植物生理学II 第5回講義

幹の通導と力学的支持

第5回の講義では植物の器官や組織を概観したあと、植物の葉の構造的な成り立ちとその機能について解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:動物は骨などの構造物にはリン酸カルシウムなどの無機物を主成分として用いる。しかし植物は有機物でエネルギー源の糖を、セルロースとして細胞壁に用いる。なぜ植物は無機物ではなく有機物を用いるのか、またなぜエネルギー源である糖を用いるのかを考える。まず、なぜ無機物ではなく有機物なのかを考える。植物が外界から取り入れる無機物は、主に窒素と硫黄とリン酸である。しかし、これらはアミノ酸の合成やDNAの合成に使われる上、動物のように食物から取り入れることができずに吸収量は少ない。したがって無機物を使用するという選択肢は、動物のように他の生物を捕食して初めて選べることであるのだと考えられる。次に、なぜせっかく得られた糖をエネルギーとして用いるのではなく、細胞壁に用いるのか考える。植物の生長には細胞の増殖が必要である。しかし細胞を維持するのにはエネルギーが必要である。つまり、植物が生長すればするほど必要なエネルギーが増えてしまい、いつか生長にエネルギーを使えなくなってしまう。一方、セルロースの維持にはエネルギーは必要ないので一度作ってしまえばエネルギーはすべて生長に使うことができる。したがって、セルロースを作ることによりそのときには生長量が減ってしまうが、将来的により多くのエネルギーを生長に使うことができるのだと考えられる。また、グルコースを原料とするセルロースでは、細胞壁のための新たな物質を合成するような回路が必要ではないので、エネルギーの無駄もない。これらの理由より、植物はセルロースで細胞壁を作るのだと考えられる。

A:良いレポートですね。特に後半の、一時的な生長量の減少を、長期的な省エネルギーでカバーしているという考え方は素晴らしいと思います。


Q:物理的支持という役割があるため、樹木の場合、死んだ部分は個体から切り離す必要がない。しかし、個体から切り離す必要がない、ということだけが、死んだ部分が幹の中心部にある理由なのだろうか。そこで、樹木の幹が死んだ部分を中心部に持つことの意味について考えた。まず調べてみたところ、樹木の幹の断面は、外側から表皮、形成層、辺材、心材と言い、辺材が水分通導機能を持つ部分、心材は、辺材であった細胞が死んでできる部分である〔1〕。「死んだ部分=心材」が「生きている(水を通す)部分=辺材」の外側にある場合を考えると、この場合、死んだ部分は物理的支持の他、生きている部分の保護の役割も果たしていることが考えられる。しかし、死んだ部分はダメージを受けると修復できないため、保護に適さない。また、生きた部分の外側に、ダメージを受けても生きた部分が露出しないよう、厚く死んだ部分を持てば保護の役割も果たせるのではないかとも考えたが、これも理に適わないと思われる。「死んだ部分=心材」はもともと「生きている部分=辺材」であったのだから、死んだ部分がダメージを受ければ、その部分は生きている部分により修復(補充)できるはずである。しかし、内側に生きた部分を持てば、外周部に持った場合と同面積の生きた部分を持とうとも、形成層が小さくなり、ダメージを受けた部分の修復が間に合わないのではないだろうか。以上より、物理的支持の役割を果たす死んだ部分が幹の中央部にあるのは、それが保護に適さず、かつ、形成層を大きく持つことが理由であると考えられる。
〔1〕『このはなさくや図鑑~美しい日本の桜~』http://hccweb5.bai.ne.jp/nishicerasus/gimon10/treedrgokai7.html 11月6日閲覧

A:面白い考え方だと思います。一方で、生育という面からもっと単純な答えもあるかもしれません。外側が死んでいる場合は、内側の生きている部分が太くなろうとした時に邪魔になるので困る、というのはどうでしょう?


