植物生理学I 第14回講義

植物の実

第14回の講義では、花器官のABCモデルと送粉に触れた後、種子散布などを中心に植物の果実について講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:イチゴの普段目にする赤い部分は花托であり,表面にある黒い粒々は果実であると学んだ。「花托は1つ1つのめしべが受粉することによってふくらんでいきます。」(1)とある。いちごの花托がなぜ膨らむのかが疑問だったが、これは雌蕊の受粉によるものだと知った。また全てのいちごが膨らむのかという点については「ミツバチのおかげで、たくさんあるめしべにもまんべんなく受粉させることができるわけです。家庭菜園でいちごを育ててみるとなかなかきれいなかたちのいちごになりません。」(1)とある。ミツバチのおかげで十分な受粉が促される。ここでなぜ花托を膨らませる必要があったのかを考えた。イチゴの花には雌蕊がたくさんある。まずイチゴは花托を甘くすることで食べさせる戦略をとり生殖域を拡大するという狙いがある。花托が膨らむのは雌蕊と雄蕊が受粉した後の話である。雌蕊がたくさんあるため、受粉した後、食べさせる戦略により果実等を膨らませるのには効率が悪い。限られたスペースの問題や作ったとしてもエネルギー的に十分に行き届かせることができず不十分なものとなってしまう。よって果実を膨らませるのではなく、果実が大量についている花托を膨らませることで、花托目当てに表面についている果実ごと動物によって運ばれて生殖域を拡大するという目的を果たすことができるのではないかと推察した。実際に人間もイチゴの花托目当てで食し、果実ごと体内に取り込んでいる。ミツバチにより満遍なく受粉でき全て膨らんだ花托となるという話だが、これは人間が、イチゴを商品として扱う際の品種改良の結果、その特徴をより多く持つイチゴが抽出されたという影響もあると考えられる。
(1)蝶結び. 果実の外に種がある?いちごの不思議. 蝶結び. https://www.retrospect.co.jp/blogs/blog/strawberryseeds , (参照2023-01-28).

A:着目点は良いと思いますが、論理はあまりわかりませんでした。花をたくさんつけると果実のスペースがなくなるというのは良いのですが、普通はだからたくさん花を付けないわけですよね。可食部を果実にするのか花托にするのか、という比較にした方が論理はすっきりするように思いました。


Q:今回の授業では、植物の種子の散布について触れている部分があった。その中で種子と胞子について、繁殖する方法においてなぜ種子を散布する種子植物と胞子を散布する胞子植物が存在しているのかについて、興味を持った。まずこれらの主な違いとして、受精のタイミングと乾燥への耐性があげられる。胞子は散布された後に受精をすることができるが、種子は受精が完了してから散布される。また種子は表面を種皮で覆われているので、乾燥に強いが、胞子は湿度の高い場所でないといけない。このように個人的には種子植物が多くの点で有利な性質を持っているように思えた。しかし現在でも種子植物と胞子植物が存在している。このことについて、種の多様性であると考える。植物に限った話ではないが、生き物は地球のあらゆる環境に適応して、進化してきた。植物ではソウ類、コケ類、シダ類、裸子植物、被子植物という風に進化があった。この産物として、種子植物が繁栄する一方で、胞子植物も絶滅することなく生きてきたのではないかと考える。

A:前半の導入は良いと思うのですが、後半「多様性」までいきついてそのまま抽象論で終わっては、もったいないと思います。どのような環境では胞子の適応度が高いのか、という具体的な議論が必要です。


Q:講義では、種子散布について学んだ。種子の表面にあるゼリー層で足裏などに付着することで散布するオオバコや、食べさせる戦略をとるものなど植物によって多様な種子散布の仕方があることを知った。種子散布は、子孫を残す上で植物にとって重要なイベントであることが分かる。今回考えたいのは、樹木の種子散布についてで、樹木は母樹からなるべく遠く離れたところに種子が運ばれた方が生き残る確率が高く、効率よく繁殖ができるのではないか、ということである。重力散布をするどんぐりを例に挙げる。秋のどんぐりの木の下の地面を想像すると分かると思うが、どんぐりは非常に多くの種子をつくるがそのほとんどが母樹の周りに落ちている。これを、リスなどの動物が運び、土の中に隠すことで繁殖する。母樹の周辺に落ちた種子が発芽したとして、母樹との距離が近すぎて成長をしても、養分は母樹に奪われてしまうだろう。また、光競争に勝てないと想像できる。一方で、動物によって遠くに運ばれた種子(他の樹木との距離がある程度離れていると仮定)は、周りに養分や光を奪われることなく成長していけるのではないか。また、このような条件下に種子を散布するためには、母数を多くすることも必要であると考える。イメージ的には魚の卵と同様で、多くの種子をつくることで一部の種子が栄養・光環境の良い地で発芽することで高い確率で繁殖できるだろう。よって、多くの種子をつくり、それを遠くに運べるような種子散布は植物が子孫を残す上で有利になるのではないか。

