植物生理学II 第13回講義

植物の光感知機構

第13回の講義では植物にとっての光環境のセンシングの重要性と、その基本的なメカニズムについて解説しました。また、参考までに、動物の視覚についても簡単に解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義で植物体に数か月の間、植物体全体に太陽光を当てないと光を探し求め茎を広く伸ばすという話を聞いたが、実際に数か月も生育に影響が出るほどの光不足の状態ならば、茎を伸ばしても、やっと日向に出ることが出来た一枚の葉のみしか光を受けることが出来ないかもしれないし、残った養分を全て使い種を残す事の方が、鳥に運ばせるやタンポポの綿のように種を遠くに移動させられるから種の生存としては有利だと考えた。

A:ここまでは良いのですが、そこから、では有利ではなく思える形質を示す植物が現実に存在するのはなぜなのだろうか、と考えることが生物学においては必要です。


Q:今回印象に残ったのは植物とは関係ないが、目についての話だった。暗いところではたらく蛋白質が吸収する波長が限られているため、あまり色が認識できないということだった。もし、暗いところでも様々な光を感知することができるのならば、地球規模でどのような作用を及ぼすか考えた。見えないということは、目を休めることにつながる。様々な波長を認識し、目を休めないことはエネルギーの消費、さらに飛躍すれば植物などの食物連鎖のおおもとにあるものの消費につながると考えられる。現在のこの目の働きは、エネルギー消費をおさえ、植物の繁栄を助け、さらにそれが地球環境を支える一つの要因であると考えることができる。

A:確かに光の検知にも一定のエネルギーを必要とすることは間違いないとは思いますが、運動などと比べた時に意味があるほどのエネルギー消費なのか、と考えると疑問だと思いますよ。


Q:暗所条件は自然界では土の中が想定される。もやしは暗所で生育することで、少ないエネルギーで速く地上に出ようにと細長くなり、また、地上に出ていないため光合成に必要な緑色の色素がなく、成長点を傷つけないように生育方向に逆向きの下向きになっている。暗所で育てずとも地下深くにもやしの種を植え付ければ、土の中に求める植物体が育つのではないだろうか。わざわざ地中で育てず暗所で育てるのは農業用に収穫する際に手間が省けるということが一番の理由だと思われる。また、地中で育てた場合、土の圧力によって思うように生育が成されないからではないかと考えることもできる。

A:考察しようという努力は認められます。ただ、やや一面的ですし、そもそも生物学的な考察ではなくて、強いて言うと農学的な考察ですね。


Q:植物にとっての芽生えに対する光の影響の話が印象に残った。もやし(大豆)の芽生えには光が必要ないことがわかった。ここで、光があった場合の発芽は、光がない場合とどのように異なるのか疑問に思ったので、考察していく。光が当たっていないということは、もやし自身はまだ土の中にいると思っていて早く地上に出ようとするために成長速度は速いと考えられる。またこの場合は、細長く、成長点が上を向いていない。この後は、光が当たっていないので、葉が作られず一定のところで成長は止まってしまうのではないかと考えられる。一方で光が当たっている場合は、地上に出ている状態なので、成長速度は日が当たっていないものに比べ遅くなると考えられる。成長点は上を向き、葉が作られると考えられる。光合成をし成長して行くと考えられる。ただし、この場合は土がないと成長することはできないと考えられる。

