植物生理学II 第12回講義

エチレン、ブラシノステロイド、ペプチドホルモン

第1回の講義では植物ホルモンの解説の締めくくりとして、エチレンとブラシノステロイド、そしていくつかのペプチドホルモンについて講義しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:エチレンの作用経路について考察する。エチレンは、離層形成作用、果実成熟の促進、杯軸と根の伸長フックの湾曲などの生理作用を植物に与えることを学んだが、エチレンは体内の水分などを経由して運搬されるのか気体として放出して運搬するのかどうかということについて考える。これは生理作用を起こすため、エチレンは植物体内を伝達して運ばれるのではなく、ただ気体として生成しそのまま分泌を行い無作為に小胞体上の受容体に結合したものが生理作用を与えているのではないかと考える。これはエチレンが難溶性である上に体内の水分などによって運ぶ経路だと気体-気体間の拡散よりも十分に速度が遅いことからいえる。また、リンゴなど果実にエチレンをためることによって、落ちた果実が地面でエチレンを放出し根の伸長も促すことができる。なので、エチレンを果実で合成することで、まず果実成熟の促進をおこない、離層形成作用によって果実を落とす、落ちた果実が根の伸長を促すといった各生理作用の一連の流れを形成することもできるのでエチレンは気体として運搬されているのだと思う。

A:エチレンの作用経路に注目した点は面白いと思います。落ちた果実と根の関係については、根で別にエチレンを合成した場合との損得を論じないと、なんとも言えないのではないでしょうか。


Q:エチレンは葉の付け根に離層を形成し落葉を促す働きで知られているが、落葉樹のなかにはコナラのように離層が形成されず枯れた葉をつけ続ける種も存在する。この理由について考えてみる。まず落葉しないメリットだが、これは既に葉が枯れているため通常の落葉状態と比べても特にメリットがあるとは考えられない。強いてあげるならば離層形成のコストが不要であるという事だろうか。デメリットとしては風に煽られる事によって枝が折れたりするという事くらいだろうか。メリットデメリットでの比較は難しいように思える。そこでコナラの属するブナ科について調べてみると常緑樹も存在する。このことからコナラは常緑樹から進化したなごりがあるのだと考えられる。

A:生理的な意義については、枯れた葉の組織であっても若い芽の保護に働くという考え方があるようです。葉と芽との位置関係などにもよるかもしれませんね。


Q:エチレンは離層の形成を促す働きがある。あくまで記憶の範囲であるが、シダのような葉柄を持っていない植物は枯れ葉になっても植物から離れずに付いたままである。このことから考える。葉柄があれば細い葉柄の部分に離層の形成をすればよいので、エチレンの作用が効きやすい。しかし、葉柄のない植物は茎などにそのまま葉が付いているので、その接着部分は太かったり、幅があったりする植物が多く、離層を形成しなくてはならない面積が大きくなるのでエチレンの作用が効きにくいだろう。また、離層を形成しても茎と葉の接着面が大きいために頑丈なので、植物体から離れずらいと考えられる。葉の先端や一部が枯れても葉の途中から(物理的作用を使わずに)切れる破れた葉はみたことがない。だから、もしかすると、離層の形成は葉柄でしかほとんど行われないのかもしれない。

