植物生理学II 第9回講義

続・植物の花

第9回の講義では、実際に花弁、萼、おしべ、めしべという花の構造ができる仕組みをABCモデルを中心に解説しました。また、植物の受精の仕組みと花粉管伸長のメカニズムについても触れました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:花序について、アジサイの花序について考えてみる。アジサイは集合花であり、半球状に花をつける。しかし、同じアジサイ科でも、ガクアジサイは異なった外見をしており、集合花の外側の花は咲き、内側の花は不稔である。これは一つの大きな花のように見せることで、虫に目立とうとしているのだと考えられる。ガクアジサイも傷ついた部分からは内側であっても花を咲かせることから、花を咲かせるかどうかは隣に花があるかどうかが関係していると考えられる。なぜ同じアジサイでも花の付け方が違うのか。調べてみると、アジサイはガクアジサイから分化したものであるとわかった。ガクアジサイで見られる内側の花が不稔になる機構が働かなくなったため、アジサイでは全て花を咲かせるのだろう。

A:考えようという姿勢は感じられますが、論理展開がやや物足りないですね。問題があって、答えがあるという問答で終わってしまっています。もう少し考察を膨らませることができるとよいでしょう。


Q:今回の講義で植物の長日条件の話について触れましたが、別の講義で昆虫のチョウも幼虫時代の長日条件によって蛹時代に休眠(蛹で越冬)するかどうかが決まるという話を聞きました。これは植物と昆虫のチョウが進化で分かれる前に同一の祖先を持ち、この祖先の生物は冬または氷河期の寒さに休眠という方法で適応したのかもしれないと考えた。

A:昆虫との比較という着目点は面白いと思いますが、生物学専修の学生としては、その同一の祖先というのはどこまでさかのぼるのだろう考えてみないといけません。


Q:ガーベラのような合弁花では花弁の一部が巨大化し、それ以外は退化し種子生産の機能に特化する。花弁と種子生産の二つに分化する要因は、つぼみの段階で両端に隣り合う花がないものは花弁になり、両端に隣り合う花があるものは種子生産に回るというものである。しかしこのルールでは、形成される花弁は一層のみになるはずである。実際のガーベラの花を見ると花弁は何層か形成され、複数枚重なっていることがわかる。この現象はなぜ起きているのだろうか。まず考えられる理由として以下のことが挙げられる。実際のガーベラの退化した花弁の部分を見てもわかるように、種子生産の機能を持つ花と花弁となった花ではそのサイズが大きく異なる。したがって前記の条件で一番外側の花が花弁に分化したとしてもその外周に花弁が収まりきらないことは明白である。つまり、収まりきらなかった花弁が層構造を形成することで限られた外周に収まるようにしたと考えられる。二つ目に考えられるのは全く異なる要因で分化決定を行っていることである。例えば、茎に対する傾き、もしくは重力の関係で自らの花の中における位置を感知し、中央からある一定以上の距離にある場合は花弁に分化すると言った仕組みである。しかし、この場合それらの感知能力が植物体に存在することが必須条件であり、あまり現実的であるとは考えられない。

A:問題点が明確に設定されていて、それに対して論理的に考察していてよいと思います。一つ目の仮説は説得力がありますが、二つ目の仮説は、やや説明が苦しいように思う一方、否定する根拠も「現実的であるとは考えられない」だけだと、いまひとつ説得力に欠ける気がしました。


Q:キク科の植物の花のつけかたに関する話が面白かった。キク科の植物で私が思いつくのはたとえばひまわりである。キク科の特徴としては、花がいくつもまとまって咲いていることである。この特徴の利点や適した環境について考察する。花が集合していることで、大きく目立つことができる。これにより、虫に見つけてもらいやすくなり、虫媒花である場合、受粉の確率が上がる。また、集合しているため、一度にいくつもの花が受粉することが可能である。このことより、虫があまりいないようなところでは、目立ち一度に受粉できるので、ほかの植物との生存競争に勝つことができるのではないかと考えられる。

