植物生理学II 第9回講義

植物の花

第9回の講義では、前回の講義の続きとして根粒菌、アーバスキュラー菌根菌、クラスター根などについて解説したあと、植物の花について主に色の側面から解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:経験から、青い花というのは暖色系の花にくらべて比較的少ないように感じる。では、なぜ青い花が少なくなるのだろうか。一番に思いつくのは、暖色は森や林などの暗い空間で視認性が高いことである。花が虫に認識されるためには虫から見えやすくないといけない。しかし、これでは面白くないので別の視点から考えてみたい。赤い、青いと言ったら熱い(暖色)、冷たい(寒色)という関係が思い出される。確かに、太陽や炎やマグマのように熱いものは赤い光を出しているようである。冬より夏の方が活発に動く動物が多いように、暖かいことが虫にはメリットが多そうである。よって、暖色は虫に暖かいと認識され、より好ましい色であるとされる可能性がある。以上より、花が青ではなく暖色なのは、目立たせるためという理由以外に虫に暖かくて好ましいものと認識させるためではないだろうか。

A:視点は面白いと思いますが、思いついただけで終わってしまうとあまり説得力がありません。例えば、この仮説が正しいとした場合に、いままで考えられていないどのような状況が生まれるか、という視点も必要でしょう。暑くて困るような夏の盛りには、むしろ涼しい方がよいでしょうから、春や秋に比べて、夏には青い花が多くなるかもしれません。一段掘り下げて考えると、論理に厚みが出ると思います。


Q:今回の講義でカーネーションの青色はデルフィニジンという因子によるものであり、人間がおこなった遺伝子組換えにより作出したものであるということを学んだ。そこで、なぜカーネーションが青色を持たないのか疑問に思った。考えられる理由として、花粉を運ぶ虫が青色の波長に敏感ではないため青色のカーネーションではあまり寄ってこなのではないかという事だ。これを実証するためにデルフィニジンを導入したカーネーションと自然に存在するカーネーションを近くに植えて花粉を媒介する虫を放しどちらのカーネーションに多く止まるかという実験を行うと答えが出るのではないかと考えられる。

A:やや考察が薄いですね。もし「虫が青色の波長に敏感ではない」とすると、カーネーションに限らず青い花は存在しなくなるはずです。その場合、他にはペチュニアのように青い花をつけるものもあるのに、なぜカーネーションは青い花をつけないのか、という差を、まず説明する必要があるでしょう。


Q:今回の講義では花の色についてが特に印象に残った。花の色と色素のスライドでも赤や黄色などの暖色系には様々な種類があったが青や紫などの寒色系にはほとんど種類がなく、また青色の花の開発の話や自分が今まで見てきた花の記憶などからも人工でつくられた花以外では寒色系の色の花は暖色系の色の花よりも少ないのではないかと考えられる。ではこれはなぜだろうか。私は寒色系の色素をつくることが難しいのか、またはつくる必要性がそもそもないのではないかと考えた。花の色は子孫を残すために虫を引き付けるためのアピールである。つまり花は虫にアピールをするために色を付けていると考えられる。よって今の花の色は虫を引き付けるために最適な色なのではないかと考えられる。この最適な色に寒色系があまりないということは進化の過程の中で植物が暖色系の色の方が虫を引き付けやすいと判断した結果なのではないかと考えられる。もしも寒色系にも引き付けられる効果が同じようにあったなら寒色系の色素がつくりにくかったとしてもつくりやすいように進化していくのではないだろうか。よって寒色系の色には虫を引き付ける効果があまりないためにそもそもその色素をつくるように進化する必要性がなかったため、今寒色系の色の花が少ないのではないかと考えられる。

A:これも、上と同じような議論ですが、やはり多様性の起源についてあまり考えていないように思います。そもそも、特定の虫に対して一番目立つ色の花をつけることが有利であれば、世の中の花の色は一つに収束してもおかしくありません。しかし、これだけ多様な色の花に満ち溢れているのがなぜか、と考えた上で、青色の花についてより細かく検討することが必要でしょう。


