植物生理学II 第7回講義

セルロース、篩管

第7回の講義では、導管の話の続きとしてセルロースの構造と生体における役割について解説したのち、篩管の構造とはたらきについて概観しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義の中で篩管について考えてみようと思う。また細胞小器官が篩管に残っていてまだ完全に死んでいない細胞だということを聞いて驚いた。しかし植物は長年生き抜いてきたのだから伊達に死に損なっている細胞を放っておいている訳ではないと考えられる。物質を輸送するだけの存在ならば導管と同じように細胞壁だけ残して死滅したほうが植物にとってはエネルギーが省略できてよい筈である。しかし生きていて完全な管となっていない。それはなぜなのかを考えていきたい。篩管というものは植物体の表面付近に流れていることに注目したい。そしてこの篩管というものは植物の体内で養分を運搬する重要な器官であるが、光合成をするうえで必ず必要になる水を運ぶ導管よりは重要度が低いため外側にあると考えられる。表面に近いということは傷つきやすかったり食べられやすかったりするだろう。そのために食べられたり傷ついたりして一部が欠損してもすぐに修復できるように生きているのではないだろうか。生きていなければ修復することはできないからだ。ここで篩板について考える。篩板があって何が起きるかと言われればそれは流れの速さが遅くなるということだろう。そのためもし傷つけられても一瞬で流れ出て行ってしまわずに少しでも時間を稼ぐことができる。また導管では早く送れないと光合成に影響が出てしまい生育の問題が首を持ち上げてくるが、植物にとって合成した栄養物というものは放っておいても無くならない物なのですぐに運搬しなくてもそれほど影響はない。そのために流れがゆっくりでもよい。さらには濃度が急激に変化しないことによって植物細胞の原形質分離を防ぐことができるのではないだろうか。

A:着目点は面白いと思います。ただ、篩管と導管の相対的な位置関係は植物の種類や器官によっても異なります。やはり講義で話した圧流説の原理と一緒に考えてほしい所です。


Q:講義でセルロース合成酵素は微小管上を移動しながら、合成していくと説明されていました。この際にジベレリンが欠損していると矮性株になる。なぜならば、伸長方向を決定するセルロース繊維が未発達となるからだ。では、なぜジベレリンが欠損すると矮性株になるのか。矮性株もセルロース合成および微小管の形成自体は正常に行っているので、ジベレリンは微小管を軸に直角に並べることで、セルロース合成を軸に直角に行う作用を持つ(注1)。調べてみたのですが、なぜジベレリンは微小管を軸に直角に並べられるのか、いまいち明確に作用機序は確定されていないようでしたので、私はジベレリンの作用機構について一部考えてみました。植物は昔から屈性や傾性などが知られており、重力屈性に関してオーキシンが植物体下部に溜まり、結果として上側に伸びます。この際の重力を感知するデンプンの蓄積した色素胞であるアミロプラスト(注2)の比重差を感知して、ジベレリンのシグナル伝達系で生成されたタンパク質が軸を感知し、微小管を軸と直角に並べさせると考える。
(注1)植物生理学会・「茎はなぜ細長いか」 (大阪大学・名誉教授 柴岡 弘郎) http://www.jspp.org/17hiroba/ippan/siminkouza/index.html(参照日時:2011/11/19)
(注2)奈良先端科学技術大学院大学 植物形態ダイナミクス(田坂研究室) http://bsw3.naist.jp/keihatsu/PROJECTS/%E9%87%8D%E5%8A%9B%E5%B1%88%E6%80%A7.html(参照日時:2011/11/19)

A:この場合、軸というのは細胞伸長の方向を示しているのだと思うのですが、それが重力の方向と必ず一致しているのか、という問題が生じるように思います。でも、自分なりの考えをきちんと展開していて良いと思います。


Q:植物の細胞壁はセルロースで構築されている。そのセルロース間をヘミセルロースやペクチンなどの多糖類が架橋を作っている。ヘミセルロースは、β-1,3-グルカン、キシログルカン、キシランなどの総称である(植物の細胞(http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/cell.html))。植物の骨格にセルロースが使用されるようになった要因として、光合成により得られるグルコースから作ることができる、などがあげられるが、繊維状であることもまた大きな要因である。同じようにグルコースから作られる糖には、アミロースやアミロペクチンがあるが、これらはらせん状を取り、セルロースは繊維状である。そのため、高密度に凝集することができ、結果的に強い強度を持つことができる。また、セルロースはスクロースと同様に非還元性の糖である。伴細胞に取り込まれる糖は、細胞膜の性質より非還元糖である必要がある。そのため、スクロースは新しい細胞壁の形成や古い細胞からの回収などの細胞成分のユビキタスに便利であると思われる。

