植物生理学II 第6回講義

植物の葉

第6回の講義では水ポテンシャルの概念を中心に、導管を通って水が移動し蒸散する過程について解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では、主に植物の導管について勉強しました。その中で、「導管は細胞の中身が空洞となったものが連なってできている」という点について考察します。例えば動物においての「管」といえば消化管です。消化管は植物とは異なり、細胞自体が管を形成することでできています。おそらく消化管のこのつくりは消化液を生成・分泌するためのものだと考えられます。一方植物の導管は、主に水を通導するだけに用いられ、これといって何か分泌するという役割はありません。また植物は「動けない」という特徴がある分、動物よりも生存が難しいという障害があります。それを補うためにも、伸びるときには生きていた細胞も、生きている意味を失えばすぐに死細胞として再度利用する必要があるのだと考えられます。改めて導管を動物の消化管のように形成するよりもエネルギー消費が低く抑えられ、かつ硬くなった死細胞は植物体の支持にも役立ちます。以上のことから、植物が導管形成に死細胞を用いるのは動物のような消化管を必要としないエネルギー産生構造と、コストパフォーマンスが良いという点によるものと考えられます。

A:篩管についてはこれから講義をするのでしょうがないと言えばしょうがないのですが、やはり動物と植物を比較するのに消化管と導管だけというのは足りないように思います。違いがあったとしても、それは機能の違いに原因があるのかもしれません。血管と消化管と導管と篩管を比較して導管と篩管に共通だけれども血管と消化管には見られない点があれば、それは植物に特徴的な点なのかもしれません。


Q:今回の講義で私が関心を持ったことの1つとして、導管の太さに関して以下に考察をする。一般的に、導管の太さは太ければ太いほど、維管束中の液体の通導量は大きくなる。しかし、毛細管現象などによる水分を葉まで上昇させる力は得られなくなる。では、何が導管の太さを決定させているのか?維管束について関して調べた結果、植物科によって様々な選択をしており、環境が主な要因だと考えられる。すなわち、水分が比較的豊富な熱帯雨林や温帯に生息する植物にとっては、より多くの水分を葉に届けることが同化につながるため、蒸散流速度を上昇させるように導管も分化していくが、比較的北に分布するような植物では、空気による蒸散が熱帯ほど強くないため、さほど導管を太くし、蒸散流速度を上昇させる必要がないと考えられる。このように水分と空気的な環境によって、植物は様々な戦略でその種類の維管束系を選択しているように思われる。
<参考文献>http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/vascular.html(参照日時:2011/11/11)

A:戦略と言うからには導管を細くする方の利点もないといけないでしょう。その部分の考察がほしいところです。


Q:植物は外側に重要な組織が多い。例えば生産器官である葉はすぐに外部に触れている。また髄の外側に通動組織があり、幹の内部には死細胞が多い。それは非常に外部からの害を受けやすい。ヒトなどの消費者である動物は内側に重要な器官が多い。植物の重要な機能の光合成を行うためには、葉緑体が外部に近い場所にある必要がある。草本植物から木本植物の進化は、どうしても外部に触れさせる必要がある部分を高所に設置し、低地の外側部分を木化させることで食害から守るという利点もあったと考えられる。

A:これは木本植物の進化に関する考察ですね。非常によいと思います。ただ、レポートの書き方としては、冒頭で問題点をきちんと定義してから議論に入った方がよいでしょう。


Q:先の東日本大震災の後,津波被害の1つとして塩害という減少をニュースや新聞で見聞する機会が何度かあった.そして先日塩害を乗り越えて,綿花を収穫できたというニュース(注1)を見た.ここで塩害による植物成長阻害のメカニズムと,綿花がそれに耐えるメカニズムをそれぞれ考えてみたい. 塩害による成長阻害を考えると,これは土壌中の塩濃度の増加が土壌のマトリックポテンシャルを低下させるためであると思われる.土壌のマトリックポテンシャルの低下は植物体に流入する水分量をまず減少させ,そこから植物体が保持している水分の低下を招き気孔を閉じさせる方向に働きかける.すると蒸散量も少なくなり,さらに吸水力が低下する悪循環を招き最終的に成長が阻害されると推定される.それでは綿花がこの塩害に耐性があるのは何故だろうか.理由として2つ考えられ,1つはもともと綿花の細胞では塩濃度が高く,他の植物よりも水ポテンシャルが低く吸水しやすい可能性がある.これならば土壌の塩濃度が上昇した場合でも,通常環境に比べれば吸水力は劣るが他の植物より塩害に耐性があることの説明となる.もう1つ考えられるのは,綿花の根がナトリウムイオン濃度の上昇を感知して,その水分を避ける可能性である.塩害の状態では,主に海水の塩分に含まれるナトリウムイオン濃度増加が影響しているが,綿花がこのナトリウムイオンの増加に伴い根の伸長方向を変えられる仕組みを持っていたとすれば,ナトリウムイオンの少ない方向へ根を伸長させることができ水ポテンシャルの高い部分に根を張り吸水力を保てると考えた.
(注1) http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111107-OYT1T00016.htm ヨミウリ・オンライン 「塩害乗り越え…希望の綿花の収穫始まる」 閲覧日 2011年11月12日

