植物生理学I 第4回講義

植物の葉と環境

第4回の講義では、風速や水などの外部環境がどのようにして葉の光合成に影響を与え、その影響が葉の形態によってどのように異なるのかを中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:今回の授業では、気孔を使えない水中植物の二酸化炭素の取り込み方について学んだ。しかし、陸上植物と比べると水中では光が弱く、二酸化炭素も得づらいため光合成量が少なくなっていると考えられる。今回は、水中植物が少ない光合成量で生きていけるのか考察する。1つ目は、水中植物では水を送るエネルギーが必要ない点である。陸上植物では、根から水を吸収し、葉で水を蒸散させることで水を植物全体に巡らせている。しかし、水中植物では周りに水が大量にあるため、わざわざ根から吸い上げる必要がないと考えられる。2つ目は、水中植物では窒素やリンを送るエネルギーが必要ない点である。陸上植物ではリターを微生物やデトリタス食者が分解することで地中に窒素やリンが存在しており、根から吸収することで得ている。水中ではどのように得ているかを考えると、浮遊植物が生きていけること、さらに海洋生物の死骸が水底に多くあることから、水に窒素やリンが溶けて存在していると考えられる。よって、水中生物は水から窒素やリンを得ているため、植物全体に巡らせる必要がないと考えられる。これらの理由から、あまりエネルギーを使わずに生きていくことができるため、光合成量が少なくとも生きていくことができると考えられる。

A:講義では主に二酸化炭素の取り込みについて考察しましたが、光とエネルギーの観点から新たな考察をしている点が評価できます。実際には、心臓や肺を動かして物質を循環させている動物とは違って、植物は、拡散と蒸散を通して物質を動かしているので、必要なエネルギーを見積もるのは案外厄介ですが、そのような知識はなくても、論理的に考察していれば問題ありません。


Q:問題提起:今回の授業では、複葉の形態についての話の中で、クスノキの落枝が触れられていた。葉は光合成をメインに行うため、効率低下による負担を軽減するために葉を落とすことは不自然なことではない。しかし枝は、どの季節も生えたままにしていても問題はあまりないと考えられ、また何度も作りかえる必要もないように思われる。なぜ落枝が起きるのかはっきりとはわかっていないとのことだったので、仮説を立てて考察してみようと思う。
考察:私はクスノキが枝を落とす理由は、なんらかの生物による食害を防ぐことであるという仮説を立てた。そこで食害と聞いて真っ先に思い浮かべるシカとの関係を考えた。クスノキにとって樹皮の損傷が生存に深刻な影響を与えるものだった場合、あえて枝を周囲に散らばらせ、その枝でシカを満足させることで生き残ってきたと考えることができる。調べてみたところ、クスノキは他樹種と比較しシカによる「食害がすくなかった」(岩澤、2010)とする調査結果があった。しかしこれだけでは、単にクスノキがシカの好みではない可能性も考えられる。そこで、別の生物による食害の影響を考えることにした。次に着目したのは昆虫による食害である。調べてみるとかつてクスノキに対する食害が問題視されていたクスベニカミキリという昆虫がいることがわかった。クスベニカミキリは6月はじめごろにクスノキの側枝先端に産卵し、幼虫は枝の内部を食して成長し1年で羽化する(日野、1926より)。これより、クスノキは、効率の悪い枝を感知しその枝を落とす機能によって、クスベニカミキリなどの昆虫による食害を軽減していると考えられる。
参考文献:岩澤勝巳. 千葉県におけるシカ食害の樹種間差. 第121回日本森林学会大会書誌. 2010.、日野義實. クスベニカミキリに就て. 昆蟲. 1926, 1(1), pp. 42-44.

