植物生理学I 第12回講義

マングローブプロジェクト

第12回の講義では、先週の続きとして根粒菌や菌根菌との共生について話したのち、最後にマングローブの根の光合成についてごく短い研究をした例を紹介しました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:今回の講義で、マメ科植物(Trifolium)を牧草地に植えた場合、マメ科植物からイネ科牧草に窒素供給を行い、イネ科牧草中の窒素量が増加するということがわかったが、窒素量が最大となるのはマメ科植物の割合が0.3程度の時であった。マメ科植物の菌根菌が窒素供給を行うため、マメ科植物の割合が最大の時に窒素量が最大になると考える方が自然である。今回の課題ではこのような結果となる理由について考える。1つ目の理由としては、イネ科植物の方が窒素を蓄える量が多いためだと考えられる。イネ科植物の方が窒素を蓄える量が多ければ、マメ科植物の割合が増えると窒素の供給量に対して蓄えられる量が少なくなり、窒素量の合計が少なくなるのだと考えられる。また、マメ科植物は自身と共生している菌根菌から安定して窒素供給を受けるため、イネ科植物よりも固定量が少なくなることも自然である。
 2つ目の理由としては、今回の牧草中の窒素量とTrifoliumの割合の数え方にあると考えられる。Trifoliumの割合を株数で数えていたとすると、牧草中の窒素量の単位が牧草地の単位面積、年あたりの重量であるため、イネ科植物の方が植物の背丈が高かったり、太かったりして1株当たりの重量が多くなっていると、同じ割合であってもイネ科植物の方がTrifoliumよりも重量が多くなる。窒素は主にタンパク質として植物体に取り込まれるため、イネ科植物の方が重量が多い分、同じ割合でも窒素量も多くなると考えられる。これによって、Trifoliumの割合が増えると、植物の重量自体が減少し、窒素量も減少したのだと考えられる。

A:よく考えられていると思います。前半については、「マメ科植物は自身と共生している菌根菌から安定して窒素供給を受けるため、イネ科植物よりも固定量が少なくなることも自然である。」という部分の意味が分かりませんでした。この場合の「固定量」は窒素固定量なのですよね?後半については、まさにその通りだと思います。


Q:今回の授業ではマメ科植物の窒素固定によって、周りの植物にも窒素が供給されるということを習ったが、なぜ窒素がほかの植物へ移動するのか考える。まず、マメ科植物の枯れた植物体から土壌へ窒素が供給された可能性を考えたが、今回紹介された牧草では葉を収穫してしまうので、枯れる植物のバイオマス量があまり多くないことが考えられる。植物からの直接の供給は考えずらいので、土壌微生物からの供給を考える。マメ科の菌根菌に窒素固定の産物が豊富に供給されていた場合、その菌根菌の寿命が植物よりも十分に短ければ、その菌根菌の死骸から土壌に窒素化合物が供給されるのではないか。無菌状態でイネ科植物とマメ科植物をともに育てて比較する実験を行えば、窒素の移動に関する菌根菌の関与が明らかになると思う。

A:面白い考え方だと思います。ただ、菌類に「寿命」があるか、というのは問題ですが。


Q:牧草地全体の窒素含有量は、イネ科牧草とマメ科牧草のTrifoliumが同じくらいの割合のときに最大になるということだった。Trifoliumの割合を小さくした場合、窒素固定を行うことのできる植物が少なくなるため、牧草地全体の窒素含有量が少なくなるのは納得できる。考えるべきは、Trifoliumの割合を半分より大きくしたときに、イネ科牧草とTriforliumの割合が同じときよりも牧草地全体の窒素含有量が少なくなる理由である。その理由として、Triforliumの割合が半分くらいのときにイネ科牧草に蓄えられる窒素の量が最大となるためであると考えた。イネ科牧草の窒素含有量が増える理由はいくつか考えられるが、ここではTriforliumが枯れて分解された際に土壌の窒素源となり、イネ科牧草が吸収することがイネ科牧草の窒素含有量が増える主な理由と考える。ここで、Triforliumとイネ科牧草の割合が同じくらいのときに牧草地全体の窒素含有量が最大となる理由を考察する。窒素が過剰な土壌は農作物に悪影響を与える。農作物と同じようにイネ科牧草が窒素過剰に悪影響を及ぼされ、それを避けるための機構があるのではないかと思い、土壌がある一定の窒素濃度を超えると、土壌から率先的に養分やイオン等を吸収しない機構が働き、窒素の吸収が妨げられると考えた。つまりTriforliumの割合が半分であるときの土壌の窒素濃度が、イネ科植物の根からの吸収に影響を与えない最大の濃度であったと仮説を立てた。これを検証するためには、イネ科牧草の、土壌窒素濃度の変化による窒素含有量を調べる実験をすれば良いと考える。

