植物生理学II 第5回講義

葉の形態と機能

第5回の講義では、葉の基本的な構造を説明したのち、その構造がどのように機能を反映しているのかについて解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では、気孔の閉鎖を行わないゼニゴケについて触れた。ここで気孔の閉鎖に関わる植物ホルモンであるアブシシン酸とゼニゴケとの関係性に疑問を感じた。アブシシン酸は、植物の耐乾燥性、耐塩性、耐冷性などの環境ストレス耐性を制御するだけでなく、病虫害への抵抗性などにも関与している(理化学研究所広報活動 http://www.riken.jp/pr/press/2009/20090922/、閲覧日17:02 10.25.2015)。ゼニゴケは乾燥に強いために気孔の閉鎖が必要ないと講義で触れたが、この乾燥に対する耐性はアブシシン酸の作用であるかについて考察する。植物が水中から陸へと進出した際の環境対応のためにアブシシン酸が植物中に存在したと仮定すると、コケ植物の中でも系統学的に水中植物に近い苔類のゼニゴケにはアブシシン酸が存在しない可能性がある。しかし陸上植物とともにアブシシン酸の作用も進化したと仮定すると、湿気の環境下に存在するゼニゴケ乾燥耐にはアブシシン酸が関わっているが、維管束植物などの植物への進化とともにアブシシン酸の作用として気孔の閉口作用が生まれたのではないかと考察する。

A:「ゼニゴケは乾燥に強いために」とありますが、講義ではまずゼニゴケが湿った環境を好むという話をしたと思います。過程が2つ述べられていますが、もし後者の仮定を採るのであれば、そこで、何らかの論理展開が必要です。単に、自分がそう思うからそうなのだ、という展開ではサイエンスになりません。別に実験のレポートではないので、データは必要ありませんが、考察というからには、何らかの論拠に基づいて議論するようにしてください。


Q:植物ののシュート構造について学んだので、葉に関連して「柵状組織が葉の表面側になぜあるのか、なぜ柵型である必要があったのか」について考察したい。これに関して自分が考えうる解答は、強光に対応するためだと考える。過剰な光は活性酸素を発生させ光化学系Ⅱの中心たんぱく質を破壊してしまう。葉の表面からほとんどの光が差し込むと考えると、柵状であれば、その組織を光が通過される際、いくらか光強度が減少し海綿状組織での光合成をしやすくさせているのだと考える。葉緑体も柵状組織の方が多く配置されていることも、ここでなるべく光を使用し海綿状組織に残りの光を届けるためと考えれば納得がいく。さらに柵状であることのメリットは、柵のような密構造をとることで細胞間隙に接する細胞の面積が大きくなることである。そうすることによって、気孔からのガス交換が円滑に進むのではないだろうか。これらの理由から、葉の上部に柵状組織があり、また柵型である必要があったといえる。

A:もう少し説明を丁寧にしないと論理がわかりません。例えば「柵状であれば・・・いくらか光強度が減少し」とありますが、海綿状では光強度が減少しない理由は何なのでしょうか。また「密構造をとることで細胞間隙に接する細胞の面積が大きくなる」とありますが、細胞が密に詰まれば、間隙に接する面積は小さくなると考えるのが普通な気がします。一つ一つの理由をはっきりと記述すると、文章全体の論理がもっとしっかりするでしょう。


Q:孔辺細胞によってではなく1つの細胞の中に孔をつくることによって気孔とする植物があるという話があったので、気孔を1つにすることによって生まれるメリットとデメリットについて考察する。まず、気孔が1つになることによって生まれるメリットとしては、壊れにくいことが考えられる。2つの細胞によってつくられていた場合、どちらかの細胞が破損してしまうと気孔そのものが使えなくなってしまうが1つの細胞でできていた場合は、他の細胞は気孔には影響がない。次に、デメリットとしては、気孔をあまり大きくする事ができないことが考えられる。1つの細胞から成り立っている場合は、細胞自身が代謝を行ったりするためにも容量てきにも形状的にも細胞2つからできている場合よりも強く拘束をうけることが考えられる。そのため2つの細胞からなる場合よりも大きさにも制限をうけ、空気交換の効率は落ちてしまうのではないかと考えられる。