Q:今回の講義の最後に「なぜデンプンとほぼ同じ構造を持つセルロースを細胞壁に用いるのか」という質問をされた。このことを考察する。まず植物に限らず多細胞生物は、「細胞分裂→分裂した個々の細胞が成長→細胞分裂」というサイクルを経て成長する。その際植物細胞は個々に細胞壁をつくり成長させる必要があるため、大量な需要にすぐに応えられる物質が求められる。また細胞壁の機能上、化学的に安定で強い強度を有する点も求められる。細胞壁の原料として大量に供給するには、自身で大量に合成できる物質が適している。その点で光合成により合成される有機物を用いるのが良かったと考えられる。また細胞壁の機能を達成する上で、合成する有機物の中でもセルロースの性質が適していたと考えられる。セルロースは非常に安定で酸や塩基に対して強い抵抗を示し、さらにリグニンとよばれる高分子化合物と結合するとさらに安定になり植物体を強固にできるからである。このように考えると有機物を細胞壁に用いたのは光合成により安定的に大量の供給が可能であるためで、さらにセルロースを用いたのは細胞壁の性質上最も適した物質であったからと考えられる。

A:答えとしては、ほぼ満点ですね。ただ、レポートとしては、セルロース以外の選択をしたときにどのようなデメリットがあるのかについて、具体的に考えてみると、もっと多方面からの議論ができてよいと思います。


Q:木の中が空洞になってしまうという例でポプラや鎌倉の鶴岡八幡宮が授業で取り上げられた。春休みに鎌倉に観光で行ったときにその倒れてしまった大銀杏を見た。倒れてしまった原因の一つが幹の空洞であったとは知らなかった。すごい樹齢の木が嵐で倒れてしまったんだ程度にしか捉えていなかった。木の中が空洞になってしまうとは驚きだったが、よく考えてみれば、サルスベリや山の木などで中が空洞となっているものは幾度となく目にしていた。中が空洞になることのメリット、デメリッは授業で扱った。余分なエネルギーを使わないようにするために空洞になるのは外的要因と内的要因のどちらなのだろうか。外的要因としては菌による感染で腐らざるを得ない場合などが挙げられる。植物にも先天的免疫のような生体防御機構があるためある程度は防げ、またあるところで食い止められるはずだ。食い止められれば残った部分は健康でかつエネルギー消費も抑えられる。内的要因としてはアポトーシスであろうか。ある木が程度成長し、それ以上成長するより、維持するためにエネルギー消費を抑えようとアポトーシスを起こす。菌により完全に腐ってしまったら自己再生はできなく寿命を迎えてしまうだろう。植物には獲得性免疫がないため外的要因で腐らせるのはリスクが高い。造園家や公園の管理者など倒木により被害が出てしまうと困る人たちは、その木が腐ってしまってだめなのか、腐っているように見えて実は進行は止まっていて健康な木なのかを見分けなければならない。

A:ちょっと誤解を招いたようです。講義で説明したのは、死んだ組織を力学的な支持組織として使っているので、その部分については修復がきかず、腐った場合などには空洞になってしまう、ということです。ですから、空洞になること自体は目的ではなく、むしろ植物としてはできたら避けたいところなのです。死んだ組織はエネルギーを使わないことがメリットとなる、というのはその通りです。


Q:導管内の水ポテンシャルについて、根から上にある葉に水を運ぶ仕組みを学んだ。茎の上にいくほどポテンシャルは低くなるので、圧力の高い方から低い方へ水は必然的に運ばれていく。水が移動する速度は昼夜で変わっているのではないだろうか。気孔が開いている時間にはたくさんの二酸化炭素を取り込んでいるが、その際水蒸気として水を失っている。より水分を失っているときには、たくさんの水を必要とする。このことから水を早急に運ぶ必要があるので、水分を移動する速度を上げると考えられる。蒸散の作用により、水を吸い上げる力は変わってくるだろう。茎、葉の細胞の中にセルロースなどがあることで、細胞の濃度が上がる。濃度は薄い方かた高い方へと濃度差をなくすように働くので吸い上げられているの考えられる。より多くの有機物が作られている時間帯のほうが濃度差の大きいであろう。これから、時間帯により、水移動速度は左右されると考えられる。

A:昼と夜とで導管を流れる水の速度が変わるのはその通りでしょうね。蒸散が変わるから、というのはよいのですが、「細胞の濃度」というのは?