A:真ん中ぐらいにある「ここでは・・・主な理由と考える。」というのは、議論の前提となる仮定ですね。このように、仮定を明記して議論を進めるのは、議論の焦点を絞るのによい方法だと思います。後半もユニークな考え方ですが、根粒の制御の所で説明したように、根粒の量は窒素条件が改善すると減少します。そのことを考えると、窒素過剰になる可能性は少ないように思います。


Q:今回は共生について学んだが、一方的な共生である「片利共生」を行うしストライガに興味を持った。ストライガは他の植物の菌根菌共生のシグナルであるストリゴラクトンを認識してその植物に寄生するということだった。この時疑問に思ったのは寄生植物は他の植物から栄養を奪いとって生きているが、宿主を殺してしまったら生きていけない。どのように宿主植物から搾取しつつ殺さないようにしてるのだろうか。また、なぜ寄生をするようになったのだろうか。
 まず寄生植物には光合成機能を失った「絶対寄生植物」、光合成機能を持つ「絶対半寄生植物」、宿主の有無による「条件的半寄生植物」に分けられる (ⅰ)。また、寄生植物は「吸器」という器官を持ちそこからサイトカイニンにより宿主を勝手に太らせつつ栄養を奪っている(ⅰ)。このとき栄養を搾取しているが、宿主を殺してしまってからまた次の植物へ乗り移るようであれば非常に手間のかかることであり、やはりほどほどの程度に保っていると考えられる。仕組みとしては、以前の講義でシアノバクテリアでのヘテロシストの細胞数調節にN化合物の濃度勾配によって分裂をコントロールしているということがあった。寄生植物もこのような栄養成分の濃度を認識していると考えられる。簡単に想像はつくが、宿主の生命維持の最低ライン以上の栄養を寄生植物が吸い上げた場合、宿主植物が(根や光合成から)得る養分が減る。そのため実際の栄養分の減少を認識できれば「吸器」を増やすかどうかなどの目印になる。また、宿主植物自体も栄養分が漏れ出ているので栄養分が足りないということを根に伝える植物ホルモンを放出するはずなのでこれも寄生植物には目印になるはずである。
 次に寄生植物の出現について考える。まず寄生は他者がいて成り立つものであり、今回の講義内であった「根が他者を認識している(かもしれない)」という仮説である。これが成り立つとすれば、植物はもともと他の植物との成長のために得る養分の競争に勝つために根で他者を認識する機能を獲得した。この機能は様々な植物ホルモンなどが関係していると考えられるが、実際にこの機能が最も「寄生」の獲得に関係していると考える。他者から奪うというのはエネルギー消費の観点で考えれば効率が良いので、この他者認識を発達させて寄生を始めた植物が出現し、さらにこの寄生してくる他者を認識して防御する免疫機構(元は被食防御などで働いていたと考えられる)も同時に発達して共進化のように寄生植物が存在できたと考えた。
[1] JT生命誌研究館 , 「寄生植物と宿主の根深い関わり」, RESEARCH 寄生植物と宿主の根深い関わり | JT生命誌研究館 (brh.co.jp) , (2023/12/27) .

A:途中で寄生植物の分類の話が出てきますが、これは全体の論旨と無関係ですよね。また、別に「吸器」の数ではなくても、単に成長を制御すればよいので、「吸器」に関する記述も必要なさそうです。そうであれば、JT生命誌研究館の記事を引用する必要もありません。この講義のレポートでは、調べものの部分はあまり評価されませんので、陰葉を削除して自分の論理を前面に打ち出したレポートにした方がよいと思います。後半の自他認識の部分はやや論理がわかりにくいように思いました。


Q:根における自他の認識実験の話があったが、自己の根ならば根同士が邪魔しないように育つが、挿し木でクローンをつくって近くに植えた場合、クローンの根は全く同じ遺伝子にも関わらず、根同士が避けることなく伸びるということだったと思う。遺伝的に全く同じクローンを他個体と認識するための仕組みとして、個体ごとに異なる物質を根から出すことを考えたが、そうするとクローンは同じ物質を出すと考えられるため、自己と認識してしまう。そのため、それ以外の仕組みが必要である。例えば、根が接触したときに何か物質を生成し、それが同じタイミングで同じ個体内で起きたら自己の根と判断する仕組みなどである。また、遺伝的に異なる個体を接木でつなげたときに、これがどうなるのか気になった。

