糖系において三段階の反応を触媒する酵素について非常に興味を持った。そしてこのピルビン酸デヒドロゲナーゼが欠損している場合にどうなるのかについて疑問を持ったので考察してみたいと思う。酵素が欠損するとピルビン酸ばかりが体内に溜まっていくこととなり、特にヒトの場合となると低血糖を引き起こすと考えられる。代謝の中で一つの経路に支障をきたすと他の代謝経路にまで影響を引き起こすこととなり、一つ一つの酵素の働きが重要となってくる。また、このように効率の良い酵素が様々な部位に存在していればさらに効率の良い反応が起こると考えられるが、これにはエネルギーが必要であるので他の部位にあまりみられないのだと考えられる。また体の各部位では最適温度や最適pHが異なっており、それぞれの部位に適した酵素を必要とするので、効率が良いからといってあらゆる場所に存在するわけではないと考えられる。

A:ここで言う「部位」というのは組織に相当するのでしょうかね。生物学教室の学生ですから、できたらそのあたりきちんと書き分けましょう。あと、ピルビン酸が溜まることと低血糖の間の関係性をきちんと明示すると、論理が通るようになると思います。全体としては悪くはありません。


Q:今日は解糖系やクエン酸回路について学んだ。最後に、アルコール分解について学んだが、二日酔いに聞く飲み物についての紹介があった。アミノ酸を摂取すると、2ピルビン酸→グルコースという反応の間に、酸化力としてNADP+が取り出されるからである。それについて興味を持ったので、それぞれの食材の持つアミノ酸がどれほど血中のアルコール濃度を低くするかについてひとつの実験系を考えてみた。まず、複数(20名程度)の健康状態良好なヒト、(問題な場合はヒトに代わってラットなど)を用意する。あらかじめパッチテストなどで、各人のアルコール処理能力を測定し、4段階に分ける。その後、各段階の人にそれぞれ、アミノ酸が多く含まれてそうな食材、(肉、魚、しじみなど調べたい食材)一種類を同量食べさせる。そして30分ごとのアルコール血中濃度を測定する(ガスクロマトグラフィーなど)。そうすると、各アルコール処理能力レベルでのアルコール濃度の推移平均わかる。それを複数日、同じ時間帯に行う(一回につき一個の食材同量g)。こうして、各食材によってアルコール分解に寄与する能力のデータが得られ、どういったアミノ酸が含まれているかなどの実験や、実際の生活にもつながると思われる。

A:面白いと思います。ただ、なぜ食材を使うのか、つまり各種のアミノ酸の純品を一定量飲ませる実験系とどのように目的が異なるのか、の説明が必要でしょう。


Q:今回の講義では代謝反応と燃焼反応の比較をした。このことは人間のダイエットについて置き換えると分かりやすかった。代謝反応では反応経路が多いが、私たちがなにもしなくても反応が起こるが燃焼反応では運動などをしてエネルギーを作らないと燃焼することができない。よく痩せてる人に「基礎代謝が高い」と言う人をみるが、基礎代謝が高いというのは本当に良いことなのか考察する。基礎代謝が高いということは呼吸の際に使用するエネルギー量が各段階で多いということである。ヒトの体温で越えられる反応の最低限の活性化エネルギーよりも多いエネルギーを使っているということなので、エネルギーの無駄遣いと考えられる。よって、基礎代謝がいいということは生物にとってはいいことではないということが推測される。

A:まず、きちんとした日本語を書くようにしてください。特に2文目は何を言いたいのかがわかりません。また、反応の活性化エネルギーと、反応によって消費されるエネルギーは比例関係にあるわけではありません。もう少し基礎的な生化学を復習してみてください。


Q:今回の授業では最後にアルコール分解についての話があった。アルコールはアルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素により完全に分解されるとのことだった。では、これらの酵素がなくなると体内ではどのようなことが起こると考えられるか。アルコールは体内において毒である。そのため肝臓において分解されているが、もしアルコール脱水素酵素のみがなかった場合、アルコールを解毒することが出来ず、体に悪影響が出てしまう。このとき、アルデヒドは生じないためアルデヒド脱水素酵素があろうとなかろうと関係ない。次に、アルデヒド脱水素酵素がなかった場合を考える。このとき、アルコール脱水素酵素はあるためアルコールはアルデヒドへと酸化される。このアルデヒドは毒性が強いためアルデヒド脱水素酵素がない場合二日酔いなどさまざまな悪影響が出てしまう。