A:もし、集合花にはメリットしかないとすると、すべての花が集合花になりますよね。実際には集合花ではない花もたくさんあるわけですから、メリットだけでなく、デメリットも議論した方がよいでしょうね。


Q:今回の授業で不思議に思ったことは、ユリの花は内側3枚の花弁と外側3枚の萼片から構成されていて、両者の見た目の違いがほとんどないことだ。萼片はどのように進化して花弁そっくりになったのか。もともと花弁がないわけではないのだから、萼片は萼片のままで存在してもよいのではないか。萼は花冠を支える役割をもつ。ユリやチューリップなどのユリ科の花の花弁に注目すると、一枚一枚がとても大きい花弁をもつ種類が多いように感じる。これほど大きな花冠を支えるには、当然大きくしっかりとした萼が必要になる。もし、他の植物同様に緑色や茶色の萼を持っていたら、その分花冠が覆われ目立たなくなり、昆虫を惹きつけられなくなってしまう可能性がある。ならば、萼を大きくすると同時に萼片自体を花弁そっくりに進化させれば、花の色を隠さなくて済むようになる。こうして進化したのがユリ科の植物ではないかと考える。

A:これは、問題点もはっきりしていて、しかも展開する論理がユニークでよいと思います。サイエンスでは、人と違うことを考えることが重要です。


Q:キク科の集合花の話があった。外側が昆虫にアピールするための花弁に特化し、内側は種子になるよう特化するという1つの集合体として種全体の存続に有利になるように働いているということが印象的であった。なにをきっかけにそれぞれが役割を特化していくのかという問いに対して最初は、つぼみの時に外側にあるものが花弁になるということから、‘がく’の中で1番光が当たる外側が花弁になる、つまり‘がく’越しの光に対して反応して花弁になり、光が当たらない内側が種子に特化したものになるのではないかと考えた。しかし、つぼみの真ん中で切断するとその切断面にそって花弁に特化するということから私の仮説は誤っていたことがわかった。周りに花がない面があると花弁に特化するという現象論から考え直すと、1個体の周囲360°に隣からの圧力がかからない場合が花弁になる、つまり圧力がかかると種子に特化するための物質が分泌されるのではないかと思った。

A:面白いと思います。メカニズムに関する考察ですが、ここまで来たら、もうひと押しして、圧力を感知するにはどうしたらよいかまで考えられるといいですね。周りに細胞がある、というだけなら細胞から分泌される何らかのシグナル物質の濃度を検知することによって把握できますが、圧力を感知するメカニズムを考えるのは案外難しいのではないかと思います。


Q:講義で生きたまま受精を観察できる植物としてトレニアが紹介された。普通、植物の胚珠ではは胚のうが珠皮に包まれているがトレニアでは珠皮から胚のうがはみ出しているため受精の観察に適しているとのことだったが、今回はトレニアがどうしてこのような形態をとるようになったのかについて考察したい。そもそもなぜ他の植物では胚のうが珠皮に包まれているのだろうか。この理由はおそらく物理的な傷や乾燥などから胚のうを守るためであると考えられる。胚のうは将来種子となる大事な部位であるため花の奥に大切にしまわれている。ではトレニアで胚のうが珠皮から出ていることの利点は何だろうか。珠皮は将来種皮に分化する部分であるが、トレニアの種子は他の植物の種子と同様に全面を種皮に覆われている。つまり胚のうが珠皮から出ているのは種子になるより以前の段階で利点があるものと考えられる。一つ考えられるのはトレニアでは花の奥に胚珠があるため傷などが付きにくいのではないだろうかという仮説である。しかしトレニアの他にも同様に胚珠が花の奥にある花は存在している。その上トレニアは虫媒花であるため、花粉を運んでもらうために奥まで虫が入り込める様な構造をとっている。そのため、花の形とはあまり関係ないと考えられる。他に考えられるものとしては、受精の時に珠皮の奥まで花粉管を伸ばす必要がなく受精しやすいというものがある。しかし講義で花はあまり複数の花粉から精細胞が辿りつくことによる重複受精をあまり気にしないとのことを聞いた。そのためこちらも進化の理由の大きな理由には成りえないだろう。またもしも胚のうの一部が珠皮から出ている分他の植物に比べて珠皮が小さいのであれば、コスト削減になっているという可能性もある。これは前者2つに比べたら有力なようにも感じるが、これが一番の理由になっているとするとトレニア以外の種で同じような形態の胚珠がないことの説明がしにくい。他の可能性としては種子に分化する際に利点があるというものが考えられる。例えば胚珠から種子になる際に大きさが大きくなるとするとき、珠皮全体を大きくするのではなく珠皮を伸ばし胚のうを覆うことで細胞の伸長あるいは分裂する部分を限定し、効率を上げるということが考えられる。また、成長する際に外部と接している部分があることで胚のうと外部との物質輸送が楽であるということも考えられる。これらの理由によりトレニアは珠皮の外に胚のうを出しているものと思われる。