A:講義ですでに紹介したポイントをなぞっている感じです。やはり、自分で独自に考察する部分がないとレポートになりません。


Q:今回の講義では目の仕組みや光感受、植物と光の関係性について学んだ。話を聞くなかで以前の講義に出てきたクロロフィルを持つ深海魚の話を思い出し調べてみたところ、深海にすむオオクチホソエソは赤色光および赤外光を照射する器官を持ち、網膜の前に位置するバクテリオクロロフィルで感知することにより餌を探すとのことだった(1)。この魚が生息するのはトワイライトゾーンと呼ばれる僅かに光が届く深海であり、このあたりの水深には赤色光は殆ど到達しないために赤色の光を受容する器官を持たない生物がとても多い。そのため敵に見つからず、獲物にも警戒されない赤いサーチライトを持つようになったと考えられる。しかしここで1つの疑問が発生する。オオクチホソエソは何故クロロフィルを光受容体として用いているのだろうか。今回はこれについて考察する。オオクチホソエソが自身で赤色光、赤外光の受容細胞を持たずにクロロフィルを用いていることに関していくつかの仮説を立てることができる。一つはクロロフィルの入手が容易であるというものである。オオクチホソエソがどのようにクロフィルを入手しているかは詳しくわかっていないが、食物として食べた植物プランクトンから利用しているならば自身で作る必要がないためコストを抑えることができるのではないだろうか。これは同時に餌の少ない深海において栄養を必要とする細胞を僅かだが減らすことができる為、大きな利点のように思える。しかし、この仮説にはそもそも沈降するクロロフィル量も少ないという欠点もあるため一概にこれが正しいとは言い難い。他の仮説として機能面での優位性を考えることができる。地上に生息する生物を考えても赤外線を感受できる生物は少ない。これは細胞を用いて赤外線を認識することのコストの高さを表しているのではないだろうか。また、クロロフィルの方が光の重要範囲が広いということも考えられる。オオクチホソエソは赤色光、赤外線の双方を受容する必要があるが、これを細胞で行うには2種類の細胞が必要になる。これに対しクロロフィルを用いれば複数の物質を使うことなくどちらも感受できる。このようによりコストが低く感受幅の広いクロロフィルを用いるようになったのではないだろうかと考えることができる。
参考文献: 1. ベルソーブックス034 海のトワイライトゾーン,齋藤宏明,株式会社成山堂書店,2010

A:考察自体は良いと思います。ただ、これだけだと昔の講義のレポートになりますね。せっかく今回の講義でフィトクロムを紹介したのですから、赤色光から金紫外光を吸収するフィトクロムと関連させて議論ができるとよかったように思います。


Q:講義でもやしと光感知について触れられたときにホワイトアスパラガスについてはどうだろうかと疑問を抱いた。ホワイトアスパラガスはアスパラガスを遮光した条件で栽培するとできる。アスパラガスがもやしにはならずホワイトアスパラガスの状態で生育する理由は物理的強度が挙げられる。ホワイトアスパラガスは通常のアスパラガスよりも外側が硬く、食用の際には外皮を向いて調理される。さらに、もやしは豆や穀類などの1年生草本の新芽であるのに対し、アスパラガスは多年生草本であり、食用にされるものはまだ若いものである。多年生草本のアスパラガスは新芽のうちから強度を持つことで土中から芽を出すことに注力しているのだろう。長期間生育するアスパラガスにとって土中から芽を出すためにホワイトアスパラガスの形態をとるという投資は重要なことだ。

A:「もやしにならず」というとやや誤解を招きますね。もやしの特徴の一つは緑にならないことですが、その点ではホワイトアスパラガスは立派なもやしです。最後のところ、長期間生育することと、土の中から芽を出すことの関係がよくわかりませんでした。


Q:もやしなど、光が当たらない状況で育った植物の特徴について学んだ。緑色でないのは、葉緑体が必要ないから、細長いのは、光を求めてより長く成長するため、成長点が上を向いていないのは、地中にいると勘違いしているため成長点を傷つけないようにフックの部分で土を押し上げる構造になっているためである。植物にとって重要な環境は光があたるかどうかであるということが分かる、逆に気中か地中かはあまり重要ではないと分かる。ならば、自然界では起こりえないが地中で光が当たっている場合植物はどのような反応を示すのだろうか。この実験は3通りの方法が考えられる。1つ目は地中の種子に光を当てて成長を促す。2つ目は光をまったく当てずに育った植物を地中に埋めて光を当てて育てる。3つ目は光を当てて育った植物を地中に埋めて光を当てて育てる。植物をガラスに貼り付け、逆側を土で覆う形にすることでガラス側から光を当てる。この実験を行うことで、環境の変化における植物の成長について、特に光環境と地中、気中環境について、なにか分かることがあるのではないかと考えられる。

A:ユニークな考え方でよいと思います。ただ、実際に土の中に光を当てるのは案外難しいのではないでしょうか。土自体を、透明な細かい粒に置き換えるといった作業が必要な気がします。