Q:今回同植物でも花びらの色の違いがでることについて興味を持ったので調べてみました。花びらの色の違いは遺伝子の突然変異によってもたらされるもので、たとえばアサガオなどの色はアントシアニンによるもので、その構造によって色が変わってくるようです。さらに同じ構造でも液胞の中のphや溶けている物質が変わってくるようです。つぼみの時は赤のアサガオでも花開く時には液胞のphが上がり青になるようです。遺伝子変異によって上がりきらないと紫。まだ液胞のphがどのように変化するかしくみがわかっていないようですが、これがわかれば赤のつぼみから多彩な花びらを観察することができると考えました。

A:「調べてみました」とありますが、pHの話などは講義の中でしましたよね?レポートに対するコメントをちゃんと読んでから次のレポートを書いていますか?同じ過ちを繰り返さないようにしてください。また、何度も言いますが、調べた時にはきちんと出典を明示してください。


Q:今回の授業では、根粒菌と植物のつながりや、花成反応について学んだ。根粒菌については前回も考察したので、今回は花成反応について考察したい。花成反応には連続した暗期の長さが大きく影響すると授業でも言われたが、これは途中で光が少しでも当たれば暗期が遮られてしまうことから花成反応が行われないことを示している。だが、植物にとって大切な光合成に必要不可欠とされる光を花成反応では逆に活動を遮断するものとして捉えていることに疑問を持った。同じ植物体として、光合成も花成反応も子孫繁栄のためには必要不可欠な活動であるのに、二つを同時に盛んに行うことはできない仕組みになっていることは不思議に思われた。光合成は植物全体の成長に大切な活動で、光のエネルギーを得ることで日々自身で使う養分を作り出すものだが、花成反応は植物の子孫を残すためにある一定の期間をかけて連続した暗期を利用し花芽を形成する活動である。ここから、この二つの活動は日々の活動と長期的な活動という、全く別の意味を持つものだとわかる。そのため私は、この二つの活動は同時に盛んに行うべきものではなく、自身が成長過程にあるときは自身のために光合成を盛んに行い、自身が弱ってくると子孫の繁栄に向けて花成反応を開始するのではないかと考えた。そのように考えると、光について二つの活動が真逆の意味を持つことも理解できる。また、光合成を盛んに行う葉という器官が植物体に生い茂っているときには花芽があまり形成されていないが、葉が生えてから少し期間をおくと花芽が形成され花が咲くという経験にも納得のいく考えになったように思う。これにより、植物にとって大切な光合成と花成反応という活動が同じ光というものを真逆の意味で捉えていることについて、同時期に行うわけではないため問題にはならないのではないかと考えられた。

A:次回の講義で少し触れようかと思っていますが、花芽の分化には、栄養成長段階から繁殖段階への切り替え、という意味合いがあります。例えば、同じ多年草でも、毎年花を咲かせるタイプと、何年かは花をつけずに株を大きくして、そのあとに花を咲かせて枯れるタイプがあります。この辺りの戦略の違いはいろいろ考察の種になるでしょう。


Q:菌根にはアースバキュラー菌根の他に外菌根、内外菌根、アルブトイド菌根、モノトロポイド菌根、などがある。ほとんどの植物には何かしらの菌根と共生しているが菌根と共生していない植物も存在する。その植物はアブラナ科やアカザ科などである。なぜそのような植物は菌根と共生しないのか考える。考えられるのは菌根は土壌から無機栄養分を吸収し、植物に供給する。その代わりに植物から糖類を供給されている。その関係が不要なので菌根と共生してないのではと考える。つまりアブラナ科とアカザ科などは光合成から作れる栄養だけで充分成長できる植物だということである。光合成だけで成長しているアブラナ科やアカザ科は充分に光が当たる環境で無ければ成長はできないとも考える。

A:目の付けどころはよいのですが、途中で論理が破綻してしまいましたね。菌根菌が供給するのは無機塩類であって、光合成産物は植物の側が供給するものです。途中までの論理を尊重すれば、「光合成だけで成長しているアブラナ科やアカザ科は」菌根菌が存在しなくても無機塩類が吸収できるような富栄養な「環境でなければ成長はできない」とならないといけません。