A:きちんと考えていると思います。ただ、樹木と草本を比べると、樹木はより安定的な環境で有利になると考えられます。その場合、母樹から離れれば離れるほど環境が異なって生き残る確率が低くなるという可能性もあります。また、周囲に同じ種がない場合には繁殖の効率も低下する可能性もあるでしょう。そのあたり、もう少し考察が欲しいところです。


Q:自家不和合性は両性花において見られる特異的性質である。これは1つの花に、雄蕊と雌蕊がある状態であるのに、自家受粉を阻害する機構であるが、そこにはコストという面で矛盾が生じていると私は考えた。両性花は単性花に比べると、自家受粉が起こりやすい構造をとっているにも関わらず、それを妨げるということは柱頭にくっついた花粉は無駄なものとなると考えられるし、くっついた花粉によって他家の花粉が妨げられ、受粉効率も低下すると考えられるためである。では両性花における自家不和合性を行う花は、自家受粉はしたくないのに、自家受粉がしやすく、コストが無駄になる構造をなぜ取るのか。それは多くの花が両性花であるように同一の個体で雄蕊と雌蕊を作る方が効率が良いためであろう。また、単性花の場合、それぞれの比率をどうするかや、花を2つ作るという他のところにコストを割く必要があるが、両性花ではそれらにコストを割かないで良い分、多様性に重きを置くこけ、効率よく環境などに対する順応性が高まり、かかるコストよりも利益の方が多く得られた結果でもあるだろう。

A:よいと思うのですが、今一息、論理が詰められていない印象を受けます。少なくともコストの部分のメリット・デメリットをもう少し丁寧に論理展開した方がよいと思いました。


Q:講義で紹介のあったウラジロカンコノキと相利共生を行うウラジロカンコハナホソガに関して、このような植物、動物間の共生における両者の得られる利益、そして、お互いの損害に関して考察する。今回紹介のあったケースにおいては、ウラジロカンコハナホソガがウラジロカンコノキの果実内で幼虫が果実を食し成長する一方で、ウラジロカンコハナホソガがウラジロカンコノキの送粉を行うと言う利益がお互いに生じている。この際、講義内でも言及があったが、ウラジロカンコハナホソガの幼虫がウラジロカンコノキの果実を過度に食すと果実は落ちると言う形態によって、両者の利益、損害のバランスはとられているが、このような「過度な食害」を認識する機構が進化の際に生じることが、自明ではあるが必要不可欠である。選択圧によって、ウラジロカンコハナホソガにより食害を受けた際に過度に食害されても落果しなかった場合は、ウラジロカンコノキは絶滅してしまい、一方で過少の食害のみでも落果した場合においてはウラジロカンコハナホソガが絶滅してしまう。この際、ウラジロカンコノキのみならず、ウラジロカンコハナホソガの幼虫においても「適度な食害」において捕食を停止すると言う形態を備えている必要がある。つまり、植物側において仮にそのような機構が備えられていた際には、今回のケースのように、昆虫がある植物の送粉を担う一方で、その植物に対する資源利用を行う場合においては、昆虫側が「適度な資源利用」を行うと言う形態を備えていることが必要不可欠であると考える。 そしてこのような共進化が起こった際に対して、私が考える仮説としては、仮にウラジロカンコノキの送粉を行い、かつ資源利用をする蛾や他の昆虫が多くいたとし、植物側の過度の食害(資源利用)に対する応答として今回のケースのように果実を落とすなどを行うことによって、過度な食害を行う種は(もしくは種内でもそのような傾向をもつ個体群は)自然淘汰されると考える。そして結果として「適度な資源利用」を行うウラジロカンコハナホソガが残存した可能性が示唆されると考えるのが妥当である。

A:レポートの論旨としてはしっかりしていてよいと思います。一方で、後半の論理展開は、やや冗長な部分があるように思います。同じコインの表と裏とを別々に説明しているような印象をやや受けました。