A:考察と言えなくはありませんが、どちらかというと当たり前の論理という感じですね。考察には、何か自分なりの特徴が欲しいところです。


Q:講義では、化合物の組み合わせが少ない2つの炭素からなるアセチルCoAとC4化合物のオキサロ酢酸を反応させて、C6化合物を合成し、多段階反応の条件を満たす化合物の組み合わせを増やすためと学んだ。であるとすれば、C6化合物であるグルコースをC3化合物であるピルビン酸に分解する過程は好ましくない反応ではないのか。わざわざC6化合物→C3化合物→C2化合物→C6化合物と反応させる意味について考えてみた。反応系の一番初めにあるグルコースの化学式はC6H12O6であり、6個の酸素原子を持っているのだから出来うる化合物の組み合わせは非常に多いはずである。一方、C3化合物→C4化合物を経て合成されるC6化合物のクエン酸の化学式はC6H8O7で、酸素原子が1つだけ多い分グルコースよりは多くの組み合わせを考えることが出来るが、反応にかかるエネルギーを考えると変化は小さいようにみえる。では、視点を変えて構造に着目してみる。グルコースは3箇所の二重結合を含む環状の構造で、クエン酸は同じく3箇所の二重結合を持つが枝分かれした鎖状の構造である。環状構造と鎖状構造では、鎖状構造のほうが不安定な物質なので、少ないエネルギーで反応を続ける多段階反応に適している。このことから、グルコースをピルビン酸に分解する解糖系の反応には、グルコースの環状構造を切るという重要な役割があることがわかる。
参考文献:鈴木範男著「初歩からの生物学」

A:きちんと考えていますし、面白いと思います。実際には、ピルビン酸とアセチルCoAは、代謝系の中で、交差点の位置に存在しています。複数の代謝系を結び付ける部分は、単純で安定でありながら、それぞれの代謝系の産物に変化させやすい物質であることが必要であって、それが炭素3つの化合物が選ばれた理由なのではないかと思います。


Q:今回は代謝の話がメインであった。代謝の重要なこととしてはエネルギーとして用いるためのATPを合成することである。ATPの合成はATP合成酵素を介して、行われるわけだが、その構造は非常に精密である。ATP合成酵素が1回転すると、ATPが3分子出来る。この仕組みがとても不思議に思えた。ヒトのように認識できない分子がどのように一回転を確認しているのか。考えられることとして、きちんとした知識がないためはっきりとは言えないが、生物時計という考え方があるように、一回転のリズムのようなものが分子中に刻まれているのではないかと考えた。当然ながら、もしそうなら三分の一回転のリズムもわかるわけなので、これにより一回転で3分子のATPをつくるという精密さを保っているのではないかと思う。

