植物生理学II 第11回講義

ブラシノステロイドなどの働き

第11回の講義では、植物ホルモンの作用について、ブラシノステロイドとジャスモン酸、そいてペプチド性ホルモンを取り上げて解説しました。


Q:ブラシノステロイドは種子の発芽促進、茎の伸成長の促進等に働くとお話があった。他にも暗形態誘導(もやしになる)もするなど、ひとつのホルモンが非常にたくさんの働きを持つことが興味深かった。ブラシノステロイドは10^−6乗~10^−15乗の濃度で作用するということだったが、濃度が濃すぎるとどうなるのだろう。他のホルモンの働きを阻害してしまい、正常な成長が出来なくなると考えられるが、実際にどうなるのか興味を持った。

A:濃すぎて困るのは、どのホルモンでも同じだと思います。ほかのホルモンの作用を阻害する以前に、イネの馬鹿苗病のような現象が起こってしまうでしょうね。


Q:本授業では、植物ホルモンのまとめとしてブラシノステロイドについて学びました。その中で興味深かったのは、植物ホルモンのシグナル伝達がクロストークするという事象です。トマトの場合、BRI1という分子がブラシノステロイドの受容体として機能すると同時に、傷害応答を引き起こすシステインの受容体としても働くということでした。ここでは、このように、植物が一つのシグナル伝達部位に複数の伝達経路を持つ意味について考えてみようと思います。まずは基本的な植物ホルモンの作用の仕方についてですが、以前の授業でも説明のあったように、植物ホルモンは動物のようにホルモンを分泌する特定の腺を持たず、主に若い組織で分泌されることが分かっています。その後、濃度の差による浸透ポテンシャルによって各器官に輸送されます。器官に到達したホルモンは細胞膜上に存在する受容体に結合し、反応が引き起こされるのです。植物ではステロイドホルモンであっても核に直接作用することはなく、膜の受容体を介します。ここから分かることは、植物ホルモンは動物と異なり、ホルモンの作用機構(分子的でない部分)が非常にラフであるということです。つまり、器官やその機能の複雑性が動物よりシンプルである植物は、厳密に限定的な作用機構を必要としないと考えることができます。さらに全てのホルモンが膜受容体を通じて行われる植物では、一つの受容体が複数の分子を受け取れる方が効率的なのではないでしょうか。

A:植物ホルモンの作用メカニズムは、ここ数年で急激にわかってきたところです。ほんの少し前までは、複数の植物ホルモンの作用の間の類似点・相違点などが全くわかりませんでしたが、ようやくある程度の共通点が見えてきました。その一つは講義で紹介したプロテアソーム系による分解ですね。しかしそれでも、まだ不明の点が数多くありますし、現在わかっていると思っていることも、もしかしたらまだひっくり返るかもしれません。動物との比較という点を細かく考えるためには、もう少し全体像が明らかになるのを待つ必要があるかもしれません。