A:やや惜しいのは「伴細胞に取り込まれる糖は、細胞膜の性質より非還元糖である必要がある」といった部分で、なぜ必要なんだろう、という掘り下げがない点です。調べた知識から考えてみる、というところまではいっていますが、その後さらに深く考察することができれば満点です。


Q:ショ糖の輸送形態を学んだ.ショ糖はソースから篩管細胞へアポプラスト輸送によって輸送されるが,この形式を取る理由を考えてみたい.まずアポプラスト輸送はATPを使用してプロトンポンプを駆動させプロトンの濃度勾配を生み出し.そしてプロトンが細胞内へ戻ろうとする動きと,スクロースの輸送を共役させるシンポーターによってスクロースが篩管細胞に蓄積されるものである.ここでアポプラスト輸送はプロトン濃度の高い方から低い方へ必ずスクロースを輸送できるメリットがある一方で,ATPを用いる必要があるためエネルギーを使ってスクロースを輸送しなければならないデメリットが存在する.対してシンプラスト輸送は拡散及び濃度勾配を利用したもので,エネルギーを用いなくても輸送が可能というメリットがあるが篩管細胞におけるスクロース濃度がソースと同等あるいは篩管細胞のそれが高くなった場合には篩管細胞からソースへの逆流が起こる可能性もあり,目的の方向へ必ず輸送できないデメリットがある.そのため多くの植物がエネルギーを用いるデメリットを覚悟の上で,アポプラスト輸送を用いたほうが効率がよくこの輸送方式に頼っていると考える.一方で篩管細胞からシンク細胞への輸送については,シンプラスト輸送を使っていると考えられる.ショ糖は光合成産物であるが,エネルギーの貯蔵物質としてはデンプンを用いていると学んだ.貯蔵細胞でもショ糖がデンプンに変換されていると推定され,ショ糖の濃度は篩管細胞と比べると常に低い状態が保たれているだろう.すると濃度勾配によってショ糖の輸送が行われ,これはほぼ確実に篩管細胞からシンクへの一方向でありエネルギーを用いなくて良いシンプラスト輸送を使っていると推察した.
参考文献:キャンベル生物学 エレイン N. マリーブ 小林 興 監訳 丸善 2010年 pp.837-39 参照

A:一つのポイントに絞って考察している点は良いと思います。もし2つの輸送の形式が異なる意味を持つのでしたら、植物によって異なる場合があるのはなぜだろう、というのが次の疑問になるでしょうか。


Q:今回の授業で植物は体を支持するためにセルロースを用いる一方で動物は用いないことを学んだ。その理由の1つとして植物のほうが光合成によって容易にセルロースを手に入れられるからというものがあった。しかしよく考えてみると、動物の中においても植物を主食としている動物であれば捕食によって比較的簡単にセルロースを手に入れることが可能であろう。そこで、それでもなお植物を主食とする動物がなぜセルロースを支持体として用いないのかを考察する。理由の1つとして動物における成長の複雑さがあげられる。植物の伸長では基本的に途中で途切れることがなく、一方向に伸長していく。そのため授業でも取り上げられたが、セルロースは同一方向の繊維の束となり強大な頑丈さを持つ。一方で動物の場合、骨と骨との間には関節があるため途中で途切れてしまう上、1つ1つが細かい部分も存在する。そのため、植物のように途切れることなく一方向に成長させることは考えにくく、元々存在する支持体の周囲に沈着していくように支持体が成長する。このような成長過程を持つ支持体にセルロースを用いた場合、繊維状の束を形成することが植物の場合よりも困難となることが考えられる。そのため頑丈な支持体を形成することができない。よって動物の支持体としてセルロースは不向きであると考えられる。

A:繊維の場合、確かに長さというのは大事な要因かもしれませんね。ただ、木の幹と動物の骨を比べて、素材に必要とされる機械的性質の決定的な違いは何かと言われると、案外答えるのが難しいように思います。


Q:今回の講義では、木の幹にはあえて死細胞が使われているということが印象的であった。これは大きな身体を限られた養分で生かしていくのに適した性質と考える。では、どのようにして木は死んでいくのかを考察する。木は切っても根さえあれば生きていくことができ、死ぬというイメージはあまりないが、もちろん木は養分が無くなったら死んでしまう。このように養分が無くなるのは環境的変化によるものである。また、害虫に食べられたり侵されたりすることで病気にかかり、死ぬこともある。木が死ぬのは生物の癌細胞のように自己の要因で死亡することはないと考える。主に環境的、外的環境によって左右されると考える。

A:あともう少し。例えば「木が死ぬのは生物の癌細胞のように自己の要因で死亡することはないと考える」と言ったときに、なぜそう考えるのか、論理がほしい所です。「何何かな?」と考えるのは、考察のうちには入りません。科学的な考察には論理が必須です。


