植物生理学II 第3回講義

植物の茎

第3回の講義では、前回の補足として、葉の平面的な形態の意味を考えたのちに、植物の茎を取り上げ、その形と機能の関係について解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:植物の茎は葉を効率よく並べより効率よく光合成を行うのに非常に重要な役割があると考えられるが、それは光のあたる位置を感知して茎を伸ばしているのか茎の位置、葉の位置は周りの環境によらず遺伝子によってある程度決定されているものなのか疑問に思った。私は植物は光の刺激によって成長の方向性を決定しているのではないかと考える。これは群生している植物が自分の光合成量を確保しなければいけないときに自分で成長の方向を決定しなければならないと考えるからである。また、このために光の刺激で植物にもホルモンが生成されて成長にかかわっているのではないだろうか。

A:高校の生物ではダーウィン父子の実験とか、ウェントの実験とか、一連の歴史的実験を元に光屈性について習うと思うのですが、生物を履修していないのかな?レポートの評価にあたっては論理を重視するとは言いましたが、たとえ履修してなくてもちょっと調べれば分かることなので、高校の生物ぐらいの知識については、それを前提にレポートを書いてほしいと思います。


Q:今回の授業は茎についてという事で、身近だが一般的な植物とは大きく異なる形態を持つタケ(モウソウチク)の茎について考察してみる。まず、タケはイネ科の単子葉植物である。単子葉植物には形成層が無いため茎を太くすることが出来ず、また根がひげ根でしっかりしていないため、樹木のように大きくなるものは少ない傾向があると言える。だが、その中でもタケは大きくなると20m以上にもなる例外的な植物である。タケも単子葉植物の例にもれず、その茎に形成層は無く、根もひげ根である。しかし、タケは広域に渡る地下茎を持つためそれが根の代わりに地上部を支える役割を果たしていると考えられる。また、地上部の茎は中空になっており非常に軽量で素材自体も高い柔軟性を持っているため太くならなくても十分に自身を支えることが可能であると考えられる。つまり、これらの地上と地下の茎によってタケの生態は支えられていると言えるだろう。

A:きちんとしてはいますが、教科書的な記述になってしまっていますね。この講義のレポートには、単なる解説ではなく、独自の視点から見た論理を構築するように努力してみてください。


Q:道管は細胞死を起こした道管要素の連続から成ることを学んだ。そこで、道管要素となっていた細胞が死んでしまうタイミングはいつなのかを、VND7という転写因子に基づいて考察する。 道管の役割は、水や溶け込んでいるイオンを植物全体に運搬することである。栄養分を運搬する師菅と異なり、ホースのように水を流すことができればよいので、細胞は生きている状態でも、死んでいる状態でも不都合がないと考えられる。参考文献*[1]によると、VND7はプログラム細胞死を促していることが分かった。また*[2]より、道管要素形成全体に関わる因子であり、表皮細胞などになり得る細胞を道管要素へと分化させる働きをもっている。したがって、VND7により分化が起きて道管要素となった細胞群は、周辺の細胞が分化していき構造が安定したところで、再びVND7の働きでプログラム細胞死を起こすのではないだろうかと推測される。一度分化させた細胞が同じ転写因子によりプログラム細胞死を起こすことから、のちに道管となる穴を開けるため一度道管要素という組み木が形成されるが、完成系としての成長した植物体には必要がなく栄養分・エネルギーを消費してまで維持する価値がないため、形状が安定した時点でプログラム細胞死を起こすのだと考えられる。
[1]:植物メリステムと器官の発生を支える情報統御系-論文紹介『VASCULAR-RELATED NAC-DOMAIN 7 directly regulates expression of a broad range of genes for xylem vessel formation.』 (http://www.bio.nagoya-u.ac.jp/~yas/tokutei_plant_meristems/thesis07/thesis07-19.html) 2012年10月22日閲覧
[2]:木質形成に直接関与するマスター遺伝子を発見 - 木質バイオマスの生産性と品質の制御につながる成果 - (http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2005/050815/index.html) 2012年10月22日閲覧

A:調べた事実から論理を構築しようとする姿勢は高く評価できます。ただ、最後の結論は、ここで引用された実験事実から直接導かれるものではなく、むしろ逆に、そのような仮定に基づいて実験事実を解釈したものです。ある時点でVND7がプログラム細胞死を促しているとわかったのは、その時点でプログラム細胞死が起こったからです。別の時点でVND7が分化を促進していることがわかったのは、その時点で分化が促進されたからです。とすれば、まず分化が促進され、次いでプログラム細胞死が起こるというタイミングについては、VND7の研究は何の寄与もしていないことになります。VND7の研究はそのようなタイミングがどのように制御されているかの一端を明らかにしたことに意味があるので、もしVND7を取り上げるのであれば、メカニズムに踏み込んだレポートを書く必要があるでしょう。