A:クスが「樟脳」の原料であることを考えると、葉などに防御物質を蓄積している可能性は高いと思いますので、前半だけだと確かに別の可能性も考えられますね。そこで、昆虫による別の食害防御の可能性を考えている点は評価できます。


Q:今回の講義では、水中という特殊な環境に生息する植物が、CO2を取り込むためにどのような工夫をしているかについて学んだ。その中で(1):水中の植物は表面からの拡散によってCO2を取り込むこと(2):水中の二酸化炭素濃度は空気中と大きくは変わらないが、酸素濃度は空気中に比べて水中でははるかに少ない といった内容について伺った。このことから、水中の植物(特に、全身を完全に水中内において生活する沈水植物)においては、二酸化炭素の取り込みよりも酸素の取り込みのほうが大きな問題なのではないかと考えた。植物も好気性生物の1種であるため、酸素を利用した呼吸を行わなければエネルギーを確保することが出来ないはずである。また、水中における酸素の拡散速度は大気中の10000分の1まで減少する[1]ことが分かっており、酸素と二酸化炭素では水中での拡散速度は殆ど変わらないことが分かった。では水生植物は「酸素濃度が大気中と比べて少ない」という問題にどう対処しているか、について以下の可能性を考えた。
(1)嫌気性呼吸を行っている:植物は、嫌気性条件化では酸素を必要としない嫌気性呼吸ができるため、これを用いたエネルギーの生産を行っている可能性が考えられる。しかし、嫌気条件下でのエネルギー供給は好気条件下の場合より不足している[2]というデータが上がっている。嫌気性呼吸をメインに行っているというよりは、あくまでエネルギー不足分の補助として行っており、主としては好気性呼吸を行っているのであろうと考えられる。
(2)体内の酸素を利用している:植物は呼吸だけでなく、光合成による酸素生成も行っている。そこで、光合成によって作られた酸素の一部を、そのまま呼吸に転用しているのではないかと考えた。植物が生成された酸素のすべてを水中に放出していない可能性を考えると、「植物が酸素を放出しないから水中酸素濃度が少ない」のか「水中酸素濃度が少ないから植物は酸素を放出しない」のかについてはよく考える必要があると感じた。
水生植物は酸素の少ない環境で様々な工夫を行いながら生存を続けている。これらを踏まえると、水生植物自体が様々な機構により、陸上植物よりも高い低酸素耐性を有している可能性が高いと考えた。
[1].山内卓樹 ・中園幹生「イネ科植物の根における過湿環境への形態的な応答・適応機構」『 根の研究(Root Research)』24 (1):23-35 (2015)より、[2].辻 英夫「嫌気条件下における植物の代謝と生長」 『 生物環境調節』11,79-94(1973)

A:全体として悪いレポートではないのですが、やや人の論理に乗っかっている部分が多いように思います。また、「水中における酸素の拡散速度は大気中の10000分の1まで減少する」ことを文献を挙げて述べていますが、これは生化学Iで紹介し、今回の講義でも再確認した部分です。もう少し、講義に沿って自分の考えを述べるようなレポートをお願いします。


Q:海藻は陸上植物よりも葉の切れ込みが長かったり多い印象がある。これも海などに溶けた二酸化炭素をより多く回収出来るような変化だと考えられる。また、水の流れが速い所に生息する海藻の葉は、風の強さと葉の大きさの相関関係があったように、山のような相関が水中でも当てはまるのではないかと考えられる。また、水中では光が弱まる分葉を薄く形成することで光合成しやすい仕組みになっていることと、薄いことで浮力の方が重力より強くなるため、自立するエネルギーが要らないので、光合成のためだけではないと考えた。

A:3つのことが1文ずつ述べられていますが、これでは、全体として論理的に構成されているとは言えません。これだと評価の対象にはなりません。


Q:サトイモの葉は水を弾く性質を持っている。それはサトイモが熱帯地域もしくは亜熱帯地域に生息しているため、降水量が多く、水を弾かなければ葉の上に水が溜まってしまう。水が葉の上に乗っていると、非常に光合成の効率が悪くなってしまうため、水を弾くことによってその光合成効率の問題を解消している。他の葉に比べて大きく撥水性が高いため、葉の表面を顕微鏡で調べることによって他の葉とどう違うかを調べることによってその違いを示すことが可能である。

A:水が葉の上に乗っていると光合成の効率が悪くなる話は講義の中で話しましたし、表面構造が撥水に関与していることも講義で話しました。これも評価の対象にはなりません。