Q:今回の授業では師板の存在意義について、「篩管が損傷した際に、オルガネラが篩孔をふさぐことで、篩管液の流出を防ぐ」ことが可能性として紹介された。本レポートでは、篩板の存在意義を「流速」の観点から考察することである。簡単のためにここでは篩管液を濃度80mg/ml(*)のスクロース溶液とする。また、篩管要素は半径10μm 、長さ100μmの円柱とし、篩板には半径1μmの篩孔が空いていて、篩孔の総面積は師板面積の1/2とする。このとき、篩管要素の容積は3.14×10-8mlであるから篩管溶液中のスクロース質量は2.51×10-6mg(①)である。篩管容積分の水H2Oの質量は0.0314×10-6mgであるから、篩管溶液の質量はほぼ①と等しい。よって、篩管溶液は同じ体積の水よりも80倍以上の質量を持つ「動かしづらい」液体である 。つまり、スクロース溶液と水を同じ距離を移動させるのに、スクロース溶液には水の場合の80倍以上大きな力が必要なのである。篩管溶液を自重に働く重力のみによって移動させる場合、その速度は自由落下の速度を超えることはない(実際には篩管内にも摩擦や溶液の粘度によって、その速度は自由落下よりも遅くなる)。植物体で単位時間に消費される有機物量を賄うには、自由落下の速度だけでは足りないであろう。よって、篩管溶液の輸送には重力以外にも何らかの力を用意する必要があると推測される。篩管は植物体の各所(シンク)に必要な有機物(光合成産物)を輸送するための器官であるから、篩管溶液は可能な限り速く輸送する必要がある。よって、必要量の有機物を速く輸送するために、重力以外に由来する極めて大きな圧力を篩管溶液にかけなければならない。篩管溶液にどのような圧力をかける場合でも、その圧力を作るのに必要な力は小さい方が植物にとっては負担(コスト)が小さくて済む。この負担軽減に篩板が役に立っていると推測される。以下その推測の理由を述べる。篩板には面積の1/2分だけ篩孔が空いているのだから、同じ力を働かせた場合に、篩板のある篩管内の圧力は篩板のない篩管内の圧力の2倍になる。よって、篩板があればより小さな力でより速い流速を作ることができる。もちろんその分流量は小さくなってしまうが、篩管を複数本用意することでシンクの需要分の有機物を素早く輸送することは可能であろう。よって、篩板は少ない力で大きな圧力(流速)を作るのに役立っていると推測される。以上が理由である。
参考文献:1.(*)ウェブサイト岐阜大学応用生物科学部園芸学研究室「福井教授の植物生理学」http://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/04-8-1.htm、2.桜井英博他著 植物生理学概論初版 培風館(2008)

A:独創的な考察は大変良いのですが、前半は計算違いで前提となる数のオーダーが違っていますし、後半は流量と流速の関係を勘違いしています。「その分流量は小さくなってしまうが、篩管を複数本用意することで」となっていますが、そもそも面積を減らした結果起こったことを面積を増やしてカバーしたとしても何の解決にもならないですよね。


Q:今回の授業では、主に植物細胞の構造や伸長について学びました。セルロース繊維が植物の伸長に深く関わっている、ということでしたが、茎の部分が折れてしまったらどうなるのか考えてみました。折れた部分が伸長停止してしまった部分なら、放置しておけばおそらく枯れてしまうと思います。しかし、伸長停止していなければ、うまくまた茎を持ち上げることができればどうにか持ち直すことができるのではないかと思います。ここで、一つ思い出したのですが、接木はこれを上手く利用しているのかもしれません。ダメになってしまった部分を取り除いて上下を繋ぎなおして固定すれば、伸長停止していない部分ならその後も伸び続けるので、上手い具合に細胞が結合しあい枯れずに済む、ということなのではないでしょうか。とすると、もし接木で、伸長停止してしまった部分同士を繋げるとしても、茎と茎の結び付きが弱くなり、上手く繋がらないのでは、と思いました。

A:なんとなく雰囲気で考えていませんか?科学には論理が重要です。この場合、「細胞の伸長」と「組織の修復」の間にどのような関係があるのかがあいまいなまま文章が書かれているように思います。