A:よいと思います。ただ、ここまで考えたらもう一息、それらのメリット・デメリットが、植物の生活にどのように反映されているのかを考察したいところです。ゼニゴケは、1細胞による気孔を実現している以上、その場合のデメリットが何らかの理由で小さいか、メリットが大きいはずです。そして、維管束植物では逆のことが起こっているはずです。植物の実際の形態や生育環境を考えた場合に、なぜゼニゴケは1細胞の気孔を採用し、維管束植物は2細胞の気孔を採用したのか、を考察すれば、完璧なレポートになるでしょう。


Q:今回の講義では、葉の平面的な形には2種類の遺伝子が関わっていることを学んだ。葉の幅を広くするan遺伝子の変異体では、細胞数が少なく、細胞の大きさも縦長になっていると授業で習ったが、葉の長さを決めるrot3遺伝子の変異体はなぜ長さが短くなるのだろうか。考えられる理由としては、①ひとつあたりの細胞の大きさが小さくなる②細胞の数が減る③細胞と細胞の間の隙間が狭くなっているといったことが考えられる。これを確かめる方法として、野生型の葉とrot3変異体の葉を用意し、カミソリで切り、断面の細胞を顕微鏡を用いて観察する方法がある。このとき、細胞の大きさに違いがあれば①の理由であったとされ、細胞の数に明らかな違いがあれば、②の理由であるとされる。また、細胞間の距離に違いがあれば③の理由であるとされる。このようにして、rot3変異体の葉はなぜ長さが短くなるのかを調べることができると考えた。

A:よいと思います。ただ、これだけだと、an遺伝子の変異体の解析の方法と基本的には同じですから、面白みはありませんね。できたら、自分のオリジナリティーがどこかに現れる考察が欲しいところです。


Q:植物は気孔を利用して蒸散や二酸化炭素の取り込みを行っている。このとき、水分を外に逃がさないようにするために気孔を閉じると二酸化炭素の取り込みができなくなってしまう。これは分子量の観点から考えても明らかである。では、葉の気孔において水分を外に逃がさずに外部からの二酸化炭素を取り込む方法はないのだろうか。もしあるとすればなぜ植物はその機能を持たないのだろうか。これについて考える。気体の状態では二酸化炭素を取り込める広さに気孔を開くと水分も通れる広さになってしまうため水分を逃がさずに二酸化炭素だけを取り込むことは不可能である。仮にATPを用いて外気の二酸化炭素を取り込むチャネルのようなものがあれば可能かもしれないが、それは気孔ではないためここでは考えないこととする。次に液体の状態で考えてみる。二酸化炭素を水に溶かして気孔から取り込むことはできないだろうか。葉の表面が水でおおわれている場合、そこに大気中の二酸化炭素が溶け込む。この水を気孔から取り込むことにより水分を逃がさず、むしろ取り込みながら二酸化炭素を取り込むことが可能である。しかし、葉の表面を水で覆うためには外部の水に頼るか自ら表面に水を排出するしか方法がない。葉の表面がおおわれるほどの水が常に周囲にある環境ではわざわざ水を保持しながら二酸化炭素を取り込む必要がない。また、自ら葉の表面に水を排出する場合は、二酸化炭素を取り込む際に失われる水分量よりもさらに大量の水分が失われることが想像できる。このことから、植物にこのような仕組みは必要ないため、備わっていないことがわかる。