A:タイミングをみることによって自他認識をするというアイデアは非常に面白いと思いました。ただ、もう少し、論理展開を膨らませることができるとよいでしょうね。


Q:今回の授業では根における自他の認識実験について取り扱っていた。その中で、植物は異なる個体だけでなくクローン植物に対しても遠慮せずに根を伸ばし、自分の根には(自分の根が)重ならないようにするような機構があることから「遺伝的なもの以外で自他の認識を行っているのではないか」という考えがあることを知った。根における植物の自他認識についてはその機構について懐疑的な意見も多いという話もあったが興味を持ったので今回はどのようにして植物が根によって自他認識を行っているのか考えることとした。私は2つの仮説を立てた。
 1つ目はフィードバック調節が行われているのではないかという仮説である。具体的には根が伸びて自分の根と重なってしまった際には、根からの物質の供給の面では減ることはないと考えられるが根を伸ばすために使ったコストのことも含めて考えると植物内で物質が減少することになると考えられる。そのため、物質の減少を抑えるように(根の伸びる方向を変化させるように)フィードバック調節が働き自分の根とは重ならないようになるのではないかと考えた。2つ目はそもそも植物が自他認識をしているという考え方自体を崩すものであるが、「植物の根は自他認識をしているわけではなく、決められた発生パターンと土壌の要因によってのみ伸び方が変化する(決められている)」という仮説である。具体的には、そもそも植物は自分の根に重なるような成長はしないように(自分の根同士が重ならないような角度で根が伸長するように)決まっており、土壌の要因によって伸びる方向に変化は出るが変化した先でも自分の根同士が重ならないような機構が備わっているという仮説である。この「機構」とは例えば、根全体が栄養分の多く含まれる方向に向けて同じ角度だけ傾いて伸長するような機構のことである。根全体の角度が傾くのであれば自分の根に自分の根が重なることはない。
 私は2つの仮説について、1つ目の仮説は多くの植物において取り入れられているのではないかと考えた。なぜならこの仮説は植物の種類を問わず矛盾なく成立する機構であると考えたからである。一方2つ目の仮説について私は一部の植物でのみ取り入れられているのではないかと考えた。これは、植物の種類によってランダムに根を伸ばすものと決められたルールに則って根を伸ばすものどちらも存在するのではないかと考えたからである。

A:これはよく考えましたね。素晴らしいと思います。根ではよくわかっていませんが、つる植物の茎などでも同じような現象が知られていて、そちらではここの2つ目の可能性も考えられているようです。


Q:今回の講義でも窒素固定について学んだ。ニラネギのリン酸濃度のグラフのスライドを見ると菌根菌に感染している植物と感染していない植物でシュート中の乾重量あたりのリン酸濃度が変わることが分かる。これは菌根菌が植物に窒素を供給していることから不思議ではない。しかし、乾重量が大きくなるにつれ、徐々に同じリン酸濃度に近づいていく様子が読み取れる。菌根菌に感染していない植物が菌根菌感染植物のリン酸濃度に追いつける理由としてシュートの大きさが考えられる。植物は菌根菌からしか窒素養分を取れない訳ではなく土壌中などから窒素成分を回収できるため、シュートが大きいと植物全体の大きさも大きくなるため窒素を溜め込むスペースや根の大きさなどが通常サイズの植物より大きいために菌根菌に感染していなくてもリン酸濃度を大きくできるのだと考えられる。また、小さな植物は根やシュートの大きさも小さいため、菌根菌からの窒素供給がないと自分で吸収するエネルギーや栄養が足りない状態になってしまうため、シュートの小さな植物で菌根菌に感染していない植物はリン酸濃度が小さくなっているのだと考えた。

A:途中で窒素とリン酸が混在していますが、これは、すべてリン酸だと読めばよいのでしょうかね。あと、講義の中で言いましたが、乾重量の差は、成長ステージの差というよりは、利用可能なリン酸濃度を反映しています。つまり、リン酸が土壌中に十分にあれば、共生のメリットは小さくなる、ということです。