Q:今回の講義では根に共生している菌について学んだ。共生する菌は根粒菌しか知らなかったがこれ以外にも多くの種類が存在しており驚いた。なかでも興味をもった細菌はアーバスキュラー菌根菌である。アーバスキュラー菌根菌は、土壌に菌糸をひろげそこから採集したリンなどの無機養分を宿主の植物体に供給するかわりに、宿主の植物体が合成した有機物をもらっているのである。植物には、三大栄養素と呼ばれている窒素、リン、カリウムが必要とされている。アーバスキュラー菌根菌は宿主に栄養素の1つであるリンを供給の手助けをしている。これを利用して農業による作物の生産に役立てることができるのではないだろうか。アーバスキュラー菌根菌を根に定着させることによりリンの吸収量が大幅に上がれば作物は円滑に生育することができる。しかし、ここで問題点がある。講義内でもあったように土壌中のリン酸濃度が高いときはアーバスキュラー菌根菌があっても吸収量がそれほど大きくならないということである。また、普段作物を育てるときに肥料を使用する。その肥料の組成によっては菌根菌の働きを抑える可能性がある可能性がある。例えば、リンが多く含まれている肥料である。このように、土壌の性質によって菌根菌の働きに影響を及ぼすと考えられる。もうひとつの問題点としてあげられるのは作物を育てる際に行う田畑を耕すことではないだろうか。おそらく、植物の根に菌根菌が定着するのにはある程度の時間を要する。よって、大きく田畑を耕すことによって定着が減少する場合や時期が遅れてしまうと考えられる。これらのことから、アーバスキュラー菌根菌を作物の生育に役立てるには幾つかの条件を揃える必要があることがわかる。その土壌の組成を調べ、少ない肥料量での生育や大規模な機械での耕耘を避けることが必要である。また、使用する農薬によっても菌根菌の効果は変わるであろう。アーバスキュラー菌根菌の使用はあまり現実的ではないだろう。

A:きちんと考えていると思います。講義の中で紹介したと思いますが、現在のリン酸肥料の原料は、鳥の糞由来のグアノです。これは、現在のスピードで使用していれば枯渇することは目に見えていますから、いずれはリン酸肥料なしで農業を行う必要性が出てくる可能性があります。その際に、アーバスキュラー菌根菌の働きは当然考慮すべきでしょう。ただし、多くの植物では、むしろアーバスキュラー菌根菌と共生している状態が自然の状態だと考えたほうがよいかもしれません。


Q:今回の授業ではアーバスキュラー菌根菌について習った。アーバスキュラー菌根菌は根粒菌と異なりほとんどの植物の根に共生している。ここで疑問に思ったことは、根粒菌がマメ科植物を好みマメ科植物に寄生するように、菌根菌も植物によって共生しやすいしにくいがあるのではないかということだ。菌根菌は植物に共生しないと生活できないため植物種を問わずに共生するのだろうが、植物の種によって光合成量も異なるはずであるし菌根菌にとって利益を多く得られる、得られないもあるだろうし、植物のリン酸の必要量も異なると考えられるので、外部環境を同じくして様々な植物において菌根菌量と菌根菌によるリン酸取り込み量の関係あるいは植物の光合成量の関係を調べることでアーバスキュラー菌根菌についてさらにわかると考えられる。

A:基本的な考え方はよいと思います。ただ、最後の「さらにわかると考えられる」という部分は、やってみれば何かわかるだろう、という感じで、実験の目的が明確に示されていません。小学生の夏休みの自由研究ならばよいかもしれませんが、大学の研究においては、具体的な目的の設定が極めて重要です。


Q:今回は花を中心に扱った。花粉の媒介のされ方には、風によって媒介される風媒介花という植物と、虫などによって媒介される虫媒花という植物が存在する。植物界では後者のほうが多く存在しているように思われるが、これは進化の過程からも説明がつくように思われる。では、実際にどのような点で虫媒花は優っているのかを考えてみる。まず一つに、虫媒花のほうが確実に受粉が可能であると考えられる。風媒花の場合、花粉を飛ばすことは容易であると思われるが、それが別個体の、さらに同種に受粉する可能性は、虫媒花のそれに比べると低いよう考えられる。また、天候によって、風媒花は大きな影響を受けるものと考えらる。たとえば、雨などが降ると、今まで舞っていた花粉は一度に散ってしまうと考えられ、大きく天候に左右されてしまうと思われる。