Q:前回の授業では、花はさまざまな色で咲くことによって昆虫を引き付きつけているということを知った。今回植物の実のことについて学んだが、なぜ植物の実は植物の花ほどさまざまな色をとることがないのかと疑問に思った。この原因として果実を食べ、その種を運ぶ役割を担っている動物は、昆虫ほど見ることのできる色味が少ないからではないかと考えた。昆虫は多くの種類が色の3原色と紫外線を見ることができ、多くの動物よりも多様な色味を見ることができると考えられている。それに対して動物は鳥などは同様に色の三原色と紫外線を見ることができるが、哺乳類などの多くは色の3原色との赤・緑・青の内の2種類程度のみであり、高度な色覚を持つ類人猿でやっと色の3原色とを見ることができる程度である。実際に東邦大学の実験で(参考文献1)植物のの花の色味の多様化は、昆虫の優秀な色彩感覚の影響であるとし、低い色彩感覚を持つ昆虫と、花の色味の多様化をシミュレーションした時、花の色味の多様化は少ないとしている。つまり、昆虫よりも低い色彩感覚を持つ、動物などを対象としている果実は、花ほど多様な色味を持つことは無かったのだと考えられる。以上のことから果実はその色味の多様化を行うことはせず、動物が高度に認識することのできる味や香りの方を追加していくよう進化したのだと考えた。
参考文献1.https://www.toho-u.ac.jp/press/2015_index/035603.html

A:シンプルな論理展開でよいと思います。あとは「高度に認識することのできる味や香り」の部分の具体的な裏付けがあると説得力が出ると思います。


Q:今回の講義で、自家不和合性について学んだ。自家不和合性としてマクロなサクラソウの例とミクロな胞子体および配偶体による調節を扱った。では、なぜ同じ目的のためにこのような複数の仕組みが発達したのだろうか。これらのメリットとデメリットについて考察する。サクラソウのようなマクロな調節の場合、比較的簡単にピン型とスラム型の割合を変動させられると仮定できる。その仮定だと種内の多様性よりも種の存続が重要な際に自家受粉に切り替えて生存を優先することができるのではないだろうか。一方デメリットとしては、虫媒花でのみしか成立しないシステムであることが挙げられる。一方、ミクロな調節は、虫媒花以外でも成立するシステムである。一方、種の存続が危うい時でも自家受粉に切り替えることは不可能である。また花粉が雌蕊に付着しても受粉が起こらないというシステムのため、タイプの違う雌蕊に付着した花粉は無駄になってしまう。花粉は無限にあるわけではないためこれはデメリットと言える。このような点からマクロな調節を行う植物とミクロな調節を行う植物が存在すると言える。

A:考え方は面白くてよいと思います。後半の論理展開の中には、有性生殖によるデメリットも一緒に議論されているように思いますので、本来は、その部分は切り離した方が論理がすっきりするかもしれません。


Q:今回の授業は、植物の生殖や繁殖について学んだ。その中で、特に気になったのはランの種子は他の植物と比べてものすごく小さいということである。ランの種子は発芽のための栄養を蓄えるということはせず、ラン菌と共生することで発芽をしている。小さいゆえに種子の散布を行いやすいというメリットがあると授業では紹介されたが、種子に栄養を蓄える被子植物が多い以上、ランが生える環境は他の植物の生える環境とは異なり、胚乳を退化させてまで散布効率を上げるメリットがあるということになる。ではそれはいったいどういった要因なのだろうか。ランが生える環境は主に森の地面の近くになる。この環境で種子の散布効率を上げなければならない理由として考えられるのが、風である。森の中は周辺に生える背の高い植物によって風が遮られ、草原などよりも種子の散布効率が大きく下がることが予想される。そのため、種子をより小さくしてより散布効率を上げなければ、種を維持できるだけの散布効率を確保できないということだと推測できる。これは、実をつけず、風によって散布する胞子で繁殖するシダ植物も同じく森の地表部でよく見られることから、こうした形質は風通しの悪い場所で有利であるということを裏付けている。また、ラン菌と共生し、栄養を貰えるようになったことで親株で胚乳を作るコストが省け、散布効率がより高い個体が進化したと考えることもできる。ラン菌がいない場所での繁殖はできなくなるが、ラン菌がいる環境では胚乳がなくても普通に繁殖できるので、自身で発芽の栄養を持つ植物と大きな散布効率の差が生まれる。ランはラン菌がいる環境に特化した進化をしたということである。