Q:今回の講義では、マングローブでの特殊な植物の根について学んだ。マングローブでは、メヒルギなどの根に葉緑素を持つ植物が見られる。講義中に紹介された測定実験では、根に付着した藻類によって測定結果での確定が出来なかったため、今回はこの実験の測定方法を考える。まず一番に思いついた方法は根を何らかの透明な物質で覆ってしまうことだ。例えばアクリルであれば根に藻が付着することはなく、またアクリルに藻が付着するようになるため、藻の有無の判別が容易になると考えた。しかし、この方法では根が本来持つ役割を果たすことができない。そこで、アクリルではなく、セロファンのような半透膜を用いることを考えた。これであれば、光を阻害することなく、また水分の吸収などの根の持つ役割も果たすことができる上で、藻の除去も容易になるのでは無いか。

A:自分で考えている感じはしますね。ただ、そこからもう少し考察を発展させてほしいところです。


Q:今回は琉球で行われたマングローブの根に対する光合成の実験の授業であった。その実験結果の中で、最干潮の時間が12時の時は12時を過ぎてから光合成活性を出し、最干潮が12時40分の時は12時40分を過ぎてから光合成活性が見られるという実験結果があった。この実験結果はマングローブの根は最干潮時間に合わせて根で光合成をする機構を持っていることを示唆するものであった。この最干潮時間に合わせて光合成を行う機構はどのような原理によってなされているのかを今回は考察する。この原理として、マングローブは自身の生体時計によって光合成を行う時間を管理しており、この生体時計を管理するスイッチとして最満潮を使っているのではないかと考えた。このように考えた根拠としては2つあり、1つ目は日によって最干潮の時間は異なるが、マングローブはその最干潮時間のズレを認識して光合成を行っていることが根拠である。このことからマングローブは最干潮時間ズレを観測するための機構が存在していることがわかり、その生体時間を管理する要因が最満潮であるならば、最満潮は最干潮時間と同じように日々ズレるため、最干潮時間のズレを認識することができるのではと考えたためである。2つ目はマングローブにとって最干潮を認識するよりも、最満潮を認識する方が容易であると考えたためである。これは根が水に浸かったタイミングを認識し、生体時間をリセットするという機構は、水に浸かっていない時間を認識することよりも容易であると考えられるためである。特に水に浸かってから空気に触れる瞬間を生体時間のリセットのタイミングにするなどによって、より容易に認識が可能であると考えられる。以上の仮説を確かめる実験としては、マングローブが水に浸かるタイミングを、人間側で変化させることによって、実際に光合成の時間が変化するのかを確かめる実験が考えられる。この実験ではマングローブが水に触れることを要因として生体時間をズラしていることが確認できる。また、この際マングローブまるまる一つを使って行うと、実験自体が大掛かりになるため、マングローブの根のうち何本かを選び出し、それらを水に触れないよう囲い、水に触れるタイミングを他の根とズラしてみるといった実験が他と環境要因も揃えやすく、効果的であると考える。

A:何回もやった実験ではありませんから、そもそも干満と光合成が相関しているかどうかもはっきりしませんが、それを仮定して議論を進めることはできると思いますし、いろいろ考えていてよいと思います。ただ、リセットのタイミングに水の存在を使うのであれば、時計を使う必要がないように思いました。


Q:今回の授業ではマングローブの研究内容と研究を進めていく過程についてお話ししていただいた。そこで、昼は日光が強く光合成に必要な光エネルギーは十分にあるが、昼では葉においても呼吸根においても光合成が阻害される理由について授業内では光阻害の影響は関係ないという推論があったが、ではその他に何が考えられるか検討する。マングローブは他の植物とは異なり淡水と海水が混ざり合っているところに生息している。よって他の種の植物よりも多くのナトリウムイオンや塩化物イオンが植物体内に存在していると考えられる。そこで、光合成は6CO2 +12H2O → C6H12O6 + 6O2 + 6H2Oの式に従って行われるように、反応後ではH2Oの数が減少する。ナトリウムイオンや塩化物イオンが多く存在するマングローブでは少しでも水が減少してしまうとナトリウムイオンや塩化物イオンの濃度異常が顕著に現れてしまう。したがって、光合成が阻害される意義として細胞中の水分が過剰に光合成に用いられることを防ぎ塩分濃度の異常を防ぐということが考えられるのではないかと考察した。

A:考え方はユニークでよいと思います。ただ、植物生理学IIでやりますが、光合成で分解される水の量は、蒸散などで失われる水の量のほんの数百分の一なのです。実際には基質としての水が不足して光合成が阻害されることはありません。(注:この講義ではレポートの考えが事実とは異なるからといって評価を低くすることはありませんので、これは純粋なコメントです)