Q:茎は、植物の葉を支える部位であり、多くの陸上植物に備わっている構造だ。現在最古の植物化石として知られているクックソニアにも、茎が備わっている。クックソニアは二又の茎を持ち、茎の先端には胞子嚢があるが、葉はない。葉はないが、茎に気孔がある。クックソニアより約3500万年後のライニー植物群の化石も、クックソニアと同様の茎と胞子嚢の構造である。以上から、初期の陸上植物は茎で光合成を行っていたと推測される。そして、光合成効率を上げるために、茎が発達し、葉という構造が生じたのではないだろうか。実際に、初期の陸上植物に近い構造を持つと考えられている、車軸植物の枝分かれした茎の先には、葉と茎の中間のようなものが生えている。このことからも、葉は茎が発達してできたと考えられる。
参考文献 東京大学光合成教育研究会編,2007/6/20,『光合成の科学』,東京大学出版会
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%8A%E8%BB%B8%E8%97%BB%E9%A1%9E

A:これも調べた事実から論理を進めている点は評価できます。ただ、もう少し考察が欲しいですね。長ければよいというわけではありませんが少し淡泊です。せっかくこのようなことを考えるのであれば、ちょっと触れられている車軸藻や他の藻類との関連を考えると深みが出たと思います。


Q:今回は植物の茎についての講義でした。私はタンポポのような茎の中が空洞であることに疑問を持った。このことについて考察を行う。まず、空洞の茎では強度に不安がある。しかし、タンポポは綿毛を飛ばし、種をまく必要があると。これは風によって行われるため、地べたにそのまま生えるタンポポはなるべく背が高い方が有利であると考えられる。よって、中を空洞にすることは短期間で背を高くするために効率がいいと考えられる。なぜなら、中を空洞にすれば強度は望めないが、より少ないエネルギーで茎を伸ばすことができるからである。

A:レポートで考察されている資源の節約は、重要なポイントだと思います。講義の中では、中空な茎の「意味」は直接説明しませんでしたが、一方で、角がある茎の折れ曲がりに対する強度については説明したと思います。出来たら講義で得た知識・論理を自分のレポートの中で活用できるとよいですね。やはり、講義に対するレポートなのですから。


Q:茎は葉を側生する器官であり、光合成する葉に水分や無機養分を供給する役割を持っている。また、光合成で葉が作り出した同化産物を植物全体に行き渡らせる役割も持っている。つまり茎が葉と根の架け橋になっているのである。茎とは葉を付ける器官であるが、葉を付ける部分を節と呼ぶ。また節と節の間を節間と呼び、種類によっては節が隆起していることで節と節間を簡単に認識することができる。内部構造的には節は葉への維管束が分岐する点であり、節の維管束が延長しているだけの節間に比べて、複雑な構造をしている。また種類によっては節間の中心部である随が消失して中空になっており、その空間を随孔と呼ぶ。しかし一般的には随は栄養分を蓄える部位とされており、随がない茎を持つ植物はどのようにして栄養分を蓄えているのだろうか。おそらく最初は随が栄養分を蓄える役割を持っているのだが、成長するうちに葉の光合成や葉の外骨格が随の持っている栄養分を必要としなくなるためだと考えられる。また、細胞の自己分解のため、随が消失する可能性も考えられる。

A:レポートの趣旨が髄の必要性だとすると、前半部分は意味がありません。いずれにせよ、前半部分は事実の羅列です。そこを削って、もっと後半の論理をきちんと展開する必要があるでしょう。最後の部分など、目的(why)とメカニズム(how)の議論がごっちゃになっていますが、きちんと分けて考える必要があります。


Q:一般的な陸上植物の葉に対して、蓮は葉の面積が比較的大きい事に注目し、葉の大小における戦略の違いについて考察した。陸上植物に対して蓮は水上に生育しているという点が環境条件の特徴的な差異として挙げられる。このことから
1(陸上植物等の)競争種が少ない→高さを競い合う機会が少ない
2根で支えることが困難なため、しっかりとした幹などを獲得できない。→水上植物は陸上植物と比較して、高さを確保することができない。
という制約が考えられる。結果、競争が少ないため光を求め葉を細かく分け、広く分布させる必要がない。高さが限られているため、できる限り高い部分で大きく面積を確保することが戦略となっている事が考えられる。蓮以外にも葉の大きな植物を調べてみると、日本ではサトイモやフキなどが身近である。フキの生育環境は水が豊富で風の強くない場所、サトイモは原産がマレー地方であることから熱帯雨林に生育していた。サトイモは古くから里などで栽培されてきた種なので、競争が少ないと葉が大きくなる、という考えを支持できる材料だと考えた。両方の共通点は水、光が豊富にあるという点。結果として、植物は生育条件が優れた環境におかれた場合、葉一枚一枚を大きく、厚くする「質」の戦略の方が生存に適しているといえる。このことから、現在生育する多くの植物は祖先は葉の大きいものだったが、種間競争の結果葉を小さくしたと考えられる。