A:ここまでの考察だと、高校の教科書の範囲内です。大学生としては、そこから、ではなぜ風媒花が存在して虫媒花と共存しているのか、考えてください。「虫媒花は優っている」のだったら、厳しい競争の結果、進化の過程で風媒花が淘汰されてもおかしくはありませんが、現実にはそうなっていないわけです。そこをきちんと考える必要があります。


Q:今回の授業で、フラボノイド生合成経路について学んだ。花の色の設計図から一つの花に様々な色を表現することができるのか疑問に思った。黄色い色素を持つ花をもとにしてつくるとする。黄色から青色に変えるためにはF3’5’Hの青色酵素が必要であり、赤色に変えるにはF3’Hの赤色酵素が必要である。花弁の遺伝子地図を参照して、外側に近い部分には青色酵素が発現するように遺伝子組み換えをし、内側に近いところには赤色色素が発現するようにする。間の部分は色素が多少移動するので混じって色が出るようになると考えられる。

A:最初読んで何が言いたいレポートなのか意味不明でしたが、「疑問に思った」という部分までが問題設定で、そのあとがその問題に対する解答なのですね。まずは、人にきちんと意図が伝わる文章を書けるようになりましょう。自分の頭の中だけを追わずに、書いた文章が他人にどのようの取られるかを想像することが非常に重要です。


Q:今回の講義では、花のアントシアニジンという色素について学んだ。ふと疑問を持ったのは、蕾まで緑色のクロロフィルが発色しているのに、花は緑色にならないのはなぜだろうか。調べてみると、開花する際にクロロフィルの分解系が働き、花に着色しないということがわかった。ただ、キクやカーネーション、バラ、あじさい等では分解系が働かず、緑色が残る品種がある(*1)。では、クロロフィル分解系が存在するのか。これは、花という目立つ部分があることで蜜を求める蜂などの生物に発見されやすくしているのではないかと考えた。花の色が子孫を残すのに重要であるのではないだろうか。
*1 クロロフィル,花き研究所,2014-12−6閲覧、http://www.naro.affrc.go.jp/flower/kiso/color_shikiso/contents/chlorophyl.html

A:これも、講義の最初に花の存在意義を解説したことを考えると、物足りないですね。


Q:講義中に触れたストリゴラクトンについて興味をもった。植物は状況に応じて進んで菌類との共生を求めることがあり、リンを欠乏した際はストリゴラクトンを分泌することで共生を促進する。寄生のように外部から異物を取り入れることは生物にとって抵抗的反応を促進させることが一般的である。人間で考えるならば、免疫反応がその例であるが、ストリゴラクトンはどのようにアーバスキュラー菌根菌(異物)との共生を促進するのだろうか。人間が免疫反応を抑制するシステムのひとつとして免疫寛容があるが、これを基盤に推測すると、根部の免疫機能とまでは言わないが根部への侵入易化を促進することが考えられる。ストリゴラクトンの根部における蓄積が浸透圧を上げて土壌中のアーバスキュラー菌根菌の菌糸を引き寄せることが考えられる。また、根部からストリゴラクトンを分泌することで根圏におけるストリゴラクトンが誘導物質としてはたらき細胞内部へのアーバスキュラー菌根菌の侵入を容易にすることが可能ではないだろうか。

A:ストリゴラクトンは、共生に関しては信号伝達物質として働いているのだと思います。共生の場合、相手も生物ですから、極端な話、自分がここにいるぞ、と示せればそれだけで後の作業は相手がやってくれる、という側面もあります。


