植物生理学II 第11回講義

植物ホルモンその1

第11回の講義では植物の花について若干の補足をしたのち、植物ホルモンの種類とはたらきについて、オーキシンとジベレリンを中心に解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では植物ホルモンについて勉強しました。が、「オオバコのエコタイプ」の話題が面白かったので、そちらについて考察します。同じ日(2007.12.19)に観察されたオオバコでも、沖縄産、静岡産、宮城産、北海道産で植物体の様子が異なるというものでした。このとき、北海道産のものはとっくに結実を終えて枯れているのに対し、沖縄産は今まさに結実している最中でした。このことから、北海道産は沖縄産よりも気温が高い時期に結実する、つまり地域によってオオバコの結実する時期は異なるということが分かります。ここから推測されるのは、①地域によってオオバコの結実を促す温度が異なる、もしくは②オオバコが生育中に感知した最高気温より一定値以上気温が下がると結実する、というどちらかです。①を実証するためには、その地域のオオバコが何℃で結実するか調べればよく、②を実証するためには異なる最高気温環境下においたオオバコが何℃気温を下げたところで結実するか調べればよいと考えられます。どちらにせよ、オオバコがこのような仕組みを持ったのは、多様性をもつことで様々な環境に対して生き残る術とするためでしょう。

A:悪くないと思いますが、最後の1文がちょっと物足りないですね。抽象的な記述で終わっていますが、もう少し具体的な考察ができるのではないかと思います。


Q:今回、植物ホルモンについて講義にて学んだ。以下に講義で扱われたオーキシンの極性輸送について考察する。歴史上の過去の光屈性実験で幼葉鞘の先端部分をひっくり返すと光屈性が生じないことから(オーキシンに極性輸送があると判明した実験)、オーキシン排出輸送体たんぱく質(PIN)が細胞基部に局在することだと講義にて説明があり、その場では納得したもののメカニズムを調べていくと一つの疑問が生じた。「PIN分布の極性化が,このタンパク質の細胞外への分泌や側方拡散によるのではなく,いったん細胞膜全体に送り込まれたPINタンパク質のエンドサイトーシスによる選択的回収によるもの」(参考文献1より引用)であるならば、上記の歴史的な実験も時間が経過すれば、オーキシンが再び細胞基部に送り込まれ、光屈性を示すのではないかという考えである。そう考えるに至った根拠として、根の重力屈性が挙げられる。重力を感知して、PINをエンドサイトーシスによる選択的回収の局在を変化させた結果、生じるものだとすると合点できる。しかし、上記の実験では植物体を切り取ってしまっているため、植物体全体でみると生理的な活性が損なわれ、現実的にはそのような現象は起こらないであろう。ではなぜPINをエンドサイトーシスによって常に細胞膜上をリサイクルするのだろうか。基本的にはエネルギーの損失でしかないはずだ。どんな時に役立つか推測してみると、植物体が強風によってなぎ倒された時になどに即座に重力感知して、地に根を張り直し、生存するための保険であると考えられる。
<参考文献>1.オーキシン輸送における細胞極性の形成機構解明!(http://www2.hak.hokkyodai.ac.jp/hakbio/plantscience/PIN_polarity.html)参照日時:2011/12/18、2.ABP1 Mediates Auxin Inhibition of Clathrin-Dependent Endocytosis in Arabidopsis. Robert et al. Cell (2010) 143:111-121. 参照日時:2011/12/18

A:よく考えていると思います。常に動かしていることのメリットは、環境が変動した時に対応できることだ、という点もその通りだと思います。これは、幹のセルロースのところで話した、生きていることのメリットとも重なるでしょう。


Q:【分化と化学物質】植物は化学物質の濃度比や絶対値に依存し器官を形成する。オーキシンとショ糖濃度により維管束系を分化させたり、品種によってはサイトカイニンを光によって誘導することで管状組織が誘導される。動物も同様に化学物質の濃度勾配により分化が決定する。どちらも一器官につき一種類の化学物質の対応ではなく、少ない種類の物質を使用することで変化させている。また、オーキシンやサイトカイニンといった植物ホルモンは勿論成長した植物体にも作用し、動物の分化に作用するアクチビンもまた成体に作用する。どちらも進化の過程に於いて、新しい器官を得て行く際に既存の物質を使いまわしている。