Q:今回の授業では体積流によって糖などの栄養が運搬されることを学んだ。そして、なぜ篩管細胞は死んでいないのか疑問に感じたので、その理由について考察してみた。篩管細胞が死んでいた場合のメリットとして、栄養を消費しないことの他に、溶液のスムーズな運搬が挙げられる。導管のように死んだ細胞には細胞小器官が存在しないため、存在する方に比べて溶液が流れやすいのは明らかである。同様に篩管細胞も細胞小器官を失くした方が、溶液運搬の上で効率が良いと考えられる。しかし、篩管細胞には少ないながらも細胞小器官が存在し生きている。この理由として、糖の能動輸送が挙げられる。糖を篩管に積み込み・運搬するためには、プロトンポンプや共輸送タンパク質が必要である。これらは細胞膜に存在するため、細胞が生きていなければ働かない。つまり、篩管細胞が死んだ場合、篩管としての役割を果たせないことになる。これを補うために、伴細胞が重要な役割をしていると推測できる。伴細胞を伴い依存することにより、篩管細胞は核など一部の細胞小器官を消失しても生きることが可能である。よって、篩管細胞は生きたままでも、伴細胞に細胞としての役割を移すことで、死んだ状態のメリットを得ることができると考えられる。

A:伴細胞が重要なのだという視点は素晴らしいと思います。ただ、結論は「伴細胞があるので、篩要素は(ほぼ)死ねる」ということですから、最初の問いかけが「なせ死んでないのか」ではちょっとつながりが悪いですね。


Q:今回の授業でセルロースの強度の話題が出ましたが、セルロースが非常に頑丈な物質であるということに興味を持ったのでもう少し詳しく調べてみました。まずセルロースの頑丈性についてですが、セルロースは熱水・冷水にも溶けず、有機溶媒にも溶けることはありません。セルロースを分解できる主な物質はセルラーゼですが、セルロースの分解速度はそれほど速いものではありません。この理由はセルラーゼ分子がセルロース表面で渋滞を引き起こすからであるということが報告されています。ではそのように頑丈なセルロースを最も効率的に分解できる方法はどのような手法なのでしょうか。私が調べた中で最も印象に残った分解方法は光触媒を用いた分解方法です。この方法は宇都宮大学の岩井秀和教授が発表した手法であるが、岩井教授らが発明した光触媒をセロビオース水溶液に入れ、紫外線+可視光を照射するだけでセロビオースを分解できるというものである。この方法が確立すれば今までのように高温・高圧下での触媒処理や高濃度の酸・アルカリ処理のようにエネルギーを費やすことなくセルロースを処理できるようになり、植物の廃棄部分の再利用がより効果的になっていくであろう。
参考資料:「セルロース分解のための光触媒と反応システムの開発」、URL:http://www.ibaraki-jst-satellite.jp/seeds/pdf/H20S04038.pdf#search='セルロース 分解'

A:全体として事実の紹介と感想によって占められていて論理が感じられません。エッセイや紹介記事としては良いかもしれませんが、科学的なレポートとしてはもうひと工夫必要です。


Q:今回授業で、バイオエタノールのお話があった。今日、大気中の二酸化炭酸濃度の上昇による地球温暖化の問題や石油価格の上昇に伴う新エネルギー開発の必要性から、バイオエタノールに対する期待が高まっているといえる。しかし価格が高いとや、バイオエタノールの原料となる植物を栽培することで、食べ物の価格が高くなってしまうという問題点が授業であげられた。その他にもバイオエタノ−ルの利用にあたって次のような問題点が考えられる。
①エネルギーコストの問題。②食糧資源をエネルギー資源に転用することによる、食糧価格の高騰。③バイオエネルギーを生産するための耕作地確保のための森林破壊。④バイオエタノールの原料を生産可能な地域が限られてる。(特に国内)
 これらの、問題点の解決として、穀物や製糖作物ではなく、もっと豊富で土地効率に優れたセルロース原料(作物の茎葉、林地の残材、草や成長の速い木など)を主原料にする必要があると考えられる。しかし、セルロース系バイオマスからバイオエタノールを製造する際に、セルロースを糖に分解する工程が必要となってくる。この工程はとても難しいといえる。セルロースの分解にはグルコース間のβ1→4と呼ばれる結合を切る、糸状菌などの微生物から精製できる酵素 (セルラーゼ) が必要である。また、細胞壁はセルロースや、ヘミセルロース、リグニンを含んだ複雑な構造をしており、さらには植物種によってセルロースの含まれている葉や茎の細胞壁の成分や構造の特性が異なるため、効率的な分解はできていない。このようにまだ多くの問題点や改善点がみられるが、もし乾燥、塩害、高温、低温、酸性土壌などに耐性をもち、栽培に手間のかからない収量の高い植物を発見または遺伝子組み換え技術などによって創り出すことができれば、バイオエタノールが石油に代わる中心的なエネルギーとなることも可能ではないかと思った。
参考文献:・http://www.jie.or.jp/biomass/AsiaBiomassHandbook/Japanese/Part-2_J.pdf、・http://bioethanol.qmsystem.net/2010/05/blog-post_28.html

A:これも上のレポートと同じです。事実の紹介とその事実に対しての感想だけでは、理系の大学生のレポートとしては不足です。もう少し自分の頭で考えた論理を重視してください。