植物生理学II 第13回講義

植物の光感知機構

第13回の講義では、最初に動物が光合成をなぜしないかについて考えたのち、植物が光環境を検知する機構について、光受容体を中心に解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義ではパラオのジェリーフィッシュレイクのタコクラゲの一種ゴールデンジェリーフィッシュについての話が印象的だった。写真を見てみるとゴールデンジェリーフィッシュは一般的なタコクラゲと比べると触手が極端に短いと感じた。一般的なタコクラゲは褐虫藻と共生しその光合成産物を利用しているが、プランクトンの捕食も行う。触手は主に捕食に使用されると考えられるので、このパラオの湖には他の大きな生物はほぼ生息していないことからあまり使用しない触手が退化するのは自然なことだと考えられる。ただ、ジェリーフィッシュレイクは汽水湖であるが、海水が流入してくるのは石灰岩のひびなどからで生物が往来できないためこのような生態を持つに至ったと考えられているが、それではこのタコクラゲの一種はどこからやってきたのかという疑問が生じるように思う。このことからゴールデンジェリーフィッシュはタコクラゲに良く似ているが、全く別の系統から進化してきた生物なのではないかと私は考える。

A:きちんと考えているレポートだと思います。ただ、考えの過程をそのままつづったような感じです。もう少し、一度考えたことを整理して構成し直して、1つの論理にまとめ上げるようにできると、もっとレポートらしくなります。


Q:乾燥ストレス耐性遺伝子について学んだ。植物は多少の乾燥であれば、逆に生き生きすると聞いたことがある。それは適合溶質合成酵素によりグリシンベタインやプロリンが供給されるから、ただ水があって光合成ができる環境よりも短期間であれば葉にとって良いのであろう。ただ、短期間でなくてはならない理由は、グリシンベタインやプロリンを作るのにも水が必要であるからだ。さらに、新しい葉が生える時期に水分調節が上手くいかないと葉形が崩れたり、葉の成長が止まったりする。なぜなら、光合成により炭水化物を生成する過程で絶対に水が必要であり、維持するための適合溶質ではいけない。でも、水が与えられるまでの間、成長を先延ばしにする作用はあるかもしれない。

A:水は確かに物質の材料や、光合成の基質として重要なのですが、実際にはそれらに使われるのよりもはるかに多くの量が蒸散の形で植物体から失われるのです。ですから、水不足の状態になると、物質の合成が止まるより先に植物はしおれてしまいますから、物質の材料として必要な水が足りなくなるようなことは、実際にはないのです。


Q:光を追いかけるタコクラゲの話に関心を持ち、光合成を行う動物が存在するか調べてみたところウミウシのとある種が盗葉緑体現象により光合成を行っていることが分かったが、一つの疑問が生じた。それは、ウミウシが藻類の細胞自体を消化して葉緑体のみを入手しているのか否かという点である。もしも葉緑体のみを入手出来ているならば褐虫藻を自身の中に住まわせているタコクラゲと違って、ウミウシが藻類の葉緑体を『奪い』、自身のものとしていると言える。ウミウシ内で葉緑体は半年近く保持されていることが判明しており、参考文献における観察の結果、ウミウシは藻類の葉緑体を盗んでしまうことが分かった。これは、葉緑体を消化せず保持することの出来る因子が存在する可能性が示唆される。また、葉緑体も容易に消化されないような因子を持っている可能性がある。しかし、ウミウシと藻類は別々の生物体である。偶然、ウミウシ内に藻類の葉緑体を保持するような組織や部位が発現するような遺伝子配列が存在したのだろうか。可能性として最も高いのは、藻類を取り込んだウミウシに藻類の遺伝子情報が伝達されているというものだ。藻類がウイルスに感染しており、ウイルスを通して藻類の遺伝子情報がウミウシに移されたとするならば、ウミウシが藻類の葉緑体を盗んで保持出来る理由となりうると考える。
参考文献:山本義治『盗葉緑体により光合成する嚢舌目ウミウシ』(http://www1.gifu-u.ac.jp/~yyy/pdf/08PhotoSynyamSeaSlug.pdf)名古屋大学 遺伝子実験施設

A:ウミウシの紹介だけだと参考文献からの話題提供で終わってしまうところですが、ウイルスを通しての遺伝情報の移動を提案している点が独自性を発揮していてレポートをよいものにしています。