Q:今まで同じ種類の植物でも葉が陸上にあるのか、水中にあるのかによって、様々な葉の形態をとる植物が存在することを学んだが、今回の講義で取り扱ったヒイラギに関しては陸上や水中といった外的環境とは無関係であるのに葉の形態を変えることを知った。ヒイラギに関してある資料1によると、一部の木では、野生動物が葉を食べた形跡があり、その木の根元から高さ2.5 mまでの葉にはトゲが多く、それより高い位置にはトゲのないものが増える傾向があったということが書かれていた。つまり、ヒイラギのトゲが生じるのは、葉を食べる動物の行動とその環境からの圧力によるヒイラギの反応が原因であると考えられる。しかしながら、ヒイラギのような水陸環境が原因でない異形葉に関して調べると、ヒイラギ以外にもイチョウやキバナヨウラクカズラ2などが該当することが分かったが、例えばイチョウなどは動物が原因となって異形葉が生じると考えるには疑問を感じた。ある資料2によると、キバナヨウラクカズラには楕円型の葉と葉先がとがった葉が存在するが、灰褐色の太い古枝から生え始めた葉は楕円形で、最近伸び始めた赤褐色の細い枝から生え始めた葉は葉先のとがった葉であることが書かれていた。また、早稲田大学にあるイチョウも観察してみると、茶色い枝から生えたイチョウは切れ込みのない扇形をしていたが、緑色の細くてしなる枝から生えたイチョウの葉はたくさんの切れ込みが入った形態をしていた。調べ始めた当初は、古い葉が丸みを帯びていて若い葉がギザギザした形をとると考えていたが、葉の生え始めからすでに葉の形態が決まっていることから、葉の若さではなく、葉が生えている枝の若さに関係があると考えた。つまり、茶色い枝のような成長が活発ではない枝から生える葉は丸みを帯び、枝が細くて伸びている途中の枝から生えた葉はギザギザしていると考えた。そしてそのギザギザした葉が生じる原因は、枝が伸長する原因である植物の成長ホルモンのようなものが、葉を形成する際に作用することで異形葉が形成されるという結論に至った。
参考文献:(1)NATIONAL GEOGRAPHIC、News、ヒイラギの葉、トゲ発生の仕組みが判明、https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7282/、2012/12/21、2023/11/01、(2)PAPYRUS、キバナヨウラクカズラの異形葉、http://ashikawapapyrus.livedoor.blog/archives/cat_9222.html、2022/05/08、2023/11/01

A:いろいろ考えていてよいのですが、前半で述べられている点と、2つの結論の間の論理的なつながりがあまり明確でないように思います。「枝の若さに関係がある」という部分は、観察からの結論だと推測できますが、もう少しそこを直接結び付けるような論理展開にできると思います。もう一つの結論「枝が伸長する原因である植物の成長ホルモンのようなものが、葉を形成する際に作用する」は、現状では論理的に出てきた結論というよりも、単なる推測であるように見えます。


Q:今回の授業では、効率良く二酸化炭素を取り込むための葉の形について学んだ。その中で、風が弱い環境では葉面境界層を薄くするために葉が小さくなることについて触れられた。これに関して、私は植物の背の高さによって葉の受ける風の強さが変わり、葉の大きさや形が変化する傾向があるのではないかと考えた。ごく低い、全体が地面に接しているような植物の葉は二酸化炭素の取り込みのためにごく小さくなければいけないのではないか。しかし背の低い植物の中でも、例えばタンポポやオオバコの葉は比較的大きく見える。これは、葉面境界層を薄くするという目的のために違う戦略を取ったからなのではないか。タンポポの葉には大きく切れ込みが入っており、オオバコの葉は葉柄が長く葉の先端を地面から離している。全体が地面に接しているような背の低い植物の葉は、サイズを小さくすると共に葉に切れ込みを入れる、葉柄を長くする、小葉を作るなど様々な方法で葉面境界層を薄くしていると考える。

A:背の低い植物については、土壌の呼吸を考える必要があります。つまり、土壌中では光合成をする生物がいない一方で、呼吸をする生物はいますから、基本的に二酸化炭素を放出することになります。つまり、葉を地面につけている植物は、二酸化炭素の吸収という意味では非常に有利な立場にいることになります。