A:これは、いろいろな可能性を考えていてよいと思います。「これだ」という仮説がないのが残念ですが、これは問題が難しいことを反映しているのであって、レポートの問題ではないでしょう。「重複受精をあまり気にしない」という部分は、講義で話したこととやや違います。まず「重複受精」というのは、花粉由来の2つの核がそれぞれ受精することで、複数の花粉により受精することではありません。また、講義で複数の花粉からの花粉管が一つの胚珠に向かう写真を見せましたが、これは、あくまで人工的な環境における現象で、基本的には動物の精子とは違って、花粉同士の競争はあまり見られないようです。


Q:講義ではガーベラのような集合花の個々の花の分化について扱った。平面に集合した花のうち外側の花は花弁を大きく成長させ、内側の花は種子を作るのに専念するように成長する。これらの分化の制御はABCモデルに乗っ取っているのだとすれば花弁を大きく成長させることも雄しべや雌しべを多くさせることも遺伝子で制御しているのだと説明できる。ではどのような遺伝子が花軸に小さい花を集める役割をしているのだろうか。集合花は花を順々に咲かせることができ、種子をまとめていくつも作れるので、この理屈を解明できれば農業用の植物を遺伝子操作によって大量に作れるのではないだろうか。集合花の花軸を作る遺伝子があるとして、その付近に花を作る遺伝子がいくつも並んでいれば遺伝子が影響する領域同士が重複するため密接して花を作ることができる。そこで次のような仮説を立てた。集合花の遺伝子A,B,Cにおいて優劣がA=B>Cとする。小さい花をつくる遺伝子は花が周囲を別の花に囲まれていると花弁を作る遺伝子、つまり遺伝子AとBが失活して雄しべや雌しべをつくる遺伝子Cのみが働き、そうでない場合は優性である遺伝子AとBの表現型として花弁となるとすれば説明がつく。集合花の塩基配列と遺伝子について研究することでこの仮説の是非がわかるはずである。

A:面白いと思います。ただ、このような分化の場合は、遺伝子自体はどの細胞にも存在しているはずです。遺伝子が欠失しているわけではありませんから、変化しているのは発現量であって塩基配列ではありません。最後の部分は、分子生物学の講義のレポートだったらバツがつきますね。


Q:今回の講義では花の花粉のしくみ等について学んだ。講義で先生が話されていた「トレニアの胚嚢は一般的な植物と比較して異なっている」という内容が興味深かったため、今回のレポートではトレニアについて調べた。調べてみたところ、トレニアの胚嚢が胚珠から飛び出していると特徴を用いることによって、花粉管が胚嚢にたどり着く理由が解明され、助細胞から放出される2種類のたんぱく質が花粉管をおびき寄せているということが解明されたという研究成果を見つけることができた。私がこの研究成果によって疑問に思った点は以下の点である。例えば、植物AとBを用意する。植物Aの助細胞から放出されたたんぱく質を植物Bの受精時に用いたら、通常通り植物が誕生するのかという点である。私は、通常通り植物Bの植物が誕生すると考える。既述した実験をさまざまな植物を用いて、研究したところ、AとBのお互いの性質を持った植物が誕生したら、遺伝子組み換えのように人工的条件に応じた植物が誕生するのではないかと考えた。