A:発想はユニークでよいと思います。ただ、水を逃がさないための気孔ですから、そこに水を使うというアイデアは、将棋や囲碁でいうところの無理筋という気もしますね。


Q:「なぜ葉は平べったいのか」という問いはwhyとhow両方の解釈が可能であり、解釈によって答えも異なるという話があった。授業ではwhyは適応的な意義について、howは発生学的な視点からの議論になっていたと思うが、ここでhowについては進化的な議論も可能であると考えた。さらに進化的背景を考える際にwhyという視点は(目的論に陥らないように注意すれば)欠かせない。初期の陸上植物と考えられているクックソニアの化石記録によると、葉をもたず軸構造の対称な二叉分岐の繰り返しがみられ、これ以降に陸上植物は葉を獲得したと考えられる。葉の起源について提案されている「テロム説」〔1〕を引用して先の問いについて進化的背景から段階的に説明を試みた。
(q)なぜhow葉は平べったいのか>(r1)葉状の分岐の間を柔組織が埋めたから>(r2)茎とは非対称に生じた分岐が同一平面に並んだから
 このように時間を遡りながら葉の起源について議論していくと、どうやらクックソニアに見られる軸の対称な分岐の繰り返し構造から非対称な二叉分岐を獲得し、主軸を形成しない分岐が同一平面上に並ぶ瞬間に初めて(q)という問いに進化的背景から答える準備が整った感じがする。ここで(r2)の適応的意義として授業で扱ったwhyの説明が通用するだろうか(もちろん特殊化した構造の適応的意義は進化的に同系統の器官であってもその時々で異なる可能性は十分ある。)。残念ながら、二叉の繰り返し構造をもった枝がひとつの面を形成したところで、その間を埋める柔組織無くして日光の投影面積を増やすという利点はほとんど無いように感じられる(団扇の骨だけでは仰いでも風が来ないように)。かといって他の適応的意義を見出すのも難しかったので(後述)、植物の成長の性質として「(h)一定距離以内に隣接した組織は癒着する」という前提を置くと確率的に生じた(r2)という変異が単一世代で光合成に有利に成りえる。進化に適応的な意義を追求して祖先を遡ると切りがないのと、クックソニアは陸上植物としては十分単純な体制をしていることから今回は(h)という性質が少なくとも葉を獲得する段階ではあったということで(q)に対する自分なりの答えとしたい。なお(r2)のwhyの別の答えが有るのならば、現生の生物で実験をするしかない我々にとってコケ植物を調べてみるとヒントが見つかるかもしれない。維管束植物と異なり、胞子体の分裂細胞が有限回の分裂しかせず枝分かれの無い単純な胞子体をもつコケ植物は二叉分岐の発生学的機構と分岐の配置による適応性の変化を調べられそうだと思った。そもそも枝分かれが無いコケの胞子体だが、分裂細胞に無限増殖性を獲得させると対称な二叉分岐の繰り返し構造が現れるそうだ〔2〕。 参考文献:〔1〕アーネスト・ギフォード他著、維管束植物の形態と進化3版、文一総合出版(2002)、〔2〕基礎生物学研究所、長谷部先生のウェブサイト http://www.nibb.ac.jp/evodevo/research_21_self-assembly.html

A:非常に面白いと思います。ただ、(r1)と(r2)という2つの答を示した上で、(r2)の適応的意義に話が移動するため、最後まで行かないと、全体の論旨がどこに収束するのかがわかりません。そのために、やや読みづらい文章になっています。結局、最初の「howについては進化的な議論も可能である・・・進化的背景を考える際にwhyという視点は欠かせない」といういわば宣言が、文章全体を規定していたことに最後に気づかされるのですが、そのあたりの論理の流れを一工夫すると、ぐっと読みやすい文章になると思います。


Q:今回の授業では葉の形成についてであった。その中で出てきたシロイヌナズナのan遺伝子をノックアウトした場合、葉の横幅が狭まり、このシロイヌナズナでは基部で細胞分裂が盛んに行われている段階でも、先端部では葉の形状を予知するかのように細胞が大きくなるという話があった。この理由について考える。葉が成長するのに、基部で細胞分裂が起こり、古い細胞はどんどん先端部に向かっていくはずである。先端部が基部からある程度離れると、先端部の細胞数はそれ以上変化しないだろう。そこで、細胞数の変化が見込まれなくなると、先端部の細胞はニッチを認識し、普通より細胞数が少ないとなれば、葉の形状の維持のために一つの細胞あたりの大きさを大きくするようにするのではないだろうか。

