植物生理学I 第9回講義

植物の根

第9回の講義では、根の形態と機能の間の関係を栄養塩の吸収を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:根に対する栄養塩の影響としてリン酸、硝酸、アンモニア、カリウムの濃度に差をつけると栄養塩の濃度が低い部分で根の量が多くなることが紹介されていた。しかしながら、講義資料の図を観察するとリン酸、硝酸、アンモニアにおいて栄養塩の濃度の高い部分と低い部分で大きな差が見受けられるが(濃度の低い部分は根量が多く、濃度の高い部分は根量が少ない)、カリウムにおいて栄養塩の濃度の低い部分と高い部分ではさほど根量に差がないように見受けられる。この原因としてカリウムは根から摂取して良い量に上限がないが、リン酸、硝酸、アンモニアは植物として摂取して良い量に上限があり、濃度が低い部分では根から多く吸収できるように根量が多く、高い部分では根量を少なくしているのではと仮説を立てた。しかしながら、栄養塩がすべて高濃度の場合の図で、他の図と比較して根量が増えていることから摂取量に上限があるとは考えづらい。そもそもリン酸からはリン、硝酸とアンモニアからは窒素、カリウムからはカリウムイオンを吸収しているが、リンはDNA・RNA、ATPなどの生化学プロセスに用いられ、窒素はタンパク質合成に用いられ、カリウムは浸透圧の調整やミネラルの取り込みなどに用いられるので、リン・窒素は植物の発育に直接関わるが、カリウムはそうでない。したがって、根のある環境によって植物の発育が極端に進まないようにリン・窒素の栄養塩では根の量のバランスを取っているのではないかと考えた。

A:よく考えていてよいと思うのですが、カリウムは直接発育に関わらないという部分などの、最後の1文の論理がよく理解できませんでした。


Q:今回の講義で、植物の根は土壌中から水分や栄養を効率よく得るために、表面積が大きく土壌と密着して根が一体であるといった条件を満たしているひげ状の構造と根毛を持つとわかったが、栄養を得ることが難しい岩石などに付着する水草の根は、陸生の植物と形態が異なっているのではないかと予想した。ここから、より詳細な形態を予想する。まず、水分は葉や茎の周りを覆う水を吸収する方が効率がよく、リンなどの栄養素に関しても、陸生の植物は土壌に固定されていない水溶性のリンを使用する(文献1)ため、水草も同様に周囲の自ら栄養素を取り込むことができると考えられる。そのため、水草の根には陸生の植物ほど栄養を得る機能が発達しておらず、植物体を固定することが最も重要な機能であると予想できるため、陸生植物よりも根毛が発達しておらず、さらに陸生植物と同等かそれ以上に植物体を固定する機能が発達していると考えた。ここで実際の水草の根の形態を確認すると、オオカナダモは8-10 cm程度のひげ根が存在するが根毛はついておらず(文献2)、ミクロソリウム ウェンディロフでも同様に根毛がないことがわかり(文献3)、水草では根による栄養吸収の役割があまりないことが形態から確かめられた。
文献1: YANMAR. Vol.11 堆肥中のリン酸を上手に使う. YANMAR 土づくりのススメ - 深掘!土づくり考, https://www.yanmar.com/jp/agri/agri_plus/soil/articles/11.html(2023.12.08 参照)、文献2: 琵琶湖生物多様性画像データベース「オオカナダモ(外来種)」https://www.lberi.jp/iframe_dir/data/egeria-densa/index.html(2023.12.08参照)、文献3: 東京アクアガーデン「ミクロソリウムの育て方!種類やレイアウト、活着方法、枯れる対策も!」https://t-aquagarden.com/column/microsorum(2023.12.08参照)

A:レポートは根についてのものなので、よいと言えばよいのですが、やはり一言、栄養塩の吸収の役割を根が持っていない場合に、ではどうやって吸収しているのか、なぜ根がその役割を持たないのか、といった疑問に答える部分が欲しいように思いました。


Q:根の探索活動について、栄養塩の濃度を深さによって変えて行った実験で、栄養塩の濃度が低い部分で高密度に根を生やす結果となったと講義で紹介された。私の考えでは多く養分を得られる部分、栄養塩の濃度が高い部分に高密度で根を生やすことで、吸収できる栄養塩の総量が大きくするのが最も植物にとって効率的ではないかと考えていた。しかし、実際は真逆の結果であった。つまり、根は栄養塩をそれぞれの部位でなるべく均等に得たいのではないかと考えた。どうして各部位で密度を変えてまで均等に栄養塩を得たいのか、考察することにする。土の中で、栄養塩は水に溶けており、吸収の際は水の吸収も同時に行われるため、まず水が得られない根の部分があると凝集力による吸い上げが期待できなくなってしまう。また、吸収できる栄養塩の量が根の部分によって異なると、栄養塩の量が安定せず、それがむしろ植物にとって負担になるのではないか。これを確かめるために、この紹介された実験と同じように、高さによって栄養塩の濃度を変える実験を、一定期間で濃度を変えながら(はじめ浅い部分を高濃度で育て、一定期間をすぎたら次は浅い部分を低濃度、深い部分を高濃度にする、など)実験を行ってみることが出来ると考える。