A:よく考察していると思います。2番目の可能性の方は、ナトリウムイオンの大きな勾配が土壌にある場合に限られますが、津波被害の場合はやや考えづらいかもしれませんね。用語の上で、一つ誤解があります。マトリックポテンシャルは物理的な原因によるポテンシャルで、土壌の場合これが主になりますが、土壌の水ポテンシャルをマトリックポテンシャルと名付けたわけではありません。塩濃度の増加は土壌のマトリックポテンシャルではなく浸透ポテンシャルを低下させることになります。


Q:今回の授業では草本やツル植物などは太い導管を持つことで蒸散流速を上げて光合成がより多くできるようになっているが、針葉樹や広葉樹など種類によっては導管を太くすると構造的に支えきれなくなるため細くせざるを得ないということを学んだ。このレポートでは導管を細くせざるを得ないその他の理由を考える。私は越冬に密接な関わりがあると考えた。冬場寒くなった際に導管の中に水分が含まれていると、水分が凍って膨張した時に細胞を傷つけてしまうことが考えられる。導管が太くなるとその分水分含有量も高くなってしまい、より自分を傷つけることになってしまう。ある程度の気温や水分量では植物水分中の糖などの濃度を上げることで保たれるのであろうが、それにも限界があると考えられる。そこで授業の際に取り上げられた植物種の蒸散流速を種類別に比較して、この考えの根拠を記す。流速の高かったツル植物や草本に関しては、冬場に枯れてしまい種子で越冬する選択をしたことで、冬場水分が凍結する恐れがなくなり導管を太くすることができる。また湿潤な地域に生息する広葉樹も流速が高かったが、湿潤な地域に生息するため、冬場の寒さが厳しくなく、水分が凍結する恐れが少ないと考えられる。一方で流速の低かった針葉樹は寒さの厳しい地域に生息することが多く、導管を太くすることができない。また落葉広葉樹も流速が低かったが、これらの種類は冬場に落葉することで蒸散を止めて、根からの水分吸収を断つことで越冬をしていると考えられる。このため冬場の寒さが厳しいことが想定されて、落葉することと併せて導管を細くすることによっても越冬をしていると考えられる。硬葉樹に関しては、もともとそこまで寒さの厳しい環境に生息していない。しかし乾燥地域に生息することが多く、越冬とは別の理由になってしまうが、もともと水分量の少ない環境であるため導管を太くしてもそこまで土壌に水分がないことが考えられる。以上の根拠から導管を太くすることができない理由として、越冬する際に水分が存在すると、植物体を傷つけてしまうという可能性も挙げられる。

A:これもよく考えていると思います。冬場の寒さと、乾燥という2つの要因をきちんと考えているのは素晴らしいと思います。資料を配っていないのでスライドからだけでは読み取れなかったかもしれませんが、広葉樹の導管が細いのではなく、広葉樹には導管が細いものと太いものがあります。その場合、細いものでも針葉樹と同じぐらいですから、基本的には広葉樹は導管が太いと考えてよいでしょう。


Q:今回の講義ではみかんのへたを取った下に見える維管束の数だけみかんの袋ができるというのが大変興味深かった。そこで、みかんの構造について「えひめみかんリンク」(URL: http://orange-taijyu.com/plink/ehime_mikan9.html)を参照して調べた。1つのみかんには約10個の袋に詰まった部分がある。これがみかんの花の子房であり、「じょうのう」と呼ばれる。じょうのうの表面に維管束はある。またその中のつぶつぶとしたオレンジ色の小さな袋を総称して「砂じょう」という。これ以上のことは書いていなかったのだが、じょうのうが子房であるのなら砂じょうは何という器官であるのかを考えた。時々じょうのうと砂じょうの間に種が入っていることがあるのを考えると果実だろうか。みかん全体が果実だと思いがちであるがそうではない。砂じょうは果実であると考える。