A:この部分は、僕の説明が不足していましたね。良い点を指摘してもらえました。次回の講義で補足しましょう。


Q:今回の講義において、ルシフェラーゼはATPを用いてルシフェリンを酸化させるため、発光を利用してATPの存在を確認することができるという話があった。自然界には、蛍などといった生物が、このような発光能力をもつ。そこで、蛍はどのようにして発光能力を獲得したのかを考えた。光合成能力をもつウミウシというのが存在するが、このウミウシは、藻を摂取することで光合成色素を体内に取り入れ光合成を可能にしていることが知られている。しかし、蛍の場合、幼虫のときにはカワニナを食べ、成虫ではエサは口にせずに水滴や湿度の高いところで蒸発される水分を摂取するだけである。また、蛍は卵の時期から光る。これらのことから、外部からの摂取によるものとは考えられない。そうすると、もともと蛍の体内に存在している物質が何らかの原因によって変化し、ルシフェリンとルシフェラーゼに変化したのではないかと考えた。しかし、これ以上はわからなかったため、以下調べてわかったことである。「どの様にして発光能力を獲得したのかはまだ良く分かっていませんが、Abe et al. (1996)においてルシフェラーゼと消化酵素の特性の類似が指摘されています。分泌腺の位置や構造も似ている事から、消化酵素から発光酵素が派生したという予測がなされています。Rees et al. (1998)では活性酸素防御物質からルシフェリンが派生したのではないか、との予測を示しています。活性酸素は生物にとって猛毒なので、生物体内には活性酸素の酸化力を殺すための物質があります。ルシフェリンの酸化されやすいという特性はそういった抗酸化物質と似た点があります。」このような変化から、現在のような発光能力を獲得した、という考えを知ったが、とても不思議に感じた。なぜなら、ルシフェラーゼだけ、もしくはルシフェリンだけができても発光することはできず、両者ができ反応が起きることで発光するのであるからである。生物の体内では遺伝子の変異による物質の変化が実は結構起こっており、そのために偶然にもルシフェリンとルシフェラーゼができ発光能力を獲得したのではないか、と考えた。また、先述のように、蛍は外部からの摂取によって発光能力を獲得したのではないと考えたが、魚の中には摂取から発光能力を獲得するものがいた。「ウミホタルなどの発光性ミオドコーパを捕食し、その発光物質を体内で分離、蓄積する事で自らが発光する生物が居ます。キンメモドキ、ツマグロイシモチなどがそうで、消化器官で発光物質を分離し自分の発光器官内で反応させて発光します(Haneda, 1972)。」
引用情報http://www.umiho.net/sow/umiho_light.html

A:全体として文章は面白く書けていてよいと思います。ただ、アイデアの部分を参考文献に依存しているため、考察のオリジナリティーという点では評価が下がります。「これ以上はわからなかった」という部分について、奇想天外でもよいので、想像力を働かせて推測してみることが重要です。「わかる」というのは正解が存在する場合の言葉ですが、正解かどうかはこの講義のレポートでは問題ではありません。自分で考えられるかどうかが重要です。


Q:化学浸透共役によるATPの合成が解糖系のそれより効率がよいのは、プロトンの濃度勾配により生じる電気的な位置エネルギーを利用しているからである。つまりこのエネルギーをATP合成酵素の回転の力に変換している。では他のエネルギーもATP合成酵素の回転力に変換できるのではないかと考えた。例えば熱エネルギー。コルク栓をつけた試験管を温めるとコルク栓が飛ぶ、というような実験の構造を活かせないだろうか。ATP合成酵素が膜状に存在する密閉器官内の温度を上げることで器官内の分子の運動速度が上がるので、ATP合成酵素を通じて外に飛び出そうとする力をプロトン濃度勾配の力の代わりに用いるのである。恒温動物の体内は37度付近に保たれているが、複雑な化学反応をともなう器官を考えると細胞内温度が不均一である可能性がある[1]とあるので、その器官が細胞内で温度の低い場所から高い場所に移動することで力を生み出す。これは、他の様々な化学反応で生じた熱を無駄なく利用しているという点で優れているように思われる。ただしそのようなことを起こすのに十分な熱が細胞内の化学反応で存在するのかということは疑問である。もちろんこのような仕組み・構造は生体内にあるわけではないのだが、濃度勾配以外の力も利用できたら面白いと思った。
[1]京都大学 森研究グループhttp://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2013_1/131014_1.htm

A:独自の視点から考えていてよいと思います。ただ、最初の「化学浸透共役によるATPの合成が解糖系のそれより効率がよい」というのは、定義によっては間違いです。解糖系においてグルコースからピルビン酸に変化させる過程で発生するエネルギーの何%がATPになり、クエン酸回路と電子伝達によりアセチルCoAが二酸化炭素になる過程で発生するエネルギーの何%がATPになるかを計算すると、むしろ解糖系の方が効率が高くなると思いますよ。