Q:今回の授業では、成長と共に葉の形を変化させる植物が存在することを知った。そこで、授業で取り上げられていたものの他にも葉の形が変化する植物が存在するか調べてみた。すると、環境によって葉の形が変わる植物としてニューキベアというものがあると知った。京都産業大学の木村准教授の研究によると、「ニューキベアは、温度変化にとても敏感で、25℃で育つと丸みを帯びた葉をつけますが、20℃だとギザギザの葉になります。光の場合は、弱いと丸い葉で、強いとギザギザの葉になります。同一の個体でも、途中で温度や光の強弱が変わると、葉の形も変わります。」(1)ということだった。これを踏まえ、鋸歯は光合成に適した環境下でのみ光合成効率を上げるために現れ、それ以外の環境では他のことにコストが割かれているのではないかと考えた。
参考文献(1)京都産業大学 総合生命科学部 生命資源環境学科 木村 成介 准教授.植物はどこで環境変化を感知しているのか「環境によって姿を変えるニューベキアを用いた表現型の可塑性についての研究」、https://www.kyoto-su.ac.jp/project/st/st15_07.html  2023,11,4閲覧

A:これも、「考えた」のは最後の1文だけで、しかも内容は論理的な展開ではなく他人の研究についてのコメントのようですから、全体として評価の対象にはなりません。


Q:私は今回の授業内で説明された「ヒイラギの葉は背丈が高くなると段々と丸みを帯びていく」という現象に興味を持った。そこで私はこの現象のメカニズムについて考えることにした。まず、資料1よりヒイラギの葉はDNA内でのメチル化の度合いが高くなることによって丸みを帯びることがわかった。また、ヒイラギの葉は背丈が高くなればシカなどの動物の捕食圧がかからなくなるため(身を守る必要がなくなるため)光合成効率が良い丸い葉の形に変化すると授業内で学んだ。私はこのヒイラギの葉の形の変化が捕食圧がなくなったことを認識して行われているのか、捕食圧のあるなしに関係なく行われているのかどうか疑問に思った。これには2つの理由がある。まず、以前「植物が虫の咀嚼音を聞いている?」という記事(資料2)を目にしたことがあったため実際にシカに食べられてから、葉がトゲを持つように成長することも可能なのでは無いかと考えたからである。また、葉にトゲをつけることはコストになると考えていたからである。ヒイラギの葉の形の変化が捕食圧がなくなったことを認識して行われているのかどうか調べるためには、動物に捕食されない環境でヒイラギを育てた際に葉が背丈が低くても丸みを帯びた状態で成長するか実験すれば確認できると考えられる。私はこの実験の結果について、ヒイラギは背丈が低いうちはやはり葉にトゲを持って成長すると考える。理由は2点ある。1つ目は園芸店など(捕食圧がかからない環境で)でトゲのあるヒイラギを目にしたことがあるからである。2つ目は資料1よりヒイラギの葉はDNAのメチル化が起こることによって葉が丸みを帯びるためトゲのある状態から丸みを帯びた状態に変化する際の方がコストがかかると考えたからである。つまりヒイラギは光合成には不利なトゲのある状態の葉を(実際には捕食されない環境下でも)捕食から身を守るために持っており、光合成に有利な丸みを帯びた形になるためにコストをかけると考えられる。また、今後捕食圧がかからない環境が続いた際にヒイラギが丸みを持った葉しか持たなくなる可能性は自然界においてはありえると考えた。(人間の管理下においては葉の形は変化しないと考えた。)これは、私たち人間がヒイラギを育てる理由として、その葉にトゲがあるという特徴があることが大きく、トゲがない葉は人為的に淘汰されると考えられるためである。
1. Herrera. C, Bazaga. P, "Epigenetic correlates of plant phenotypic plasticity: DNA methylation differs between prickly and nonprickly leaves in heterophyllous Ilex aquifolium (Aquifoliaceae) trees", Botanical Journal of the Linnean Society, Wiley, December 2012, 2023/11/04(参照)
2. Heidi M Appel, Reginald B Cocroft, "Plants respond to a leaf vibrations caused by insect herbivore chewing", Oecologia 175巻 4号 p.1257-1266, August 2014, 2023/11/04(参照)

A:よく考えていてよいと思いますが、少し気になる点もあります。「動物の捕食圧がかからなくなるため(身を守る必要がなくなるため)光合成効率が良い丸い葉の形に変化すると授業内で学んだ」という部分ですが、講義の中では、「変化する」という言い方はせず、「変化すると考えると説明できる」という言い方をしていたと思います。生物の生き方の「意味」については、多くの場合本当の所はわかりません。なので、それを「学ぶ」必要はなく、必要なのはそれについて「考える」ことなのだと思います。