Q:ダイズやアサガオは播種から発芽するまでにかかる時間は定まっておらず、その時間は暗期の長さに左右されるということを学んだ。この制御によってこれらの植物は決まった季節に咲くことができる。しかし、季節を通して変動する環境要因といえば、日照時間の他に温度があげられる。なぜ今回学んだ植物は温度ではなく暗期の長さによって発芽の時期を制御しているのかについて考えていきたい(正確には植物が発芽を行うためには15℃~25℃の温度が必要で、これよりも低い場合には発芽の時期が遅れることなどもあるため、温度によっても発芽は制御されていると言うこともできるが、暗期の長さの細かい変化へのような反応はしていないので、ここで言う制御とは別物と考える)。
 温度を制御のシグナルとする場合に考えられるデメリットは2つ考えられる。まず1つ目は地球温暖化で温度が上がってきていることである。春に咲く花は暖冬の影響で本来より早く咲いてしまう可能性や、秋に咲く花はなかなか気温が下がらずに咲く時期が遅くなってしまう可能性などが考えられるからである。しかし、地球温暖化というのは人間の生活によるものであり、この考えは温度がシグナルとならない理由に当てはまらないと言える。2つ目は植物のもつ外界の刺激を受け取るセンサーが日光を受け取るようにできている可能性である。例えば、根に寄生する菌に対して窒素の必要な具合を指示するのも葉が光合成の具合(=日光)を感知することによるし、また、ヒマワリは日光に向かって花を向けることなどからも植物は日光を感知するセンサーを持っていると考えられる。おそらく、光合成を行う植物にとって、日光がどれだけの時間当たっているかは判断しやすいことであるが、温度を細かく判断することは難しいのではないかと考えられる。最後に、温度をセンサーとしたメリットとして、気温の低い地域で、日照時間が条件を満たしていたため発芽したが、温度環境が成長をするのに適していなかったということなどが起こらないということがあげられる。温度が低い時には土壌中の微生物も含めたあらゆる生物の活動が低下するため、植物にとって成長しづらい環境となる。温度をシグナルとすればこういった成長しにくい温度環境で発芽することが防げると考えられる。しかし先に述べたように植物にとって温度の動きを細かく感知することは難しいことであると考えられるので、発芽には15℃~25℃の温度が必要で、これよりも低い場合には発芽の時期を遅らせるなどの大きい範囲での温度の感知を行っているのではないかと考えられる。ポイントとしては”植物にとって暗期の長さを感知することの方が簡単である可能性”からダイズやアジサイは暗期の長さによって発芽時期を定めていると考えられる。

A:よく考えていると思います。一点だけ細かいことを。ヒマワリのつぼみは太陽を追って回るようですが、開花した花についてはほとんど動かないという話です。


Q:今回の講義では「花色の決定因子」について学習した。その一例として、青いバラの話題が出た。世間一般的に知られているとおり通常青いバラとは野生では存在しえない。そこで、科学者はカーネーションと同様の手法によって青いバラを作製した。しかし、我々がイメージするような青いバラではなく、青みがかったバラといったほうが無難であろう。つまり、現在の科学技術ではその状態が限界であり、この決定因子は他にもpHや金属とも関わっており、より一層青くするにはやはりこの2つを制御出来るようにならなければならない。だが、遺伝子の組み換えは出来ても、pHを変化させるのは至難の技といえよう。そもそも、私はバラを青くすることに意味があるのだろうか、という疑問を持った。バラと言えば赤や白という印象があり、わざわざ青にする理由があるのだろうか。先日、剪定された茎はそこから新たに成長した部位は緑ではなく赤で、これは環境による影響を受けてそのような状態になったと伺った。このように、生体防御のために変色するというのだったら納得いくが、技術があるために行うことは良いのだろうか。確かに、今日では遺伝子組み換え食品など抵抗は大きく、その抵抗を和らげるために行うのであれば、この遺伝子操作に意味があるのかもしれない。

A:「意味があるのだろうか」という問題設定は、科学的というよりは社会学的な問題設定ではないでしょうか。そうだとすると、意味があったかなかったかは、青いバラや青いカーネーションの売れ行きが良かったかどうかで判断できると思います。青いカーネーションの「ムーンダスト」はかなり売れたようですから、その意味では意味があったということかもしれません。