A:着目した点は面白いのですが、記述があいまいですね。問題のたんぱく質は花粉管のガイドに使われているわけですから、それが必要なのは植物Aの花粉の受精時です。植物Bの花柱に植物Aの花粉を付けた時に、ということでしょうか。また、近縁の植物であれば、特に難しいことをしなくても、交雑は可能です。


Q:今回の授業を通じて、花柱を通ると花粉管の伸び方が変化することを学んだ。また花粉管の先端は胚のうの中で破裂する。花柱を通ることは、花粉管が胚珠のところまでスムーズに到達する働きをもつ。花粉管の伸び方が変化する要因を考える際には、何か誘引物質が花粉管に作用して生じるものだと考えられがちである。柔軟な発想と十分な観察を行うことが発見に繋がるのだと感じた。

A:何度も書きますが、講義の内容を繰り返すレポートは評価しませんし、「感じた」という感想のレポートも評価しません。


Q:なぜキク科の花はたくさんの花が集まって形成される集合体(花序)なのかについて考える。花序を形成することで、1つの花に見える場所にいくつもの花が存在していることになるということは、いくつも他の花を咲かせなくても良いというメリットがある。普通花は、一つの植物体のあちこちに咲く。つまり、花序を形成することで花を形成する労力を1つの花に収束させていることから、普通の花をたくさん咲かせるよりエネルギーの消費が少ないと考えられる。しかし、花を1つしか咲かせないということは、その花がだめになってしまった場合、代替する花がないためその植物はその年、生殖を行うことができなくなってしまう。以上の理由より、花序を形成する植物は、花が枯れるまたは踏まれるなどの要因が少ない場所で育ったと考えられる。

A:「花序」と「集合花」は区別した方がよいでしょう。でも、短いながらきちんと論理が通っていてよいと思います。


Q:今回の講義で、花粉管がどのようにして胚珠へのびていくのかということが印象に残った。トレニアを使った実験では、花粉管が伸びる方向を決めていて、胚珠への誘導物があるのではないかという仮説を立てていたようだが、そのようなものは発見されなかった。この実験の結果、花柱を通ると胚珠の珠孔へ伸び、花粉管同士の競い合いはないようだ。そして花粉管の先端は胚嚢の中で破裂する、ということが解明されたようだ。花柱を通るとなにがいいのだろうか考えてみた。花粉はまず柱頭に付着する。柱頭は粘性があり、花粉が付着しやすいようになっている。このことから花粉は柱頭に付着してから花柱を通るということがわかる。そして花粉は柱頭についたときしか受粉できないようになっている。柱頭以外にも例えば虫媒花だと昆虫の体についた花粉は、花の構造にもよるが、柱頭以外のところにも付着する可能性がある。ついたところから受粉という形をとれば受粉の確率が高くなるのではないかと考えた。しかし、昆虫は他の種の花粉をつけているという可能性もある。他の種の花粉では受精しないだろうが、中に進入するのを防ぐのに柱頭から花粉管を伸ばして精細胞を入れるという仕組みを作り、花柱を通ることで、正しく胚珠の珠孔へ導いているのではないかと考えられる。

A:よく考えていると思います。ただ、花柱がなくてはいけない理由は、いまひとつよくわかりませんでした。ただ、現実には花柱に花粉がつくことに間違いはないわけですから、花柱を花粉管が通ることが前提で、受精のメカニズムができている、というだけのことなのかもしれません。


Q:花粉管が伸びる様子をスライドで見たが、この花粉管の先端は卵細胞のところへと伸びていった。花粉管について調べてみると「花粉を砂糖水につけてから,5分後くらいには花粉管が発芽する。」「砂糖水の端の空気に接するところは発芽が早い。」といった記述があったので、卵細胞が出す花粉管誘引物質の低分子量タンパク質、ルアー(LURE1、LURE2)が砂糖の成分と似た働き、あるいは成分が似ているということも考えられる。花粉管の先端が背嚢の中で破裂してしまう原因は、おそらく花粉の中のものが花粉管に移動する時、それが花粉管へ勢いよく流れるために起こっていると思われるので、浸透圧を制御することによって花粉管の先端の破裂を抑えることができると思われる。
・自作観察用スライドガラスを用いて花粉管を観察しよう  http://www.center.shizuoka-c.ed.jp/curri/cpc/Web/kannsatujikennsyuu2/25B01b.pdf、・植物の花粉管誘引物質を発見 −140年来の謎解明 科学技術振興機構 http://www.jst.go.jp/pr/announce/20090319/index.html

