植物生理学II 第10回講義

花成ホルモン、ABCモデル

第10回の講義では花芽分化の仕組みと花成ホルモンの関与、そして花の形態形成の仕組みのABCモデルについて解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回、ロマネスコや海岸線はフラクタルであることを学んだ。フラクタルであるものとしては他にも肺や羽状複葉、木の枝などが考えられる。これに共通する利点としては単純であることがあげられる。ただ同じ造形を繰り返していくだけで構造を作ることができる。また、同じ構造でありながら大小により、個々の機能を細かく調節することができる。例えば、羽状複葉は全体では大きな葉であるため光合成には十分であるが、さらに、複葉を持つことで風の流れ、日光の当たり具合を調節できる。では、これをABCモデルを持った花にあてはめ、花弁がフラクタルの構造になるときの機構と利点を考えてみたい。まず、花弁がフラクタル構造をとるにはAとBの遺伝子が発現し、さらにその発現量に勾配ができることが必要であると考えられる。なぜなら、花はひとつの方向を向いているため外側になるほど大きな花弁が必要になるからである。では、花弁をフラクタルにする利点はなんだろうか。考えられるのは花弁の一枚一枚の向く方向を微妙に変えることで様々な角度からでも視認できるようにすることである。また、フラクタルは数式で表すことができるため、それが人間とっては美しく感じる可能性がある。

A:ABCモデルは、どの部分が花弁になりどの部分が雄蕊になるかといった、運命決定を説明するモデルですから、一つの花弁がどのような形になるか、という点に関しては、別のさまざまな遺伝子の関与を考える必要があります。ただし、講義の中で触れたように、C遺伝子が欠損すると花の中に花ができ続ける構造になりますから、花全体としては繰り返し構造ができます。ただ、この場合は本来の意味のフラクタルとは少し違いますね。


Q:今回の授業では、花成ホルモンやABC遺伝子について学んだ。ABC遺伝子については、他の植物関連の授業でも学んだことがあり、面白い仕組みだと感じていた。 ABC遺伝子により植物のいわゆる花と呼ばれる部分は、様々な器官に分かれてそれぞれの役割を分担している。おしべ、めしべなど植物の子孫繁栄に関わる器官も多い。だが、ABC遺伝子の区別がしっかりできている植物ばかりではないと思い、考察してみることにした。真っ先に思い浮かんだのは八重咲きのバラである。八重咲きのバラは明らかに他の植物と比べて花弁の枚数が多く、それはおしべが花弁に変化してしまったものだと言われている。これは、ABC遺伝子の発現がきちんと行われなかったからではないかと考えられる。そもそも、ABC遺伝子で花弁はAとB、おしべはBとCが同時に発現すると形成されるため、おしべが花弁に替わるのは比較的容易なことであると考えられる。だが、バラの八重咲きは子孫を残すことは難しく、無性生殖をしなければ一世代で終わってしまうものなので、このバラだけでABC遺伝子について考察することは難しいと感じた。また、花弁もおしべも単独ではどの器官も形成しないB遺伝子が関係していることが気になった。

A:悪くはないと思いますが、「比較的容易な」とか「気になった」などの表現は、ある意味安易なので、もう少し考えて書く方がよいでしょう。前者でいえば、実際に八重咲きになるためには、ABC遺伝子がどのように分布すればよいのか考えることができると思いますから、そのように変化するために必要な発現変化をきちんと示すことができるはずです。また、後者は、感覚的な表現ですから、そこで終わってしまっては科学的なレポートとは言えません。「気になった」ので考察した結果をレポートにかければ満点です。


Q:花成ホルモンがなぜ葉で作られてから茎頂に移動するのか考える。葉で作られる理由は日長情報が茎頂で受け取れないためだと考える。葉には葉緑体など日長を感じる細胞があるが茎頂にはない。ただ花成ホルモンには日長情報を受け取る組織があるため花が作られると考える。もし茎頂で花成ホルモンが作られていたら移動にエネルギーを使わない分もっと長く花が咲いていると考える。だが葉から茎頂に移動する際に何か花成ホルモンにプラスのことが起こっているかもしれないとも考えられる。

A:「花成ホルモンには日長情報を受け取る組織があるため花が作られると考える」は意味不明ですね。「花成ホルモンにプラスのことが起こっているかもしれない」というのも何のことやら、という感じです。せめて日本語としてきちんとした文章を書いてください。


