植物生理学II 第7回講義

雨と光合成

第7回の講義では、雨(葉の濡れ)の光合成に対する影響を、実際の研究例をもとに解説しました。。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:植物の気孔の開閉について学んだ。植物は、葉が濡れると、孔辺細胞に水滴がくっついてイオンが流出して、気孔が閉じることが分かった。その結果、蒸散量は少なくなり雨の日の光合成量も少なくなる。また、蒸散というのは、気孔から行うものもあれば、微々ながら表皮から行われるものもあるらしく、クチクラ蒸散と呼ばれている。これは、水分の流出を防ぐのと同時に外部からの混入物の侵入を防ぐ役割もあり、除菌作用があることがわかった。葉だけに塗られている理由は、茎、根が外部から水分を吸収できるようにするためであろう。

A:気孔が閉じるメカニズムとして、イオンの流出などの可能性を話しましたが、これはあくまで仮説の一つです。実際には、どのような機構で気孔が閉じるのか、いまだにわからない状態です。


Q:葉内二酸化炭素濃度が低くさらに日が当たる状態(状態Aとする。)のときに、なぜ光化学系IIから光化学系Iへの電子の受け渡しの活性が下がるのか、またなぜそれは不可逆的で回復しないのかについて考察する。まず、葉内二酸化炭素濃度が低いとは、細胞質内、さらに葉緑体内のストロマの二酸化炭素濃度も低い状態であると考えられる。二酸化炭素は溶液中では弱酸である炭酸イオンになる。したがってストロマに溶ける炭酸が少ないので、ストロマの水素イオン濃度も低くなっていると考えられる。次に、光化学系IIから光化学系Iへの電子の受け渡しをするのはPQやシトクロムb-f複合体、PCなどを介した経路であるが、この中でシトクロムb-f複合体はPCによって還元されることによって電子を得て、その時にストロマからチラコイド内腔に水素イオンを輸送する(参考文献1より)。以上のことを踏まえると、ストロマの水素イオン濃度が減少したから電子伝達活性が低下したのではないかという予測がたつ。しかし、これではその後に二酸化炭素を加えれば活性が復活するので不可逆的という部分を説明することができない。そこで、水素イオン濃度が低いことでPQからシトクロムb-f複合体への電子の受け渡しが滞ったときに何が起きるか考える。光化学系IIは光を受け取ればPQを還元型PQに変える。そしてシトクロムb-f複合体を酸化させることにより反応を進める。しかしシトクロムb-f複合体を酸化させることができない場合はその酸化力は他の物質に働いてしまうのではないかと考えられる。したがって、PQが他の物質を酸化させてしまうことにより経路の立体構造に変化が生じてしまい、障害物ができたり、電子輸送体同士の距離が離れてしまったりして電子伝達の速度が落ちてしまったのではないかと考えられる。これなら構造が変化したので不可逆的であり、状態Aが長いほど光合成活性が下がってしまうことを説明できる。これを示すには、X線による構造解析などが必要だと考えられる。
・参考文献1:「光合成とはなにか」園池公毅 講談社 2008/9/20発行

A:後半のPQからの話、シトクロムb-f複合体を酸化という部分は「酸化」ではなく「還元」ですね。そのあとも「還元力」です。ストーリーとしては面白いと思います。還元力が蓄積すると、酸素が還元されて活性酸素ができますから、いろいろなダメージが引き起こされることも説明できます。ただし、水素イオン濃度を持ち出さなくても、光合成系における還元力の最終的な受け取り手は二酸化炭素ですから(というか二酸化炭素を還元する反応が光合成)、二酸化炭素が少なくなればそれだけで還元力が過剰になる計算になります。また、細胞内にはいろいろな物質がありますから、水素イオンの議論は一筋縄ではいきません。


Q:葉が濡れると気孔が閉じることについて考える。植物における気孔の役割には、大きく分けて、二酸化炭素の取り込みと蒸散があるが、今回、その内の蒸散に着目して考えた。植物は、蒸散を行うことにより葉温の上昇を防いでいる。つまり、気孔が開くと葉温が低下する。よって、葉が濡れて気孔が閉じるのは、水に濡れて低下した葉温が更に下がるのを防ぐためではないだろうか、と考えた。二酸化炭素濃度、光強度とも十分な条件下で測定した温度-光合成曲線はベル型となり、気温が最適温度より低ければ低いほど、光合成速度も低下する。よって、葉温が更に下がって光合成速度が低下するのを、気孔を閉鎖することにより回避しているのではないだろうか。これについては、光合成の最適温度より十分高く、かつ光合成系にダメージを与えない程度の高温下において、葉が濡れた時の気孔の様子を見ることにより、調べられるのではないだろうか。あるいは、葉の裏側の一ヶ所のみに水滴を垂らす、という方法も考えられる。一滴の水であれば葉全体の温度に大きな影響が出るとは考え難いので、葉が濡れて気孔が閉鎖するのが葉温の低下によるものであるとしたら、水滴を垂らした箇所の気孔は閉鎖しないはずである。閉鎖した場合には、葉温ではなく、気孔上に水滴があること自体が閉鎖の原因であると考えられる。
参考:東北大学大学院生命科学研究科 植物生態学講座(彦坂幸毅教授)11月21日閲覧 http://hostgk3.biology.tohoku.ac.jp/hikosaka/temp-short.html