A:花の作りと果実の作りの対応というのは中学1年の理科で習うのですよね。僕自身はこの手の話は苦手でしたが、考えるとずいぶん高級なことを中学で習っているものだと思います。


Q:今回の授業では導管による水の輸送が「水ポテンシャル」の大きさによって説明され、地球の重力も「圧ポテンシャル」として働いていると解説された。本レポートでは、地球の植物を地球よりも重力加速度の値が小さい環境(例えば月面)において何代も栽培した場合、その植物は巨大化するかどうかを考察する。以下では、月面上に建設した施設内で気圧を1気圧に保ちながら地球の植物を栽培する場合を考える。植物が上へ(月、地球それぞれの中心に向かう向きと逆向きへ)水を輸送する際には、重力に逆らっている。よって、重力は導管内の水の移動に抵抗を与えていることになる。月面での重力加速度の値は地球上の約1/6である。つまり、同じ質量の水に働く重力の大きさは、月面上が地球上の1/6になる。月面で栽培している植物は地球上の植物と同じものであるので、導管内に生じる負圧も同じ値である。導管内の水には地球上と同じ負圧がかけられながら輸送の抵抗である重力が1/6になるのであるから、植物体の大きさが同じなら、単位時間内に輸送される水の量は大きく増加する。よって、月面で栽培し始めた頃の植物体にとって、必要な水の輸送量に対して負圧が極めて小さいということになる。植物体の持つ負圧が必要量の水の輸送にかかる負圧よりもずっと小さいという状況で何代も植物を栽培し続けた場合、子孫には背の高い植物体が多く誕生してくると推測される。なぜなら、他の植物体よりも高い位置に葉をつけられれば、得られる光量が多くなり生存に有利だからである。しかし、水をより高い位置に輸送できるようになっただけでは、植物体の巨大化はある程度で頭打ちになると推測される。以下その推測ができる理由を述べる。植物体が巨大化すれば、当然その体を作る有機物量(現存量)も大きくなる。その有機物を作るには多量の二酸化炭素や光が必要である。よって、多量の水を高い位置まで輸送できるようになったとしても、植物体がどの高さまで成長できるかは得られる二酸化炭素量と光量によって決定されてしまうのである。以上が理由である。したがって、地球よりも重力加速度の小さい環境で植物を栽培した場合、植物体はある程度まで背が高くなっても、二酸化炭素量と光量により巨大化は頭打ちになると推測される。

A:素晴らしい。ユニークな視点の考察だと思います。独自の視点ときちんとした論理は科学の基本です。


Q:今回は、主に茎、導管の働きについて学習しました。そのなかでも、特に水の吸い上げ方について以前から気になっていたので、圧力差で吸い上げていることを知って、なるほど、と思いました。その導管の構造について、螺旋状や輪を重ねたような構造になっている、ということでしたが、その2パターンの構造の違いについて考えてみました。導管以外の細胞は自由に増殖できると仮定すると、まず螺旋状の場合はバネのように柔軟性がありそうなので、生長の過程で途中に別の植物などの邪魔なものがあったときにそれを避けて伸びることができるのではないかと思いました。生育に適した環境を求めて形を変えながら生長できるのだと思います。輪を重ねた構造については、柔軟性には欠けるような気がしますが、逆に折れにくく、植物を支えるのに適した構造になっているのだと思います。それぞれの植物のタイプによって、繁栄に有利になるような構造をとっているのだと思います。

A:視点は面白いと思うのですが、輪を重ねた構造の場合、輪と輪をつなぐものはないわけですよね。全体として縦にもつながっているらせん構造に比べてむしろ自由度は大きい気がしますが。