Q:今回の講義の中で花弁の色素の話があった。花弁の色素には、赤色を表現するシアニジン型、黄色を表現するペラルゴニジン型、青色をデルフィニジン型などがある。それらの発現は遺伝子的に制御されており、植物の種類によって発現する色素は決まっている。では、そもそもなぜ植物は花弁にのみにそのような色素を発現させるのか?花弁の役割からその理由を考察してみた。植物における花弁の役割は、ほとんどの場合、生殖器官の物理的な保護と機能的なサポートである。物理的な保護に関しては、花弁の色は直接関係ないと判断し、今回言及は控える。機能的なサポートとは、主に生殖器官への昆虫の誘導である。この役割に関しては、花弁の色は大きな影響がある。花弁をより目立たせるために、植物たちはそこに色を付ける。しかし、これは花弁“のみ”に色素を発現させる理由にはなっていない。より目立ちたいのならば、植物体全体に色素を発現させるべきである。もちろん光合成による生体維持は必要不可欠であるので、葉が緑色であることは必要なことである。ではなぜ非光合成器官である茎などには色素が発現しないのか?いくつかの文献をあたってみたがこの疑問に直接的な解答を与えてくれるものは見つからなかった。よって、これはあくまで個人的見解ではあるが、色素の発現は諸刃の剣なのではないか?色素は他の器官には含まれない特別な物質であり、花弁を染めるためにわざわざ合成するものである。つまり、その生成には多大な労力がかかるのではないか。また、花弁を染めるということは、昆虫たちへのアピールにもなるが、同時に鳥などの小動物などにとっても目立つ存在となってしまう。よって、自分たちを捕食させてしまうリスクを高めることにもなりうるのだ。このような理由から植物は花弁のみにしか色素を発現させていないのではないだろうか。

A:これは面白い点に着目していますが、視点がちょっと人間的すぎますね。人間から見ると、例えば植物体全体が真っ赤だった方が確かに目立ちますが、小さな昆虫の視点からすると、その赤い植物のどこに花があるかわからなければ意味がありません。比較的目立たない花のそばの葉の色を変えて目立つ花弁の代わりに使う植物はいくつもありますが、その場合、色が変わるのは花のそばだけです。それも、葉の一部だけを変えていたりします。これなども、コントラストをつけることにより花に注意を集中させているのだと解釈することができます。


Q:講義では、根粒の形成に関与する遺伝子KLAVIER、HAR1が地上部でしか発現されないことから、地下部と地上部でシグナル伝達が起きていると習った。また、なぜ根粒の形成のシグナルが地下部だけで完結せず地上部に及ぶ必要があるのかは未だ解明されていないという点に興味をもった。一般的に考えて地下部だけで完結させる方がエネルギー消費の観点から見れば効率がよいがこのように地上部も関与するということは、根粒形成が地下部で完結するには何らかの不都合があるということである。講義ではCNバランスに注目していたが、私は根粒菌が植物に与える影響に注目したい。根粒菌はオリゴ糖を生産させるNod因子を持ち、2種類の転写因子を活性化させる。(参考:カラー図解アメリカ版大学生物学の教科書第2巻分子遺伝学p382)つまり、根粒菌の形成は根だけではなく植物全体に何らかの影響を与えるため、地下部だけで完結しては地上部の植物にとっては情報伝達が不十分であると考えられる。つまり根粒菌形成時の地上部地下部のシグナル伝達は不可欠なものであると考えられる。

A:つまり、根だけの都合でかってに暴走されると困る、ということですね。面白い考え方だと思います。


Q:花がなぜ目立つ色をしているものが多いのか、それは花粉の媒介のために虫や鳥の目を引くためである。虫の目には紫外線や赤外線も見えているため、その反射も利用してより目立つ配色になっていると考えられる。アジサイやツユクサなど青い花をつける植物は存在するがバラはなぜ青い花をつけないのだろうか。蝶や虫は種類によって好む花の色が違う。バラがターゲットとしている虫に、青を好むものが存在しなかった。もしくは花を青く色づけるためのデルフィニジンを作るには非常に労力が必要だとすれば、そのような発達をバラがしてこなかったと考えられる。

