植物生理学II 第3回講義

表皮と気孔

第3回の講義では主に葉の表皮に焦点を絞り、陸上植物における蒸散の重要性と気孔の意義について話しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では、葉の表面について勉強しました。浮葉植物の葉の特徴は「葉の表面に気孔が多い」とのことでした。なので浮葉植物は水生植物であっても葉が水面にあるので充分に光を吸収でき、空気中でガス交換ができ、かつ水に浮いているので乾燥の心配も無いという完璧な種のように思えます。しかし実際は陸上で生活している植物体のほうが多いようです。その理由を考えてみます。おそらく、水生植物は何らかの理由で真水環境でなければ生育できないのだと考えられます。海上に植物体が見受けられないことからも裏付けられます。真水でなければ生きられないのだとすると、地球の表面において海:陸=7:3ですが、真水域:陸となると比べようも無いくらい陸の方が広いので、浮葉植物の生存可能領域がどれだけ狭いかが分かります。したがって、海水への対策が出来ないかぎりは、浮葉植物より陸上植物のほうが優勢でありつづけると考えられます。

A:なるほど。これは面白いですね。ただ、真水でなければ生きられない理由を想像できるともっと説得力が増すと思います。僕がぱっと思いつくのは真水か塩水かではなく、潮の満ち引きがあるかないかです。浮葉植物は浮漂植物とは違って、根は底の泥に張っていますから潮の満ち引きがある場所で生きていくのは難しいでしょう。植物体の長さを可変にしなくてはなりませんから。塩水では生きられないうまい説明がありますかね?


Q:私は今回の講義を受けて、水生植物の気中葉と水中葉の構造の違い・意義について、以下に考えを述べたいと思います。授業にて気中葉はしっかりしてる、すなわちそれだけエネルギー投資する意義として、水中では反射や吸収によって光の透過率が悪いためだと学びました。ではなぜ、水生植物はエネルギー投資をして、水中葉を形成するのか。実際には、水中葉は浮力などによって気中葉よりもかなり薄い葉を形成することができる。したがって、一枚当たりの葉に関して言えば、気中葉よりも少ないエネルギー投資によって、水中葉は形成することが出来るのが最大のメリットだと考える。もちろん、自然界の水中は気中葉よりも光環境的に劣悪であるので、水中葉の形成と気中葉の形成のどちらがエネルギー収支に見合うかは、環境及び植物種、個体差が見られると推測する。実験プランとして、同じ水生植物種を用いて、水中の環境(透明度)や光の強さを変化させて、気中葉と水中葉の枚数比がどの程度環境によって左右されるのか、といったものを提案します。

A:これもポイントを絞ってきちんと考えた良いレポートだと思います。確かに、水の透明度を低下させると水中の葉が減ったりすると面白いですね。


Q:【細胞間隙について】今回の授業では水蒸気と植物について触れたが、そこから細胞間隙について考察する。・空気中に細胞が触れることは水分を失うことである。・気孔での水蒸気の拡散コンダクタンスは低く、律速段階である。・細胞間隙内での水蒸気の拡散コンダクタンスは高い。細胞間隙は、気孔を通した葉面温度の調節や蒸散流の調節だけでなく、葉内の保水を担っていることが考えられる。例えば授業中で水中葉と気中葉の違いについて触れたが、水中で間隙が不要というより、むしろ気中で間隙が必要であるからと考えた。さらに、空気中に限っても陽葉は発達した細胞間隙を持つことで、強い光を有効活用できるが、逆に強い光に当たることで蒸発しやすい水分を保持するためにも十分な細胞間隙が必要であると考えられる。植物の水分保持の手段として細胞間隙が大きな役割を果たしているのではないか。

A:面白い考え方ですが、細胞間隙が水分保持に役立つのではないかと考えたロジックがわかりませんでした。クチクラや気孔のコンダクタンスが非常に小さければ、コンダクタンスの大きな細胞間隙が多少大きくても小さくても、全体のコンダクタンスには影響を与えないと思いますが・・・。