A:最後の実験は、土では難しそうですが、水耕栽培をうまく組み合わせると、何とかできるかも知れませんね。


Q:今回の講義では、根の構造と役割について学んだ。その中でも自分は、根自体に通気組織を備えている呼吸根について興味を持った。呼吸根は主にマングローブ植物などに存在し、その中にも複数の種類が存在していることを知り、それぞれの呼吸根の違いについて疑問を持った。例えば気根と膝根はどちらも同じ呼吸根であるのに、膝根は一度空気中に出たのちに再び水中に潜っていくような構造を取るのだろうか?膝根は根の一部のみが屈曲することで空中に露出しており、残りの部分は水中に存在していることになるが、常にこのような状態なのであれば根の一端を垂直に水中から突き出す気根のほうが呼吸という点において有利なはずである。考えられる要因の一つは潮位である。基本的には根が空気中に露出しているものの、潮位が満潮に近づく一時的な期間にのみ根が水に埋没するのであれば、根の一部分のみを盛り上がらせることで、その部分で呼吸を行うことで潮位の上がる期間を「凌いでいる」ような可能性が考えられる。また板根に関しても、扇のように空気に触れる面積を広げることでより多くの酸素を吸収するなどの、環境に適応した特殊な役割があると考えられる。

A:最後の「潮位の上がる期間を「凌いでいる」」という部分は、膝根だけに特有なのでしょうか。高さの問題だけだとすると、垂直の根でも同じように働くように思いましたが。


Q:今回の講義では、根茎について学んだ。特に興味深かったのは、栄養塩の低いエリアのほうが根が広がるという現象である。すべてのエリアが高濃度であれば、まんべんなく広がるが、高い個所と低い個所があるとひくいかしゅでより多く広がるということだ。私はこれを、師管の濃度調整のためではないかと考えた。管を流れる物質の流速は一定と仮定したとき、常に一定量の栄養源が流れたほうが成長にはよいと考えた。例を挙げるなら、植物に一度に多くの水を与え、その後放置すると枯れたしまうように、供給される物質量に波はないほうがよいと考え、そのうえで栄養塩の濃度の強弱がエリアによって異なる場合、すべて同一の広がり方をすると低いエリアの供給が高いエリアの供給に比べて波が発生してしまう。そのため、根のどのエリアで吸収しても吸収量が一定になるように根が形成されるのではないかと考えた。

A:面白いアイデアなのですが、波というのは時間とともに動くようなものを考えているのか、それとも、単に高い低いがあって、それが止まっていてもよいのかが、よくわかりませんでした。時間的な変動を考えるかどうかによって、だいぶ考え方が異なるように思います。


Q:授業では、栄養塩が低い時に根が伸びるのは根がより栄養塩が高い場所を探索しているのではないかという話が出ていた。私はこの論理にやや疑問を抱いた。まず、栄養塩の高い場所を探すといっても水平方向の移動が不可能な植物にとって多少根を伸ばしても土壌の栄養塩の濃度が変わるとは思えない。また授業内で取り上げられていた理論は"その世代"の植物が生き残ることが重要だと考えられている。つまり、栄養塩が低い状況で自分が生きるために根を伸ばす。しかしながら、知能を持たない植物にとっては自世代が生きることも重要だが、それ以上に次世代が生きていくことの方が重要であると思う。そこで私は、「栄養塩が低い状況において、自身がその先の世代の肥料の役割をするために根を伸ばす」という仮説を立てた。栄養塩が低い環境は将来的にもそこに生息する自分の子孫にとっては不利だ。しかしその状況において根を広げると自分が枯れた後に微生物の分解によって肥料になれる。反対に栄養塩が元から高い土壌においては次世代が成長していく際に自分の根が邪魔にならないようになるべくミニマムに抑える。このように子孫繁栄を最終ゴールとしておくと栄養塩が低い時に根が伸びるのはこのように解釈することも出来るのではないか。

A:考え方は面白いと思いますが、「肥料」というのが、具体的に何なのかを考えることが必要だと思います。根に主に蓄積されるのが炭水化物であれば、栄養塩として考えるのは難しいかもしれません。


Q:今回の講義では、「根系に対する栄養塩の影響」について学習し、リンや窒素を含む栄養塩の濃度が低いところほど根をたくさん張り巡らすことを学んだ。私も先生と同じように栄養塩の濃度が高いところほど、植物は栄養を摂取しようと根をたくさん伸ばしていくと考えたが、真逆の結果となったので、先生の考えとは異なる原因について考察してみようと思う。植物と栄養塩を含む肥料について調べてみると、参考文献(1)より肥料は茎の周りに撒いてはいけないということが分かった。また、肥料は栄養塩が濃く、水に溶けることで薄まり、植物は安心して根から吸収できるようになるが、肥料を茎の周りに置くと、根までの距離が短いために、土の中で薄まる時間が短く、高濃度のまま栄養が根に届くことで植物は薄めようと水分を大量に使い、脱水状態に陥って枯れてしまう、ということが分かった。よって、考えられることとしては、高濃度の栄養塩によって、植物が脱水症状に陥り、枯れてしまうのを防ぐために、植物は栄養塩の濃度が高いところでは根を張り巡らさないと考えられる。確かに植物が生育するには栄養が必要不可欠だが、水分が不足して枯れてしまうのは元も子もない。もしも土の中に栄養塩の濃度が高い領域があるとしたら、必要な栄養はすでに足りているため、無理に根を伸ばすことはせず、濃度が高い部分に根を張っている分、低濃度の部分により根を張る方が、植物も水不足の危険にさらされることなく安全に成長することができると考えられる。
(1)株式会社東商、肥料は塩!?、https://www.10-40.jp/column_jp/detail.php?co=172#sub2、2022/01/12、2023/12/09

A:高濃度の栄養塩が、ストレスになるぐらいの濃度であった、という可能性は確かにありますね。より低い濃度域での異なる濃度を使って実験をしてみる必要がありそうです。