Q:今回の授業に登場した自家不和合性について考えた。自家不和合性は自家受精を抑制し、他家受精によって遺伝的な多様性を生み出すことを期待できる様々な分子が関わる仕組みである。しかし、この仕組をとることで、受精しやすい自家受精をとれなくなるので、この仕組みを用いる植物はより昆虫に対して目立つ花をつけたり、花粉がより柱頭に付きやすくなることができる植物でなければいけないのかもしれない。

A:AならBだろう、という展開も論理のうちではあると思いますが、やはりそれだけだと、論理的な文章とは言えないでしょう。もう少し努力してください。


Q:今回の授業で、ガーベラの花は花序であり真ん中付近にはつぼみがありその蕾の若い時期にナイフで傷をつけると内側でもあるにかかわらず花弁ができるという興味深いお話があった。これは切ったことで壁ができるのでそれが刺激となり花弁ができ、また両側に花の細胞があるときには花弁はできないと授業で習った。ガーベラは、外側には舌状花が、内側には筒状花ができる。内側の筒状花が丸くなっているときはつぼみの状態だ。そしてガーベラは外側から先に花が咲き次第に内側が咲くようになる。授業でも言われていたように、ガーベラの一番外側の舌状花から開花していくように切り込みを入れたことによってそこが切り込みを入れたところの一番外側となり開花したのだと考えられる。また、これも授業で言われていたことだが両側への接触刺激があることによって開花が制御されていたのではないかと考えられる。しかし、一番外側の花が開花した後はその内側のものが咲くというように外側から開花していく。このことからは開花した花の接触刺激によって開花が促進されると考えられる。このように考えると、未開化の花の接触がなくなったことにより開花が促進される場合と他の開花した花の接触刺激によって開花が促進される場合があるのではないだろうか。またつぼみの状態であるガーベラに他個体の開花したガーベラを接触刺激し開花が促進されるかを調べてみるとさらにガーベラの開花についてわかるのではないか。

A:ガーベラの花の外側と内側は、広がっているので内外の関係になっていますが、茎頂に花芽が分化する段階では上下であるとも考えることができます。つまり、外側は、より初期に分化した下の方の花芽ですから、分化した順番に開花していけば、このレポートで考えられているように外側からの刺激を考えなくても、外から内へと開花していきます。とは言え、このレポートのように考えることは可能ですから、レポートとしては十分に評価できます。


Q:授業の最後に同じ植物でも産地によって、環境への対応が異なることを学んだ。具体的には沖縄産のオオバコは冬にも葉をつけているのに対して、北海道産のオオバコはほとんど枯れてしまっているということであった。また、このような現象をエコタイプという。このように、同じ環境下で異なる発現を示す、理由を考察しました。まず、成育時期を適切に行うために、このような現象が起きたのではないかと考えました。沖縄の個体は宮城に移されると気温が低下するわけで、冬の訪れを感じ春に向けて成長が促され、よく発育した。北海道の個体は逆のことが起こったわけなので、発育が低下したのではないかと考えました。そのほかにも日長が発育に影響を与えている可能性も考えらる。冬であれば北に行くほど日長は長くなる。沖縄の個体は北に連れていかれることで日長時間が長くなるので、簡単に言うと未来にタイムスリップしたように受け取るのではないかと考えられる。よって、先ほどの理由と同じく春の訪れと勘違いし、成育が盛んに行われたのではないかと考えた。

A:示した写真は12月に撮ったもので、枯れた葉っぱが付いていることからもわかるように、実際には新しく葉が出る時期の違いではなく、その年の葉がいつ枯れるかの違いが現れています。4月ごろに観察すれば、このレポートで扱われているような春の成長の違いも見ることができるかもしれません。


Q:今回の授業で、花成ホルモンについて学んだ。その中でソメイヨシノなどの樹木では花芽分化と開花の時期がずれ、草だと同じような時期で行われるなどの違いができることを知った。そこで時期を同じにせず、花芽を先に作り休眠下にするメリットについて考察する。まず、花芽分化するエネルギーを調達しやすいことがあげられる。ソメイヨシノは春に花を咲かせ、夏に葉が付き、秋に落葉し、冬は休眠期間に入る。この中で花芽形成が起こるのは夏であり、葉で光合成が行われエネルギーを一番得やすい時期である。桜は落葉樹であるため葉がついている時期に花芽形成を行っておいたほうが良いためだと考えられる。次に、桜が虫媒花であり同じ時期に咲く必要があることがあげられる。桜は自家不合和性をもち自家受粉を行い種子を作ることができない。そのため他の種の桜と交配する必要があり、同じ時期に桜が咲くことによって種子を残そうとしているのではないかと考えられる。最後に媒介する主な虫が春先から活動が活発になることから、春先に花を咲かせ、効率よく形成することを両立させるようにした結果時期がずれたのだと推測できる。しかし、ソメイヨシノはほぼ挿し木で増えていることと、日本に生息している大部分がソメイヨシノであることを考えると、同じ時期に咲いても他の種と交配する可能性が低い。そのため花をつけなくなったりと変化していくことも考えられる。