Q:シダ植物や高等植物では,クチクラ層を発達させることで乾燥から身を守っているが代償として表皮から二酸化炭素がほとんど得られなくなるため,気孔を獲得したことを学んだ.しかし高等植物の気孔は自身が熱く乾燥した状態に置かれると閉じてしまう.光合成は光が豊富な環境で気温が高くなると活発に行われるためが,気孔が閉じられてしまうと二酸化炭素の供給源が減るため光合成力が結果的に落ちてしまうのではないかと考えた.私の感覚からすると40℃という温度は高温であるが,教科書などを見ると40℃くらいの環境では光合成力が落ちているようには感じない.この時光合成に必要な二酸化炭素と水はどこから供給されているのだろうか.光合成に必要な二酸化炭素と水のうち,水は植物体自身も豊富に持っているため外部からの供給が絶たれていても暫くの間は大きな問題がないと考える.一方二酸化炭素は細胞呼吸の産物として生じるものであり,水ほどは豊富に存在しない.そのため光合成サイクルをすすめるためには外部からの二酸化炭素を取り入れることが不可欠である.さらにもし乾燥状態であるとすれば,植物体の水も減少しているはずであり光合成力の低下を招いても不思議ではない.ここから考えられることは外気温が40℃であっても,植物にとってはまだ気孔を閉じる環境ではないということである.そして高等植物やシダ植物が気孔を開閉させる能力を得たのは,苔類などに比べて高温に耐えられる構造が発達したためであると考えることもできる.

A:このレポートで扱われた「暑い盛りに光合成がどうなるか」と「水の含有量と蒸散量はどのような関係にあるか」という2点については、次回の講義でやることにします。


Q:コケ類はある程度であれば水を失った状態でも、また水が手に入れば復活するということを教わった。このことを何か実用的なものに利用できないかということについて考えた。1つ思いついたことは、植物生理学Ⅰで最後に教わった人工光合成の基盤に使うことはできないだろうかということである。人工で合成した光エネルギー吸収体の基盤として用いることで、通常の植物のタンパク質を用いるより、一層に頑丈でしかも自然体に近い構造がえられると考えた。また自然に近い形の基盤を用いることで、より良い塩梅の電子供与体となり、光エネルギー吸収体の電子を励起させる力が強くなることも見込める。しかし一方で光エネルギー吸収体そのものには向いていないとも考えられる。その理由としてまずコケ類は陰葉型の光合成であるため、光エネルギーの吸収効率が悪いことが挙げられる。

A:最後の部分はちょっと誤解があるようです。陰葉型の光合成においては、むしろ弱い光を効率よく集めるために光の吸収率は高くなる場合もあります。吸収効率が悪くなるのではなく、光が強いところでの光合成速度が低くなるのです。前半の部分は、ちょっと具体的なイメージがつかめませんでした。


Q:今回の授業では、pHと水中の二酸化炭素濃度について、「酸性pHの溶液中は利用できる二酸化炭素量(物質量)が少なく、植物の生存にとって過酷な環境である」と言う内容が扱われた。本レポートの目的は、原始地球における大気中の二酸化炭素分圧及び水中(海水中)pHの観点から、原始地球に誕生した光合成生物は、酸性の海水中に溶けた二酸化炭素のみを利用することで十分に生存できたのではないかと考察することである。光合成生物が誕生する以前、原始地球の大気組成はほぼ100%が二酸化炭素CO2であった。また、多量の火山ガス(硫化水素H2S等)が放出されていたことから、原始地球の海水pHは酸性側に偏っていたと推測される。よって、原始地球では大気中のCO2分圧が現在(0.04%)の約2500倍であり、海水のpHは酸性側の値を示したであろうと仮定できる。そのような原始地球の環境において、海水中CO2濃度はどれほどであっただろうか。CO2の溶解度は1.45g/L (25℃、100kPa)である。よって、ヘンリーの法則より原始地球の海水1Lには約3625g(≒82.4mol)のCO2が溶解していたと計算される。(ただし、原始地球は温室効果により気温が高くなっており、気圧も現在とは異なるだろうから、この計算値は正確に当時のCO2量を表せてはいない。)光合成反応において、1MのCO2からは1MのO2と1/6Mの有機物(CH2O)が生成される。ゆえに、CO2濃度が82.4Mであれば、82.4MのO2と13.7Mの有機物が生成される。これほど多量の有機物を生成できるのであれば、単細胞光合成生物は水中のCO2を利用するだけで生存に必要な有機物量は十分に賄えるであろう。したがって、CO2分圧が極めて高かった原始地球においては、酸性海水中に溶けたCO2のみを利用することで十分に生存することができたと推測される。
参考文献:①大山隆監修 ベーシックマスター生化学第1版 オーム社(2008)、②野村裕次郎他著 高等学校化学Ⅱ 数研出版(2007)