Q:今回の講義では、植物と光の関係について学んだ。光は光合成に必要なものだが、うまく使わないと害を及ぼしてしまうものでもあると以前学んでいた。そこで今回、遮光して育てたシクラメンと光を当てて育てたシクラメンのスライドをみて思ったことが、光を受け取る為に(光合成をするために)茎や葉柄をのばして光を受け取れる場所を探すことは、植物にとってリスクにはならないのだろうかということだ。もやしの作り方として、光を求めて葉柄や茎をのばす植物の性質を利用しているが、光を探し回ったとしても、光を受け取れる場所に葉を伸ばせないかもしれない。それならなぜ光合成をするために、光を探すのだろうか。体を成長させて動く植物は、光合成をしないで育ったなら、もやしのようになり、体が弱くなるのではないか。弱くなったとしても光合成をすると、より多くのエネルギーが得られ、丈夫な体を作ったり、子孫を残すエネルギーを作り出すことができるから、光を探し求めて体をのばす(成長させる)のではないかと考えた。また、自然界では滅多に広範囲に及ぶ遮光環境は作られないので、光を探し求めるほうにエネルギーをかけているのだとも考えた。

A:論理の方向は良いと思います。ただ、日本語の流れを整理すると、もっとわかりやすい文章になるでしょう。たとえば、「体を成長させて…」という文は光を探すことのデメリットですから、その前の問題設定よりも前に異動した方がよいでしょう。


Q:今日は植物にとって光、温度などのストレスが光合成効率に関連しているということが分かった。だが、観葉植物はどうか?日光の当たらない自宅でも、あまり水をあげずに放置していても、簡単にかれることはない。以前サボテンを飼っていたが、家の外でも中でも、あまり水をあげなくても平気であった。これは、観葉植物のほとんどが温帯の多肉植物なため、水の蒸発が少なく、過酷な環境でも平気であり、一般に売られている観葉植物は(多分)幼体が多いため光、水の量も少しで平気なのではと考えた。

A:悪くはありませんが、やや物足りないですね。たとえば、観葉植物として売るのであれば、当然、家の中の環境によく適用したものを選んで販売するでしょう。そのような、別の可能性も考えた上で、どれがもっともらしいか、という展開にすると、もっとレポートらしくなります。


Q:今回の授業ではフィトクロムが赤色光と遠赤色光の比を感知することで、さまざまな光環境に対する応答を学習した。今回学習したことは主に陸上植物のフィトクロムの働きだった。また文献1によると、「フィトクロムは陸上植物にのみ存在すると考えられていたが、最近、シアノバクテリアを中心にフィトクロム様タンパク質が多数発見された。」(文献1)とある。そこで、水生植物のフィトクロムに関して考察する。私の考えた仮説は、水生植物のフィトクロムは陸上植物のような季節変動や上層の植物の有無を検知しているわけではなく、水深を測定して光合成を最適化している可能性があるということだ。一般的に水には長波長のほうが吸収されやすい。よって、水深が深いところでは赤色光が浅いところでは遠赤色光の比が高くなる。これは深いところではPfr、浅いところではPrが多くなることを意味している。このようにPrとPfrの比が水深によって変化するため、植物はこの変動をはかり、光合成を最適化している可能性を考えられる。
文献1: 植物の光受容体 - 京都大学http://physiol2.bot.kyoto-u.ac.jp/~nagatani/HP3/KenhaiJuyou.html、2014/01/10閲覧

A:これは面白い点に着目していると思います。ただ、実際には、シアノバクテリアのフィトクロム様タンパク質は赤色光/近赤外光を吸収するのではなく、吸収は頂芽さまざまにずれています。ですから、ここの考察をそのまま適用することはできません。


Q:ハクサンイチゲ(0)などの高山植物のように, 低温と強い日差しの両方に曝される環境下でも生育可能な植物も存在する. これらは,キュウリやゴーヤーなどの暖かい地域に生育する植物よりも低温障害への耐性が高い可能性がある. そこで, 高山植物が低温障害への耐性を維持する仕組みを考えてみた. 高山帯では, 気温のみならず気圧も低くなっているため, 水分の蒸発などは起こりやすい. 空間中の気体密度も低い. すると, CO2量も, 呼吸に必要なO2量も少ない. すると, 同じ体積で多くガス交換を行うために, 気孔の分布が多く, 更に, 強光によるストレスを軽減させるために, アンテナ複合体中のカロテノイドの配合量が若干多くなっていると考えた. なぜなら, (1)より, カロテノイドには集光アンテナ中で光励起したクロロフィルとの相互作用によって活性酸素の発生を防ぐ効果があるという. しかも, カロテノイドは炭化水素の分子だから, 光合成産物だけで合成でき, 量が増えてもさほど問題を起さないと考えられるためである.
(0) http://kids.gakken.co.jp/jiten/6/60002810.html
(1)Voet, D., Voet, J. D. 著, 田宮信雄他訳 ヴォート生化学下 p. 686-688 2005 東京化学同人