Q:体内の95%以上のATPは電子伝達系で合成されるという。本講義で、ATPはATP合成酵素がプロトン勾配によって軸が回転することで合成することを学んだ。このような酸化的リン酸化にはプロトン勾配をつくる構造が必要で試験管内ではATP合成ができない。一方で、基質レベルのリン酸化はリン酸を持つ基質が酵素によってADPに移されることでATPが生じるという酸化的リン酸化に比べて単純な反応のように見られる。しかしなぜ、反応系の複雑な酸化的リン酸化でATP合成が行われるのだろうか。また、せっかく合成できたATPをそのまま維持し、すぐに他のエネルギーに利用できるよう貯蓄することができないのも不思議に思った。

A:最初に言ったと思いますが、この講義では、単に疑問を提示するだけのレポートは評価されません。


Q:ミトコンドリアに行われるATP合成は、最後H+の濃度勾配を今まで蓄えた還元力を用いて発生させ、その高エネルギー状態を利用してATP合成酵素によって行われるという「化学浸透説」について講義で取り扱った。それを証明する実験としてヤーゲンドルフの実験が紹介された。葉緑体のチラコイド膜を酸性の液にしばらく浸した後、瞬時に塩基性の液に浸し直すと、ATPが合成されているというものだった。これは酸性の液中のH+がチラコイド膜中に浸透させることによってH+の濃度勾配を発生させていたが、H+はチラコイド膜上のATP合成酵素の逆反応によって膜中に入ったはずである。その時は逆にATPが消費されるので、酸性の液にはATPを溶かしておく必要がある。そしてATPが合成された事を証明するために、後に入れる塩基性の液の最初のATP濃度を前もって測定しておくべきである。ここではチラコイド膜が破れてしまわないように、非常に慎重な作業が要求される。

A:前半は講義の繰り返しですから、後半部分がレポートの本題のはずですが、何を主張しているのかがややわかりづらいですね。「慎重な作業が要求される」というのが自分なりの結論なのでしょうか。前半部分で設定する問題点をはっきり記述すると首尾一貫したレポートになります。


Q:今回の授業で衝撃的だった内容はATP合成酵素は3つのユニットを持ち、水素イオンが酵素内を通過して回転することでATPを合成していることであった。ATPはF1モーターとF0モーターに分かれておりF0モーターの数によってATP合成に必要な水素イオンの数が変わってくる。より効率よくATPを合成するためにはF0モーターが少ないことと水素イオンの濃度差が鍵になってくると考えられる。おそらく高等動物は多くのエネルギーを必要とするだろうからF0モーターの数も少ないという仮説を立てた。そこで実際に種別のF0モーターの数を調べてみたところ、酵母は10、葉緑体14、牛8、人8であった。やはり予想通り哺乳類である牛、人のF0モーターの数が少なかった。このようにATP合成酵素は高等動物のエネルギー供給に適応するために遺伝子変異をしてF0モーターを少なくする進化をしたと考えられる。またその種の個体によって必要なエネルギー、合成するエネルギーが変わってくる。種内でF0モーターの数が違うことは考えにくい。これはおそらく水素イオンの濃度差によって変わってくるだろう。子供と大人では当然大人の方がエネルギーが必要である。ミトコンドリアの細胞呼吸によって水素イオンは膜外に生み出されている。つまり間接的にATP合成に関わってくるのは呼吸量の差であることがわかる。子供と大人では大人の方が呼吸量は多いことから、エネルギー合成には呼吸量が影響してくることがわかる。要するにエネルギー供給の効率化には水素イオン濃度差を作るために多くの呼吸量が必要であると考えられる

A:面白い点に着目していますが、やや論旨がとりづらくなっていると思います。水素イオンの濃度差と呼吸量はおそらく比例するのだろうと思いますが、Foのサブユニット数と水素イオンの濃度差の関係は、直観的に決まるものではないように思います。


Q:今回の授業でATP合成酵素が回転することによりATPを合成していて、また、そのATP合成酵素は非対称ということを学んだ。そこで、そのATP合成酵素が非対称である理由を考えてみた。ATPは合成酵素を回転させることで生成されているが、そもそも合成酵素を回転させるためにエネルギーとしてATPが必要となってくる。そのため、非対称にして回転しやすさを上げることで、回転の際のATP消費を少なくしているのだと思う。