A:全体の考え方はよいと思います。ただし、何といってもソメイヨシノは園芸品種ですから、そこから進化を論じるのはやや苦しい気がします。進化的適応的な意義を考えるのであればやはり野生植物を例にとる方がよいでしょう。


Q:今回の授業では花成ホルモンや花成の仕組みについて学んだ。葉で日長情報を受け、それによって花成ホルモンが合成され、茎頂に移動し花成が開始するということであった。ではなぜ茎頂で必要なものをわざわざ葉でつくり、コストのかかるであろう輸送をして茎頂へ届けているのであろうか。花成の条件である環境条件について考えてみると温度についてはさほど離れていなければ茎頂ごとの差は花成ホルモンに影響するほどは出ないと考えられる。しかし日長、つまり日光の当たりについては茎頂で日長情報を受けるとすると、日当たりのいい場所(樹木の上部など)にある茎頂は問題なく受け取れるが、日当たりの悪い場所(樹木の内部や下部など)にある茎頂は日光を遮られて日長情報を受け取りづらいのではないかと考えられる。そうなると花成に同じ地域の同じ植物でも大きな差が出てしまい、その分開花にも差が出てしまうと考えられる。花は子孫を残すために咲かせているため、周囲の植物とほぼ同時期に咲かすことに意味があるので、このように開花の時期に差が出てきてしまうと植物にとっては不利になってしまうのではないかと考えられる。そこで日長情報を受けるのを葉にすることで葉の方が茎頂よりも数が多いためより日光を受けられる確率が上がり、また受け取れる数を増やせば情報の量も多くなる。よってこのような事態を防ぐためにわざわざコストのかかる方を選択してまで葉で日長情報を受け取っているのではないかと考えられる。

A:これはよく考えていますね。環境情報の感知を多くのポイントで行うことによって局所的な影響を避ける、という考え方は素晴らしいと思います。


Q:植物に花芽形成は、連続暗期の長さで決まることが知られている。ではなぜ植物は花芽形成を決める要因を連続した暗期の時間で決めるのだろうか。植物にとって花芽形成は生殖器官を形成することであり、植物の繁殖にとってとても重要である。つまり花芽形成時期を間違えると植物は繁殖ができず子孫が繁栄できないのである。つまり必ず花芽形成に適した時期に花芽形成しなければならないのである。そのためには確実に季節をはかることが必要である。季節をはかる方法として日長の長さと温度である。温度は天候によって大きく左右されるので季節を正確にはかるには適していない。日長は地球の公転に左右されているので大きな誤差は出ず、なおかつその変化は急激に上下せず徐々に変化する。そのため季節をはかるにはい適している。しかし日の光は何かに遮られ当たらなくなることや、雲により光の強さが大きく変わることもある。そこで植物は日長の逆である暗期の長さを指標として季節をはかったのである。

A:悪くはないと思います。ただ、誰もが考える道筋だと思いますので、できたらもう少し独自性が欲しいですね。サイエンスは人と同じことを考えていてはだめですから。


Q:ABCモデルから植物性決定機構について考察する。おしべはB、C遺伝子、めしべはC遺伝子により発生する。おしべとめしべは当然真反対のものであり、それらが一つの遺伝子により区別化されるのはとても興味深い。つまり植物の性局在決定はB遺伝子によって決まるということである。C遺伝子のみでめしでが形成されることから元はめしべに設定されていてB遺伝子が発現することによりおしべに分化するという性決定機構を持っているのではないだろうか。