Q:今回の授業で、つる植物が太い導管を持つことで蒸散流速度が速くなり、水をくみ上げる上で有利であることを学んだ。他の植物を利用して光を得られ、水をくみ上げるのも速いつる植物は、他の植物に比べ有利な点が多い。しかし、私の印象では、日本で園芸植物以外はあまり目にすることがない。つる植物の特徴からして、もっと繁栄してもいいはずだと感じたため、なぜもっと繁栄しないのかその理由について考察した。つる植物は太い導管を持ち、蒸散流速度が速い。この蒸散流速度を速くするためには、負圧を高くしなければならず、蒸散を多くする必要があると考えられる。蒸散を多くするということは、それだけ乾燥しやすく、水が大量に必要になると思われる。つまり、水が豊富な地域でなければ蒸散流速度の速さを維持できず、成長することができないと考えられる。また、温度が高いほど蒸散はしやすいため、温度が高い場所を好むと推測される。よって、つる植物の特徴的な性質を活かすためには、降水量が多く温度が高い環境が必要であると考えられる。そのため、熱帯雨林のような環境では、つる植物の特徴が最も有利にはたらくが、それ以外の(日本のような)環境ではたいして有利にならないのではないだろうか。

A:これもきちんと考えていると思います。ただ、蒸散自体は目的ではなく、むしろ光合成に付随して気孔を開いたときに起こる現象であるので、蒸散が「必要」というのにはやや留保をつける必要があるでしょう。


Q:今日の授業の維管束(導管)についてのお話の中で、みかんのへたを取ると維管束の本数で房の個数がわかるというお話が有りましたが、あれからつながるのが維管束であるというイメージがわかなかったので、どのように維管束が通るのか調べてみました。すると、みかんの皮の内側にある網目状の白い部分が維管束であることが分かりました。ほかの植物はだいたいまっすぐな枝分かれしない維管束を持つので、みかんもそのようになっていると思っていました。このような網目状の維管束を持つ理由について、みかんは果実の部分が薄皮(じょうのう)の中にさらに小さい皮(砂じょう)がぎっしり詰まっている形になっているので、維管束が網目状に広がっていたほうが、水分や栄養分を均等に効率よく送ることが出来るのだと考えました。また、みかんは皮が薄くて房がおおいものほど美味しいそうです。これは、皮に使われる分の栄養分が房の中身に使われ、房の数が多いとその分ひと房の厚さが薄くなるので、維管束から栄養分や水分が届きやすくなるためではないかと考えました。
参考:愛媛みかんリンクhttp://orange-taijyu.com/plink/ehime_mikan9.html

A:「愛媛みかんリンク」は大人気ですね。葉のところで維管束が葉脈として現れているという話をしたと思いますが、葉脈こそ「網目状」の代名詞ですよね。維管束が枝分かれをしない、というのは茎の部分のイメージでしょうか。


Q:今回の授業では導管に水が流れる仕組みについてのお話がとても興味深かった。 毛細管現象が水の上昇の直接的な原動力にはならないという先生のお話はとてもわかりやすい説明で納得できた。水の移動の説明としてj蒸散と凝集力が挙げられた。水の上昇にはこの凝集力が重要であり、凝集力でできた水の柱が気泡などが入り断たれてしまうと水が上部まで行き渡らなくなり、植物が枯れてしまうとのことだった。また授業では、植物による蒸散流速の違いについて、湿潤な熱帯の広葉樹と太い導管を持った広葉樹は共に蒸散流速が早く、また、寒冷な気候に生育する針葉樹は逆に蒸散流速が遅い樹木として挙げられた。このことから寒冷地の植物は導管が細く、温暖な気候の樹木は導管が太いと考えられる。そしてこのような導管の太さの違いには、気温や気候と凝集力が関係しているのではないかと思った。寒冷な気候の植物がもし導管が太いと、導管内の水が凍って体積が増え、融けて体積が縮むということを繰り返すことにより気泡が入り、水の供給がストップしてしまう。そのため針葉樹林は、広葉樹が太い導管がまっすぐ一本に貫通しているのに対して、細い仮導管を多数もっている。針葉樹林はこの仮導管が多くつながった複雑な構造をとっており、一つの仮道管に気泡ができても水の通路を遮断してしまうことがないため、細い導管は寒冷な気候に適しているといえる。また逆に、温暖な気候の広葉樹では凝結の心配をする必要がないために太い導管で、十分に水分を供給していると考えられる。
参考文献・清水碩「大学の生物学 植物生理学」裳華房(1993年10月20日)、・http://www.nature-sugoi.net/db/db_18.php

A:よく勉強していますね。真ん中で「気温や気候と凝集力が関係」とあったあと、気温(気候)については詳しく考察されているのに対して、凝集力の方は出てこないのがちょっと気になりました。