A:面白い。よく考えられています。大気圧は昔の方が高かったでしょうね。温度については実はよくわからないのですが、今よりは高かったかもしれません。いずれにせよ、自分なりの考察しており非常によいと思います。


Q:今回の授業では、葉の構造、蒸散や呼吸などの内訳について学びました。例として挙げていた、湿度80%の空気中と、飽和食塩水中とでは、どちらが植物にとって過酷な環境であるか、という話で、食塩水中は結局水分が蒸発するので、植物にとっては湿度が高い場所の方が水中よりも過酷である、ということでした。では、もし海水中ならどうなるか、ということを考えてみました。食塩水中との比較では、もちろん、不純物も多く含まれる海水中の方が植物にとって過酷だと思うのですが、海水中と高湿度の空気中ではどちらが過酷なのでしょうか。海水だと、やはり飽和しているかいないかで変わってくるのではないかと思います。飽和していない海水であれば浸透圧の影響で植物にダメージを与えてしまい、もし飽和していれば、飽和食塩水との差がほとんど現れないか、もしくは植物に有害な物質が含まれていればその影響もあるかもしれません。

A:何か飽和ということを勘違いしているのかな?「食塩水中は結局水分が蒸発する」というのも意味がよくわかりません「飽和していない海水であれば浸透圧の影響で植物にダメージを与えてしまい」とありますが、塩が飽和している水の方が浸透圧は高いのですが・・・。


Q:今回の講義で疑問に思ったことがあります。先生が「下等な植物ほど自分を変えていき、乾燥に強い。」と仰っていたことです。維管束をを持つことにより、水や栄養を運ぶシステムを確立している高等植物の方が乾燥に強いはずです。短期的に見れば、維管束を持つ高等植物の方が乾燥に強い。しかし、自分を変えようとしないため、長期的に見ると順応できずに乾燥に弱い、逆に、下等なものほど環境に応じて対策をするため乾燥に強いということでしょうか?よろしくお願いします。

A:「よろしくお願いします」ではなく、自分でその疑問に答えてこそレポートです。最初の講義でも確認したように、疑問点を並べるだけのレポートは評価の対象外です。


Q:今回の授業では、水生植物の異形葉のお話がありましたが、ほかにどのような異形葉があるのか調べてみました。すると、ヒノキの仲間であるイブキという木も異形葉をつけることがわかりました。イブキは普通鱗形葉という鱗状で柔らかい葉をもちますが、時に針形葉という先のとがった硬い葉になるそうです。針状葉となる葉の部分は、植栽の場合であると、強く刈り込みをいれたときに見られるようです。刈込の刺激によって針状の葉ができたとすれば、おそらくイブキは外敵から身を守るために葉の形を変えたのではないかと考えられます。さらに、刈込をするとその部分に光が当たるので、光合成がしやすくなるように、フニャフニャした鱗形葉ではなくピンと伸びてしっかり光を受けられる硬い針状葉になるのではないかと考えました。
参考:http://www.pref.okayama.jp/seikatsu/sizen/reddatabook/pdf/p61.pdf

A:外敵防御だけでなく、光環境についても考察しているのがよいと思います。このように複数の観点から考えるというのは非常に重要です。