A:やや誤解があるようです。花粉管が伸びるのに適度な糖が必要ですが、これは、伸びる方向性とは無関係です。一方、ルアーは、花粉管をどちらの方向に伸ばすかという、方向を誘導するための物質です。動きと方向は、別の要因によって制御されているわけです。


Q:今回の授業でエコタイプを習った。このエコタイプは同じ生物種であってもそれぞれの環境によって分化し、他の環境で生存することができない個体となってしまうものもいると習った。ここで、植物の子孫繁栄の戦略と矛盾を感じた。このことに関して考察する。その矛盾とは、植物はより広範囲に子孫を残そうとしているにも関わらず、遠すぎると生育することができないことだ。広範囲に子孫を残そうとしているという事実は、種子を遠くに飛ばすために綿毛がついていることなどから考えることができる。逆に種子にこのような工夫がなされていない植物の場合、地域による変異が溜まっている可能性が高いと考えられる。この仮説をもとに、例えば実験植物の選定に用いることができるだろう。

A:「遠すぎると生育することができない」という部分は、やはり「遠さ」の定義が必要でしょう。オオバコのエコタイプの話をしましたが、あそこで使われていたエコタイプは、沖縄から北海道までのものです。一方で、オオバコの種子散布の範囲は、おそらく1 kmにも達しないでしょう。距離はあくまで比較して遠いかどうかを検討する必要があると思います。


Q:胚乳に栄養をためるタイプと、子葉に栄養をためるタイプの植物を考えてみたところ、子葉は地上に出てしまうので、虫に狙われたり動物に踏みつぶされたりした場合、そこで命が途絶えてしまう可能性は高い、胚乳の場合は一旦地上部を失ってしまっても、胚乳に十分な栄養が蓄えられて残っていた場合、リカバリーが可能となる。また発芽する際、種皮を破る必要があるが、子葉に栄養を蓄えているタイプのものはかなり大きい範囲を破らなくてはならないが、胚乳に蓄えているタイプは細い芽を出すのみなので、種皮の破れは最小限に抑えられる。よって種皮をより硬くすることができると考えられる。胚乳と胚と役割を分担させることは上記のような利点を得られるが、より機構は複雑なものとなることが考えられるので、子葉に栄養を蓄えるタイプの方が機構が単純な分、遺伝子異常等に強いのではないかということも考えられた。

A:面白い観点だと思います。講義で話し忘れましたが、植物によっては、子葉を栄養蓄積に使って、しかも地上に出さずに地中に残すタイプのものもあります。その場合、最初に展開する葉は本葉になります。このレポートで議論されている「地上に出るデメリット」を最小限にする戦略でしょうね。


Q:もし, 花芽の運命決定に関わる仕組みが植物種間である程度共通しているのであれば, 開花周期のとても長いマダケにFTやLFY, 又はそのホモログを強制発現させて, 開花処理を施せば, 自由に開花させる事ができるかもしれない.実際に, 開花中のタケで, FTホモログの発現量が高くなっている(https://kaken.nii.ac.jp/pdf/2011/seika/C-19/12201/21380089seika.pdf)という研究成果が報告されているが, その後モウハイチクのように枯死するものもいればトウオカメザサのように枯死しないものもいるのだそうだ.すると, 開花と開花後の枯死は別の機序で制御されている可能性がある. 草本植物で, 開花した後に結実が完了する前に花芽を完全に摘み取れば, 花芽のC遺伝子由来の成長を止める命令が下されなくなり, 今度は腋芽の形成により再度成長するかもしれない. すると, 雌蕊や雄蕊の形成, あるいは受精後の種子の成長による生理反応のなかで, 植物体の死が誘導されてゆく事になる. 先に他の草本植物の花や実を調べて開花後の枯死についての手掛かりを得た上で, マダケの花に類似した因子がないかを調べれば枯死の機序がわかるかもしれない. もし, 種を蒔く時期をずらしても開花が同時期に起こるようなら, 前世代の花芽が形成される時点で次の世代の生活環がプログラムされているのかもしれないが, これを狂わせる処理を行い, 開花周期を乱せれば, 開花と枯死の機序の解明につながる.