A:これも、AだからBであると言っておしまいになっているのが残念です。スタートラインとしてはよいので、ここから自分なりの論理を展開してほしいところです。


Q:花成の制御には環境条件や内的要因が影響するが、花成を引き起こすにはLFY遺伝子とFT遺伝子が必要であることを学んだ。なぜ2つの遺伝子が必要か理解が追いつかないため、詳しく調べた。LFY遺伝子は花芽分化のためのスイッチ遺伝子であるが、花を咲かせる役割までない。その役割を行うのがFT遺伝子である。2つの遺伝子が揃うことで、何もない枝から花を咲かせるまでの過程を引き起こせるのである。なぜLFY遺伝子があれば、花は咲きそうなのに咲かないのだろうか。本来の側枝が花に分化すれば開花自体は早まるであろう。これは、LFY遺伝子による強制発現でも花成の光周期依存性は失われず、花成のタイミングも早まらないからである。
(参考 成長相転換,京都大学大学院,12月14日閲覧、http://www.plantdevbio.lif.kyoto-u.ac.jp/res_flower2.html)

A:最後のところの論理は、「咲かないのだろうか」という疑問と「早まらないからである」という回答の間に、「本来の・・・早まるであろう」という文が入っていて、これの位置づけが文脈をたどらないと理解できないので、うまくつながりません。科学的なレポートでは、「行間を読ませる」ことは避けるようにしてください。


Q:植物では自家不和合性というシステムをとって自家受粉を避け、遺伝子の多様性を生み出していることを学んだ。コストがかかったとしても進化的に多様性を生み出すことが植物にとって大切であるためこのようなシステムが存在するが、中には積極的に自家受粉を行うものもある。他家受粉の方が圧倒的に有利であると考えられるのに、自家受粉というシステムをとる種が存在する理由について今回は考えていく。自家受粉のメリットとしてはコストがかからないということがある。確実に受粉が行えるので作らなければいけない花粉の量も少なくなるし、昆虫などを媒介しないので昆虫を惹き付けるための鮮やかな花をつける必要がないからである。このことから考えると、自家受粉を積極的に行っている種は、コストをかけられないような環境、栄養などが豊富ではない貧しい環境に生育している種である可能性が考えられる。他にもこのような貧しい環境では多くの植物は生息できない、またそれに伴って生息している動物も少ないと考えられるため、昆虫を媒介することもできず、風を媒介しても確実に受粉できる可能性がかなり低いと予想できる。このことから他家受粉ではなく自家受粉を行った方が生き残っていける可能性が高まると考えられることからも、貧しい環境に自家受粉を行う種が生育している可能性を裏づけできる。また、自家受粉を行う種の中には、閉鎖花という構造をもっている種もある。この中には時期によってその花を開花させたり閉鎖したりするものもあり、これらは自家受粉を行う閉鎖花には失敗がないため確実に受粉を行うこともできるし、自家受粉のデメリットである多様性が生み出せないという点も解決できる。閉鎖花もつけず、完全に花を作らないことでコストの低い自家受粉のみを行うこともできるが、これらがわざわざ時期によって他家受粉を行えるように開花するということから、多様性を生み出し生存競争に生き残っていける可能性を得られる他家受粉はかなり重要であることが伺える。これらのことから、自家受粉というのは主に、多様性が生み出せないというデメリットをとってもなおコストがかからないというメリットが効いてきたり、植物が少ないために自家受粉を選ばざるを得ないような限られた環境に生育している植物にみられるシステムではないかということが考えられる。

A:よく考えていると思います。ただ、結論はレポートの前半でほぼ尽くされていて、後半が寄与する部分が少ないようですから、もう少しコンパクトにまとめることはできたかもしれません。


Q:今回は「自家不和合性」について学習した。そこで、自家受精・内受精を防ぐ手段について考えていこうと思う。さて、この自家受精を防ぐ大きな手段として、3つの方法があると考える。それは先ほどの自家不和合性、その他に雌雄異株、雌雄異熟である。まず、それぞれの簡単な説明として、自家不和合性は同じ遺伝子を持つ花粉では受精できないことを指し、雌雄異株は他殖のみを行わせること、雌雄異熟は成長する時期や場所を変えて受精することである。自家受精はいわゆる近親相姦であり、多様性に欠ける。そのために以上の三種のような方法で自家受精を防いでいる。仮にこの自家受精を防ぐシステムがないとすると、他殖を行う植物は多様性に富み、逆に自家受精を行う植物は環境変化などの要因によって、自家受精を行う植物を絶滅の危惧に陥るかもしれない。しかし、この防ぐシステムの存在のおかげで種の存命を維持し続けてきたと考えられる。だが、自家不和合性については未だ判明していないことが多く、これから先研究の余地がおおいにあると思う。