A:調べた知識をもとにきちんと論理を展開していて評価できます。ここでは、ハスで議論して、後からサトイモおよびフキと比較していますが、最初に3つの植物を取り上げて、その共通点と異なる点から議論を展開した方が論旨自体は明確になると思います。


Q:植物の構造にはそれぞれ役割があり、意味のない構造などはほとんどないに等しい。今回茎は光合成をするものがあればしないものもあり、中が空洞なものもあると知った。そこで、他の茎について考えてみたが、バラなどの棘の付いた茎について考えてみたい。棘については、外敵から身を守ることからついているという意味を成すという考えがあるが、確かに大きな草食動物から食べられることを回避するためだったら意味はある。確かに、調べてみたところ、大きな草食動物が少ないところに分布する植物には棘のある茎はなく、逆は棘のある植物が多いというデータも調べたところあるらしい。だが、葉を食べる小さな虫は棘などでは防ぎようのないことである。そこで、棘は折れやすい茎にくっつけることで折れにくくする意味を成していると考えられる。実際にバラの芽にも棘はあり、それを取り除くと折れやすくなるというデータも出ているとの情報も調べたら出てきた。そのため、どちらの意味も否定することなく実際にどちらの役割も果たしているためこの二つの意味があると自分は思う。

A:考える方向性と姿勢はよいと思います。調べた結果については、自分の言葉でりフレーズしているので著作権法上は問題ありませんが、レポートとしては出典を記載した方がよいでしょう。あと、語句に繰り返しが多いですね。提出前に、2−3分かけて読み直してちょっと直すだけでもだいぶ読みやすくなると思います。


Q:葉の形についての話で,ヤツデのような葉は光合成には不利なのに(大きさ的に)どうしてこのような形をしているのかという話がありました.授業では扱ったものと違う観点から考えると,生理学とは関係ないとは思いますが,虫が関係するのではないかと思います.葉の面積が小さければ,虫の足場も少なく食べられる分も減ってしまうので虫のエサには不向きになり,害虫が少なく種の保存ができたからではないかと考えられます.

A:葉に切れ込みがある葉の場合、単に全体の面積が小さいのとは違いますよね。ここでは「面積が小さい」という言葉だけで議論していますが、そうであれば、ヤツデのような葉だけでなく、小さな葉をつける植物にも当てはまってしまいます。「葉の形」について議論するのであれば、そこをきちんと区別しないと説得力が出ないでしょう。


Q:イネ科植物の葉は、細長く、群落の奥まで光が届くようになっている。広葉樹の葉は、支持器官を使って植物体を高く持ち上げ、他の植物より上に自身の葉を展開することで光合成を有利に行うようになっている、というのが生態学的な植物の形態についての説明だった。しかし、今回の授業で上にある葉も頻繁に動くことで、光合成有効放射が下部の葉に当たるようになっているらしいと知った。だが、光が当たるのは一瞬にすぎないかもしれない。上部の葉を透過してくる光は、光合成に使用しきれなかった光であるから、赤や青の光は少なく、緑の光が多くなると考えられる。一般に、海藻などは生息する水深に届く光の種類に応じて光合成色素を使い分けていることが知られている。ならば、地上ではそれは起こらなかったのだろうか。緑の光が多くなると考えられる林床では、緑の光を利用するのに特化した植物があっても良さそうである。しかし、実際は樹冠が開いている春先に光合成をして子孫を残すか、陰葉の様に少ない光に適応したものが多い。太陽光を余すところなく利用したいのであれば、緑の光も利用した方が効率的である。ある植物を緑の光のみの下で何代も成育させたら、より緑の光を利用できる植物になっていくのか調べてみたい。

A:これは、目の付けどころもよいですし、論理の展開も素晴らしいのですが、最後の実験の部分だけ、腑に落ちませんでした。自然の林床では、おそらく緑色の光のもとで植物がずっと育っているわけですよね。そこで緑の光を利用できる色素を持つ植物が存在しないのであれば、実験をしてもそのような植物は出てこないように思います。もし、自然界では、緑色の光以外も季節によって差し込むので、それが鍵なのでは、と考えての実験なのだとしたら、実験の方にその条件を組み込んで、実験間で比較できるようにする必要があるでしょう。