A:これは着眼点は非常によいと思います。実験系まできちんと考えているのが素晴らしい。ただ、葉が濡れている状態では、葉の周囲の相対湿度は100%に近くなるでしょうから、濡れた葉の表面からの蒸発に加えて、蒸散による葉温の低下が実際に寄与するかどうかは難しいところでしょうね。


Q:今回の講義では「雨が降ると植物はどうなるか?」という疑問に葉の濡れという観点から切り込んで行った研究を学んだ。最終的に葉が濡れた状態で光が当たっているとルビスコが壊れ、また低二酸化炭素濃度処理を施すとルビスコの活性化率が低下することが分かった。なぜこのようなことが生じるのかを考察する。
 <低二酸化炭素濃度処理の場合>光を十分に与えた状態で低二酸化炭素濃度処理をしても系I・系II活性、ルビスコ最大活性はほとんど低下しないが、電子伝達活性とルビスコ活性化率が低下している。この阻害要因として活性酸素が挙げられる。二酸化炭素濃度が低いと還元力が余り活性酸素の発生が生じる。その活性酸素がルビスコと電子伝達を阻害していることが考えられる。このことを証明するためには活性酸素を除いてルビスコの活性化率を測定する必要がある。活性酸素は酸素から生じるので、低二酸化炭素濃度処理を行いさらに酸素濃度も何段階(高・中・低)かに分けて測定すると酸素濃度との関係性も分かるかもしれない。
 <雨処理の場合>雨処理によって、気孔が閉じ低二酸化炭素濃度状態になることが考えられる。よって低二酸化炭素濃度処理と同じことが生じるはずだが、雨処理ではルビスコ量が半減するという全く違う結果になった。二つの処理における環境の違いとしては葉の濡れという点しか考えられない。つまり葉が濡れていることがルビスコの破壊につながっている可能性がある。葉が濡れることにより細胞と雨水の間で濃度勾配が生じ細胞壁を透過できるイオンの移動が生じると考えられる。つまりイオンが雨水のほうへ移動(イオンが喪失)してしまいルビスコの破壊が生じるのではないだろうか。このことを証明するにはイオンを透過させない膜を細胞壁と雨水の間に設置して測定を行なうことが有効であると思われる。しかしながら重要なのはこの実験は本来起こりえない環境である長期間の天気雨(晴れているのに濡れている)状態下で行なわれたという点であり、日照の低下を伴う通常の雨ではルビスコ量の減少は生じないと考えられる。これは植物が地球環境に適合して今日まで生き残ってきたことを意味するのではないかと感じた。

A:王道をいくようなレポートで文句のつけようがありませんね。強いていちゃもんをつけるとすると、論理にもう少し思いがけない展開があるとよいかな、と。


Q:雨にはどんなメリットがあるのか。熱帯雨林に住む植物は雨に対する抵抗がないと生きていけないはずである。降水量が多い地域であるから、雨に降られることに慣れていないとすぐに死んでしまうだろう。たとえば、物理的にも強度が強くないと雨に葉や茎がやられてしまうだろう。雨にあたった植物を観察したところ6時間ごに光合成速度が落ちるという実験データも出ている。ただデメリットばかりでなく、植物にとっては雨で水分を確保できるようになる。地面が水分を吸うことで、根から水を吸収できるようになるからである。根が水分を吸収する速度はあがるのではないか…。このような疑問が浮かんでくる。雨によって気孔が閉じるために、葉内の二酸化炭素濃度は低い。たとえ水がたくさんあっても、有機物を作る際にもて余してしまうだろう。さらに梅雨の時期は光も少ない。これから日本の植物の光合成の季節的変化があるといえる。

A:なんというか、全体の論理があまり流れていないような気がします。それぞれの文をみると、まともなのですが、やはり、文章全体として何か明確な主張が欲しいところです。