植物生理学II 第10回講義

植物ホルモンその1

第10回の講義では、植物ホルモンの働きについてオーキシンを中心に解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:オーキシンを発見するための実験はいろいろなひとによって、行われた。それだけ多くの人が植物ホルモンに関する探究にかかわってきたのだし、それほど発見までに時間がかかったってことだと思う。でも、タネを知っている人間からすると、なんで簡単な実験だし、もっと早くみつからなかったのだろうって考えてしまう。多分自分で研究室に入ったら研究設計のむずかしさを体感することになるだろう。楽しみだ。

A:まあ、確かに最初に犯人を知っていると、推理小説を読んでもいろいろ伏線がわかりますからね。とは言え、推理小説の面白さは分からない犯人を突き止めるところにありますから、研究も、すでに行われた研究の話を聞くよりも、実際に自分でやってみる方が面白いと思いますよ。


Q:芽や若い葉に供給される場合には、オーキシンは細胞内を移動する。篩管を通っての成葉への供給時と比べ、その速度は10分の1以下となる。何故、両者の間に移動速度での差が見られるのか。その意味について考えた。移動速度の差についてまず考えられるのは、(1)移動速度の差そのものに意味がある場合、そして(2)移動速度の差が副産的なものである場合、の二つである。(1)については、芽・若い葉と成葉との大きさの差に因るものであると考えられる。オーキシンは高濃度であると生理障害を引き起こす。例えば若い葉と成葉とを比べると、若い葉の方が小さく、それだけ持っている水分量も少ないため、成葉と同速度でオーキシンが供給されると生理障害を引き起こす可能性があるのではないだろうか。一方(2)については、移動速度そのものについての意味はなく、①光合成産物の転流との関係、②移動経路に因るため、などにより生じた差であると考えられる。可能性としては、(2)の方が高いように思われる。何故ならば、(1)のようにオーキシン濃度調節をせずとも、供給場所の大きさに応じてオーキシン作用濃度(感受性)を変える(受容体数を変化させる等して)ことが可能であろうし、かつ、移動経路の違いにより移動の極性の有無が生じているからである。
参考:岐阜大学応用生物科学部園芸学研究室 http://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/04-8-1.htm 12月12日閲覧

A:着眼点はよいと思います。ただ、メカニズムに関するHow questionと、生理的な意義に関するWhy questionは、はっきり分けて考えた方が議論がすっきりすると思います。


Q:今回の講義では植物ホルモン(オーキシン・ジベレリンetc)を学んだ。合成オーキシンは植物の異常生長を引き起こし枯死させる除草剤として用いられる。また抗オーキシンはオーキシンの拮抗阻害剤として作用することを知った。抗オーキシンは除草剤として作用しないのか考察する。
 まずオーキシンの生理作用として茎の伸長生長/果実/木部分化/細胞分裂などの促進、根/腋芽の生長阻害が挙げられる。合成オーキシンは大量に植物に吸収させることにより、特に茎の異常伸長を引き起こし支えきれなくなり倒してしまう。反対に抗オーキシンはオーキシンの作用する部位に結合し、オーキシンの作用を阻害してしまう。これは抗オーキシンが大量に吸収されると茎の伸長生長や細胞分裂を阻害するということである。つまり植物が伸長(生長)しなくなることを意味する。しかしながら生育環境によっては伸長しなくても生きていくことは可能である。また拮抗阻害剤という性質から、ある一定以上の高濃度の抗オーキシンが吸収されなくてはオーキシンとの結合部位をめぐる競争に負けてしまう可能性が考えられる。そのように考えるとすぐに枯死させるのが目的である除草剤としては適さないと考えられる。
 では抗オーキシンはジベレリンが欠損したときのような働きをするのだろうか?ジベレリンは茎の伸長生長/葉鞘/葉/細胞分裂/果実/発芽などの促進が作用として挙げられる。ジベレリンが欠損すると縦方向の伸長が止まりその分横方向に大きくなる。このことにより1つ1つが収量の多い(倒れにくい)イネができる。このような作用を抗オーキシンは生じさせないのだろうか?茎の伸長生長を阻害することにより、重心の低い(倒れにくい)植物を作ることが可能ではある。しかしその他の部分の生長阻害作用がどのように影響するかは分からない。低濃度の抗オーキシンを吸収させれば果実や種子といった部分の生長阻害は起こらないかもしれない。しかしながらその場合、茎も伸長生長してしまう可能性が考えられる。これを確かめるためには、通常の植物体・抗オーキシンを濃度別に吸収させる植物体・ジベレリン欠損植物体を比べてみる実験が適すると考える。

A:素晴らしい。これは、講義で得た情報をもとに、自分で問題点を設定し、それに対して論理により回答を与えているという点で、理想的なレポートだと思います。


Q:植物ホルモンは動物ホルモンと違い、体内の特定の場所で合成されるわけではない。ホルモンの種類により合成能力が高い部位が存在するるが、動物と異なりあいまいである。たとえば犬では精巣を除去すると攻撃性が下がる。これはテストステロンが精巣で盛んに作られるためだ。植物では特定の器官、細胞がホルモンを合成しないのはなぜだろうか。動物に比べ、植物は踏まれて傷つく、草食動物に食べられるといったことから、特定の器官を作ることはリスクが高いのではないだろうか。地上に出ている花・茎・葉はもちろん、根も地中動物からの危険にさらされる。オーキシンやジベレリンは頂芽で合成される。授業で習ったようにオーキシンの極性移動は面白い。オーキシンのみの場合は茎はある程度までしか伸びず、かわりに茎が太くなる。しかしオーキシンにジベレリンを加えると同じ太さのまま茎が伸び続ける。さらに、同じ長さの茎でもオーキシンだけのものは重くなる。数種類ある植物ホルモンはさまざまな機能を持ち、農業などにも積極的に応用されている。種なしの果実など生活に密接している。種なしブドウなどは食べやすくて良い。

A:面白いレポートですが、ちょっと話題が分散している印象はあります。動物ホルモンとの違いに絞って深く考察した方が、より人を納得させるレポートになったように思います。


Q:ブドウの果実にジベレリンを浸すと種なしブドウになるという。タネなしになってしまったブドウは子孫を残すことができない意味なしブドウともいえるわけだ。ジベレリンが過剰にあることは死を意味するといっても過言ではない。種保存ができなくなるわけであるから。ジベレリンの作用には、茎,根を細長く伸ばし、発芽促進,開花促進,落葉抑制などがあるという。また、ジベレリンは一般的にオーキシンの作用を高めるらしい。オーキシンは果実を大きくするので農家にとってはタネなくなる+果実大きくなるで願ったり叶ったりであろう。しかしこれらのホルモンは植物の種類によって抑制されたりするのではないだろうか?そもそも浮き草などは根を張る必要などないのだから、根のオーキシン濃度を高い可能性も考えられる。 また、成長段階において茎を伸長させる必要があるフェイズにも、オーキシン濃度は顕著に変わるのではないだろうか?

A:最後の方で言っているのは、植物の種類や生育ステージによって、植物ホルモンの濃度や作用が異なるのではないか、ということですよね?そうであれば、そこに絞ってもう少し深く考察できるとよいですね。