A:どうも論理が読み取れませんでした。「回転することによりATPを合成」というのと「回転させるためにエネルギーとしてATPが必要」というのは、逆反応のことを言っているのでしょうか?また、普通は、対照的な形のものの方が回転しやすいと思うのですが、なぜ「非対称にして回転しやすさを上げる」と考えたのでしょうか。もう少し、説明をきちんとしないと意図が伝わらないと思います。


Q:本講義では呼吸による糖の分解について学んだが、その中でも解糖系の反応について興味がわいたので調べてみたところ、がん細胞ではミトコンドリアでの酸化的リン酸化が抑制され、酸素が使える状況においても解糖系でのエネルギー産生に頼っているということを知った。がん細胞は通常の細胞に比べ細胞分裂が盛んであり、細胞膜や細胞骨格などの構成成分を新たに作ることが通常細胞に比べ求められる。そのため、ミトコンドリアでグルコースをすべてCO2と水に分解してしまうと、細胞構成要素としてミトコンドリアの炭素骨格を利用することができず、細胞分裂を行うことができなくなってしまうため、必然的にがん細胞では解糖系に依存したエネルギー代謝を行っている。がん細胞において解糖系に頼ったエネルギー産生を行っているのであれば、通常に比べピルビン酸がアセチルCoAの産生が低くなり乳酸の産生が増えるのだろうか。それとも通常の細胞と同様の割合でピルビン酸の反応が行われ、アセチルCoAがエネルギー産生に使われずに捨てられるということなのだろうか。
【参考文献】銀座東京クリニックHP http://www.f-gtc.or.jp/

A:上にも書きましたが、この講義では、単に疑問を提示するだけのレポートは評価されません。


Q:今回はATPの生成様式の酸化的リン酸化と基質レベルのリン酸化について、この二種類はどのように行われるようになったのかなど考えながら触れていこうと思う。基質レベルのリン酸化は酸化的リン酸化と異なり、特別な構造や環境は必要ない。このことからこのATPの生成様式は原始的な細胞、生物から出来て発達したと考えられる。逆に酸化的リン酸化はプロトンの濃度勾配の違いを利用することで働いている。これはその当時の環境として細胞内と異なる酸性またはアルカリ性環境でありそれに適応しようとまたはうまく利用しようとして発達していったものであると考えられ、基質レベルのリン酸化とは全く関係のない発達をして身に着けたのではないだろうか。これは好気性細菌などで発達したと考えればそれが共生した真核細胞で二種類のATP生成様式を持つ理由として考ることができるのではないか。

A:やや舌足らずですが、自分で考えようという姿勢は十分に感じられます。ただ、原始的な生物で基質レベルのリン酸化はされていたと考えるのであれば、好気性細菌でもそれをもっていたはずではないでしょうか。


Q:今回私はATP合成酵素の回転の仕組みについて考察する。ATP合成酵素にはFoモーターとF1モーターがあり、膜内にあるFoモーターがプロトン濃度に反応することでF1モーターの原動力となって回転が起こり、ATPが合成されると授業で学んだ。この2つのモーターをつないでいるのは回転子γであり、以前はγがないとF1モーターの回転が起こらないと考えられていたが、実際はそうではないという研究に興味を持った(文献)。この研究では、実際にγを持たないF1モーターを作製し、回転させることに成功している。しかし、γがATP合成酵素に存在するのには理由があるはずである。この文献には、「γがないと回転スピードが落ち、効率が悪くなる」との記載があった。したがって私はATP合成酵素の起源について、初期のATP合成酵素には回転子γはなく、進化の過程で現在の姿になったのではないか、またはF1モーターと形が似ていてγが存在しない酵素からγがある構造に変化したことでATP合成酵素が誕生したのではないか、という仮説を考えた。γがなくても回転することとγがあるとATP合成の効率が上がることから、回転子γは生物の進化の過程で獲得した構造ではないかと考えたからである。この仮説を確かめるには、さまざまな生物のATP合成酵素を解析することやATP合成酵素に似ているがγを持たない酵素を探して遺伝子配列を比較することが必要である。生物は効率の良い方に進化を続けると考えられるので、生物の活動に必須であるATP合成酵素にも同じことが言えるのではないだろうか。
【文献】ATP合成酵素を形成するF1モーターの新たな回転メカニズムを発見 http://www.natureasia.com/ja-jp/jobs/tokushu/detail/240