Q:植物には光合成を行うための仕組みと色素が備わっている。そして、その色素であるクロロフィルは光を吸収し、反応を行っている。つまり、クロロフィルは光受容体の一つであると言えるだろう。ではなぜ、クロロフィル以外にの光受容体を植物は必要としたのか、その理由を考察したい。代表的な光受容体としてフィトクロムが挙げられる。フィトクロムは、赤色光を吸収する活性型と、近赤色光を吸収する不活性型を持つ。太陽光に含まれる、葉に吸収される赤色光と葉を透過する近赤色光の受容によって、フィトクロムはその植物体の上に他の植物が存在するかを調べる役割を持つ。この機能はクロロフィルで代用できないのだろうか。例えば、クロロフィルによって光合成反応が行われないとき、植物体の上に他の植物や障害物が存在すると判断し、反応が起きるというようなことである。しかし、クロロフィルの反応停止によって、別の反応が生じるとすると、光の無い夜の間に反応が促進され、昼間のクロロフィルの反応条件が変化してしまうと考えられる。よって、クロロフィルはフィトクロムの機能を担うことはできないと言える。このことから、光受容体は光合成とは異なる光条件を感知するために発達したと推測される。すると、植物にとって光は、ただ光合成の材料としてだけでなく、様々な生理活性に関係しているのではないだろうか。

A:面白い点に着目しています。クロロフィルだけではなく、フィトクロームが必要な理由を、夜の存在に求めるのはユニークな考え方だと思います。


Q:今回の講義でなぜ高等動物は光合成をしないのか、という疑問に興味を持った。この理由は、高等動物は広い面積を移動するから効率的でないということであったが、この他にあげられる理由を考察した。光合成能を進化の過程で高等動物が持たなかったことには、紫外線との関係があげられると考えられる。光合成は光がなければ行われない。しかし、日光には紫外線が含まれる。紫外線は高等動物にとって、DNAを損傷させる働きや、皮膚がんを引き起こす働きがある。自分のDNAを損傷させたり、がんを引き起こすリスクを負ってまで光合成能を得ることを選択しなかったと考えられる。よって、高等動物は光合成能を持たなかったと考えられる。

A:植物だってDNAを持つんですが・・・。紫外線がDNAを損傷させる働きを持つのは植物のDNAも同じですから、何か差を見つけないと、説明になりません。


Q:通気組織形成の違いについて考察した。イネなどの湿地帯に生息する植物はその主根の組織の中に通気組織を形成するが、マングローブやハスは呼吸根を形成しそこから直接空気を取り込む戦略をとっている。マングローブは樹木であるので植物体を支えるため根をしっかり張り巡らせる必要があるがイネは草本であるのでその必要性が薄い。根が小さい場合、空気を通過させる時点で酸素の漏れや細胞による取り込みが少ないと考えられ、主根に通気組織を形成しても十分な酸素を供給でき、そのためイネは呼吸根を形成しないと考えられる。

A:これは、論点がはっきりしていてよいでしょう。短いながら論理が感じられます。


Q:今回の授業で動物は光合成をするのか、それについて調べてみた。8月ごろにアブラムシは光合成をしているのでは?という内容の論文が発表されたというニュースがあったのを見つけた。アブラムシは実際に体内に光合成色素を持っていて、体内でカロテノイドを合成する能力によって体内で作り出しているという。でも動物は免疫向上のために外からカロテノイドを摂取する。いろいろな環境で体色を変えるアブラムシからATPの合成速度が変わったり、その光合成色素は体表から一番光合成がしやすい場所に位置しているので自分も動物で光合成をする生物もいると考えられる。だが動かない植物には光合成で作ったエネルギーだけで十分であるが動くアブラムシには微々たるエネルギーでしかないが、それで十分なエネルギーであるということなのであろうか?自分はアブラムシが植物に引っ付いていることにも何か関係があるのではないかと思う。
参考資料:http://blog.livedoor.jp/xcrex/archives/65702801.html

A:最後の一文が確かに何やら意味ありげです。ここをもっと具体的に考えられれば素晴らしいレポートになるでしょう。


Q:今回、低酸素ストレスにおける通気組織形成について扱った。今まで、私は通気組織は、個体の成長とともに形成されるのみと思っていたので、大変興味深かったです。動物でも、とくにがん細胞では、低酸素で血管新生を起こすと思いますが、それと似ているので、また興味深かったです。植物も低酸素下では、特殊なタンパク質が発現し、どんな作用があるか気になりました。