A:離層の形成場所について葉柄以外の可能性を考えてみる姿勢はよいと思います。でも、シダの場合は離層を形成するのに不都合な気はしませんが。


Q:今回の講義では植物ホルモンのうち、エチレンとブラシノステロイドホルモンとペプチド性ホルモンについて学んだ。中でも、ペプチド性ホルモンのうち、フィトスルフォカインについて興味をもった。フィトスルフォカインは植物細胞を低濃度でも増殖させることができる。このことは、人工的に植物細胞を培養する際に重要な意味を持つが、では、生きている植物の体内ではどのような意味を持つのだろうか。考察してみた。フィトスルフォカインがなければ、植物細胞も低濃度では増殖できない。これは、植物細胞が細胞壁を持つことで、接着しにくく、細胞の間隔が広いまま増殖を続けると細胞同士が連結しにくいからではないだろうか。植物の体は植物細胞が連結することで構成されているため、細胞同士の距離が開くことは体を支持する上で不利になるのではないだろうか。だが、植物体のうち、細胞が低濃度であると考えられる部位が存在する。それは、葉の海綿状組織だ。海綿状組織は細胞間隙を持ち、葉の他の組織に比べて細胞の密度は低い。よって、細胞の密度が低い海綿状組織では、通常では、他の組織のように増殖はできないと推測される。従って、細胞密度の低い海綿状組織を形作るときにフィトスルフォカインが働くと考えられる。このことを確かめるには、フィトスルフォカインを阻害、またはフィトスルフォカインが存在しない条件下で、葉の海綿状組織が形成されるかを実験すればよい。フィトスルフォカインが無い場合に海綿状組織が作られなければ、フィトスルフォカインが海綿状組織の形成に作用していると言える。

A:これは着眼点もよいですし、講義の他の回でやった葉の構造と絡めて議論している点でも評価できます。このような複数の視点を組み合わせて議論することは重要です。


Q:前回に引き続き植物ホルモンについて学んだ。そこで、私はエチレンには陸上植物の茎の伸長成長は抑制するが、水中の茎の伸長成長は促進する面白い性質があるという先生の仰ったことが印象に残ったので、考察を行った。この原因としては、エチレンの作用する量であると考えられる。エチレンは、成熟したりんごを未熟なバナナと一緒にいれておくとバナナが成熟するという性質がある。これより、エチレンは全てではないが、大気中に出されているとうことである。水中で同様のことが起きているとすると、合成されたエチレンは植物体の周りの水に溶けていく。よって、大気中での作用よりも少ない量が作用される。この量の違いにより、オーキシンが過剰すぎると反応が鈍くなるように、促進抑制の違いが生まれていると考えられる。

A:講義では、水生植物が異形葉を作る際のシグナルとしてエチレンが使われる話をして、その際に、エチレンの水溶性が低いため、水中の植物では植物体内のエチレン濃度が上昇しがちであって、それがシグナルとなっている可能性があることを説明したと思います。よいレポートを書くためには、きちんと講義を聴くことが必要です。


Q:今回の授業ではペプチド性ホルモンについて講義を聞いた。そこで自分が興味をもったのはシステミンの作用で虫の食害から守るために生産されるということであった。なので、食害に対する植物の防御機構について調べてみた。まず1つ目は、トマトは虫の食害を受けるとシステミンを分泌しタンパク質分解構造であるプロテアーゼインヒビターを阻害し虫の栄養消化を困難化し、自身を守る。2つ目、イボタの葉では、たんぱく質の強い変成作用を促し栄養のある葉っぱを栄養のない葉っぱに変化させ虫が食べても成長しないようにするものもある。しかし、この変性活性はアミノ酸のグリシンで阻止できるために、イボタを主食とするイボタガというものはグリシンを使う事でイボタの葉で栄養を摂取している。3つ目は、害虫の天敵を呼び寄せて駆除をしてもらうという方法である。これにはトウモロコシ、アブラナ科の植物が挙げられ、根や葉を食べられた時に天敵を呼び寄せる物質を分泌して身を守る。これらの色々な方法があるが、効率の良い方法はどれであるのか、1つ目、2つ目は自分自身の変化である。それに対して、3つ目は第三者の協力しだいによる。したがって、もし協力を要請しても近くに害虫の天敵がいなかったら失敗することもあるということだ。確実性を取るならば1か2になる。だが、自分自身を変えてしまう1と2はその先の生活をどのように切り抜けていくかが問題になる。だが、その変化が自分に対しても無害であるならその方法が効率的と言えるだろう。だが、その植物の生息する環境、状態に一番適している方法をとるはず。その為に形態変化をして今に至るのだろう。
参考資料:http://www.nias.affrc.go.jp/nises/pub/library/ibota.htm、http://www.geocities.jp/doctor_mitsui/plant_1.html