A:きちんと考えていてよいと思いますが、想定範囲におさまったレポートですね。もう少し想像の翼を自由にはばたかせてもよいように思いました。


Q:授業では種子の作りと散布方法について学んだ。翼や綿状の形態をとり風で飛ばすもの、棘を作り動物に付着するものなど様々な散布方法があるが、その中で果肉を作る植物もいる。他の方法に比べ、果肉は動物に摂取されるために貴重な栄養素や水分を豊富に含むためコストが莫大にかかっているように感じる。コストに見合った利点として、2つ考えられた。まず一つ目が散布距離である。風などを使い種子を飛ばして散布した際の距離と、動物が摂取してから排泄までの数時間の移動距離では後者の方が長いため生息域を広げる点では有利だと考えられる。二つ目は栄養面である。授業でもあったように飛ばして散布をする種子ではなるべく軽く、小さい種子でなければならないため栄養素が少なく地面の状態によっては成長することができない状態が生じてしまう。しかし、動物の排泄と共に種子が散布されたならば排泄物が微生物によって分解され、豊富な栄養素となり植物の成長を助けることができるだろう。また、動物に摂取されずに落ちた種子も果肉を栄養分として成長することができる。よって、コストが多くかかっている分種子が散布された時に安定した成長を見込めるのではないだろうか。

A:面白いと思います。ただ、最後の所、「果肉を栄養分として成長」という部分はもう少し考えた方がよいかもしれません。植物によっては外部の有機物をエネルギー源として用いることができる場合もありますが、多くの植物にとっての栄養は無機栄養です。ほとんどの種子は、動物の排せつ物と果肉のどちらが欲しいかと問われたら、前者と答えるでしょう。


Q:今回の授業では、花に関してより理解を深めていった。その中で花芽形成のお話があったが、私はユリの花の特異性に興味を持った。ユリ科の植物は、外側3枚の小さな花弁のように見えるものが実はがく片であり、花弁およびがく片が似通っている。このような場合をそれぞれ内花被・外花被という(参考1)。授業では、ABCモデルの観点で、A遺伝子の変異によってそのようになったのではないかと先生は仰っていた。遺伝学の観点では、その説の可能性が高いと思われるが、私は、このようにがく片が花弁と酷似することによってもたらされるメリットがあるのではないかと考えた。したがって、以下ではその点における考察を行う。 結論から述べると、がく片が花弁と同様な形態をしているのは、花粉を媒介してくれる昆虫の誘引率が高まるからではないかと考えた。一般にがく片は「花蕾の保護」(参考2)、花弁は「内側の雄蕊および雌蕊の保護・花粉媒介者の標的」(参考1)という役割をそれぞれ担っている。これらの機能は植物が生殖成長する上で欠かせない要素である。植物の立場からすれば、より効率的に虫を誘引することで多く繁殖し、種の存続を目指すだろう。特にユリ科の植物の原産地は北半球の温帯地域とされている(参考3)。温帯の地域は、生物にとって生活しやすい環境であるので、ユリ科以外の植物も存在している。そうなると、他の種の植物に負けずにしっかりと生殖成長を行うのが望ましい。そこで、がく片を花弁と同じ質感と鮮やかな色にすると、花粉媒介者が認識できる色の領域が増加することで、彼らは花を見つけやすくなり、結果的に高い誘引率になると予想する。本来の必要不可欠な機能と両立させることが可能なため、一石二鳥である。このことを実証する実験として、ユリ科の植物と他の植物、ミツバチなどの花粉媒介者に位置付けられる昆虫を用い、それぞれ昆虫の誘引された度合いを調べることが可能になるかもしれないと考えた。
参考文献
1) 清水 建美 著, 図説 植物用語事典, 八坂書房, 2001年7月30日 初版第1刷発行, ISBN:4-89694-479-8, pp.26.
2) みんなのひろば, “がく片の働き”, 一般社団法人 日本植物生理学学会, 更新日:2013/7/31, 参照日:2023/1/25, https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2908 .
3) みんなの趣味の園芸, “ユリ(百合)の基本情報”, NHK出版, 参照日:2023/1/25, https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-218 .

A:よく考えていてよいと思いますが、萼片と花弁を共に目立たさせるのと、花弁を2倍に大きくして目立たせて、萼片は目立たないのでは、あまり違いがないように思います。その差を説明しないと疑問点の解決にはならないのではないでしょうか。