A:上にも書きましたが、ここで議論が止まってしまうと消化不良です。もう一段階掘り下げた議論が欲しいところです。


Q:炭素や窒素などの循環、花の色を決定する条件、花成反応について学んだ。花成反応は初めて習う事柄なので、一層の興味を惹かれる。暗期が、僅かな明期を挿入されることによって花成反応が阻害されることに驚きを禁じ得ない。花成反応が起こる条件が満たされたかどうかの判断材料となるシグナル伝達は、どのようなものだろうか。スライドで示された4つの例から察するに、光周性において、明期よりも暗期のほうが重要な時間帯であるらしい。
・明期で得られた光合成産物に、暗期のうちに何かしらの反応を起こさせている
・暗期のうちでしか生成できない反応産物が存在し、それが花成反応のトリガーとなる
・明期の時間帯は植物体にダメージが蓄積し、暗期のうちに休ませないと花成反応が起こせなくなる
 幾らかの可能性を検討してみたが、暗期が短い明期によって中断されると花成反応が行われなくなることを検討すれば、どれも決定打に欠ける。反応は一時的に中断されるだけかもしれないし、暗期に休息の意味合いがあるならば、ある程度連続的ならそれでいい筈である。もしこの中に回答があるとすれば、反応が中断されることで、反応の経過で得られる産物が植物体の別組織に取り込まれてしまう可能性を考える。暗期が再開され、引き続き反応を進めようとも、未完成だった分子は別の組織に横取りされていることになる。上の仮説以外を考えるならば、暗期を管理する時間遺伝子が植物に備わっているのかもしれない。

A:上の2番目の説なら、その産物が光で壊れると考えれば、短い明期でも花成反応が中断することになるのではないでしょうか。整合性はとれるように感じました。


Q:青いバラが印象に残った。青い花をあまり自然界で見たことがないと思い、はたして青といった色が自然界において目立つ色なのか疑問に思った。植物の葉の色、つまり緑色の中に青色の花が混じっていても、その違いはあまり目立たないのではと感じた。つまり、色のコントラストで考えた場合に、緑に映える色は赤などの暖色系であり、その色の色素を持つ植物が生き残ってきたのではないかと思った。遺伝子を改変した青い花と、元からある赤い花などでどちらが昆虫が見つけやすいか調べると、この仮説を調べることができるかもしれない。

A:同じような問題点から出発したレポートは上にもたくさんありますが、緑とのコントラストを持ち出すことによって、少なくとも青色の特殊性の説明には成功しています。ただ、やはりちょっと考察が浅い感じはしますね。


Q:リン酸が少ない時に、クラスター根を形成するというお話があった。今日はこの時の根に存在する(共生する)菌根菌を効率よく取り付かせ、植物の成長を促進させるにはどうしたらよいかを考えたい。まず、取り付かせるためには根から「ストリゴラクトン」という植物ホルモンを分泌して、それを菌根菌が認識する必要があった。しかし、ストリゴラクトンは寄生植物を呼び寄せてしまうこともあり、これでは植物体の成長に影響が出てしまう。 そこで、考えられる方法として、3つあげる。
1.菌根菌を増やしてから撒いてやる方法。
2.寄生植物と菌根菌との、ストリゴラクトンの認識の違いを見る方法。
3.ストリゴラクトンの分泌量による寄生植物の寄生と菌根菌の共生の可能性を考える方法。
1.では菌根菌は菌だけでは胞子形成がなされないことから、実際人工的に土壌条件をコントロールした場所で「繁殖」のような形を取る必要があると考えられる。2.では寄生植物と菌根菌がストリゴラクトンのどの構造に反応しているのかを、構造の少しずつ違うものを用いて菌根菌だけが反応するものを探し、最終的には植物体の遺伝子を操作して、それを分泌させる方法であるが、確実に結果が出る保証はない。うまくいけば最も効果的だと考えられる。3.では2.と同じようにストリゴラクトンを様々な濃度で与え、菌根菌はよく共生するが、寄生植物はあまり来ない濃度を探してやり、植物体の分泌量をコントロールする方法であるが、これも2.同様可能性に賭ける方法になってしまう。2と3がうまくいけば、リン酸の少ない土地でも植物体の成長を効果的にすることができるはずである。

A:きちんと複数の可能性を考えていてよいと思います。今回、いろいろな話をしたので難しかったかもしれませんが、菌根菌の話と、ストリゴラクトンの話と、クラスター根の話は、必ずしも1対1に対応するわけではありませんのでやや注意が必要です。