A:面白い視点だと思います。全体としては開花後の枯死が議論の中心ですから、最初の一文で、その点に触れたほうが首尾一貫したレポートになります。現状だと、開花の制御からスタートして、途中から枯死に話がずれた印象を与えますから。


Q:今回の講義の中で、被子植物には種子の養分の大部分を胚乳に蓄える植物と子葉に蓄える植物の2つがあるという話があった。被子植物の胚乳と子葉の特徴を考えてみたが、子葉は緑色で葉の形をしているのに対し、胚乳は白くて丸い形をしているというイメージしか思い浮かばなかった。そこで、この違いから2つの戦略を取る植物の特徴について考えてみたい。子葉のメリットは、本葉が十分に成長するまで光合成ができるということ、蒸散により土壌からの無機塩の吸収効率が上昇すること、蒸散により幾らかは体温調節ができることが考えられるだろう。一方、デメリットは構造が複雑であること、光合成を行うためには種皮の外側に出るため損傷を受けやすいこと、光合成器官として表皮の厚さには限界があること、養分を蓄える大きな子葉は細い茎を繋ぐ部分が狭く物理的に構造が弱いことが考えられる。一方、胚乳は光合成・蒸散の機能を担わないが、そのため構造も単純で、栄養貯蔵組織として種皮の内部で保護されたまま植物体に栄養を送り続けられる組織のように見える。ここまで述べたことから、胚乳に大部分の養分をためる種子は光の弱い環境での生育に優れ、子葉を大きく発達させて内部に大部分の養分を蓄える種子は、比較的日照条件の良い環境での、さらに土壌中の養分の少ない地域などではなおさら、生息に優れている考えられる。また、他に考えられる特徴としては、子葉に養分をためる種子はその複雑な構造を発達させるために成熟まで時間が長くかかる一方で、単純な構造だと思われる胚乳に養分をためる植物は比較的早く種子ができると考えられる。

A:問題点がはっきりしていて、考慮すべき点をリストアップした後、自分なりの結論を出していて、よいレポートだと思います。本当は、現実の植物でそれぞれのタイプのものがどのような環境に生育しているのかを調べて、それをもとに議論できると素晴らしいですが、それは数百字のレポートではとても盛り込めませんね。


Q:講義では,花粉と胚珠の相互作用は種特異的という説明があった。花粉管は花柱からの何らかの作用によって胚珠からの誘導物質を受容,感知する能力を得る。この種特異性は,花粉管と花柱(が花粉管に胚珠への誘導性を与える物質)の相互作用が種特異的であるか,あるいは,花柱の分泌する物質と胚珠からの誘導物質との関係が種特異的であることに因ると考えられる。つまり植物種AとBがあったとき,A(B)の花粉管はA(B)の花柱の分泌する物質しか受容しないか,あるいはA(B)の花柱が分泌する物質がA(B)の花粉管に与えられるのは,A(B)の胚珠が出す誘引物質のみへの受容性であるということである。逆に,花粉管-花柱の分泌物,花柱の分泌物-胚珠の誘引物質,という二つ相互作用のいずれかが種特異的でないとき,異種植物間での交配の可能性が生まれる。仮に花粉管が胚珠へ到達することができたとして,その後の受精,発生のプロセスが進む可能性はかなり低いであろうが,上の二つの相互作用のいずれかの非種特異性が種分化の要因になりうるのではないかと考えられる。

A:よく考えていると思います。ただ、論理自体は、ある意味で可能性を網羅しているため、否定はできない一方、驚きもありません。ここまできちんと考えられるのであれば、他の人が思いつかないような自分だけの論理を展開すべく努力してほしい気がします。