A:これは感想文ですね。レポートにはもう少し論理が必要です。


Q:渦鞭毛藻類と共生している生物を調べてみると、授業で扱ったサンゴやタコクラゲなどの一部クラゲの他にシャコ貝などの二枚貝やイソギンチャクの一部も宿主となっていることがわかった。これらの宿主となる生物を見てみると、まずクラゲやイソギンチャクなどは毒のある刺胞、シャコ貝などは硬い殻を持っており、捕食の危険性が低いことが予想できる。またどの生物も自主的に動きまわることがほとんどなく、エネルギーの消費が非常に少ない。その他に共通点として生息域が熱帯に偏っていることも挙げられる。このことから渦鞭毛藻とその宿主は、熱帯の栄養の乏しい海において宿主には貴重な栄養源を、渦鞭毛藻には捕食から守るための手段をそれぞれお互いに与え合っている関係であることがわかる。

A:生物の共通点と生育環境の特徴に注目して論理を構成しているという点で、生物のレポートとして高く評価できます。


Q:植物にとって光合成ができるかどうかは、動物にとっての餌の有無の様に生きるか死ぬかの大問題である。動物は餌が無ければ他の場所に移動できるが、植物はそうはいかない。光の有無は種が落ちた場所、芽吹いた場所や時期、葉の展開具合など、様々なものに左右される。種は光のある場所に運ばれるのがベストだが、光が少なければすぐに芽吹かず、光が十分になるまで待つのも作戦の一つである。逆に、他の植物より早く芽吹いて高く大きく育ち、光を獲得するのも一つの手段である。いずれの方法を取るにしても、植物は光の有無、さらに言えば光合成に有効な光の有無を素早く効果的に知る必要がある。その方法の一つがフィトクロムによる光応答である。フィトクロムは光合成に有効な赤色光が多いと活性型になる。他の植物の葉を透過してきた光は、光合成に有効な赤色光が多く吸収されるため、近赤外光や赤外光が相対的に多くなる。この様な条件では、植物は芽吹く時期を見送ったり、赤色光が相対的に多くなる位置を目指して葉を展開させることになる。林内で光合成有効放射を測定すると、林冠の葉が展葉し終わった夏期の林床では、2~3%ほどしかない。対して、倒木や伐採の後にできたギャップでは、この割合は大きく増大する。自分の研究では、下草刈りなどの林床の管理によっても、光合成有効放射の割合は増大することが分かった。陽樹はこのような光の増大によって発芽し、素早く生長するが、そこに林床が暗い間から発芽し、少しずつ成長していた陰樹がある場合、陰樹の日陰になって陽樹は生長できない。こうして陽樹から陰樹への交代が起こるのだが、陰樹であっても、光合成有効放射が多い場所へと伸びていくことには変わりない。陽樹と陰樹の違いは、光応答の強弱であると考えられる。陽樹は光応答性が大きく素早いが、陰樹はゆっくりである。これには、陽樹の補償点が高く、陰樹は低いということも関係している。陽樹は補償点が高いため、個体を維持するためにはより多くの光を必要とする。そのため、より光に敏感に反応するようになっているのだと考えられる。植物は光を感じるだけでなく、それが光合成に使える光かどうかも同時に判断している。このことが、複雑な森林の構造や遷移の原動力となっているのだと感じた。

A:このレポートはしっかり書かれているのですが、そうなるだろうな、という論理が書かれているので、おや?と思わせるところがあまりありません。欲を言えば、何か、その人でなければ思いつかないような点を盛り込めるとよいでしょう。


Q:今回の講義では、動物がなぜ光合成をしないのか、そして、光合成を行うウズベンモウソウと共生するタコクラゲについて解説があった。この講義を聞いて、私はタコクラゲが生息するような環境でなら、葉緑体をもち光合成を出来る生物が発生してもおかしくはないのではないかと思った。以下、もしそのような生物が存在するとしたら、どのような生物になるのかを考察する。まず、体積に対して面積を大きくしたいので、平べったい体になる。次に、光合成を行うため、皮膚はできるだけ薄くなければならない。皮膚を薄くすると外敵に襲われた時致命傷を負う危険性が上がるため、敵に襲われる確率を低くしたいが、皮膚を薄く作っているため、皮膚の色をいじっての擬態などには向いていない。そのため毒を出せるようにし、外敵から襲われる危険性を低くすると考えられる。総合すると、光合成を行える動物がいるとしたら、毒をもったヒラメのような生物ではないかと考えられる。

A:これは思いつきの独自性という点ではまあ合格ですが、論理自体はもう少し独自色が出てもよいと思います。