A:面白そうなテーマなのですが、問題に対する回答となる部分で、「先端部の細胞はニッチを認識し」というのが何を意味しているのかがわかりませんでした。「ニッチ」は一般用語としては壁龕ですし、生態学用語では環境における細かい生態学的な位置を示すと思いますが、この場合はどちらもそぐわない気がします。


Q:今回は葉の形と細胞の大きさについて授業の内容を深めて考えていく。細胞の数が少なければ、細胞の大きさは大きく、細胞の数が多ければ、細胞の大きさは小さいと分かった。私はこの両者の場合どちらのほうが効率よく働きをすることができるのかを考えていく。私は後者のほうが効率よく葉の形を形成すると考える。なぜなら一つ一つの細胞が多い分働きを分担しあうことで上手く栄養を回していると考える。だから葉の形も効率のよい形に変化していくのではないかと思う。葉の形は大きく、広い表面積をとれるような形に成長すると考える。

A:問題設定はよいと思うのですが、自分の考えの論拠は「働きを分担しあうことで上手く栄養を回している」という部分ですから、結局「自分はこのように考える」が論拠となっています。単に一つのことを考えて、それが正しい、といっても説得力がありませんよね。せめて、複数の回答を考えて、その優劣を議論するなりしないと、論理的なレポートにはなりません。


Q:講義であったように遺伝子の変異によって葉の形が変わるということに興味を持った。葉の形にはan遺伝子とrot3遺伝子が関与し、中でも両遺伝子が変異すると葉の大きさが小さくなるという。今回は二重変異体による葉の大きさのメリット・デメリットについて考察する。まずデメリットとして葉の面積が狭いと光を集めにくく、光合成による有機物の生成量も減る。また、葉が小さい分、大きい葉と同じくらい光合成産物を生成するには葉の枚数を増やす必要がある。そのため細胞分化にも多くのエネルギーが必要となる。一方で、メリットは葉を小さくすることで他の葉と重なる可能性が低く、強い光が当たる場合は光エネルギーを分散させて吸収することで葉の内部組織が傷むのを和らげる効果もあると考える。また、葉を大きするための細胞分化や細胞の成長はあまり必要ないため形態維持に多くのエネルギーを使わずに済む。これらを踏まえ、葉の小さい植物は光の強い環境下において生育に適している形だと考える。

A:きちんと考えていると思います。ただ、「他の葉と重なる可能性が低く」という記述と「強い光が当たる場合は光エネルギーを分散させて吸収する」が一見矛盾するように聞こえます。このあたり、特に「光エネルギーを分散させ」というところのイメージをきちんと読み手に伝えるようにすると、論理的になり、説得力が出ます。


Q:今回、ゼニゴケは気孔を閉じられないということを学習した。気孔を閉じられないという話しだけではやがて乾燥してしまい枯れてしまうように考えられるがゼニゴケの生活している日が当たりにくく湿度が高い環境と地面を這うように生息している姿を考慮すると、他の陸上植物の生活する環境よりも蒸散による水分の損失が少なく、また地面に近いことから水を得やすいこともあり現在も生息し続けていると考えられる。さらになぜゼニゴケは縦の方向に大型化できなかったのかということを、気孔を閉じられないという性質を用いて考えてみたいと思う。先に述べたようにゼニゴケの生活する環境は湿度が高くこのような環境であればゼニゴケは水分の損失を大きく他の気孔が開閉できる植物よりも少なくてすむ。しかしゼニゴケを縦の方向に大型化してしまうと、高さが高くなるにつれて周囲の風速は高くなり空気の入れ替えが起こりやすく湿度も下がってくる。そうなると気孔の開閉できないゼニゴケはやがて水を失い枯れてしまうと考えられる。このようなこともゼニゴケが大型化できなかった一つの理由であると考えられる。