A:よいと思いますが、最初の問題設定「低温障害への耐性を維持する仕組みを考えてみた」とその後の展開がややミスマッチですね。「高山の環境に適応するためにどのような変化を起こしているのかを考えてみた」ならばよいかな。


Q:今回の講義は植物が光を感知しているという話で、そのメインの内容の一つに光の色から周囲の環境を認識しているという話があった。では、それぞれの植物が色の違いによって環境を認識することで、どのように成長の変化を起こすのかについて考えた。ここでは、植物を競争戦略・ストレス耐性戦略・撹乱依存戦略と生存戦略別に分類して考えてみたい。競争戦略を取る植物では、光強度が同じ場合、他の葉を透過した光のスペクトル、すなわち赤外領域の強いスペクトルの光の元にある葉は、通常の赤外スペクトルが特別高いわけではない光が照射された葉と比べて、上方向へ強い成長傾向を示すかもしれない。同じ光強度の環境であるならば、前者の環境では速い成長速度を利用して上方向に成長すれば、ニッチの近い他の植物よりも良い光条件を獲得できる可能性がある。反対に、自分よりも上部に他の植物がなければ、葉柄を伸ばしたり枝を分岐させるなどして優先的に横方向へ成長するかもしれない。これは、自分よりも低い丈の植物またはまだ発芽をしていない種子の発達を抑える役割になる。撹乱遺存種は競争を戦略としているわけではないため、他の植物の成長を抑えるように積極的に横に広がる必要はないと思うが、短期間に素早く成長しなければならないため、素早く成長することでより良好な光条件が獲得できるならばと、赤外波長を感知した場合の方が上方向への成長は比較的強いのではないだろうか。しかし、ストレス耐性戦略を取る植物はそれほどよい光環境が必要でなかったり、光環境以外の環境条件を生存戦略に利用しているので、葉の発達は競争戦略種ほど照射される光のスペクトルの形に強く依存しないことが推測される。色を感知する機構が不要であるとすれば、これが退化していることも考えられる。

A:よく考えていると思います。ただし、どうしても考察が、競争的な観点にとどまりがちですね。競争戦略の場合はいろいろ考えていますが、残る二つの戦略の場合は、やや考察が一面的であるように思います。/P>


Q:本レポートでは,フィトクロムの核内移行について考える。講義のスライドを見る限り,フィトクロムは活性型のフィトクロム(Pfr)になってはじめて核内に移行され,不活性型(Pr)は核内へと移行しないようである。さて,光条件が(赤色光>近赤外光)から(赤色光<近赤外光)へと変化したときには
1.細胞質のPfrがPrへと変化し,フィトクロムの核内への移行がストップする
2.核内のPfrがPrへと変化し,光応答遺伝子の転写促進(抑制)が中断される
といったことが起こるはずである。光条件の変化に対する応答として,より直接的であるのは第二点目である。つまり,核内への移行をストップしなくても,核内のフィトクロムのPfrからPrへの変化だけで光条件の変化に応答できる。しかし,そうであるならば光条件の変化に関わらず,PfrもPrも核内へ移行させればよいのではないだろうか。そこで,光条件の変化(ここでは,赤色光>近赤外光から赤色光<近赤外光への変化)に応じて核内への移行をストップさせる機能が活きてくるのはどんなときか考えると,それは核内でのPfrからPrへの変化がなんらかの不具合で起きなかったときである。例えば,大きなデンプン粒があって,核内に光条件の変化が伝わらないという状況が考えられる。核内へのフィトクロムの供給をストップをすれば,核内のPfrがプロテアソーム系などで処理され減少し,転写調節が中断するので,核内のフィトクロムをPfrをPrを変化させたのと同じ効果が得られる。つまり,光条件の変化に応じたフィトクロムの核内への移行の切り替えは,核内でのフィトクロムの変換が機能しなかったときのフェイルセーフとして機能するということである。

A:よく考えていると思います。ただ、デンプン粒があるのは葉緑体でしょう。あと、プロテアソーム系の話が出てきますが、実際に、フィトクロムのPfr型とPr型ではタンパク質の寿命が異なる例が知られています。相互変換の考え方しか説明しませんでしたが、寿命の違いによっては、通常は片方の型が主に存在していて、光条件が変わるともう片方の型が増加する、といった制御をしている可能性もあります。