A:全体として悪くはありませんが、アイデアの多くを文献に依存しているのと、仮説の検証実験が曖昧であるところがやや物足りなく感じます。「解析する」「遺伝子配列を比較する」と、なぜ、もしくはどのように仮説が検証されるのかを書かないと、検証実験とは言えません。


Q:今回の講義では、ピルビン酸からアセチルCoAへの代謝に関与する、ピルビン酸脱水素酵素について扱った。3種類の酵素からなる複合体であり、3つの反応を1度に進めることができるという。今回はこのような酵素複合体について考察する。1つの酵素で3つの反応を進めることのできる酵素複合体は、非常に効率良く反応系を進行させることのできるのにも関わらず、1つの反応のみを触媒する酵素も多数存在する以上、何らかの欠点があるはずである。その欠点として、複数の酵素を組み合わせることで生じる、分子量が増加が挙げられる。分子量の増加によって拡散速度が下がると、基質と出会う確率が小さくなってしまうため、反応速度の低下につながると推測される。加えて複数の酵素を組み合わせる必要があるため、構造が複雑になり、合成に時間がかかる可能性も指摘できる。以上のような欠点があるのにも関わらず、酵素複合体を作る利点はなんだろうか。そのひとつの例として、分子量の大きな複数の酵素が関与する反応系が挙げられる。ひとつの反応系にそのような酵素が多数存在すると、基質と酵素の出会う確率が下がり、必然的に反応速度が低下してしまう。そこで、分子量の大きな酵素を複合体としてひとまとめにしてしまうことにより、ひとつの酵素複合体にさえ出会ってしまえば、反応の最終段階まで進むことができ、複数の酵素に出会うという無駄な過程を一気に取り除くことができるのである。また、生物の身体がたくさんの細胞から構成されているという点も考慮しよう。細胞内の細胞小器官によって酵素複合体の存在する空間を小さくすることは、その移動距離を減らすことにつながる。すなわち、基質と出会う確率を上げることができるのである。このように酵素複合体は欠点をうまく補うことで、反応系の進行を手助けしていると考えられる。

A:よく考えていると思います。少し気になったのは、反応と無関係な酵素が存在することにより、基質の拡散が妨げられるように取れる記述です。タンパク質濃度として非常に高くなれば別ですが、酵素として働く濃度範囲の場合、酵素の存在が別の酵素の基質の拡散を妨げる要因になるかどうかは、少なくとも自明ではないと思います。


Q:呼吸の意味をエネルギーを取り出すことと定義する。呼吸における糖の分解反応では、燃焼と比べて、多段階で行うことで、エネルギーを効率よく取り出すことができるという強みがあると習った。ここで、様々なエネルギーを持つ多様な有機物を持つためは、Cの数を6個以上にする必要がある。Cが増えれば増えるほど、理論的には、取り出せるエネルギーが増えるはずであるが、実際には、呼吸の過程ではC7やC8の化合物は使用しない。C7やC8へとCの数を増やさなかった理由としては、C6でも最低限のエネルギーサイズの多様性をまかなうことが出来たからだと推測できる。Cの鎖を増やしていく過程を増やすだけで、その分呼吸のスピードも落ちるため、その分、効率が落ちてしまうのだと考えられる。総合的に評価して、c6が最も効率的な呼吸経路だと言える。

A:炭素原子の数については、クエン酸回路のところで説明しましたが、呼吸系全体から言えば、ピルビン酸は炭素3個ですし、アセチルCoAは炭素2個です。クエン酸回路も、講義で示したように後半は炭素4個になります。もう少し、具体的に議論できるとよいでしょう。