A:これだと単なる説明で終わってしまっています。この講義のレポートでは、自分なりの論理を展開するようにしてください。


Q:オーキシン取り込み輸送体のオーキシン認識方法について考察する.天然オーキシンとしてインドール酢酸があり,合成オーキシンとしてナフタレン酢酸・2,4-ジクロロフェノキシ酢酸がありオーキシンの阻害剤としてクロロフェノキシイソ酪酸があることは授業で学んだ.これらオーキシンの構造を見ると,いずれもベンゼン環と-COOH基を持っている(注1,2).オーキシンが細胞内に取り込まれるときに,-COOH基を持つことが求められると考えられる.またオーキシン取り込み輸送体が細胞膜上に存在しこれもオーキシンの取り込みに関与している.細胞へのオーキシンの取り込みについては輸送体のほうが大きく働いていると考えた.なぜならオーキシン取り込み輸送体の遺伝子は,高濃度オーキシン耐性遺伝子株の研究から発見され,高濃度オーキシン耐性遺伝子を持っている株では高濃度オーキシンによる成長阻害がそれほど強くないことから細胞内のオーキシン濃度の調節にはオーキシン取り込み輸送体が強く関与していると思われるからである.この時オーキシン取り込み輸送体では,オーキシンと認識する際にベンゼン環部分と-COOH基のどちらかを使用していることを確認する実験としては,高濃度オーキシン耐性遺伝子を持つ株と通常の株について植物に毒性のない-COOH基を持つ物質と,-COOH基を持たないベンゼン環のそれぞれを植物に作用させ細胞内の物質濃度を測定する方法が考えられる.オーキシン耐性遺伝子を持つ株をコントロールとすれば,オーキシン取り込み遺伝子の差によって取り込まれた量の差が求められる.もしどちらの物質濃度が変わらない場合には,ベンゼン環と-COOH基の両方を同時に持つ物質がオーキシンとして認識されている可能性がある.
(注1) http://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB1282957.htm  Chemical Book 2011年12月18日閲覧、(注2) http://www.dbc.ous.ac.jp/labs/KHayashi/auxin.html 2011年12月18日閲覧

A:講義で説明したように-COOH基については、pHによってプロトンが解離して物性が変化しますから、その点を考えないといけないでしょうね。


Q:合成オーキシンの1つに2,4-Dというものがあり、それは除草剤に用いられるということを学んだ。トウモロコシやイネなどの単子葉植物では2,4-Dをすばやく不活化できるが、双子葉植物はそれができないため2,4-Dの利き過ぎによって枯死してしまう。この現象を利用することでトウモロコシやイネを栽培する際の除草剤として2,4-Dを用いることができるのである(*1)。ではなぜ単子葉植物ではすばやく2,4-Dを不活化でき、双子葉植物はできないのか、その理由を考察する。今回挙げられた単子葉植物は2,4-Dが農業に用いられることを考えると、主にトウモロコシ、イネ、コムギなどの穀物がメインである。それら穀物は胚乳として栄養を蓄えるため、双子葉植物以上にタンパク質が必要となるであろう。例えばコムギであればグルテンが挙げられる。そのタンパク質を構成するアミノ酸の中にベンゼン環を必要とするものも存在する。そこで2,4-Dの構造を見るとベンゼン環を持っていることが分かる。そのため2,4-Dをうまく代謝することで、ベンゼン環を手に入れることも可能であると考えられる。先述したように単子葉植物は双子葉植物よりもタンパク質をより欲していることから、こうした代謝機能がより強く備わっていると考えられ、2,4-Dをはじめベンゼン環を持つ化合物をより速く不活化できる能力を持つようになったのだと考えられる。
*1 キャンベル生物学(2003) 小林興 監訳 よりp887 除草剤としてのオーキシン

A:豆もタンパク質を多く含みますが、これは双子葉ですよね。単子葉と双子葉の差としてタンパク質量を考えるのはやや強引のような気がしました。


Q:今回の講義ではオーキシンによる屈性現象を学んだ。高校でも学習したことがあるが、今回はより深く学んだ。先端を切ってずらして置くと植物ホルモンであるオーキシンが分泌され、屈性して育つ。これは枯葉剤に用いられているように、実用的に転用が可能であると考える。

