植物生理学II 第9回講義

植物の花

第9回の講義では、何が花の咲く時期の決定しているのか、また花の構造はどのようにして作られるのか、という点について解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:講義でオオバコのエコタイプについて触れた。同じ種であるオオバコを北海道・宮城・静岡・沖縄で採取し、それぞれの個体を宮城で育てると成長のしかたに違いが見られる。これはなぜなのかについて考察する。12月に観察した時点で、沖縄の個体は葉があり実をつけていたのに対して、北にいくほど枯れていて、北海道の個体が一番枯れていた。このことから、北海道の個体が一番早く花を咲かせ、沖縄の個体が一番遅かったのだと推測することができる。花成のメカニズムの外的要因は暗期の長さと春化処理である。今回は春化処理について考える。沖縄と北海道では平均気温が大きく異なり、また最低最高気温も異なる。沖縄は年間を通して最低気温が高く、オオバコの開花期が4~9月(参考1より)なことから、冬を認識する気温は高く春を認識する気温も高いのだと考えられる。したがって、沖縄の個体を宮城で育てると北海道の個体が春を認識できる気温では春とは認識せず、北海道の個体が開花した後にさらに暖かくなってから開花するのだと考えられる。
(参考1)http://www.cyenk.com/jherb1/oobako.htm

A:きちんと考えていることがわかります。ただ、一部の論理は、やや不十分なように思いました。例えば「オオバコの開花期が4~9月」というのが、異なる地方でも成り立つのかどうか、がはっきりしていないと、結論が変わります。沖縄での開花期間と北海道での開花期間が異なってもおかしくはないですよね。あと、「春化処理」という言葉は、春という字が入っていますが実際には冬を経験させる処理です。冬として認識される温度にさらされる冬だったのかどうかは春化の違いですが、いつから春になったと認識するかの違いは春化の違いではありません。


Q:風により散布される花粉が目的の所へ運ばれる確率を高くなるよう、風媒花の花粉量は虫媒花等と比べて多い。つまり、風媒花では動物媒花と比べてめしべに付着する花粉の割合は少なく、「無駄」になっている花粉が多いと言える。では、その多く生産している花粉を花粉媒介者への報酬とすることによって、より効率が良い動物媒を、風媒と併せて行うことはないのだろうか、と考えた。しかし、ある風媒花が雌雄異株である場合、雌株が蜜などをもたない限り、雄株で花粉を得た花粉媒介者は雌株へ行くことはなく、花にとっては生殖に必要な花粉を損失しただけとなる。また、花粉媒介者への報酬となるものには花粉・蜜・匂い・熱・生活の場・騙す(無報酬)がある〔1〕が、花粉・熱・生活の場以外のものは本来備わっているものではないので、余計な構造を持つこととなる。風で散布されることにより花粉が無駄になるとは言え、風媒という手段を既に持っている花が、花粉の無駄を少なくするためだけに、それらに必要な構造を持つことはないと思われる。よって、風媒花が補助的な送粉様式として動物媒を行うことはないと考えられる。また、風媒花は花粉媒介者を誘引する必要はないため、動物媒花と比べ地味で目立たない。これは、その必要がないことと同時に、花粉を食べられないための自衛手段であるとも考えられるのではないだろうか。
〔1〕筑波大学生物学類 中山剛 http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/zoophily.html  12月5日閲覧

A:これもよく考えています。最後の、自衛手段の可能性などは、僕は考えつきませんでした。研究には、このような幅の広い発想が必要です。もちろんその発想が間違っている場合もありますが、それでも考えることは無駄にならないでしょう。


Q:今回の講義でオオバコの各エコタイプ(沖縄、静岡、宮城、北海道)を宮城県の同環境下で生育させたとき、北海道<静岡・宮城<沖縄の順で生育が良かったということを学んだ。北海道は全く生育していなかった。これはエコタイプによって環境の受け取り方が違うことを意味する。植物にとって環境の受け取り方を変えることにどんな意味があるのかを考察する。まず環境の受け取り方を変えることで生育環境に適応しているということが考えられる。今回学んだ実験では沖縄型がよく生育していたが、宮城の気候を沖縄の冬と勘違いして生育したのではないだろうか。これは冬を経験して暖かくなり始めたとき(春)に生育するという性質が関与していると考えられる。反対に北海道型は生育しなかったが、北海道の冬ではより温度が下がるため宮城県の気候を冬とみなすことができなかったのであろう。このように同種でも育った地によって環境の受け取り方を変えている理由としては、生育期間を間違えないようにするためであると考えられる。植物は生育期間を間違えると子孫を残すことができず、絶滅してしまう可能性がある。このことを避けるため、各生育地の四季(特に冬→春)をしっかりと把握しているのであろう。しかしながら四季を感じるには温度の他にも日照、湿度、風などの要因も関わる可能性が考えられる。どの要因が密接に関わるのかを調べるためには、ある要因のみ違う(それ以外の要因は全て同じ)環境を作り実験してみることが効果的であろう。このとき注意するのは二つ以上の要因が関わりあっている可能性もあるということだ。より複雑な実験になるがこれをやることで四季を植物がどのように感じ取っているのかを知ることができると考える。

A:これもよく考えていますが、最初の仮定に誤解があります。写真は12月に撮ったものですから、この時点では生育期間は終わりかけているわけです。ですから、見た目の差は、生育のよしあしではなく、秋から冬になった時にいつまで生育を続けるか、という違いなのです。ただ、そのあとの考察はしっかりしていますね。


Q:LEAFYは動物に例えるとGDF8(growth defferentiation factor 8)のような働きをする。GDF8が欠損,抑制した動物は筋肉量が増える。人間や犬では稀に見られ、筋肉質な牛を作るなどの実験が行われている。植物でこのLEAFYを操作し観賞用や農業などを発展させることができるのではないだろうか。また、動物同様植物も体内時計を持っているようだ。人間が昼食後など昼の時間帯に眠くなるのには時計遺伝子が関与している。人間は赤道付近で発祥したため、気温の高い14~16時付近で木陰などで休む必要があった。その名残で我々も眠くなるようだ。なんとも不便な遺伝である。眠くなったら思い切って18分間仮眠をとったほうが仕事の効率も上がり良いことなのだが、このことに対する世間の風当たりは冷たい。一日30分の昼寝は認知症のリスクを半減させるというデータもある。一方日々の習慣となっている生活リズム、体内時計はメラトニンの投与により変えることができる。例としてはスポーツ選手が海外で試合をするとき、時差ぼけをなくすため、不眠症患者に用いるなどがある。植物の体内時計も日長を狂わせるなどで変えることができるようだが、変えることのできない性質のものもあるのだろうか。

A:90分の講義中に18分仮眠をとったらそれは風当たりが強くてもしょうがないと思いますが。昼休みならよいのでは?あと「動物同様植物も体内時計を持っているようだ」とありますが、体内時計は植物で初めに見つかったのですよ。一応、植物生理学者として強調しておきます。