A:考察の方向性はよいと思います。選択肢の設定も適切だと思いますから、あとはその選択肢から、何らかの論理に基づいてこれだ、という結論を出せるとよいですね。現在の形だとちょっと結論があいまいな気がします。


Q:食害を受けたトマトの葉で、虫に消化不良を起こさせるプロテインインヒビター合成を誘導するシステミンが合成されるというのは、天敵から動いて逃げられない植物の防御機構としてなるほどと思った。では、虫の方はあきらめてその植物を食べなくなるのだろうか?残念ながらそんなにうまくはいかないようで、植物が生産するさまざまな防御物質を巧妙にかわしたり、自分の防御に役立てる虫たちがいる。アブラムシを捕食する益虫として有名なテントウ虫の中には、作物を食害する種類のものがいる。ジュウニヤホシテントウもその一つで、幼虫も成虫もウリ科植物の葉を食べる。ウリ科植物の葉にはククルビタシンという苦味の物質が含まれていて、多くの昆虫はこれを好まない。ジュウニヤホシテントウは葉を食べる前に葉に円形の溝を掘ってその内側だけを食べるという。普通に端から葉を食べ進めていくと、植物はどんどんククルビタシンを合成して、食べる部分はこの物質で一杯になってしまう。ジュウニヤホシテントウは、円形に掘った溝により、ククルビタシンが維管束や他の細胞から侵入してくることを防ぎ、苦味の少ない内側だけを食べようというのである。こういった習性は、アサギマダラなどチョウ類の幼虫にもみられるらしい。また、北米にすむオオカバマダラというチョウは、幼虫の頃に食べた食草の毒を体内に蓄積したまま成虫となるので、派手な見た目でも天敵の鳥類に襲われにくいのだという。植物と虫達は長い時間をかけて互いに一歩先を行く進化をしてきたのだと思う。多くの生き物たちが関わり合う生態系の中で、今もこうした進化が続いていると思うとわくわくしてくる。

A:これはエッセーとしてはよいと思います。面白い話題を紹介して自分の感想でまとめています。ただ、この講義へのレポートとして見た場合は、紹介にとどまる部分が多く、自分なりの論理があまり感じられません。あと、「という」部分は、何らかの参考文献があると思いますから、それを示すようにしてください。


Q:今回の講義では、エチレンは水中では通常と逆の反応である伸長促進作用があると解説があったが、なぜそのような通常とは逆の反応が必要だったのだろうか。実際にエチレンが水中で発生する条件を考えながら理由を考察する。エチレンの発生源として一番身近な例がリンゴの果実からの発生である。エチレンを発生させる状態のリンゴは成熟が進んだ状態である。そのようなリンゴが水中に存在する環境下では、水はどんどん濁っていくだろう。水が濁ると葉に届く光も弱くなるため、光合成の効率も悪くなる。つまり、エチレンが発生する環境下では、すこしでも水質の良い部分に葉を伸ばして光合成効率を上げる必要がある。濁りは上層から下層に進むにしたがって強くなる。よって、水中でエチレンが発生する環境下においては、下層より上層の方が通常の状態に比べより光合成に有利である。以上のことから、エチレンは水中では伸長を促進する作用が必要である。

A:視点は面白いのですが、リンゴが水中にある条件をもとに考察する点の妥当性がどうも感じられません。リンゴが水中で腐っている状態がそうそうあるとは思えませんから、実際には、リンゴに代わる何かが腐ることを仮定し、そのものがリンゴ同様にエチレンを出すことを仮定するのでしょうけれども、具体的には何をイメージすればよいのでしょうね。