A:論理展開自体にはそれほど新規性を感じませんが、問題点をゼニゴケの大型化という点に絞っていて、これが考察をある程度独自性のあるものにしています。


Q:今回の講義ではまず機能が形をつくることを学び、最後には葉の切れ込みや副葉の利点として(葉の幅)/(風速)が小さいほど気孔による空気交換がしやすいことを学んだ。この点からイネ科植物の形態を考察してみる。イネ科植物の葉は細長く、面積としては大きくなっているものも多い。これは空気交換や光合成のために必要な光を集めるためには不利に働いているよう見える。しかしイネ科植物は広い野原生えていることが多いので風通しが良い上に、少しの風でも揺れやすいので結果的に葉の周りの空気が動くので、空気交換も滞りなく行える。さらに葉が細長いために群落の奥深くまで光が届きやすいので、より多くの葉で光をうけることができるようになっている。このことからイネ科植物は、イネ科植物の群落内では成長しやすい形となっている。しかしそこに広葉型の植物が生えてくると光が遮られるので、途端にイネ科植物にとっては成長しづらい環境となる。ところで日本の稲作では、個体の成長より稲穂により多くの栄養がたまるように改良された品種が多く植えられているが、田んぼでは稲以外の植物は人の手によって刈られているので、野生の群落に対して広葉型の植物に対して背の高さで競う必要がないためである。

A:複数の観点から考察がなされていてよいと思います。最後の一文は面白い点ではあるのですが、レポートの論旨の一貫性という点からすると、むしろないほうがよいかもしれません。


Q:植物はシュート構造を成しており、様々な葉の構造は遺伝子の変異によって形が変わっていくことを理解できた。シュートについて調べてみたところ、栄養シュートや生殖シュートというものの存在を知った。シュートは細胞分裂をして茎や葉を形成するが、それは光合成によって得られたエネルギーをシュートで利用されて細胞分裂に使うエネルギーとして還元されていることが考えられる。

A:最後の一文が考察に相当するはずですが、やはり一文で考察というのは無理でしょう。日本語としてもきちんとしていません。もう少し余裕を持って準備してレポートを提出するようにしてください。


Q:今回の授業では葉の構造について学んだ。先日、ヒイラギモクセイの葉脈標本を作る機会があったので、そこで気づいた葉の構造について考えてみたいと思う。ヒイラギモクセイの葉には小さな切れ込みがありその先には鋸歯がついている。その切れ込みと鋸歯は幼木にはたくさんあったが、大きな木になるにつれ数が少なくなっていた。授業では葉の切れ込みの意味として葉を小さくして境界層を小さくすることで二酸化炭素の吸収効率を上げるためと学んだが、ヒイラギモクセイの場合は切れ込みが小さいので、その切れ込みと鋸歯は二酸化炭素の吸収効率ためというよりは動物に対する物理的防御のためであると考えられる。また、葉のクチクラ層は葉の裏側より表側の方が厚かった。これは葉の表側の方が直射日光が当たり乾燥しやすく、それを防ぐためであると考えられる。

A:問題設定自体はよいと思いますが、2つの点をちょっとづつ議論するのではなく、なるべく焦点を絞って深く議論してください。例えば、1つめの点について言えば、せっかく若い木と大きな木の違いに触れておきながら、考察には全く利用されていません。もったいないと思います。


Q:今回の授業の中でスイレンの葉の気孔が、水面に接しない表側に存在することを学んだが、それに関し考察する。気孔はCO2の取り込み・蒸散を行うため気孔が空気と接している側に来るように進化していったのだろう。しかし、進化の段階で葉の気孔の位置を変える以外にスイレンが生きやすくなる方法は生まれなかったのだろうか。気孔の無い植物としてミズニラの一種(シダ植物)が挙げられ、これは根からCO2を吸収している。このように、気孔が存在しなくても他の方法で生き延びていくことを選択した植物もいるのだから、スイレンもそのような進化を遂げても良いはずである。たとえば、水に溶ける微量のCO2を葉の裏から吸収できるような葉のつくりにする、そもそもCO2無しでも生存できるシステムの構築などが挙げられるだろう。また蒸散に関しては、蒸散の役割である葉温の調節を他の何らかの方法、例えば熱を液体や粘液等水蒸気以外の形で放出し同時に水分を吸収するような仕組みで葉温の調節を行うことが出来れば、気孔を葉の表側に持ってくる以外の進化が考えられるのではないだろうか。