A:実は、多様性の重要性を、環境変動と結び付けるのは、かなり問題があります。むしろ、病原性の微生物などとの関係が重要だと考えられます。


Q:今回の講義では花成の制御に関することをいくつか学んだ。花成の制御には、日長や温度などの環境条件や、自律信号やジベレリン量などの内的条件がある。一般的な植物は、これらの様々な要因が様々な影響を及ぼしあい「花成」を導いている。ここで熱帯や亜熱帯の植物について考えてみる。熱帯や亜熱帯では、日長は年間を通してほとんど変化しない。また、温度条件も同様に年間を通して大きな変化はない。つまり、そのような地域では環境条件がほぼ変化しないので、花成の制御に影響を及ぼすことはないと考えることができる。その場合、成長の度合いやホルモンバランスなどの内部条件によってのみ、花成の制御が行われることになる。もし本当に、環境条件は関係なく内部条件のみが花成制御に関係しているのならば、植物は個体によって花成の時期がバラバラになるはずだ。しかし実際は、熱帯や亜熱帯の植物であっても、花の咲く時期は種によって決まっている。つまり、何かしらの環境条件によって花成が制御されているのだ。はたしてそれはどのような要因なのか。まず考えられるのは、他の植物と同様に日長や温度の変化によって花成が制御されている場合であるが、この場合ごくわずかな変化によって制御が行われることになり、日々の天候によっても左右されてしまい、季節的な一貫性が現れることはない。次に考えらえるのは、湿度の変化である。熱帯や亜熱帯には、乾季と雨季が存在する。その季節的な湿度の変化が環境条件となって、花成を制御していることは十分に考えられる。また、この湿度の変化が直接的な影響をもたらさなくても、湿度の変化によって影響を受けた昆虫などの小動物などの行動が制御の要因となることも考えられる。

A:きちんと考えていてよいと思います。「熱帯や亜熱帯」といっても内実はさまざまですから、もう少し気候区分を限定して、可能であれば具体的なデータで議論すると本当はいいでしょうね。


Q:花の分化のABCモデルの実社会での利用は植物鑑賞を楽しむ人にとっては実に有用であると感じた。全てが花びらの花を形成したり、人為的に観賞用花を作るのは、ニーズに応える一つの事業に展開しうる。また、観賞用であれば人が口にすることはないので遺伝子組換えによる人への影響も考慮する必要がなく安心できる。では、この理論は花以外の領域にも当てはまるのだろうか?例えば枝の本数は人為的に制御できるのであろうか?くらしとバイオプラザ21(http://www.life-bio.or.jp/topics/topics291.html)によると、枝の分化のための遺伝子発現は環境が決めるとある。つまり環境を制御すれば分化もある程度調整できるが、枝の本数や枝の生える場所などといった詳細な調整はまだ困難であると考えられる。しかし、これを果たせれば人為的に整った枝というのは園芸でのニーズは確かにあるため実社会に役立ち得るのではないかなと思う。

A:枝の出方と環境要因とのかかわりについては、以前の講義で触れたと思います。基本的には光を受けるように枝が出ていますから、光を調節すれば、思ったように枝を伸ばせるかもしれません。ただ、さまざまな場所の光強度を局所的に調節するよりは、枝を剪定する方が楽である気がします。


Q:葉が日長を感知することで花成ホルモンが形成されると授業にあった。ソメイヨシノやウメの仲間など葉がない時期に開花する植物は前年の秋以前に前もって花序が形成されており、それが春になって開花する。この開花にもホルモンが関係していると考えられるが、花成ホルモンと開花ホルモンを作用させる二段階に分けるのは二度手間ではないだろうか。事前に花序を形成する利点として、他の植物と比べ春の早い時期に開花できることがあげられる。サクラやウメが花粉媒介のターゲットにしているであろうミツバチは生体のまま群れで越冬し、春の早い時期から行動を始める。ほかの植物と比べてなるべく早い時期に開花させることでミツバチをより効率よく集め、花粉媒介もしやすくなるのではないかと考えられる。