A:・・・・


Q:今回の授業では植物ホルモンであるオーキシンとジベレリンの生合成・生理作用・作用機構等の内容が扱われた。そして、ジベレリンはイネの馬鹿苗病の原因であるカビの培養濾液から発見されたという発見の経緯についても説明された。本レポートでは、ジベレリンが生物進化のどの段階で誕生したのかを考察する。ジベレリン生合成の出発物質はピルビン酸とグリセルアルデヒド3-リン酸(GAP)である。ピルビン酸とGAPは共に解糖系内の代謝産物であり、多くの生物の細胞内で容易に合成される。よって、細胞がジベレリンを合成できるか否かは、出発物質からジベレリンを合成するまでの化学反応を触媒する酵素が存在するか否かによって決まる。高等植物のジベレリン生合成反応において、ピルビン酸とGAPからカウレンを合成するまでの反応(系①とする)は葉緑体内で行われ、それ以降の反応(系②とする)は小胞体膜上、細胞質内で行われている。葉緑体内に系①が存在するならば、シアノバクテリア細胞内にも系①が存在したと推測される。カビ(真菌)もジベレリンを合成できるから系①を持っている。よって、真菌と原核生物(シアノバクテリア)が共に系①を持っていると予想されるから、系①の遺伝子は真核生物と原核生物が分岐する以前の生物が持っていたのかもしれない。系②は葉緑体外に存在する酵素によって進行するから、系②の反応には細胞質が必要である。よって、ジベレリンは1次共生よりも後の(真核)生物で誕生した物質である。そして、植物と真菌がジベレリンを合成していて、動物は合成していないことから、ジベレリン合成は植物と真菌の共通祖先が動物から分岐した後に獲得した形質であろう。したがって、ジベレリンは植物と真菌の共通祖先が動物から分かれた後に、系②に必要な酵素の遺伝子を獲得することで誕生したと推測される。
参考文献:桜井英博他著 植物生理学概論初版 培風館(2008)、大山隆監修 ベーシックマスター生化学第1版 オーム社(2008)

A:ふうむ。これくらい大胆に想像力を駆使したものの方が、レポートとしては評価できます。


Q:今回の授業では、主に植物ホルモン(オーキシンやジベレリンなど)について、学習しました。ジベレリンの話で、種無しぶどうを作るには花の段階でジベレリンにつけて、種がない状況なのに種があると思い込ませることで、果実が大きくなる、といっていました。もし、効果が(ヒトにとって)良い結果になるのなら、ブドウだけでなく他の食用の果実となる植物にもジベレリンを利用してしまえばいいのではないかと考えました。ジベレリンの与える効果は、どの植物でも同じなのだろうか、と思ったのですが、植物の種類によって違うようで、カキの場合は、果実の肥大ではなく着色効果、など、それぞれ別の反応になるようですね。では、ジベレリンを作用させることで、果実の方にばかり栄養がいき、葉が枯れてしまうことなどもあり得るのでしょうか?ブドウの場合は商品にする時に葉がついていないものがほとんどなので、もしかしたら枯れてしまうのでは、と思いました。

A:考えたことを書いているのはよいのですが、レポートとしては1本筋の通った論理がほしいですね。あれこれ考えた内容の中から1つの論理を追及してレポートを書くのが一番ですが、これだと、あれこれ考えたなよう自体がレポートになっている感じです。


Q:今回の授業ではオーキシン、ジベレリン、サイトカイニンの役割について学んだ。その中で、オーキシンは腋芽の成長阻害、サイトカイニンは側枝の成長促進という働きがあることを知った。側枝の成長において2つのホルモンは正反対の働きを持つが、これらがどのように関わり側枝が成長するのか考えてみた。オーキシンの中心的な役割は、茎の伸長促進である。そのため、頂端分裂組織がオーキシンの主要な合成場所となっている。一方、サイトカイニンは細胞分裂の促進などを中心的な役割とし、根や胚・果実で多く合成される。つまり、オーキシンは頂端分裂組織から下方に向かい、サイトカイニンは根から上方に向かうかたちとなる。一般的な植物では上方に比べて下方の側枝が大きく伸びることで、植物体全体に光が当たるようになっている。このことから、上方の側枝はオーキシンによって成長が阻害され、下方の側枝はサイトカイニンによって成長が促進されていると推測できる。よって、側枝の成長にはオーキシンとサイトカイニンの存在比が大きく影響していると考えられる。また、これらの存在比により、頂部は上へ伸びること、下方は側枝を広げることにエネルギーを注ぎ、無駄なエネルギーを使わずに効率良く光を得ることができると推測される。

A:上下に2種類の植物ホルモンの逆向きの勾配が生じているという仮説は面白いと思います。その結果が植物のメリットにどのようにつながるかを考察している点も高く評価できます。


Q:授業の最初にタンポポのような花はひとつの花びらで一つの花であるというお話がありました。なぜこのような花の作りであるのか考えてみました。まず、花びらが小さく一枚だけであるよりも多く集まっていたほうが媒体となる蜂を惹きつけやすいのではないかと考えられます。そして花びらひとつで種がひとつ出来るので、子孫を多く残すためにはなるべく多くの花を付ける必要があるのではないかとおもいます。また、たんぽぽの花の部分の端を検出して花びらを付けるとありました。これは端に花びらを付けたほうが虫にとって魅力的な花となることもひとつの理由ではないかと考えました。

A:「一つの花びらで一つの花である」ではなくて「一つの花びらに見えるようなものが一つの花である」です。言いたいことはわかりますが、一つの花で花弁を大きくする場合と比較してどのような利害得失があるのかを考えないと、なぜそのような花の作りになるかは結論できないと思います。