A:「蒸散の役割である葉温の調節」とありますが、講義の中で、葉温の調節を第一の目的として気孔を開閉しているとは考えにくい、という話をしたと思います。レポートを書く際は、やはり講義に基づいて書くようにしてください。また、「CO2無しでも生存できるシステム」とありますが、CO2無しで光合成が可能だと思っているのでしょうか。それとも、スイレンが他の生物を捕食することがイメージされているのでしょうか。この講義のレポートでは、常識にとらわれる必要はありませんが、常識に反する部分は、もっと具体的に説明するようにしてください。


Q:私は今回の講義の中で、表皮細胞の中で孔辺細胞にだけ葉緑体がある、ということに疑問を持ったので考察する。まず、表皮細胞の主な機能はは光合成ではないので、表皮細胞の一部であり、加えて歯の裏側に多い孔辺細胞の葉緑体は光合成機能のためにあるとは考えにくい。また、他の表皮細胞は持っていない葉緑体を孔辺細胞が持っているということは、孔辺細胞特有の働きに葉緑体が関わっているのではないか、と私は考えた。孔辺細胞特有の働きといえば、気孔の開閉である。気孔は、孔辺細胞のカリウム濃度が上がると開き、下がると閉じるというように浸透圧の変化に制御されている。高校生で植物について学んだとき、気孔の閉鎖のときの浸透圧の変化はアブシシン酸がシグナルとなって起こると習った。開口については詳しく学ばなかったので、何がシグナルとなるのか、当時も疑問に感じていた。今日の講義からこうして考えてみると、気孔の開口に関わるのはこの葉緑体なのではないか、という考えに至った。葉緑体は光刺激を認識する器官である。したがって、葉緑体は光刺激を受けて孔辺細胞の開口に関わっているのではないか、と私は予想する。これを調べる方法としては、顕微鏡上で孔辺細胞にさまざまな波長の光刺激を与えて孔辺細胞がどう反応するのかを確認することが挙げられる。気孔は葉の裏側にあることが多いので、葉の表側で葉緑体によって吸収されなかった波長の光に反応するのではないかと考えられる。

A:オリジナリティーのある考察とまではいえないかもしれませんが、問題を設定し、考察となる論拠を示して、最終的にある仮説を示し、それを検証する実験系まで考えていてよいと思います。最後の葉に吸収されなかった光が重要なはずであるという推理も評価できます。


Q:講義の最中、葉の切片の模式図を見ていたときに、表皮には葉緑体が存在しないのにも関わらず、孔辺細胞は葉緑体が存在することに疑問を持った。そこで、孔辺細胞に葉緑体が存在している利点について考察する。「孔辺細胞における気孔の開閉運動に必要なエネルギーを作り出すため」という説が有力らしいが、個人的には「孔辺細胞がCO2濃度の調べるセンサーとして機能している」のではないかと考えた。講義のスライドで植物の温度から気孔の開閉状態を調べた実験が紹介されたとき、気孔を閉じた状態で、どのようにして外部のCO2濃度を植物が把握しているのかと考えたときに着想を得たものである。つまり、孔辺細胞が葉緑体を保持することで、気孔を開けずに葉の表面で光合成を行うことができるようになり、その反応進行具合から外部のCO2濃度を把握しているのではないかということである。これにより、植物は気孔を開いて外部環境を調べるよりも、はるかに低いリスクで外部の環境状態を把握することができるはずである。

A:さらっと書かれていますが、よいと思います。ただ、これだけだとアイデアの提示で終わってしまうので、ここからもう一段、何らかの論理展開があるとすばらしいと思います。


Q:どうして葉があのような形態をとったのか?葉は最も小さな体積で大きな面積を持てるような形態に進化したのではないかと考えられる。体積が大きくなるとその形態を維持するのにエネルギーを多く必要とするため小さく留める必要がある。また、葉の面積が大きくかなりすぎると、葉の向きをより有利な場所に向けるためや、風の影響にたえるためなどに大きなエネルギーを要してしまうため、葉の大きさを大きくするよりも、葉の数を増やすように進化したと考えた。葉の厚さを大きくする変異や、葉の大きさを大きくする変異を作成し、通常個体と同じ条件下で育成する。変異の個体が枯れる場合は根拠となる。