A:論理展開が行ったり来たりしているのが気になります。論理自体は悪くないので、書いた後に文章を少しでも推敲すれば格段に良くなると思います。


Q:花成を誘導するホルモンであるFTタンパク質は、葉で産生され、茎を伝って茎頂へ移動していた。これが働き、花が咲く。以前の授業で、葉で吸収された分子を茎や根に行き通らないようしていた植物のスライドを見た。水ポテンシャルの云々について学んだ授業である。なぜ茎頂でなく、葉で(わざわざ長距離移動を経てまで)FTタンパク質を生産しているのか。FTタンパク質を生産するFT遺伝子は、日光をトリガーにしている。先週学んだような長日条件(あるいは短日条件)を満たした葉が、FTタンパク質を生産するのだ。日光をトリガーにしている為、効率よく日光を感知するには、表面積の広い葉をFTタンパク質生産箇所にするのが良いのだろう。長日条件や短日条件が植物によって異なるのは、「咲きたい季節」が種によって異なる為だろう。周囲を取り巻く環境の兼ね合いで、冬に咲くのが都合のいい花、夏に咲くのが都合のいい花などがあるのだろう。

A:これは書いているうちに論点が移動していく感じですね。科学的な短いレポートとしては、論点を定めて、一つのロジックをくっきりと浮き立たせるようにした方がよいでしょう。


Q:今回の授業では、掛け合わせを考えた場合には自家受精は厄介であるということが印象に残った。そもそも、花は他の個体と遺伝子を交換するために存在しているなら、何故自家受精が行われるのか疑問に思った。他家受粉の長所として、多様な環境に適応でき、環境の変化に強いということが考えられる。自家受粉の長所としては、確実に子孫を残すことができるということが考えられる。長い期間で考えたときには、他家受粉の方が生存の確率が高くなるだろう。しかし、短い期間で考えたときは自家受粉の方が生き残る確率が高くなる。この期間をどのようにとらえるのかが、植物の種類や環境によって異なる可能性があると考えた。すなわち、厳しい環境にいる植物の方が、この期間を短く設定するのではないかと考えた。

A:短い中で論理の展開をきちんとしていてよいと思います。ただ、上にも書きましたが、遺伝的多様性は、環境変動に対して必要だというより、生物相互作用の中で必要なのだと思います。


Q:前回の授業では花成ホルモンが日長により生成され花芽形成を促進し、開花時期は温度により決定されるものがあることを学んだ。このことから花芽形成と開花の時期は必ずしも同時期とは限らない。ここでは異なる時期に花芽形成と開花を行う利点について考察する。花芽を作るのには開花するよりもエネルギーが必要であると考えられる。だとすれば養分を十分蓄えているうちに花芽を形成しておく必要がある。花芽形成と開花の時期が異なる植物の例としてソメイヨシノやヒガンバナなどが挙げられていたが、そのどちらも葉を形成する前に花を開く。このことから植物は休眠から覚めるとすぐ花を開く必要があると考えられる。以上のことから植物は休眠後すぐ開花しなければならないが、休眠後は養分の蓄えが比較的枯渇しているため栄養がある休眠前に花芽形成を行うと考えられる。しかし開花前に葉を広げ養分を合成し花芽形成と開花を同時に行ったほうが、花芽がなんらかの環境的な要因によりとれてしまったりする危険性を排除できると考えられ、実際葉と花を共存させている植物も存在するのはこのためと考えられる。それでも葉の形成の前に開花を行うの植物が存在しているのは、その植物では開花が一種の休眠を終了する信号になっていると考えられる。葉はその信号が発せられないと形成できないようになっており、これには花だけになることで生殖の役割に特化するという利点があると考えられる。

A:前半は比較的当たり前な展開ですが、後半は独自の論理が展開されていてよいと思います。花芽が取れてしまう危険性に対する考慮や、開花を休眠の修了信号と考えるアイデアなど、非常に面白いと思います。


Q:花の外部には花弁が集まり、内部にはおしべめしべの花の集まりがあり、切込みを入れるとその場所にだけ花弁が出てくるという話があった。詳しくはわからないメカニズムということで何かヒントが得られないかと考えた。そこで出てきたのは「物質の濃度だけが必ずしも影響していない、端を認識している可能性がある。」というところであった。端といえば、昔、海の向こうには世界の端があり、そこは滝になっていて下には化け物がいるというものであった。この花の場合も表面だけに花弁の分化に関するホルモンがありこの場合、端では縦方向にこのホルモンが重なることになる。傷がついた場合もその個所では同じようになる。つまり、縦の方向にホルモンが重なって存在することで、花弁ができると考えられる。確認するには、人工的にこの花の中に縦方向にホルモンを入れてやることで、そこから花弁への分化を見るという方法がよいと考えられる。

A:発想がユニークでよいと思います。表面に物質が一定濃度にあると仮定した場合、厚みのあるものでは端のところで濃度が高くなるはずだ、という論理は、僕には思いつきませんでした。