A:文章を書きっぱなしの印象ですね。レポートは、書いたら自分で読み直して日本語がおかしくないか、論理が通っているかを確認するようにしてください。また、講義で話した内容が反映されていません。講義で葉の大きさの意味について話しているのですから、それを踏まえた上でレポートを書かないと、講義のレポートとして意味がありませんよ。


Q:今回の授業では葉について詳しく学んだ。特に葉の形について興味を持った。葉は三次元でみるとあまり違いがないが、二次元で考えると植物によって様々である。サクラの葉ように、広い面積をもって日光を多く受け止めるために楕円形に近い形をしていると考えられるのは難しくない。こういった楕円形の葉は根元に細胞分裂組織があり、葉の先端の細胞が大きくgようにしてあの形なのかという疑問が浮かんだ。イチョウは葉の先端に分裂組織が存在しており、イチョウは葉柄の長さによって葉が重ならないようにしている。ひとつひとつの葉の大きさよりも、茎の長さが生産性に影響を与えるため、葉の先端に分裂組織をもち、茎の細胞の成長によって制御していると考えた。

A:これも、書いただけで読み直していないようですね。論理展開が理解できません。イチョウは例としてあげているのでしょうか。そこで述べられている「葉柄の長さ」と最後の文の「茎の長さ」の関係もわかりません。


Q:植物が、進化の過程で海から陸へと上がった際、クチクラを表皮に備えることで水を失う問題を乗り越えた、と授業で習った。陸上の環境が植物にも住みやすいものへと変化し、植物にとって陸上と言う選択肢が広がったと言う背景の上で、実際、植物が海中から陸上に進出する進化には、他にも様々なメリットやデメリットがあったはずである。植物のその進出のきっかけを、メリットとデメリットを挙げて比較することで、考察したい。
 まず、陸上進出のデメリットとして挙げられるのは、①水を喪失しやすいこと、②養分や水分を吸収できる箇所が、陸地に触れた一部分に限られること、③周囲の環境が天候に左右されやすいことなどである。生活環境が大幅に変わるにあたって、植物はクチクラや根を代表とする、新しい形態の獲得が必要だったと考えられる。また、常に海水が周囲にあるそれまでの安定した空間と比べて、陸上では雨が降ったり、晴れたり、そして気温が変化したりするなど、環境の変動が日常的にあり、それが植物の生育に影響を与えたのではないかと考える。
 一方、陸上進出のメリットとして挙げられるのは、①太陽光を効率的に使用して光合成できること、②新しく生息範囲を広げやすいことが挙げられる。海中では、太陽光の強さは途端に弱まってしまうが、陸上では、強い光を直接浴びることができるため、光合成の効率が良いと考えられる。また、これまで、海中で限られた生育環境の中で増殖していたが、陸上では例えば風や昆虫などを媒介して子孫を飛ばすことで、生息場所を広げやすくなったと思われる。(飛ばされた先の新たな生育環境で何世代も生き延びられる保証はない。しかし可能性はある。)
 以上のデメリットとメリットの比較より、陸上進出への一番のきっかけは、光合成効率にあると私は思う。強い太陽光を求めて海辺の植物が移動した結果、その一部の植物が新しい環境の中で適応し、生き延びることが出来たのだと思う。つまり、新たな自然環境に淘汰されるリスクを冒し、効率的な光合成を行う選択肢を取った結果、一部の原始陸上植物がクチクラや根などの進化形態を獲得し、安定して乗り越えられる種が生まれたのだと考えられる。

A:メリット・デメリットを考えるところまでは非常によいと思います。しかし、最後の段落で、「比較により・・・私は思う」となっている部分は、「比較により」といいつつ、どのような論理でその結論が出たのかが記述されていません。単に「比較により」「思う」のではなく、何らかの自分なりの論理展開によって最後の結論を得ることができるとすばらしいレポートになります。